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資源大国なき資源市場への備え 後編
前編はこちら3月26日、米国のジョー・バイデン大統領は訪問先のワルシャワで演説を行い、ロシアのウラジミール・プーチン大統領について、「願いを込めて言えば、この男は権力の座にとどまれないだろう」と語ったことが国際社会で問題視された。少なくとも西側諸国においては、ロシアによるウクライナへの侵攻は主権国家への侵略行為と見做されている。しかし、ある国の元首が他の主権国の元首に関してその適・不適を不用意に言及することは、内政干渉の疑いが濃厚であると批判されてもやむを得ない。特にウクライナ危機を早期に収拾するにはプーチン大統領への説得が欠かせないとの見方も根強くあるなか、逆に挑発するような発言への懸念が指摘されているわけだ。もっとも、バイデン大統領は確信犯の可能性があるとも推測されている。内政干渉問題を指摘するのはあくまで政治家や有識者であり、一般の米国民の心情はむしろバイデン大統領の発言に近いだろう。プーチン大統領を激しい言葉で批判することにより、11月の中間選挙へ向け、強いリーダーとしての印象付けを狙う意図があったのではないか。さらに、備蓄石油の放出を発表した3月31日の記者会見において、バイデン大統領は、「十分な証拠があるわけではなく、現時点でこの点に重きを置くつもりはない」と断りつつ、「プーチン大統領は孤立しているかもしれない。彼が何人かのアドバイザーを解雇したか、自宅軟禁している気配がある」と語った。ウクライナ危機は、明らかに情報戦の様相を呈している。もっとも、ロシア国内での情報統制に腐心するプーチン大統領に対し、バイデン大統領は失言まがいの言葉を駆使してロシアの非を世界に訴え、これまでのところその戦略は奏功しているようだ。バラク・オバマ、ドナルド・トランプ両大統領の時代、国際社会における米国のリーダーシップは明らかに低下した。ロシアによるウクライナへの侵攻は計算外としても、バイデン大統領は積極的に情報を開示し、発言することによって少なくとも西側諸国における米国の主導的地位を再構築することに成功している。また、2020年の大統領選挙を通じて地球温暖化対策の重要性を訴え、大統領就任後はシェール開発への規制を強化した。もっとも、国際社会における温室効果ガス削減の動きは、化石燃料事業者の投資抑制によるエネルギー価格高騰の要因となった感は否めない。世界的にインフレ圧力が強まり、米国経済においてはスタグフレーションのリスクも指摘されている。バイデン政権は、地球温暖化の旗を掲げつつ、シェールガス・シェールオイルについては政策の見直しを模索していたのではないか。政治的にリスクの高い軌道修正と言えるが、ウクライナ危機は結果としてバイデン政権に恰好の理由を提供した。米国はロシアの肩代わりをする形でシェールガス・シェールオイルの輸出拡大を図るだろう。その政策転換を正々堂々と進めるためにも、バイデン大統領にとっては洗練された情報戦略が必要なのだと推測される。 ロシア国民がプーチン大統領を支持する理由ウクライナ危機の行方は予断を許さない。ただし、戦争が長期化し、特に市民の犠牲者が増えるに連れ、ロシアは外交面だけでなく、経済的にも国際市場への復帰が難しくなりそうだ。西側諸国によるロシア経済への様々な措置は、時間の経過と共にロシア国民の生活に影響を及ぼすだろう。ちなみに、英国のエネルギー大手であるBPの統計によれば、2020年、天然ガスの調達に関するEUのロシアへの依存度は42%に達していた(図表1)。ウクライナへの侵攻で西側諸国が気付かされたのは、ロシアが国際法に従う国ではないと言う事実だろう。それにも関わらず、EUがロシアによる天然ガスの供給に頼る状態を続けた場合、深刻な安全保障上の問題を抱える可能性は否定できない。従って、ウクライナとロシアが停戦に合意しても、EUは天然ガスの調達に関するロシアへの依存度を段階的に引き下げるだろう。プーチン体制の下、ドイツがノルドストリーム2の開業を認める可能性も限りなくゼロになった。プーチン大統領が就任したのは2000年5月だ。2008年から2012年までは憲法上の再選規定により首相職に退いたが、2012年5月には選挙を経て再び大統領に返り咲いた。20年以上権力の座におり、ロシア国民から高く支持されている理由は、国民に経済的な豊かさをもたらしたからではないか。大統領就任時、ロシア国民1人当たりのGDPは5,324ドルだった(図表2)。それが2期8年に亘る最初の大統領としての任期を終えた際、1人当たりGDPは9,093ドルになっていた。実質成長率は年平均6.9%であり、ロシア経済は低所得国から中所得国へ飛躍したわけだ。高い経済成長を遂げる上で、プーチン政権が注力したのはエネルギーを中心とした国営系企業の育成と外資の誘致だった。そのため、プーチン大統領はロシア経済を国際市場へ統合する上で様々な改革を行い、国営を含めたロシアの主要企業は少なくとも表面上、西側諸国の経済ルールや商慣行を受け入れてきたと言える。もちろん、例外もあった。2006年9月、ロシア政府がサハリン2に関する環境アセスメントの不備を理由に開発中止命令を出し、同年12月、国営企業であるガスプロムがサハリン・エネジー株式の過半を強引に入手したのは、そうした例外のうちの1つだろう。今回のウクライナ侵攻で、ロシアに対する西側諸国・企業の信用が失墜したことは間違いない。EUは将来に向けたエネルギーの安定的確保について、経済、安全保障の両面から見直さざるを得ず、当然の帰結として調達先の多様化を推進すると考えられる。 中国はロシアの石油・天然ガスを引き受けるか?日本国内では、サハリン1、2の権益に関し撤退論も台頭した。もっとも、岸田文雄首相は、3月31日、衆議院本会議で答弁し、これらの権益を維持する方針を明言している。日本の燃料調達に重要な役割を果たしていることが理由だ。さらに、日本政府周辺や経済界においては、日本が撤退した場合、ロシアは中国に権益を売却する可能性が指摘されている。もちろん、その可能性はあるものの、この問題はそう単純ではないだろう。日本が撤退した場合、中国はロシアの足下を見て安く買い叩こうとする可能性が強いからだ。ロシア側はそれを懸念、「非友好国」に指定しつつも、今のところ日本をサハリンから締め出す動きは見られない。一方、中国にとっては、サハリンから新たなパイプラインを敷設することで、天然ガスの安定調達を期待できる。その反面、ロシアへの依存度が高くなり過ぎると、今のEU同様、エネルギー安全保障上の深刻な問題を抱える可能性は否定できない。つまり、ロシアと中国がなんらかの件で対立した場合、ロシアが天然ガス供給を交渉材料にするリスクが高まるわけだ。ロシアは核保有国なので、中国が軍事力でロシアを脅かすことは困難と言える。これまで、中国は天然ガスの調達先をかなり分散させてきた(図表3)。近年におけるオーストラリアとの関係悪化から、同国からの輸入をロシア産に置き換える可能性はあるものの、エネルギー安全保障上、石油も含めて多様な供給源確保をロシアとの経済的結合強化より優先させると見られる。そうした中ロ双方の思惑を冷静に考えた場合、両国が蜜月関係になるシナリオはかならずしも現実的ではない。特にロシアによるウクライナ侵攻が泥沼化しつつあるなか、中国はロシアと一定の距離を保とうとするのではないか。 ロシア経済の長期的苦境を示す象徴的な撤退日本にとって、天然ガス(LNG)の安定調達は経済・安全保障上の重要課題だ。そのリスクを冷静に考慮した場合、ロシアからの輸入削減を段階的に進めざるを得ないだろう。ただし、必要量のスケールと経済へのインパクトから見て、ロシアを国際市場から排除するハードルが最も高いのも天然ガスであることは間違いない。ロシアが世界の純輸出量の40%を占める天然ガス価格は、欧州の指標とされるオランダ市場において2020年に入り急騰した(図表4)。EUが2030年における温室効果ガス排出量削減の目標について、従来の1990年比40%減から、55%減へ引き上げると発表したことが背景だ。温室効果ガス排出量取引(EU-ETS)における排出枠価格が急上昇し、石炭からのシフトが見込まれる天然ガスの値上がりが著しくなった。仮にロシアがウクライナへ侵攻していなくても、燃料価格は高止まりしていたのではないか。そこにウクライナ危機が重なった。日本を含む西側のエネルギー輸入国は、価格の高止まりを前提に安定調達を考えなければならないだろう。一方、ロシアは政治・外交的にも経済的にも国際社会には簡単に戻れない状況に陥った。それを端的に示すのが、米国の大手投資銀行の動きだ。1998年、ロシア国債のデフォルトに端を発した国際的な金融危機の際には、米国の大手ヘッジファンドであるLTCMが破綻したこともあり、米系大手投資銀行はロシア政府のアドバイザーとして重要な役割を果たした。しかし、今次のウクライナ危機に際し、ゴールドマンサックス、JPモルガンなどはロシアからの撤退を表明している。もちろん、それはウクライナ侵略に対する究極の批判的姿勢の発露だろう。ただし、中国が民主派を抑圧し、英国による返還から50年間に亘る1国2制度堅持の約束を反故にした香港から撤退した米欧主要銀行がないことも事実だ。米系大手投資銀行は、ロシアの経済的苦境が長期にわたるとの判断に至ったのではないか。ロシア経済の場合、貿易黒字がGDPの約8%に達している。日米通商摩擦が激化、G5がニューヨークのプラザホテルでドルの実質的な切り下げを決めた1985年、日本の貿易黒字対GDP比率は4%だった。つまり、ロシアは貿易立国であり、輸出の約半分は天然ガス、石油、希少金属など資源が占めている。その資源輸出が長期にわたって滞ると想定されるからこそ、世界有数の投資銀行が同国から逃げ出しているのだろう。 資源国でない日本の苦境日本が備えるべきは、世界最大の天然ガス輸出国、世界第2位の石油輸出国である資源大国が、エネルギー供給のメジャープレーヤーではなくなる可能性だ。それは、化石燃料の需給ひっ迫が長期化することを意味する。米国の場合、インフレを懸念するバイデン政権は、あまり役に立たない備蓄石油の放出以上に、シェールガス・シェールオイルの開発と生産、そして輸出を政策的に後押しするだろう。また、シェール革命以降、疎遠になっていた感のある中東の主要産油国、産ガス国との関係改善に乗り出す可能性が強い。産油国・産ガス国側が、供給量を確保する代償として、高価格の維持を求めたとしても、米国は自らも産油国・産ガス国としてその恩恵を享受することもできる。一方、日本経済は、大きな影響が避けられそうにない。電力・ガスシステム改革により誕生した新電源の多くが、既に逆ザヤで経営難に陥った。もっとも、それ自体は2007年の米国におけるカリフォルニア電力危機が既に示唆していたことだ。不正会計により破綻したエンロンは論外としても、結局のところ電力事業は発電部門を含めたスケールメリットがなければ、何か想定外の事象が起こった場合の対応が難しいのだろう。家計は既に電気料金の値上がりに直面している。例えば東京電力の場合、電力価格に燃料費の増減を反映させる仕組みである燃料費調整額は、2021年の平均は基準電力料金からキロワット時当たり3.32円の値引きだった(図表5)。しかし、今年5月は2.74円のプラスだ。環境省によれば、平均世帯が1年間に使用する電力は4,322kWhなので、年率換算にすると昨年平均から2万6,200円の負担増になる。もちろん、賃金が十分に上がっているのなら吸収できるが、過去10年間、勤労世帯の主たる所得者の年平均賃上げ率は0.4%に過ぎない。2021年の平均賃金を前提にすれば、額にして2万6,500円程度だ。つまり、賃上げ分は電気料金の値上がりで消えてしまうことになる。日本国内でもインフレ圧力が強まる見込みであり、2022年の家計はかなり厳しい状況に追い込まれるのではないか。この問題に対応するためには、化石燃料の代替調達先を確保すると共に、原子力発電所の再稼働を進め、リプレース、新設の議論をしっかり進めなければならない。2011年3月11日以降、政治は原子力に関する議論を極力避けてきたが、最早、猶予は許されないだろう。ちなみに、テスラの経営者であるイーロン・マスク氏は、ウクライナ危機を受けた3月7日、以下のようなツイートをしていた。非常に優れた主張と考えられる。Hopefully, it is now extremely obvious that Europe should restart dormant nuclear power stations and increase power output of existing ones. This is *critical* to national and international security. For those who (mistakenly) think this is a radiation risk, pick what you think is the worst location. I will travel there & eat locally grown food on TV. I did this in Japan many years ago, shortly after Fukushima. Radiation risk is much, much lower than most people believe. Also nuclear is vastly better for global warming than burning hydrocarbons for energy.(希望を持って言えば、欧州諸国は休眠中の原子力発電所を再稼働し、発電量を増加させる必要があることは極めて明白だ。それは、国及び国際的な安全保障に「決定的」である。原子力について誤解に基づき放射線リスクがあると考えている人々は、最悪の場所を何処と考えているのか挙げて見るがよい。私はそこへ行きTVカメラの前で栽培された食料を食べるつもりだ。何年も前のことだが、福島の事故の直後に日本でそれを実行した。放射線のリスクはほとんどの人が考えているよりも極めて低い。さらに、原子力はエネルギーとして炭化水素を燃やすよりも地球温暖化抑止にとって極めて効果的だ。)
- 10 May 2022
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資源大国なき資源市場への備え 前編
