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英政府 SZC計画の準備加速に3.41億ポンドを追加
英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は8月29日、EDFエナジー社がサフォーク州で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所建設プロジェクトの準備作業を一層加速するため、昨年秋に政府が同計画用に確保した8億7,000万ポンド(約1,632億円)の中から、3億4,100万ポンド(約628億円)を拠出すると発表した。今年7月に、同じくサイトの準備活動や主要機器の調達、労働力の確保等に1億7,000万ポンド(約313億円)を拠出したのに続く措置。同サイトを「いつでも建設工事に取り掛かれる状態」にすることで、英国の原子力設備を迅速に拡大していき2050年までに総発電量の最大25%を原子力で供給。ロシアのプーチン大統領を世界のエネルギー市場から締め出す一助にするとしている。SZC計画では、サマセット州ですでに建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(欧州加圧水型炉:EPR×2基、各172万kW)と同じく、EPRを2基(各167万kW)建設する。ただし、HPC計画では建設資金の調達方法として差金決済取引(CfD)を適用するのに対し、SZC計画では「規制資産ベース(RAB)モデル」((個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収するスキーム。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))を用いる予定。この方式で民間投資を呼び込み、EDFエナジー社には同計画への最終投資判断(FID)を促す方針だ。同計画ではまた、EDFエナジー社の子会社でプロジェクト企業のNNB GenCo(SZC)社(※今年6月に「サイズウェルC社」に社名変更)が2020年5月、国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトに取得が義務付けられている「開発合意書(DCO)」を計画審査庁(PI)に申請。ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)のK.クワルテング大臣は2022年7月、PIによる審査結果等に基づき、同計画へのDCO発給を決定している。 DESNZによると、今回の追加投資でサイトでは建設工事が始まる前に、従業員1,500名分のサイト内訓練施設の建設や発電プラントの詳細な設計エンジニアリング、地元コミュニティへの直接投資等への支援が行われる。このような方策を通じて、英国は2050年までに原子力関係の政府目標を達成し化石燃料の輸入量を削減、エネルギーの自給に向けてその供給を保証していく。今回の政府発表について、サイズウェルC社のJ.パイク取締役は、「本格的な建設工事の開始に向けて、当社の立ち位置は一層確かなものになった」と指摘。今後数か月以内に、複数の周辺コミュニティと関係業務を始められるとした上で、「地元住民の方々には、建設プロジェクトの恩恵を出来るだけ速やかに提供したいと考えている。主要な工事が始まるはるか以前から、この地域をより良くするための提案を幅広く示していきたい」と述べた。(参照資料:英政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 01 Sep 2023
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英国 ウクライナ発電所の原子燃料確保で1.9億ポンドの融資保証提供
英国政府は8月23日、ウクライナの原子力発電所における原子燃料確保を支援するため、英国輸出信用保証庁(UKEF)を通じて1億9,200万ポンド(約354億円)の融資保証をウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社に提供すると発表した。UKEFとエネルゴアトム社が今回締結した合意文書に基づき、ロンドンを本拠地とするウラン濃縮サービス企業のURENCO社が、ウクライナ国内の原子力発電所向けに引き続き濃縮ウランを供給する。ウクライナが冬季に向けて十分な電力を原子力発電所で確保し、ロシア産燃料への依存から脱却することや、プーチン大統領を国際的な原子力市場から締め出すことが目的である。英国政府はこのほか、ウクライナのエネルギー部門が将来的にクリーン・エネルギーに移行するための協力覚書を同国と締結している。英国政府の今回の発表に先立ち、エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣は22日にウクライナの首都キーウを訪問。ウクライナの副首相やエネルギー大臣など複数の政府高官、エネルゴアトム社のP.コティン総裁を含むエネルギー企業の要人らと、同国の復興に向けた英国の支援について協議。また、ロシアの砲撃を受けて修理中の発電所や幼稚園なども視察した。今回の英国の支援決定は、英国とウクライナの両政府が今年6月、ロンドンで「ウクライナ復興会議」を共催してからわずか2か月後のこと。両政府首脳はその際の共同議長声明で、支援国や機関がウクライナに新たに総額600億ドル(約8兆5,800億円)を拠出することで合意したと表明。英国政府はまた、今年4月に日本政府が札幌で開催したG7気候・エネルギー・環境大臣会合でも、原子力分野におけるロシアへの依存を低減し設備・機器や燃料の供給源を多様化する協力で、参加した英