ロシア軍によるウクライナ侵攻から2か月が経過した。率直に言って、ウラジミール・プーチン大統領がウクライナへの侵略を決定することは考えておらず、且つウクライナ国民がウォロディミル・ゼレンスキー大統領のリーダーシップの下でここまで粘り強く抵抗することも予想できなかった。ロシアによる短期決戦の目算が狂ったことで、ウクライナにおける一般市民の被害は甚大なものになり、苛立つロシア軍は占領地域で残虐行為を重ねていると報じられている。ロシアの戦争犯罪が立証された場合、貿易立国であるロシア経済へ長期的に厳しいダメージを与えるだろう。同時に世界最大級の資源大国から天然ガスや石油、小麦、希少金属などの調達を抑制せざるを得ない以上、日本を含む多くの国・地域にとり強力なインフレ圧力になると考えられる。ただし、ウクライナ国民の辛苦、そして民主主義の大義を護るため、西側諸国はそれに耐えなければならない。恣意的な理由による他国への侵略を容認すれば、同様の事態が東アジアを含む世界各地で起こりかねないからだ。日頃、リベラル派を自認する某テレビ局の記者が、同局の番組に出演し、ウクライナ軍の実質的な降伏を唯一の解決策と評論したらしい。どのような意図だったのかは不明だが、ウクライナの人々にとっては全くの余計なお世話なのではないか。ロシア軍の侵略に対しどのように臨むかは、優れて主権を持つウクライナ国民が決めることだ。戦うか、降伏するかをウクライナに助言する権限が、直接的な脅威に晒されていない日本の記者にあるとは思えない。また、仮にこの降伏論の前提に立つ場合、力による現状変更を追認することにより、世界の軍拡競争に歯止めが掛からなくなる。強い軍事力を持つことで、他国への侵略や脅迫がまかり通ることになるからだ。さらに深刻なことは、ロシアがウクライナ国民の尊厳に敬意を表し、人道的な姿勢で臨むとは考え難いことではないか。ブチャなど一時的にせよロシア軍の支配下におかれた地域に関する報道を見る限り、ウクライナが降伏すれば、国民は自由を奪われ、法律に基づかない残虐行為や性的暴行が行われる恐れもある。少なくとも映像が伝えるウクライナの惨状に触れる限り、どの国、どの人種に属す人であろうが、大半はロシアによる蛮行が一日も早く収束し、ウクライナに平和が戻ることを祈らずにはいられないだろう。ロシアの一般国民も本来はそうであると信じたいが、残念ながら正しい情報が伝わっておらず、善悪の判断材料を決定的に欠いているようだ。ただし、ロシア軍の損害も小さくないと見られる上、西側諸国による経済制裁により、ロシア国民の暮らしは中長期的に悪化する可能性が強い。ウクライナ国民が侵略者と戦うと決めた以上、日本を含む民主主義国家の陣営はそれぞれの立場で最大限の支援を実行すべきである。日本は軍事的なサポートが困難であり、3月23日、ゼレンスキー大統領が国会においてリモートで行った演説でもそれは求められなかった。ただし、経済的支援に加え、生活必需品の供給や避難民の受け入れ、戦後の復興支援などやるべきことは山積している。特に最大の側面支援は、ロシアへの経済制裁を強化し、天然ガス、石油など資源調達の依存度を速やかに低下させることだろう。 長期戦の様相を呈するウクライナ危機トルコのレジェップ・エルドアン大統領の仲介もあり、イスタンブールなどでウクライナとロシアの停戦交渉が断続的に行われてきた。外交・安全保障政策の関係者、安全保障・軍事に詳しい専門家の方々に話を聞くと、2月24日に開始された侵攻当初、ロシア軍はウクライナ全土の掌握を目指していたとの見解で一致している。機動部隊の電撃的な投入により首都キーウを中心とした主要都市を短期間で制圧、ゼレンスキー大統領を解任して傀儡政権を樹立する計画だったのではないか。ウクライナへの侵攻に当たり、ロシアのプーチン大統領が主張した停戦の条件は次の5つだった。ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止ウクライナの非武装・中立ウクライナの非ナチ化クリミア半島におけるロシアの主権の承認ドネツク・ウルガンスク両州における親ロ政権の独立承認このうち、ゼレンスキー大統領は、既にNATOへの早期加盟は目指さないとの方針を示している。ロシアとウクライナは1,576㎞の長大な国境を接しており、NATO軍がウクライナへ駐留することは、ナポレオン・ボナパルト率いるフランス軍、アドルフ・ヒトラー麾下のドイツ軍の侵攻を受けた経験のあるロシアとしては、安全保障上、極めて深刻な問題なのだろう。それが隣国を侵略する正当な理由になるとは思えないが、ゼレンスキー大統領が求める新たな安全保障の枠組みを前提とすれば、ウクライナのNATO加盟問題は妥協点を見出せる可能性が強い。一方、全く一致点がないのは領土に関わる問題だろう。ウクライナの中立化が実現しても、ロシア軍のダメージや西側諸国による経済制裁の影響を考えた場合、それだけでは軍事侵攻を始めたプーチン大統領にとって十分な成果ではないと考えられる。ウクライナ軍の頑強な抵抗で首都キーウなどの制圧を断念したかに見えるロシア軍だが、部隊を再編した上でマリウポリなど東部の要衝を陥落させ、ロシア系住民が一部を実効支配してきたドネツク、ルガンスク両州のウクライナからの独立を目指している模様だ。5月9日は例年恒例の対ドイツ戦勝記念日であり、プーチン大統領はその日までにウクライナ東部において一定の戦果を挙げ、内外に向け勝利宣言を行う意向との見方が強まった。逆に言えば、クリミア半島、ドネツク・ウルガンスク両州における何らかの戦果がなければ、ロシア国内での指導力低下を懸念するプーチン大統領は停戦合意を決断できない可能性もある。クリミア半島は2014年3月から既に実効支配しており、新たな戦争には新たな戦果が必要なのではないか。外からは盤石に見えるプーチン大統領の権力基盤だが、自ら始めた戦争の泥沼化で国力の低下を招けば、指導力を失う契機にもなり得るだろう。これに対して、ゼレンスキー大統領は、当然ながらクリミア半島を含め「領土は1ミリたりとも渡さない」との姿勢を堅持している。武力侵攻を受けたことにより領土の割譲に応じた場合、相手国は軍事力を背景に次々と領土的野心をエスカレートさせかねない。つまり、ドネツク、ルガンスク、そしてクリミア半島に関する妥協案について、ウクライナが受け入れることは考え難いだろう。畢竟、決着が軍事的成果に委ねられる可能性は強い。ロシア側はウクライナ東部における支配地域の拡大に全力を傾けることが予想される。これに対して、米国を中心にNATO加盟国から追加の支援を受け体制を立て直したウクライナ軍は、粘り強い抵抗を続ける見込みだ。軍事力に劣るウクライナとしては、長期戦に持ち込むことにより、ロシア軍、そしてロシア経済が疲弊するのを待つことになるだろう。1991年12月、旧ソ連が消滅した要因の1つは、1979年12月にアフガニスタンへ侵攻、何も得るものなく1989年2月に撤退を余儀なくされたことだった。双方の主張には大きな隔たりがあり、結果として停戦交渉は進捗せず、戦闘は長期化の可能性を強めつつある。ただし、侵略戦争が持久戦になった場合、侵攻した側が不利になるのが歴史の教訓と言える。機動力による電撃戦を得意としたドイツ軍がソ連侵攻で躓いたのは、スターリングラード(現ボルゴグラード)、レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)の攻防戦において、いずれも想定外の長期戦を迫られたことだった。 突き付けられた世界の分断20年以上前であれば、ロシア軍は一般民間人への攻撃や支配地域における住民の殺害をある程度隠蔽できたかもしれない。しかしながら、多くの人がスマートフォンを所持し、ネットを通じて世界とつながっているSNS時代において、事実を長時間にわたり覆い隠すことは不可能だろう。また、米国はウクライナにおける戦況について、偵察衛星の映像、通信の傍受、ウクライナ政府からの情報、ロシアやウクライナ及び周辺国での人的な諜報活動を複合的に組み合わせ、ほぼリアルタイムで正確に把握していると考えられる。その米国は、早い段階から積極的に警告を発するなどウクライナ政府と共に情報戦でロシアを圧倒した感が強い。ロシアは侵攻そのもののみならず、国際法に違反すると見られる残虐な行為により、国際社会の強い怒りと不信感を買った。仮にウクライナでの戦闘行動がなんらかの合意を経て停戦に至ったとしても、プーチン大統領の在任中、ロシアが国際社会へ本格的に復帰するのはかなり難しいだろう。元は同じ国とは言え、主権国を武力侵攻し、無辜の国民に多大なる犠牲を強いた以上、同大統領、そして国家としてのロシアが西側諸国との関係を修復するのは容易ではないと考えられる。ロシアが安全保障理事会の常任理事国である国連を除いた場合、同国と西側主要国が参加する唯一の枠組みはG20だ。今年は11月15-16日にインドネシアのバリ島で首脳会議が予定されている。もっとも、このG20は、条約に基づくものではなく、あくまで任意の集まりに過ぎない。G20による初のイベントは、1999年12月15-16日、ドイツのベルリンにおいて開催された財務相・中央銀行総裁会議だった。1997年のアジア経済危機、1998年のロシアショックを受け、主要先進国だけでなく、有力な新興国を含めた協議の枠組みが必要とされたのだ。G20による首脳会議は、リーマンショックによる国際的な金融危機を背景に、2008年11月14-15日、ワシントンD.C.で行われたのが第1回である。バイデン大統領は、3月24日、訪問先のブリュッセルで記者会見に臨んだ。この時、「ロシアをG20から排除すべきか」との記者の質問に対し、「私の答えはイエスだ。ただし、G20の判断による」と答えている。この件に関しバイデン大統領に明確な権限があるわけではなく、最終的にどの国を招待するか決めるのは、今年の議長国であるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に他ならない。ちなみに、国連総会で3月2日に行われた『ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案』、及び3月24日の『ウクライナの人道危機に対する決議案』は、賛成が141か国、140か国の圧倒的多数でいずれも採択された。G20参加国・地域のうち、国連加盟国ではなく総会での投票権がないEUを除く19か国の投票行動を見ると、G7に加えてインドネシアを含む8か国、計15か国が2本の決議案いずれにも賛成している(図表1)。一方、中国、インド、南アフリカの3か国は両案で棄権に回り、反対したのは当事国であるロシア1国のみだった。しかし、国連人権理事会におけるロシアの資格を停止するための4月7日の決議では、G20のなかでブラジル、インドネシア、メキシコ、サウジアラビアが棄権、中国は反対に回ったのである。決議は可決されたものの、G20の間で亀裂が大きく広がった感は否めない。仮にウクライナで停戦が実現、ジョコ大統領がプーチン大統領に招待状を送り、プーチン大統領が出席を決断した場合でも、G20首脳会議の開催には様々な課題が想定される。日米欧主要国が参加を取り止めてG7首脳会議などで対抗、G20の枠組みが崩壊する可能性も十分にあり得るのではないか。ロシアがクリミア共和国、セヴァストポリ特別市を編入した2014年、当時のG8はプーチン大統領を議長としてソチで首脳会議(サミット)を開催する予定だったが、ロシア以外の7か国は出席を拒否、6月4-5日にブリュッセルでG7首脳会議を行った。これ以降、1998年から続けられてきたG8の枠組みは消滅し、西側諸国のみのG7に戻っている。2020年6月に米国で行われる予定だったG7サミットでは、ドナルド・トランプ大統領(当時)がプーチン大統領の招待を示唆した。しかしながらコロナ禍により首脳会議は延期され、同年11月の大統領選挙でトランプ大統領が敗北したことから、結局、この年は開催が見送られた。3月23日に行われたゼレンスキー大統領による日本の国会でのリモート演説において、同大統領は1)ロシアへの経済制裁継続、2)ウクライナの復興支援、3)国連改革──の3点を日本の国会議員に訴えた。日本の立場を理解し、先述の通り軍事的要素を絡ませない非常に冷静な要請だったと言える。もっとも、第2次大戦の戦勝国である5か国が安全保障理事会で拒否権を持つ以上、国連の組織を変えるのは容易ではない。そこで、日米欧の間ではG7の強化を軸とした新たな国家間連携の枠組みが模索されている可能性がある。中国が国際社会に存在感をアピールしたのは、2008年の第1回首脳会議において、胡錦涛国家主席(当時)が表明した4兆元(約56兆円)の経済対策だった。成長著しい新興国が巨額の財政支出で経済を支える意欲を示し、リーマンショックに慄く世界の金融市場に強い安心感を与えたからだ。そのG20首脳会議が休業状態に入るとすれば、中国がG7に対抗して新たな枠組みを模索することも十分に考えられる。ウクライナ危機は、世界が分断の時代に入った事実を我々に突き付けているのではないか。(後編へ続く)
- 06 May 2022
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ニュースケール社、SMRの製造で米国の原子炉鍛造品製造企業連合と協力
米国のニュースケール・パワー社は4月22日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を商業化する準備として、米国原子炉鍛造企業連合(RFC)と協力協定を締結したと発表した。世界中の顧客にSMRを提供していくに当たり、同社は国内の堅固な原子炉機器鍛造サプライチェーンを活用する方針である。このため同社は、鍛造品の溶接カ所削減や化学組成の調整、および合理的な製造に適した形状など、製造可能性を見直すための協力をRFCと実施。これにより、同社は国内サプライチェーンの製造能力を増強するほか、米国全体の製造業が雇用を維持・拡大していけるよう協力活動を進める方針である。ニュースケール社のNPMはPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給した。出力7.7万kW版のモジュールについても、ニュースケール社はSDAを2022年の第4四半期に申請する計画である。最初のNPMの建設計画は、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)がアイダホ国立研究所(INL)内で進めており、2023年の第2四半期までにNRCにCOLを申請し、2025年の後半までにこれを取得。2029年までに最初のモジュールの運転開始を目指している。ニュースケール社が1モジュール当たりの出力を7.7万kWに増強したのを受けUAMPSは2021年6月、建設するモジュール数を当初予定していた12モジュールから6モジュールに変更している。今回の発表によると、両者の協力は米エネルギー省(DOE)がクリーンエネルギー関係のサプライチェーン強化のため、今年2月に公表した「クリーンエネルギー社会への確実な移行に向けたサプライチェーンの確保戦略(America’s Strategy to Secure the Supply Chain for a Robust Clean Energy Transition)」に沿った内容となる。このため、連邦政府や関係する州政府からは、補助金が交付される見通しである。RFCは、北米フォージマスターズ(NAF)社とスコット・フォージ社、およびATIフォージド・プロダクツ社の3社で構成される企業連合。原子力グレードの鍛造品製造で高度な技術力を備えた3社が組み合わさることで、1ピースの重さが160トン以上という大型の合金やステンレス鋼の自由鍛造、継ぎ目のない圧延リングの製造、形状が特殊な鍛造品の製造などが可能になる。3社はこれまでに、NPMで使用する大型鍛造品の製造フィージビリティや設計の微調整関係で、ニュースケール社に協力した実績があると説明している。また、NAF社は近年、ペンシルベニア州にある「先進的原子力機器製造センター(CANM)」と協力関係にあり、SMRや先進的原子炉の原子炉容器や格納容器に使われるオーステナイト系ステンレス鋼について、研究プロジェクトを実施中。これにはペンシルベニア州政府が補助金を一部交付する予定で、NAF社は同社に出資しているスコット・フォージ社やその他の企業とともに、金属の溶解と鍛造、熱処理、鍛造品の粗削りや機械試験、非破壊検査などを実施する計画である。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Apr 2022
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米国防総省のマイクロ原子炉計画が進展、原型炉建設に向け設計選定へ
米国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)は4月13日、軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設・実証するための「プロジェクトPele」が進展し、少なくとも3年間フル出力で稼働可能なマイクロ原子炉の原型炉(電気出力0.1万~0.5万kW)を、エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)内で建設すると発表した。SCOが同日、原型炉建設の最終意思決定となる「決定記録書(ROD)」を発行したもので、これは米国の環境アセスメント制度における最終段階のアクション。国家環境政策法(NEPA)の下で、これまで行われていた(原型炉の建設・運転にともなう)環境影響の評価プロセスが完了したことを示している。SCOは2021年3月、原型炉に採用する候補設計として、対象をBWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的高温ガス炉と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉に絞り込んだ。これらはともにSCOの技術要件を満たしているが、SCOは今春の終わり頃までに最終的な採用設計を一つだけ選定する方針である。発表によると、この原型炉は固有の安全性を有する第4世代の原子炉として、米国内で初めて建設されるもの。世界初の第4世代炉としては、中国・山東省の石島湾で建設されていた「ペブルベッド式モジュール高温ガス炉(HTR-PM)」の実証炉(電気出力約10万kWのモジュール×2基)が2021年9月、初めて臨界条件を達成している。また、DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料を必要とするが、今後この量は一層拡大していく見通しである。このような需要に応えるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保。遠隔地や厳しい環境の場所においても、長期にわたって作戦活動を維持・拡大する考えだ。「プロジェクトPele」ではSCOが2020年3月、NEPAに基づき原型炉建設の環境影響評価を実施すると発表。これと同時に同炉の採用設計を選定するため、プロジェクトの技術要件を満たした設計について、2年計画の設計コンペを開始した。SCOはまた、同時期の連邦官報で、検討中のマイクロ原子炉はHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を用いた、先進的なマイクロ・ガス冷却炉(AGR)になると発表していた。今回のROD発行について、SCOは「候補企業2社の契約チームによる不断の努力や、水質汚染防止法等に基づいて建設計画の審査・承認を行う米陸軍工兵隊(Corps)、およびDOEの専門家による技術支援チームの功により、確実に固有の安全性を備えた可搬式マイクロ原子炉を安全に建設・実証できる」と表明。「先進的原子炉設計は、DODや米国の商業部門にとって戦略的に大きな変革をもたらす可能性があるものの、導入に際してはさらに実際の運転条件下で実証する必要がある」と指摘している。(参照資料:DODの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Apr 2022
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【第55回原産年次大会】セッション1「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」
セッション1では「各国におけるストラテジーとしての原子力開発利用」をテーマに、4か国から原子力政策が紹介された。モデレータを務めた日本エネルギー経済研究所・戦略研究ユニットの村上朋子原子力グループマネージャーは、セッション内容の説明に際し、世界の33か国・地域が原子力を利用している理由として、「人口や経済規模の大きい国が大量のエネルギーを必要としたから」という考え方に言及。あるいは逆に、原子力のように安定したエネルギーを利用してきたからこそ、多くの人口を維持し経済発展を遂げたとも考えられるが、実際の原子力利用国では単にエネルギー問題の解決のみならず、他の様々な事情も考慮されてきたことが想像できるとした。同氏はまた、日本の「原子力開発利用長期計画」では原子力はエネルギー政策としてだけでなく、長期的な産業振興政策の一つとしても優良な選択肢であった点を指摘した。その上で、原子力はある日突然、必要になったからと言って「泥縄式に」手に入るものではないし、何十年もの間に万が一の事態が発生することに備えて、二重三重の対策を講じておくことがエネルギー政策だと強調。本セッションでは、原子力の開発利用を巡る各国の諸事情を直接伺いたいと述べた。♢ ♢カポニティ次官補代理米国エネルギー省(DOE) 原子力局のA.カポニティ次官補代理(原子炉フリート及び先進的原子炉担当)は、CO2排出量が実質ゼロの経済で不可欠な先進的原子炉の開発について、米国の現状を次のように述べた。J.バイデン大統領は地球温暖化への取り組みを最優先に考えており、DOEは国内外のCO2排出量の削減目標達成に向けて、SMR等の先進的原子炉設計を早急に市場に出す準備を積極的に展開中。この意味で新規の原子炉建設は非常に重要なものになっており、バイデン政権は①2020年代末までに米国のCO2排出量を50%以上削減、②2035年までに米国の電源ミックスを100%クリーンなものにする、③2050年までにCO2排出量が実質ゼロの経済を獲得する、などの目標を設定。このような意欲的な目標を達成するには、原子力のようにクリーンで信頼性の高いベースロード電源が不可欠だとDOEは考えている。現在、米国の原子力発電所は総発電量の約20%を供給しているが、クリーン電力だけ見ると年間総発電量の半分以上が原子力によるもの。これらは平均92%という世界で最も高い設備利用率で稼働中であり、他のいかなる電源よりも高い数値である。このような事実から、原子力は米国で最も信頼性の高い、最大の無炭素電源と位置付けられており、既存の大型軽水炉の運転継続を支援し、SMRやマイクロ原子炉等の先進的原子炉設計を新たに市場に出すことは、米国における地球温暖化対応戦略の主要部分となっている。先進的原子炉設計の商業化を支援するに当たり、DOEでは次の3つのアプローチをとっている。すなわち、①DOE傘下の国立研究所で基礎研究開発を進める、②先進的原子炉の開発事業者が国立研究所の専門的知見や能力、関係インフラを利用しやすくなるよう連携する、③技術面と規制面の主要リスクに官民が連携して取り組み、2020年代の末までに先進的原子炉の初号機を送電網に接続する、である。そのためにDOEが具体的に実施している方策としては、先進的原子力技術の商業化支援構想「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」が挙げられる。GAINでは、技術開発支援バウチャー(国立研究所等の施設・サービス利用権)プログラムなどを通じて、民間企業が国立研究所のインフラ施設や専門的知見、過去のデータ等を活用できるよう財政支援を実施。DOEが2019年に傘下のアイダホ国立研究所(INL)内に設置した「国立原子炉技術革新センター(NRIC)」では、技術の実証に使える試験台や実験インフラを提供している。また、官民の連携アプローチでは、DOEは3つの先進的原子炉設計を選定して、実証炉の開発プロジェクトを支援中。その1つ目はニュースケール・パワー社の軽水炉型SMRで、2029年までにINL内で最初の実証モジュールを稼働させる。出力7.7万kWのモジュールを6基連結することにより、合計46.2万kWの出力を得る計画である。2つ目は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と共同で進めている、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム(Natrium)」計画。ワイオミング州内で閉鎖予定の石炭火力発電所で電気出力34.5万kWの実証炉を建設することになっており、火力発電所のインフラ設備や人員を活用する予定になっている。3つ目は、X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス冷却炉「Xe-100」。ワシントン州内で初号機の建設が予定されており、その高い出口温度によって水素製造に適した高品質の蒸気を生産するほか、4基のモジュールを組み合わせて32万kWの発電設備とする計画である。♢ ♢ポペスク局長ルーマニア・エネルギー省のE.ポペスク・エネルギー政策・グリーンディール局長は同国の原子力開発戦略を次のように紹介した。ルーマニアを含む欧州南東部は依然としてエネルギー安全保障の脆弱性という問題を抱えているため、供給保証の確保と調達先の多様化は引き続き、この地域におけるエネルギー政策の基本要素である。2030年までの期間、温室効果ガス(GHG)排出コストの上昇にともない、低炭素な風力や太陽光、原子力等の設備拡大ペースも早まっていくと想定。長期的なエネルギーシステムの開発に関するシナリオはすべて、大規模な水力発電や再エネ、原子力、エネルギー貯蔵など、利用可能なあらゆる低炭素技術の活用を前提としたものであり、これらの技術はルーマニアにおける「低炭素でバランスの取れた多様なエネルギーミックス」の構築に不可欠な貢献を果たす。欧州連合(EU)はエネルギーと気候関係で2030年までの目標を多数掲げているため、加盟国は2030年まで10年間の総合的な国家エネルギー・気候計画(NECP)を策定しなければならない。ルーマニアが2030年までを目処に設定した目標としては、EU排出量取引制度(ETS)の中でGHG排出量を2005年比43.9%削減;最終エネルギーの総消費量に占める再エネの割合を30.7%に拡大;ルーマニアの「国家復興・強靭化計画(RRP)」ではこの割合を34%とする、などがある。原子力に関しては、ルーマニアはその利用可能性や高い競争力、環境への影響が少ないこと等から、電力部門の持続可能な発展のための解決策と認識。発電における戦略的選択肢であるとともに、国家エネルギーミックスの安定した構成要素と考えている。現状では、チェルナボーダ1、2号機(各70万kW級のカナダ型加圧重水炉=CANDU炉)が送電開始以降、CO2を累計で1億7,000万トン削減したほか、毎年約1,000万トンを削減中。総発電量に占める原子力発電の割合は18~20%だが、クリーンエネルギーでは全体の33%を両炉が供給している。また、原子力関係の売上高は2017年の累計で5億9,000万ユーロ(約802億円)にのぼり、2030年までの総投資額は80億~90億ユーロ(1.09兆~1.2兆円)に達する見通しである。ルーマニアの脱炭素化目標では、2030年までにCO2排出量を現状から55%削減し、輸入エネルギーへの依存度も現在の20.8%を17.8%まで削減する。このため、原子力ではチェルナボーダ1号機の運転期間延長に加えて、建設工事が1989年にそれぞれ15%と14%で停止した同3、4号機(各70万kW級CANDU炉)を2031年までに完成させる。また、SMRを6モジュール分(46.5万kW)設置するほか、チェルナボーダ発電所内ではトリチウム除去施設(CRTF)を建設、回収したトリチウムは安全に長期保管するほか、国際核融合実験炉計画(ITER)等に役立てる方針である。1号機の運転期間延長については、フェーズ1の作業が終了間近となり、次の段階では延長プロジェクトの実施でEPC契約を締結するほか関係許認可を取得、最終投資判断(FID)も行われる。実際の改修工事は、フェーズ3で2026年12月から2028年12月まで効率的に遂行する。3、4号機を完成させる工事については、ルーマニア国営原子力発電会社(SNN)の子会社であるエネルゴニュークリア社が2021年11月、SNC -ラバリン社グループのCANDU炉製造企業であるCANDUエナジー社と契約を締結している。SMR関係では、SNNが米ニュースケール・パワー社製SMRの国内建設を目指して、2021年11月に同社と協業契約を締結した。欧州初のSMRとして約46万kW分を設置し、毎年400万トンのCO2排出を抑制するという計画。SNNは2022年4月末までに、建設サイトを決定する予定である。♢ ♢ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官ポーランド気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、同国における原子力発電開発とその利用戦略について、次のように解説した。ポーランド政府は、2040年までを見通したエネルギー戦略やCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で原子力の利用は欠かせないと考えており、そのための2つの重要文書「2040年に向けたポーランドのエネルギー政策」と「ポーランドの原子力開発計画」を策定した。ともに2043年までに原子炉を6基、600万~900万kW建設することを想定。出力100万~150万kWの初号機については2033年までに運転を開始し、その後2年おきに残りの5基を完成させていく計画である。「2040年に向けたエネルギー政策」では低炭素なエネルギー・システムに移行するための枠組みを設定しており、このようなシステムの構築に必要な技術の選定に関する戦略的決定事項を明記した。また、信頼性の高い電源として、原子力がポーランドの電源構成の中で極めて重要な部分を担っていることを再確認。原子力はまた、出力調整が可能なベースロード電源であるため、再生可能エネルギー源を着実に建設していく一助になる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成することは、未だに総発電量の約7割を石炭火力で賄っているポーランドにとって非常に大きな挑戦だが、それでもポーランドはエネルギーの安定供給と経済競争力を維持しつつ、電源構成を改善していくと決定。最終的に総電力需要の約20%を原子力で賄い、ポーランドの脱炭素化に向けた取り組みの主翼とする方針である。原子力発電の導入を実現する重要要素としては、「サイトの選定」、「事業モデルの構築」、「採用技術」の3点があり、立地点については最初の発電所の建設に適したサイトとして、事業会社のPEJ社が北部ポモージェ県ホチェボ自治体内の「ルビアトボ-コパリノ地区」を選定した。採用技術としては、確証済みの技術を採用した第3世代+(プラス)の大型PWRを検討。事業モデルに関しては、これから選定するパートナー企業が事業会社のPEJ社に最大49%出資し、事業リスクを分散してくれることを期待している。PEJ社については、2021年3月に政府が同社株を100%取得したことから、政府が同社を直接監督している。同社は最近、最初の発電所建設と運転が周囲の環境に及ぼす影響について評価報告書(EIA)を取りまとめており、現在は「サイトの評価報告書」を作成中。今後数か月の間に発電所に採用する原子炉技術を選定してベンダーと契約するほか、EPC(設計・調達・建設)コントラクターとも契約を締結、政府からは「環境条件に関する承認」を取得するため、原子力発電プログラムは特に忙しくなる。政府はまた、2020年後半に改訂版の「原子力発電計画」を採択。このため、原子力発電に必要な人的資源の開発や国民とのコミュニケーション、原子力発電所の建設と運転に参加する国内産業界の準備支援等を優先的に実施していく考えだ。政府はさらに、2021年12月に「地元の産業支援計画」を承認した。同計画では、様々な産業活動への国内企業の参加を促す予定。原子力では新たなイノベーション産業がポーランドで生まれると期待されており、原子力発電所建設事業の70%までを国内企業が実施することになる。♢ ♢ブイット部長フランス環境移行省エネルギー・気候局(DGEC)のG.ブイット原子力産業部長は、フランスにおける今後の原子力エネルギーの展望について以下のように説明した。フランスでは現在、56基のPWRで3,350億kWhを発電(2019年実績)しており、発電シェアは全体の67%、これらの平均稼働年数は36年である。2015年に「グリーン成長のためのエネルギー移行法(LTECV)」が成立し、2019年にはその内容を補完する「エネルギー気候法(LEC)」が公表された。これらではエネルギーの移行に向けて、野心的な国家中長期目標を設定。すなわち、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成」、「2030年までに化石燃料の消費量を2012年比で40%削減」、「2012年から2050年までの間に最終エネルギーの消費量を50%削減」、「2030年までに最終エネルギー消費量の33%を再エネとする」、などである。2020年4月には、LECの目標を達成するための補足文書として、①(2028年までの)多年度エネルギー計画(PPE)、②国家低炭素戦略(SNBC)が制定された。PPEの第一期(2019年~2023年)では、原子力部門の将来に向けた行動計画を提示。原子炉の運転年数を40年以上に延長することや、再処理戦略が再確認されている。一方、送配電企業のRTEは2021年10月、政府の指示により、国内の電源構成を完全に脱炭素化しつつ長期的な電力ニーズを満たすためのシナリオを6つ作成。それぞれの費用やリスク評価した結論として、「原子力を完全に廃止したシナリオでは、2050年までに電源構成の脱炭素化という目標を達成できないリスクがある」、「新規の原子炉建設は経済的観点から妥当」などと発表した。このような状況を受けてE.マクロン大統領は2021年11月、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するため、再エネ源の大規模開発継続に加えて、原子炉建設を行う新しいプログラムを設置したと発表している。2022年2月には、「国内で新たに6基の改良型EPR(EPR2)を建設し、さらに8基建設するための研究を開始する」、「効率的な発電能力を維持している既存の原子炉は、最高水準の安全性が確保されている限り廃止しない」などの方針を明らかにした。現在、フランス政府はエネルギー・気候政策の定期的な見直しとして、PPE第二期(2024年~2028年)の戦略策定に向けた意見を2021年秋から幅広く聴取中。議会は2023年の夏ごろ、新たな方針を盛り込んだ法律の制定に向け議論を実施する予定で、次回の改訂では新規原子炉の建設に関してさらなる詳細が示される。一方、原子力産業界ではフランス電力(EDF)が中心となってPWRタイプのSMR「NUWARD」を開発しており、2040年までに国内エネルギーミックスに組み込む方針。「NUWARD」では、1つの建屋に出力17万kWの原子炉を2基設置、静的安全システムによって様々な事故シナリオに対応可能になる。このような産業界を支援する戦略として、政府は2020年9月に「フランス復興計画」を発表した。原子力産業界の設備・能力の近代化関係で1億ユーロ(約136億円)、原子力研究開発に2億ユーロ(約272億円)の支援を行うほか、「NUWARD」の予備設計支援で5,000万ユーロ(約68億円)を投じることになった。また、2021年10月にはマクロン大統領が、将来に向けた新たな大規模投資計画「フランス2030」を発表。2030年までに国民の生活や生産活動をより良いものとするための目標10項目を掲げており、エネルギーを含む様々な重要分野に対応。原子力関係では、小型原子炉その他の革新的な原子炉の台頭促進が目標の一つであることから、10億ユーロ(約1,358億円)の公的資金の投入方針を明らかにしている。
- 13 Apr 2022
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米X-エナジー社、TRISO燃料製造施設の建設に向け特殊核物質の取扱い申請書提出
米メリーランド州のX-エナジー社は4月6日、商業規模の3重被覆層・燃料粒子(TRISO燃料)製造施設「TRISO-X(TF3)」の建設に向けて、特殊な核物質の取り扱いに関する許可(SNM)申請書を米原子力規制委員会(NRC)に提出した。TRISO燃料は、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU燃料)を黒鉛やセラミックスで3重に被覆した粒子型の燃料。X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」で使用予定であるほか、その他のデベロッパーが開発中の小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計の多くで、HALEU燃料が使用される見通しである。ただし、製造施設を建設するには連邦規則10CFR70に基づき、カテゴリーⅡの「特殊核物質所有認可」を取得する必要がある。NRCは今後、同カテゴリーでは初となったX-エナジー社の申請書を24~36か月かけて審査する。X-エナジー社はこれに先立つ4月4日、商業規模のTRISO燃料製造施設「TRISO-X(TF3)」を、テネシー州オークリッジの「ホライズンセンター産業パーク」内で建設すると発表した。同社はすでにオークリッジで、TRISO-Xのパイロット製造ラインとTRISO-X研究開発センターを保有。今年中にも同社の100%子会社で、TF3の建設と操業を担当するTRISO-X社がサイトの準備を開始し、その他の許認可を取得。早ければ2025年にもTF3の操業を開始する方針である。初期段階の生産量は、「Xe-100」12基分の燃料に相当する年間8トン(ウラン換算。以下同)だが、2030年代初頭までに16 トン/年の生産を目指す考えである。X-エナジー社はTF3開発でこれまでに約7,500万ドルを投じており、オークリッジで400人以上の雇用創出が見込まれる同建設計画では、今後3億ドル近い投資を呼び込む計画である。また、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとして同社を選定。2021年11月には米国議会が同プログラムの下、「Xe-100」の実証炉建設に約11億ドルを交付すると決定しており、この支援金はTF3の建設にも活用される。「Xe-100」は電気出力7.5万kWのSMRで、これを4基連結することで出力を30万kWまで拡大することが可能。X-エナジー社は同設計により、世界中で高まっているクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。同設計については、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2020年8月から予備的設計評価(ベンダー設計審査)を開始。建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、同設計がカナダの規制要件を満たしているか、X-エナジー社の要請に基づいて評価中である。また、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」を国内で4基建設することを希望。X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。米国内では、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社保有のコロンビア原子力発電所と同じサイト内で建設することを計画。両社とX-エナジー社は2021年4月、「3社間エネルギー・パートナーシップ」を構築するための覚書を締結した。TRISO-X社のP.パッパノ社長はTF3の建設サイト決定について、「TRISO燃料の技術は過去60年にわたって開発・改良されてきたものであり、TF3の建設はこのように画期的な燃料技術を市場にもたらすことになる」と表明。TRISO-X社が創設されて以降、同社の技術に対する内外の関心が高まりつつあり、軍事用マイクロ原子炉の開発を進めている国防総省(DOD)や、深宇宙探査用核熱推進(NTP)技術の開発を進めているアメリカ航空宇宙局(NASA)も、すでに同社の顧客だと強調している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 11 Apr 2022
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米エネ省、クリーンエネルギーのサプライチェーン強化へ
米エネルギー省(DOE)は2月24日、クリーンエネルギーのサプライチェーンでレジリエンス(供給力の一時的な低下等からの回復力)を強化し、関係機器の製造能力を増強、数百万人規模の雇用を創出していくため、60以上の具体的なアクション項目を盛り込んだ包括的な戦略を公表した。米国最大の無炭素電源であり、国内で約50万人の雇用を支える原子力に関しては、昨年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法(BIL)」を通じて、先進的原子炉の開発等に約25億ドルの投資を行う考えを明らかにした。この戦略は「クリーンエネルギー社会への確実な移行に向けたサプライチェーンの確保戦略(America’s Strategy to Secure the Supply Chain for a Robust Clean Energy Transition)」と題されている。国家経済とエネルギー供給の保証、および国家安全保障のさらなる強化に向けた総合計画としては、米国初の試みであり、エネルギー部門で頑健かつ多様な産業基盤を構築するため、様々な重要戦略を盛り込んでいる。同戦略によって、DOEはクリーンエネルギー関係の機器製造や技術革新で世界的リーダーとしての米国の立場を確立する方針だ。サプライチェーンへの投資や強化を通じて経済成長と関係雇用の創出を促進するだけでなく、サプライチェーンの世界的な途絶を防止することで米国の各家庭や企業の金銭的負担を減らし、インフレとの闘いを支援していくとしている。同戦略は、米国の経済的繁栄と国家安全保障を確実なものとするため昨年2月にJ.バイデン大統領が公布した「米国サプライチェーンに関する大統領令14017」へのDOEとしての対応であり、DOEと傘下の国立研究所の研究者が、原子力関係も含めてエネルギー部門全体で幅広く実施した13のサプライチェーン評価の結果に基づいている。連邦政府はBILを通じてエネルギー部門で620億ドルの投資を行うが、今回の戦略でDOEは、クリーンエネルギーへの移行にともなうビジネス・チャンスを米国がどのように捉え、エネルギー関係で世界規模の製造基盤や労働力をどのように構築していくか概説している。先進的原子炉の開発、使用済燃料の中間貯蔵施設建設を促進同戦略によると、米国の原子力産業界では近年、大きさが様々なだけでなく冷却材や燃料、建設方法も異なる先進的原子炉を幅広い用途に活用できるよう、設計や実証、建設に向けた計画が進められている。このような技術革新や官民の連携協力に促され、先進的原子炉設計の多様化は今後数年間でさらに進むとDOEは予測。これらの設計では米国の原子力産業界が高い効率性と安全性を実現しており、革新的技術を用いたクリーンエネルギー技術の開発は、米国がこの部門で再び国際的なリーダーシップを確立する機会をもたらすことになる。DOEの認識では、様々な先進的原子炉を国内外で建設し、そのサプライチェーンについても米国がリーダーシップを発揮すれば、原子力以外のクリーンエネルギー技術が利用できない地域で脱炭素化を進展させることができる。また、安全性や核不拡散性等の点で最も厳しい基準を満たしている米国の原子炉が、確実に建設されていくとしている。これらのことから、DOEは原子力に特化した今後の政策戦略として、原子力規制委員会(NRC)と調整を図りつつ先進的原子炉開発をタイムリーに支援していく考えを表明した。具体的には、「2017年原子力技術革新対応法(NEICA2017)」を全面的に実行に移し、先進的原子炉の設計概念を民間部門と国立研究所が共同で実証。技術面で得られる専門的知見は、NRCと共有していく。また、2019年に成立した「原子力技術革新・規制最新化法(NEIMA)」に基づき、今後短期間のうちに次世代原子炉技術に効率的に許認可を与えていく。これらの原子炉の多くで使用されるHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)に関しては、先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)と同様、DOEが米国の民間部門による供給体制の確立を支援していく。DOEはまた、放射性廃棄物の処分について総合的な戦略を策定するため、手始めに連邦政府所有の使用済燃料・集中中間貯蔵施設の建設に向けて、地元の合意を得ながら立地プロセスを進めていく考えを明らかにした。DOEはまた、このような戦略の実行に際し米国議会に勧告する事項として、研究開発インフラに欠けている重要部分に継続的に予算を投入していくことを指摘。例として、高速中性子の照射施設となる多目的試験炉(VTR)の建設計画を挙げている。さらに、革新的な原子力エネルギー・システムの開発と配備を加速するため、DOEのみならず国防総省(DOD)や航空宇宙局(NASA)にも研究開発・実証・配備(RDD&D)予算の充当支援が必要だと表明。そのほかにも、DOEが統合的な処分戦略に基づいて使用済燃料の輸送や中間貯蔵、最終処分を実施していけるよう、議会に対して「1982年の放射性廃棄物政策法(NWPA)」の改正を勧告している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Mar 2022
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ニュースケール社、SMR建設に向けた協力覚書を米ウィスコンシン州の電力協同組合と締結
©Dairyland power cooperative米オレゴン州のニュースケール・パワー社とウィスコンシン州のデーリィランド電力協同組合は2月24日、ニュースケール・パワー社製小型モジュール炉(SMR)を同協同組合の供給地域内で建設する可能性を探るため、了解覚書を締結したと発表した。同協同組合は発電と配電専門の協同組合で、1967年から1987年まで地元ラクロスで、連邦政府の実証プロジェクト用にラクロス原子力発電所(BWR、5.5万kW)を所有・運転していた。同協同組合は現在、中西部のウィスコンシン州、ミネソタ州、アイオワ州、およびイリノイ州で24の配電協同組合と地方自治体の電力会社17社に電気を卸販売しており、これら4州における供給対象者数は50万人以上にのぼる。今回、同協同組合とニュースケール社は、先進的原子力技術がクリーンエネルギー社会への移行で重要な役割を担うとの認識の下、ニュースケール社製SMRの信頼性の高い無炭素な電力を、同協同組合が合理的な価格で販売していけるか共同で評価することになった。ニュースケール社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」はPWRタイプの一体型SMRで、電気出力が5万kW~7.7万kWのモジュールを最大12基連結することで出力の調整が可能。米国の原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、モジュール1基の出力が5万kWの「NPM」に対し、SMRとしては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給。出力7.7万kW版のモジュールについても、ニュースケール社はSDAを2022年の第4四半期に申請するとしている。ニュースケール社の今回の発表によると、1モジュールの出力が7.7万kWのNPMを4基~12基備えた「VOYGR」発電所を同協同組合の電源構成に加えた場合、負荷追従運転を行うことにより太陽光や風力など間欠性のある電源を補うことができる。「VOYGR」発電所はまた、既存の石炭火力発電所の閉鎖に伴う跡地の再利用が期待できるため、エネルギー産業界における重要な雇用の維持や、「VOYGR」の受け入れコミュニティが目指すエネルギー供給システムの脱炭素化等に支援を提供することなる。同協同組合のB.リッジ理事長兼CEOは、「ニュースケール社製のSMRも含め、当協同組合は無炭素な電力の供給が可能な複数の技術を精査中だ」と説明。今回の覚書を通じて、信頼性やコスト面の効果が高く、安全な低炭素電力を同協同組合の所属メンバーに長期的に提供していけるか、見極めたいとしている。米国内では、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)がNPM初号機をアイダホ国立研究所(INL)内で建設する計画を進めており、2021年1月にニュースケール社に対し建設・運転一括認可(COL)の申請準備を依頼した。UAMPSの計画では2023年の第2四半期までにNRCにCOLを申請し、2025年の後半までにこれを取得。2029年までに最初のモジュールの運転開始を目指す。また、ワシントン州グラント郡の公営電気事業者「グラントPUD」は今年5月、ニュースケール社製SMRの性能を評価するため、同社と協力覚書を交わしている。米国外では、カナダやチェコ、ウクライナ、カザフスタン、ルーマニア、ブルガリアなどの企業が国内でのNPM建設を検討しており、それぞれが実行可能性調査等の実施でニュースケール社と了解覚書を締結。ポーランドでは、鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘会社が今月14日、「VOYGR」発電所をポーランド国内で建設するため、ニュースケール社と先行作業契約を締結している。(参照資料:ニュースケール社、デーリィランド電力協同組合の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Feb 2022
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米エネ省、既存原子力発電所の運転継続支援プログラムで情報提供依頼書発出
米エネルギー省(DOE)はこのほど、国内で既存の原子力発電所の運転継続を支援していくため、実施予定の「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」について、DOEの意向を通知する文書(NOI)と関連情報の提供依頼文書(RFI)を関係者に向けて発出した。米国では現在、CO2を排出しないクリーン電力の発電量で原子力が最大シェアの52%を占めている。このため、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すバイデン政権は、昨年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」の中で、CNCプログラムの実施に60億ドルの予算を充当すると約束。同プログラムを通じて、DOEは全米に立地する原子力発電所が早期閉鎖に追い込まれるのを防ぐ方針であり、CO2の排出量を抑えつつ数千名分の関係雇用を維持していくとしている。NOIでは具体的に、原子力発電所のオーナーや運転企業、州政府や地元自治体の規制当局、同プログラムから影響を受けるコミュニティ、環境保護団体等に対し、DOEの計画を周知するとともに同計画への申請を促していく。また、RFIでは、CNCプログラムの仕組み、特に同プログラムの適用を受けるための認証プロセスや適格性の判断基準、クレジットの獲得に向けた入札の実施、クレジットの割り当て方法等について、3月初旬から中旬にかけて、意見や関連情報を募集する計画である。DOEの発表によると、バイデン政権は現在国内で稼働する93基の商業炉について、「CO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で極めて重要なエネルギー供給源である」と認識。電力市場の自由化やその他の経済的ファクターにより、2013年以降すでに12基の商業炉が早期閉鎖されたが、これらが電力供給していた地域ではCO2の排出量が増加し大気の質が低下、高サラリーの雇用も数千人規模で失われた。DOEのCNCプログラムでは、原子力発電所のオーナーや運転企業がその運転の継続に向けてプログラムの適用申請を行うことになるが、これに際して申請者は、その商業炉が経済的理由により閉鎖の危機に瀕していること、その閉鎖が大気汚染物質の増加に繋がることなどを証明しなくてはならない。一方でDOE側も、その商業炉が安全に運転継続できることを原子力規制委員会(NRC)が保証しているか見極める必要がある。DOEはまた、「有資格」と認定した商業炉に対して認定日から4年にわたり、一定の発電量に対して一定の行使価格を設定した「クレジット」を付与。クレジットの総数に基づいて支援金が支払われると見られており、DOEとしてはプログラム資金に残金がある限り、2031年9月末までクレジットを付与していく考えである。DOEのJ.グランホルム長官は国内の原子力発電所について、「バイデン政権が掲げる地球温暖化の防止目標達成に絶対不可欠の重要電源であり、DOEは100%クリーンな電力の供給維持で原子力発電所の早期閉鎖を阻止していく」と表明。これは超党派のインフラ投資法によって可能であると述べており、「我々は既存のクリーン・エネルギー・インフラを活用してエネルギーの供給保証を強化、関係雇用を守るだけでなく次世代エネルギー技術の開発も促進できる」と強調している。(参照資料:米エネ省の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Feb 2022
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米TVA、クリンチリバーでのSMR建設に向けた新たな原子力プログラムを発表
米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は2月10日、テネシー州のクリンチリバー・サイトやその他のサイトで軽水炉型の小型モジュール炉(SMR)を建設することを念頭に、「新たな原子力プログラム(New Nuclear Program)」を作成したと発表した。これは脱炭素化の達成に向けて、同社が革新的技術を用いた先進的原子炉の建設を牽引していくには、採用設計や建設サイトの特定等で計画的かつシステマチックなアプローチが必要と判断したため。先進的原子炉技術の建設オプションの検証に2億ドルを投じるという同プログラムは、TVAの理事会が同日承認済みとなっている。TVAは2019年12月、クリンチリバー・サイトに関する「事前サイト許可(ESP)」を原子力規制委員会(NRC)から取得したが、その際、採用予定の炉型を特定しておらず、「2基以上のSMRで合計出力が80万kWを超えないもの」としていた。CO2排出量の実質ゼロ化を目指していくのに当たり、同社は先進的原子炉が有効な手段の一つになると認識。このことは同社の「戦略的意図と基本的理念」にも明記されている。現在、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を始めとする様々なSMR設計について、潜在的な環境影響等を評価中である。 発表によると、今回の「新たな原子力プログラム」は、提案されている複数のSMRの中からTVAが特定の設計を選定し、このような設備を将来必要とする地域の中から立地点を特定する際、整合性のとれた「ロードマップ」として機能する。候補地点での建設が実行不能になった場合や、その地点に最善の利益をもたらさないと判断された場合など、TVAが計画から手を引く際の条件も「決定ポイント」として盛り込まれている。同プログラムはまた、TVAが先進的原子炉技術の推進でその他の電力会社や政府機関、研究組織と協力していくための調整機能も担う。これらの組織との協力により、TVAは開発にともなう財政面や技術面のリスクを軽減する方針。同プログラムはさらに、軽水炉型SMRの建設許可申請に向けた準備作業の中で、環境影響評価等の作業を監督することになる。TVAによると、同プログラムにおける最初のタスクは、軽水炉型SMRをクリンチリバーで建設するための許可申請書の作成。TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOは、「建設実施の最終判断をTVA理事会はまだ下していないが、GEH社やその他の企業との協力で得られた知見を、近い将来に公表予定の環境影響声明書の案文を併せて同理事会にかける計画だ」と述べた。同CEOはまた、「数あるSMR設計の中でも、軽水炉型SMRはTVAが運転している従来の大型原子炉と非常に似通っており、今後10年以内の商業建設が可能なレベルまで成熟している」と指摘。このような理由から、「BWRX-300」の建設に関する協議を開発企業のGEH社と実施中だと説明している。(参照資料:TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 15 Feb 2022
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米USNC社、同社製MMRの建設に向けたFSでアラスカ州の電力共同組合と協力
米国で第4世代の小型高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を開発しているウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、およびアラスカ州の電力共同組合「コッパー・バレー電気協会(CVEA)」は2月8日、同州内でのMMR建設に向け、両者が予備的実行可能性調査(FS)で協力中であると発表した。このFSでは、CVEAの本拠地であるアラスカ州南東部のグレンナレンで、電気出力1万kWのMMRを中心とする先進的エネルギー・システムを構築する技術的な可能性を探るとともに、立地に適した地点や社会的受容性、建設コスト等の経済性についても調査。今年の夏までに完了させる計画で、両者は「結果が良好であれば、MMRはアラスカ州で建設される最初の民生用マイクロ原子炉になる」としている。CVEAは州内における共同運営の電気事業者で、現在グレナレン周辺の東西約160km、南北約260kmの区域に電力と熱を供給中。ディーゼル発電所や水力発電所など合計約4万kWの発電設備を保有・運転しているが、燃料は高額で価格が変動し易い液体化石燃料に依存している。CVEAの理事会が昨年承認した戦略計画では、このような燃料への依存を軽減し、一層クリーンで経済的な電力供給に転換することが目標に掲げられた。USNCのMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWで、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる小型モジュール式HTGR。20年の運転期間中に燃料を交換する必要がなく、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるという。カナダのエネルギー・プロジェクト企業のグローバル・ファースト・パワー(GFP)社はすでに2019年3月、パートナー企業であるUSNC社のMMRをオンタリオ州チョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。また、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は2021年6月、USNC社製MMRを将来学内で建設するため、原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出している。CVEAのT.ミリオンCEOは今回のFSについて、「当協会の電源ミックスの脱炭素化や効率性の向上等で、MMR技術が採用可能か最優先に調査している。また、MMRを通じて発電コストの上昇を抑え、水力発電が使えない冬季にディーゼル発電への依存が高まる点なども是正していく」と説明。同CEOの認識では、従来の大型原子力発電所と比べてMMRはほとんど水を使わず、放射性廃棄物の発生量も少ない。放射性生成物が漏れ出たり、メルトダウンが発生しないよう特別な設計になっている。同CEOはまた、「今後はUSNCとともに地元コミュニティとの交流を図り、MMR建設プロジェクトの全段階を通じてコミュニティの利益が確保されるよう、彼らの意見を聞き支援を得たい」と表明。FSが完了するまでの期間、地元住民を中心とするこのような協議によって、同プロジェクトに対するCVEAメンバーや州民の理解を一層深める方針である。なお、今回の発表に先立つ2月1日、アラスカ州のM.ダンリービー知事は、州内全域におけるエネルギーの自給やエネルギー・コストの長期的な引き下げ等を促進するため、州内でマイクロ原子炉の建設を促す法案を議会に提出した。この技術を導入することで、同州にはクリーンで安全なエネルギーがもたらされると州知事は強調。CVEAがMMRの建設に向けたFSをすでに実施中であることにも触れており、この計画によって同知事のエネルギー政策が後押しされ、アラスカ州ではマイクロ原子炉の許認可手続の簡素化が進むと指摘している。(参照資料:コッパー・バレー電気協会、アラスカ州知事の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 09 Feb 2022
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米WH社、U235の濃縮度が6%の試験用燃料集合体を商業炉に装荷へ
米国のウェスチングハウス(WH)社は1月27日、同社が進めている「高エネルギー燃料開発構想」で初めて、U235の濃縮度が最大で6%という次世代型の先行試験用燃料集合体(LTA)を国内の商業炉に装荷すると発表した。WH社の計画では、サザン・ニュークリア社がジョージア州で運転しているA.W.ボーグル原子力発電所2号機(PWR、121.5万kW)に、濃縮度6%の先行試験燃料棒が各1本含まれるLTAを4体装荷する予定。両社は同日、そのための契約を締結している。ただし、原子力規制委員会(NRC)がサザン・ニュークリア社に発給した現行の認可では、燃料内のU235の濃縮度は5%までしか許されていない。このためWH社は、サザン・ニュークリア社による認可の修正要請をNRCが承認し次第、2023年にも米エネルギー省(DOE)およびDOE傘下のアイダホ国立研究所の協力を受けてLTAの製造を開始。その年の秋にボーグル2号機で燃料交換を実施する際、サザン・ニュークリア社は同LTAを装荷する方針である。WH社は現在、福島第一原子力発電所事故を受けてDOEが2012年に開始した「事故耐性燃料(ATF)開発プログラム」に参加しており、同社製のATF「EnCore」を開発中である。同プログラムではWH社のほかに、フラマトム社やライトブリッジ社、米GE社と日立製作所の合弁事業体であるグローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社などが産業界から参加。2022年頃を目途に3段階でATFを開発・実証することになっている。WH社はまた、電気事業者が燃焼度を高くできる燃料を使用し発生エネルギーの量を増加できるよう、「高エネルギー燃料開発構想」で濃縮度を高めた燃料を開発している。同構想では、現在18か月の運転期間を24か月に延長することも研究中で、これにより電気事業者は、停止期間を短縮しコスト削減が可能になるとしている。今回のLTAでWH社は、商業炉を長期的に運転するための安全性や経済性、効率性の向上対策を模索。具体的には、酸化クロムや酸化アルミを少量塗布した「ADOPT燃料ペレット」、腐食耐性や変形耐性を向上させるという「AXIOM合金製被覆管」やクロムを塗布した被覆管、先進的な燃料集合体設計の「PRIME」などを活用している。このうち、ADOPTペレットとクロムを塗布した被覆管は、DOEのATFプログラムの下で開発した「EnCore」技術の一部であり、これらによって温度許容度や耐久性等が大幅に改善されたと強調している。サザン・ニュークリア社のP.セナ上級副社長は、「我々が最優先とするのは絶対的に安全なプラントで周辺住民や従業員の安全と健康を守ることだが、画期的な燃料技術によって顧客に年中無休で電力を供給する能力や発電所全体の信頼性が高まる」と指摘。規制の基準値を超える濃縮度のLTAを装荷することで、先進的燃料技術の商業利用が一層進展し、今後数10年にわたってクリーンで安全、信頼性の高い無炭素電力を供給する能力が増強されると述べた。(参照資料:WH社、サザン・ニュークリア社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Feb 2022
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米エネ省、使用済燃料輸送車両の試作と試験で提案募集
米エネルギー省(DOE)は1月24日、原子力発電所の使用済燃料、および高レベル放射性廃棄物(HLW)を輸送する8軸(車輪が8対=16輪)の鉄道車両「Fortis」でプロトタイプを製造し試験する業務について、「提案募集(RFP)」(=発注側であるDOEの要件を記した文書)を産業界に向けて発出した。「Fortis」は、放射性廃棄物の専用キャスクのような大型コンテナの積載に適した極めて頑丈な設計。輸送時の状態を計測し、リアルタイムで監視者に伝えるハイテク計測機器を搭載している。予備設計はすでに2021年初頭、DOE傘下のパシフィック・ノースウエスト国立研究所(PNNL)の技術支援により完成しており、プロトタイプの製造・試験許可も同じ頃に米鉄道協会(AAR)から取得済みである。DOEはまた、「Fortis」のほかにHLWを専門に輸送する12軸の車両「Atlas」も開発しており、そのプロトタイプではすでに試験を実施中。DOEはこれら2つの開発を通じて、2027年までに放射性物質を安全かつ効率的に輸送する能力を獲得する方針である。米国では「1982年放射性廃棄物政策法」の規定により、全米の原子力発電所敷地内や中間貯蔵施設に保管されている放射性廃棄物をDOEが処分場まで輸送し、処分することになっている。DOEによると「Fortis」の開発は、使用済燃料とHLWの将来の輸送に備えて盤石な輸送能力を得るという取り組みの一環。使用済燃料を封入したコンテナは重さ80~210トンだが、米国ではトラック輸送の法定重量制限である約40トンを大幅に超えてしまうため、これらの輸送では鉄道を使うことが推奨されている。DOEは今回、3月21日までの期間にRFPで募集する提案の項目として、「Fortis」の製造のほかにハイテク・センサーやモニタリング装置を備えた輪軸の入手、高レベル廃棄物の輸送に特化したAARの厳しい性能基準「S-2043」で要件の1つとなっている車両試験の実施、などを盛り込んだ。「Fortis」の設計書は、RFPの結果に基づきDOEが実施契約を結んだ企業に提示することになるが、開発プロジェクトの製造と試験では引き続き、PNNLの技術支援を受けるとしている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 26 Jan 2022
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原産協会・新井理事長が会見
原産協会の新井史朗理事長は1月21日、理事長会見を行い、記者からの質疑に応じた。年明け初となる今回の会見では、原産協会・今井敬会長の年頭所感および理事長メッセージ「2022年の年頭にあたり」を配布。新井理事長は、「わが国と世界の原子力界 主な動き 2021」(原子力産業新聞取りまとめ)から、2021年の国内外における「原子力活用の気運の高まり」となる出来事を振り返った上で、2022年に原産協会として取り組む「原子力発電に対する理解の獲得」、「福島復興支援」、「人材確保・育成」、「国際協力」について説明した。元旦には主要メディアで、米国テラパワー社と同エネルギー省(DOE)による高速炉開発計画に日本原子力研究開発機構と三菱重工業が参加するとの報道があったほか、1月6日には萩生田光一経済産業相とジェニファー・グランホルムDOE長官との間でエネルギー政策に関するテレビ会談が行われ、革新炉開発に係る協力促進の方向性が確認された。こうした国際協力の動きについて記者から質問があったのに対し、新井理事長は、高速炉開発について、日本が進める核燃料サイクル政策上、「廃棄物の有害度低減や資源の有効利用」の観点から改めてその重要性を述べ、「国内の原子力技術開発・人材育成にもつながるもの」と歓迎。また、2021年12月にカナダ・オンタリオ州電力(OPG)が新たに建設する小型モジュール炉(SMR)としてGE日立・ニュークリアエナジー社製「BWRX-300」が選定されたことについて、「大変意義がある」とする一方、広大な国土であるが故の電力系統連系の困難さ、大型炉の持つスケールメリットにも言及し、SMR開発に関し各国の事情に応じた取組の必要性を述べた。
- 24 Jan 2022
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台湾問題と日本のエネルギー政策
アップデート11月5日、ドイツのフリゲート艦「バイエルン」が東京港へ入港した。ドイツ海軍の艦艇が日本に寄港するのは20年ぶりのことだ。また、今年は英国海軍の空母「クイーン・エリザベス」、フランス海軍の攻撃型原子力潜水艦「エムロード」などが相次いでアジア太平洋地域を訪れ、周辺国を巻き込んだ米国と欧州主要国によるこの海域での洋上訓練も数多く行われた。さらに、第1次政権の際に安倍晋三元首相が提唱した日本、米国、オーストラリア、インドによる“QUAD(クアッド)”の連携が一段と強化され、米国、英国、オーストラリアの3か国首脳は9月15日のオンライン共同会見で“AUKUS(オーカス)”の新たな枠組みを表明している。こうした日米欧にインド、オーストラリアなどを加えた安全保障上の結び付きは、明らかに中国を意識したものだろう。より具体的には、台湾情勢が影響しているのではないか。特に大きな特徴は、地理的には遠く離れた欧州が南シナ海、東シナ海、台湾海峡における中国の動きを強く牽制していることだ。政治的には民主主義国による価値観の共有、経済的には台湾企業の持つ半導体製造技術の中国への流出阻止──一般的にこの2つが主な理由とされている。特に重視されているのは半導体だ。新型コロナ禍からの経済活動再開に当たり、世界の主要産業は半導体不足に直面、今やそれなくして経済が成り立たないことを再確認した。インテル、アップルなどから最先端半導体の製造を請け負っている台湾のTSMCは、世界で唯一10ナノメーター以下の微細加工技術を持つファウンドリに他ならない。このTSMCを中心に台湾メーカーは世界の半導体ファウンドリにおいて7割のシェアを有している(図表1)。AIや通信分野では既に最先端に近い技術を獲得した中国だが、半導体だと3、4世代遅れているのが実情だ。台湾の統一を成し遂げることは、即ち半導体製造技術でも同国がトップランナーになることを意味する。今年4月16日、ワシントンを訪問した菅義偉首相(当時)とジョー・バイデン大統領による日米首脳会談を受けた共同声明には、「両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護しつつ、半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携する」とあった。TSMCは、最先端の半導体工場をアリゾナ州フェニックスに建設中であり、先端半導体工場を熊本県菊池郡菊陽町に建設する計画を発表している。これは、TSMCにとっても、日米にとっても、台湾有事に備えたリスクヘッジの一環だろう。もっとも、米欧主要国が台湾問題に深刻になっているのは、民主主義や半導体だけが理由ではない。より以上に緊迫した問題は安全保障である。それは、日本のエネルギー問題にも大きな影響を及ぼす可能性があるのではないか。 米国、欧州主要国は何を懸念しているのか?ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の推計によれば、昨年、世界のなかで最も国防費の支出が大きかったのは米国の7,782億ドルだ(図表2)。それに次ぐのが中国の2,523億ドルである。日本の防衛費が1990年代後半からほぼ横ばいなのに対し、中国は過去20年間に亘って年率12.9%の高い伸びを維持してきた。その中国が最も重視しているのは海軍力及び空軍力の強化だろう。1927に創設された人民解放軍は、元々、抗日戦及び国民党軍との戦いが最大のミッションだった。また、1950年6月〜1953年7月の朝鮮戦争、1979年2〜3月にベトナムとの間で戦った中越戦争、インドやロシアとの国境を巡る緊張関係に関しても、中国が経験した主要な実戦の主戦場は陸だ。従って、1970年代まで、人民解放軍と言えば陸軍が主だった。しかしながら、15世紀半ばに始まった大航海時代以降、ポルトガル、オランダ、英国、そして現在の米国を含め、制海権を握れる海軍力が覇権国になる上で鍵となる要素に他ならない。さらに、第2次大戦では空軍力、戦後は核戦力、そして今はサイバー空間と宇宙の重要性が急速に高まりつつある。同時に抑止力とされているのが核弾頭を搭載できる大陸間弾道弾だ。中国は、なかでも衛星などから事前に発射準備を捕捉できる陸上発射型ではなく、海中から打ち上げることができる潜水艦発射型大陸間弾道弾(SLBM)の開発に注力している模様である。SLBMは高い技術力を要する一方で、発射の兆候が極めて捕捉し難く、迎撃が困難だからだろう。中国は2016年頃にSLBM「JL-2(巨浪2号)を実戦配備したが、その射程は7,000km程度のようだ。中国近海の東シナ海、南シナ海、フィリピン海から発射して、インドを含むアジア全域を圏内に捉えられるレンジを持つ。しかしながら、この海域から米国東海岸までの距離は1万2,000㎞を超えるため、JL-2では米国全土を射程に捉えることはできない。一方、現在、開発が最終段階にあると見られるJL-3(巨浪3号)は、射程が1万2,000㎞に達す見込みだ。台湾周辺からロンドンまでの距離は1万㎞なので、JL-3は米国のほぼ全土、欧州全域を射程内に収めることになりかねない(図表3)。東シナ海、南シナ海、そしてフィリピン海の海中における中国潜水艦の行動をリアルタイムで把握できるのは、台湾のみと言われている。仮に台湾が中国に統一された場合、安全保障のバランスは大きく変化するだろう。米国、欧州が直接のSLBMによる脅威に晒されることになるからだ。米欧主要国が台湾問題に真剣にならざるを得ないのは、自らが軍事的リスクに直面しているからではないか。もちろん、先制核攻撃は当然ながら報復攻撃を受けることになる。それは、世界が滅亡するシナリオに他ならない。従って、核保有国が非核保有国を攻撃する場合か、テロリストなど国家を持たない組織による攻撃以外、現代の戦争において核の使用は不可能と言えるのではないか。もっとも、このバランスはある大国が核兵器を保有することにより、他の大国に核兵器を使わせないとの戦略で成り立っている。中国のSLBMが米国全土、欧州全域を射程圏内に置くとすれば、それは中国の国際的な発言力に大きな影響を与えることになるだろう。 2024~27年に東アジアの緊張が高まるリスク中国と台湾の間では、戦後、台湾海峡を挟んで今の2政治体制状態になって以降、深刻な軍事衝突になりかねない危機が3回あったと言われている。このうち、第1次は1954〜55年、第2次は1958年であり、いずれも1979年の米中国交正常化以前の事件だった。これに対して、第3次台湾海峡危機は1995〜96年であり、それほど遠い昔ではない。1995年6月、独立派の李登輝総統(当時)が母校であるコーネル大学での講演のため米国を訪問、敏感に反応した中国人民解放軍は台湾周辺で大規模な軍事演習を行った。この圧力に対して、米国のビル・クリントン大統領は空母『ニミッツ』、『インデペンデンス』を中心とする2個の空母打撃群を台湾海峡へ派遣、一触即発の事態に至ったのだ。もっとも、当時、米国と中国の海・空軍力の差は歴然としており、結局、中国が矛を収めるかたちで危機は収束した。この苦い経験は、中国による海・空軍力強化の強い動機になり、1998年にウクライナから空母『ワリヤーグ』(現在は人民解放軍の空母『遼寧』)を購入したと言われている。現在の中国の軍事力だが、今年6月17日、米国連邦議会上院歳出委員会の公聴会に出席したマーク・ミリー統合参謀本部議長は、「近い将来、中国が台湾を掌握するほどの軍事的能力を持つことはない」と語った。これが米軍制服組トップの現状認識だろう。一部のメディアは台湾海峡有事のリスクを強調するものの、日米欧の安全保障担当者の間で中国が軍事的に台湾を制圧するとの見方は少なく、恐れているのは全く別のシナリオなのではないか。現在の蔡英文台湾総統の任期は2024年5月までだ。台湾は選挙により次期総統を選出するが、中国が目指すのは親中派の政治家を後継者に据えることだと考えられる。新たな台湾の政権が統一促進の政策を採れば、当然、独立維持派は強く反発し、反行政院(政府)運動が盛り上がる可能性は強い。一部が暴徒化して行政組織や議会へ乱入、空港を占拠するかもしれない。この時、新総統は中国に治安維持のため協力を要請、大陸から人民武装警察隊が派遣され、暴徒化した民主体制維持勢力を警察力により鎮圧、台湾の統一を内側から一気に進めるのだ。これと似たシナリオを世界はつい先ごろ別の場所で目撃した。言うまでもなく香港である。日米欧の対応が非常に難しいのは、これは法制上は中国の内政問題であるからに他ならない。日本は1972年9月の日中国交正常化、そして米国は1979年1月の米中国交正常化により、中国の主権が中華人民共和国にあり、台湾は中国の一部であると認めた。現在、台湾を国家として承認、国交関係を持つ国は15ヶ国しかなく、そのなかにG7をはじめとした先進国は含まれていない。中国が軍隊を使うミスを犯せば米国は再び台湾海峡に空母打撃群を派遣、欧州も協力して全力でその動きを阻止すると考えられる。しかしながら、警察力による治安維持の場合、反民主的であると抗議し、経済制裁を課すことが精一杯であり、実力を持って阻止するのが極めて難しいことは香港で証明された。つまり、習近平中国国家主席にとり、香港は台湾の統一へ向けた格好のシミュレーションだったと言えるだろう。そして、日米欧は外交的な抗議以外にこれに手出しができず、香港にアジアの拠点を置く先進国の金融機関は1社もこの地域から撤退していない。中国人民解放軍は、2027年8月1日に建軍100周年を迎える。また、中国共産党による1期5年2期までの内規を改正し、3期目に突入すると見られる習近平共産党中央委員会総書記(国家主席)の任期は2027年11月までだ。つまり、中国にとって2027年は非常に重要な年になる。習主席は、薄熙来共産党中央政治局委員兼重慶市党委員長にはじまり、腐敗撲滅運動の下で数々の政敵を失脚させてきた。このなかには、周永康共産党政治局常務委員や令計画人民協商会議副主席など超大物の政治家の他、徐才厚上将(共産党中央軍事委員会副主席兼党中央政治局委員)、郭伯雄上将(党軍事委員会第一副主席兼党中央政治局委員)など、人民解放軍の制服組トップも含まれている。中国共産党には江沢民元国家主席に連なる上海閥、胡錦涛前国家主席、李克強現国務院総理などが属する共青団(共産主義青年団)、そして革命期の元老の子孫である太子党・・・3つの派閥があるとされてきた。共産党八大元老の1人である習仲勲党中央政治局委員を父に持つ習主席は、一般的に太子党と見られている。共産党総書記に就任した当初、習主席は共青団系と組んで上海閥の弱体化を図り、それを成し遂げて以降は共青団を追い落すことで自らの権力基盤を強化してきたと言えるだろう。しかしながら、9千万人の団員を持つとされる共青団は中国の権力基盤に浸透した強固な組織であり、人民解放軍と共にその力は依然として強いと考えられる。粛清には恨みや怒りが付き物であることから、習主席が仕返しを心配せず引退するためには、もう1期を全うして建国以来の悲願である台湾統一を達成する必要があるのかもしれない。つまり、蔡英文台湾総統が退任する2024年から、習近平中国国家主席が第一線を退く2027年まで、東アジアの緊張感が極めて高くなる可能性がある。その中心にあるのが台湾だ。このシナリオが大きく間違っていないとすれば、その影響は東アジア地域だけでなく世界全体に及ぶことが予想される。緊張と分断は経済にとって大きなリスクであり、日本は有事に備える必があるのではないか。 原子力の平和利用が安全保障を担保する中国人民解放軍が海・空軍力を強化しているのは、台湾を軍事力により制圧するためではなく、治安維持のための警察力によって統一した台湾を防衛するためと考えれば納得できる。米国全土、欧州全域を射程圏内に捉えるSLBMの開発も、台湾への主権を認めさせるためのツールなのではないか。日本にとって台湾が経済的に重要な意味を持つのは、半導体だけが理由ではない。日本が輸入している石油、石炭、天然ガスを含む多くの資源が、南シナ海から台湾沖を通って東シナ海へ抜けるルートを通過するからだ。即ち、台湾は日本にとってのシーレーンのど真ん中に位置している。仮に台湾が中国に統一され、日米欧と中国の緊張関係が高まれば、日本はシーレーンが寸断されることにより、資源確保で極めて厳しい状況に陥る可能性があるだろう。エネルギーに関して、再エネの拡大は自給率を上げる上での重要な対応策の1つと言える。もっとも、今年、異常気象に見舞われたスペインで風不足から風力発電が機能しなかったように、再エネの普及には安定的な電源によるバックアップが欠かせない。地球温暖化問題だけでなく、安全保障上の脅威を考えた場合、天然資源に恵まれない日本では原子力の活用が必要だ。岸田文雄首相は経済安全保障を重視、担当大臣を置いた。しかしながら、10月22日に閣議決定された『第6次エネルギー基本計画』は、率直に言って安全保障の概念が抜け落ち、極めて中途半端なものとなった感が否めない。国際情勢と内政・外交をしっかり連動させないと、国民の安全と安心は守れないだろう。
- 06 Dec 2021
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米ホルテック社、SMRの建設目指し現代建設と事業協力契約を締結
米国のホルテック・インターナショナル社は11月22日、子会社のSMR社(SMR, LLC)が開発中の小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」を世界市場で建設していくため、韓国の現代建設(HDEC)と事業協力契約を締結したと発表した。ホルテック社は、同SMRで2025年までに米原子力規制委員会(NRC)から立地建設許可の取得を目指しており、NRCとの関係協議はすでに始まっている。設計認証(DC)審査は未だ申請していないが、初号機の建設候補地としてはニュージャージー(NJ)州のオイスタークリーク原子力発電所の跡地、あるいは南部の2州を検討中。同発電所は2018年9月に閉鎖され、ホルテック社は事業者のエクセロン社から所有権を受け継いでいる。HDEC社は今回の契約に基づき、ホルテック社の主要なEPC(設計・調達・建設)契約企業として「SMR-160」標準設計の完成に協力するほか、同設計を採用した発電所をターンキー契約でグローバルに建設していく。具体的には、発電所BOP(主機以外の周辺機器)の詳細設計を担当し、発電所全体の建設仕様書も作成。SMRの標準設計と建設予定地等で承認が得られた場合は、建設プロジェクトの施工者となり、実際のEPC業務と建設工事を実施することになる。ホルテック社によると、この契約を通じて両社は世界中の顧客の要望に沿って最も競争力のある価格で建設プロジェクトを遂行する。ただし北米市場に関しては、同社が米国の大手建設企業と結んでいた既存の誓約に合わせて、HDEC社の参加持ち分を確保する。ホルテック社は建設プロジェクトのアーキテクト・エンジニアとして、主要機器を米国内の製造施設や国際的なサプライチェーンから調達する一方、計装・制御(I&C)については三菱電機から、燃料は仏フラマトム社からそれぞれ調達する方針だ。ホルテック社の「SMR-160」は、ポンプやモーターなどの駆動装置を必要としない電気出力が最大16万kWの軽水炉型SMRで、受動的安全システムを備えている。同設計はまた、輸送部門で使用する水素や工業利用のための熱を生産することも可能な柔軟な設計であるため、脱炭素化という世界潮流にも適合。ホルテック社は、建設プロジェクトにともなう資金の調達や建設地における部品調達などについても、HDEC社と協力していくとしている。ホルテック社のSMR開発に関しては、米エネルギー省(DOE)が2020年12月に「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象の一つとして選定した。7年間で合計1億4,750万ドルを投資する計画で、このうち1億1,600万ドルをDOEが負担。残りの3,150万ドルがホルテック社側の負担分であり、初期段階の設計・エンジニアリングや許認可手続き関係の作業が行われている。また、カナダ原子力安全委員会(CNSC)は、同設計がカナダの規制要件に適合しているかという点について「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)」を実施中。2020年8月に同設計は、この審査の第1段階を成功裏に終了している。(参照資料:ホルテック社、現代建設(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Nov 2021
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米サザン社、溶融塩高速炉開発に向け実験炉をINLで建設
米国の大手エネルギー供給企業であるサザン社は11月18日、高速スペクトル型・溶融塩高速炉(FS-MSR)の開発に向けた運転データの取得を目的に、「溶融塩実験炉(Molten Chloride Reactor Experiment: MCRE)」を米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)で設計・建設・運転するための協力協定を同省と締結した。同社によると、FS-MSRは、CO2排出量が実質ゼロという未来の実現に貢献する柔軟性の高い先進的原子炉技術であり、MCREは世界でも初のFS-MSRとなる予定。サザン社の研究開発チームにはINLのほかに、最大出力120万kWの「溶融塩高速炉(Molten Chloride Fast Reactor: MCFR)」を開発中のテラパワー社が協力しており、仏オラノ社の米国法人に所属する事業ユニット、電力研究所(EPRI)、化学・電気素材メーカーの3M社なども含まれる。サザン社の主導によりMCREをINL内で建設するという提案は、DOEが2020年12月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象プロジェクトの一つとして選定しており、5年間の研究開発資金として合計1億7,000万ドルを官民が分担調達することで合意した。実際の建設工事に関しては、最終設計作業が完了し工事が始まる前までに、国家環境政策法に基づく環境審査を終えるとしている。サザン社の説明では、この計画はクリーンエネルギーで持続可能な未来を目指すテラパワー社のMCFR開発において、実証炉の設計・建設、運転に向けたロードマップとして技術開発の進展を加速する。テラパワー社のプロジェクトにはサザン社とEPRIのほか、DOE傘下のオークリッジ国立研究所、テネシー州のヴァンダービルト大学が参加しており、DOEは2016年1月、同技術の初期開発を支援する総合インフラの建設費用として、約4,000万ドルをテラパワー社らに交付した。サザン社が主導する今回の小規模のMCRE建設は、テラパワー社のMCFR技術を商業化する推進力として、引き続き貢献していくとサザン社は強調している。サザン社のM.ベリー研究開発担当副社長は、「クリーンで安全、信頼性の高い安価なエネルギーを顧客に提供する包括的戦略の一部として、当社は次世代の原子力技術を開発している」と説明。MCREを通じて、同社は地球温暖化に対応できる革新的な技術の商業化を進め、2050年までに同社が目標とする「CO2排出量の実質ゼロ化」を実現させると述べた。テラパワー社のC.レベスク社長兼CEOも、「サザン社とのこれまでの共同事業が今回、重要な試験段階に到達し、溶融塩炉技術を確認する試験設備が建設されることになった」と表明。「原子炉の許認可と運転に関するサザン社の経験と主導力は絶対不可欠のものであり、MCREの建設を通じて低コストでクリーンなエネルギーに基づく未来が必ず構築されるだろう」としている。(参照資料:サザン社、INL、テラパワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 22 Nov 2021
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米国で原子力への支援を盛り込んだインフラ投資法案が成立
米国のJ.バイデン大統領は11月15日、1兆2,000億ドル規模という「超党派のインフラ投資法案(下院3684号)」に署名した。これを受けてエネルギー省(DOE)は同日、「地球温暖化に立ち向かいつつ、持続可能な経済を構築するための大型投資法が可決成立したことから、米国ではクリーンエネルギーに基づく将来や、かつて無い規模の大気質の改善、無数の高サラリー雇用の創出等に道を拓くための投資が行われる」と表明した。CO2を排出しない原子力に関しても、既存設備の温存と先進的な技術開発のために予算が配分されるため、DOEはバイデン大統領が目標に掲げる「2035年までに電力部門を100%カーボンフリーとし、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化する」の実現に向け、同省が方向性の立案等で一層効果的な役割を果たせると強調している。バイデン大統領は就任前の選挙戦時代から、「より良い復興(Build Back Better)」をスローガンとする経済政策を発表しており、その中で「環境・インフラへの投資」を他の主要な3政策と合わせて表明。その主旨は「近代的で持続可能なインフラと公平なクリーンエネルギーの未来を築くこと」であり、具体的な項目として2035年までに排出量ゼロの電力部門を実現するほかに、エネルギー効率の高い建物の建設や(蓄電池や次世代素材のエネルギー設備等)クリーンエネルギーの技術革新に投資を行うことなどを挙げていた。DOEが11月9日に発表した「超党派インフラ投資法案」のファクトシートによると、同法はバイデン大統領の「より良い復興」計画における重要な要素である。同法がDOEに提供する620億ドルを通じて、DOEはより多くの米国民に一層公平にクリーンエネルギーを提供できるよう、エネルギーの効率化やクリーンエネルギーに対する各家庭やコミュニティ、企業らのアクセスを大幅に拡大。信頼性の高いクリーンな電力を廉価で提供するとともに、クリーンエネルギー技術の実証を通じて未来のエネルギー技術を構築するとしている。クリーンエネルギーの生産が可能な既存設備の温存に関しては、DOEはまず運転開始後数10年が経過した既存の原子力発電所と水力発電設備で、合計27%の電力を米国が得ていると指摘。クリーンエネルギー源として重要であるものの、高経年化にともない維持費がかさんでいるため、米国はこれらの無炭素な主要電源を失うリスクに直面している。「超党派インフラ投資法」ではこれらの電源を確実に維持するための資金が提供されることになっており、DOEによれば、原子力発電所の早期閉鎖を防止する「民生用原子力発電クレジット・プログラム」に60億ドルを配分。この予算を通じて、DOEは全米の原子力発電所で数千名という雇用を維持していくが、プログラムの適用が許されるのは早期閉鎖のリスクにさらされている発電所で、長期的に安全な運転を続けられる状態だと認められていることが条件になる。また、先進的な原子力技術の開発には25億ドルを割り当てる予定。これにより、DOEは1日24時間、年中無休でクリーンな電力を生産するほか、関係雇用も新たに生み出すとしている。なお、今回の法案成立を受けて、小型のペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」を開発中のX-エナジー社は同日、「DOEの『先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)』から引き続き、2025会計年度まで最大11億ドルが当社に提供されることになった」と表明した。DOEは昨年5月に開始したARDPの初回の支援金交付対象として、同年10月にX-エナジー社と、「ナトリウム冷却高速炉」を開発中のテラパワー社を選定した。ARDPは、このような先進的原子炉設計を2020年代末までに運転可能にすることを目指す官民のコスト分担型パートナーシップ。X-エナジー社はARDPを通じて、商業規模の「Xe-100」初号機をワシントン州で建設することを計画している。同社によれば、バイデン政権と議会は2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を米国のみならず世界中で達成するため、先進的原子力技術を無炭素の重要なベースロード電源と認識しており、同技術の実証で今後も世界を牽引していく方針だとしている。(参照資料:DOEの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 Nov 2021
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ボーグル3、4号機 運開スケジュールを再延期
米国のサザン社は10月21日、子会社のジョージア・パワー社がA.W.ボーグル原子力発電所で建設している3、4号機(PWR、各110万kW)について、運転開始スケジュールを前回7月の改定時から3か月先送りし、それぞれ2022年の第3四半期と2023年の第2四半期にすると発表した。理由として、建設工事にともなう課題への取り組みに引き続き時間が必要なことと、両炉の安全性と品質の確保という点で基準を全面的に満たすには、包括的な試験の実施が必要になる点をと指摘。3号機では早ければ2022年の第1四半期にも燃料の装荷が可能だが、これを同年5月とすることで第3四半期の確実な運転開始に向け十分な準備が整うとしている。ボーグル3、4号機の建設プロジェクトは2013年の3月と11月にそれぞれ始まっており、ジョージア・パワー社が45.7%出資参加しているほか、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)の子会社が22.7%、ダルトン市営電力が1.6%出資している。着工当初、営業運転の開始時期はそれぞれ2017年の第4四半期と翌2018年の第4四半期に設定されていた。しかし、同プロジェクトは米国内でのAP1000建設では最初の事例であり、建設のあらゆる段階で様々な課題に遭遇した。また、建設工事を一括で請け負っていたウェスチングハウス(WH)社が2017年3月に倒産を申請。その後はサザン社のもう一つの子会社で、両炉の運転を担当予定のサザン・ニュークリア社が建設プロジェクトの管理業務を引き継いだ。さらに、3号機の建設工事については今年8月、米原子力規制委員会(NRC)が「安全系に関わる電気ケーブルの配管が正しく設置されていない」と指摘している。ジョージア・パワー社のC.ウォマック社長兼CEOはスケジュールの改定について、「着工当初から申し上げているように、当社ではスケジュールに固執して両炉の安全性や品質で妥協するのではなく、最も効果的と思われる方法で作業を進めている」とした。米国で約30年ぶりとなる新規原子炉の建設では、異常な事態が複数持ち上がったが、同社はこのような課題を克服し持ちこたえてきたと指摘。建設サイトでは、建設工事が着実に進展していると強調した。サザン社の発表によると、3号機の建設工事ではこの夏に温態機能試験が完了し、建設進捗率は99%に到達。4号機の作業も含めたプロジェクト全体の進捗率は約95%となった。高い安全性を有するこれらの原子炉を通じて、ジョージア・パワー社はクリーンで信頼性の高い無炭素な電力を60~80年にわたり50万もの世帯や企業に提供する方針。両炉がひとたび運転を開始すれば、原子力を含む同社の多様なエネルギーミックスによって、新たな投資が呼び込まれるとともに経済成長を促進、新規の雇用も創出するなど、価格が手ごろで確実なエネルギー供給インフラを維持できるとしている。(参照資料:サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 25 Oct 2021
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米エネ省、パロベルデ原子力発電所での水素製造実証プロジェクトに2,000万ドル
パロベルデ原子力発電所©Arizona Public Service米エネルギー省(DOE)は10月7日、商業炉のエネルギーを使ってクリーンな水素を製造するというアリゾナ州の技術実証プロジェクトに対し、2,000万ドルの連邦予算を付与すると発表した。同プロジェクトは、水素を適正なコストで製造・輸送・貯留・活用できることを証明するため、DOEのエネルギー効率・再生可能エネルギー局(EERE)、水素・燃料電池技術室(HFTO)が複数の産業部門で進めている「H2@Scaleプログラム」の下で進められる。PNWハイドロジェン(PNW Hydrogen LLC)社が中心となり、アリゾナ州フェニックスにあるパロベルデ原子力発電所(約140万kWのPWR×3基)を使って実施。無炭素な電力の材料としてクリーン水素を役立てるとともに、原子力発電所で電力以外の重要な経済産物を生み出せることを実証するのが目的である。同プロジェクトはまた、DOEが今年6月に立ち上げた「エネルギー・アースショット構想」の最初のプログラムである「水素ショット」の目標達成にも貢献すると期待されている。「アースショット」とは、地球環境問題の解決に向けて意欲的かつ画期的な目標を達成することを意味しており、同構想を通じてDOEは、10年以内に価格の手頃な信頼性の高いクリーンエネルギーを豊富に生み出し、技術的ブレークスルーを加速させる計画。「水素ショットで」は、再生可能エネルギーからクリーン水素を製造するコストを10年以内に80%削減し、1kg当たり現時点の5ドルから1ドルまで引き下げることを目指している。今回のプロジェクトでPNWハイドロジェン社は、DOE傘下のアイダホ国立研究所や国立エネルギー技術研究所、国立再生可能エネルギー研究所などと協力。また、米国電力研究所(EPRI)、アリゾナ州立大学、カリフォルニア大学アーバイン校、Xcelエナジー社、ドイツのシーメンス社、スウェーデンの炭素繊維メーカーのOxEon社とも連携する。同社はDOEのHFTOから1,200万ドルを受け取るほか、原子力局(NE)からは800万ドルを受領。パロベルデ発電所に貯蔵する6トンの水素は、電力需要のピーク時には約20万kWhの発電に使われるが、化学物質やその他の燃料製造にも活用される見通しである。このプロジェクトを通じて、同社は原子力技術とクリーン水素製造技術の統合や、水素の製造規模を将来的に拡大していくための情報を得る考えである。クリーン水素の製造技術開発についてDOEのD.トゥルク副長官は、「今後CO2排出量の実質ゼロ化を達成し、地球温暖化に対抗する道筋の重要な一部分になる」と説明。その上で、「原子力を使った水素製造は、価格が手ごろなクリーン水素を製造して水素ショットの目標を達成し、CO2のない未来に移行するための様々な革新的技術に対し、DOEが約束した財政支援の好例になる」と指摘した。米国ではこのほか、ニューヨーク州のナインマイルポイント原子力発電所(60万kW級のBWRと130万kW級のBWR各1基)で、H2@Scaleプログラムの下で水素製造の可能性実証プロジェクトが進展中である。(参照資料:DOEの発表資料①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Oct 2021
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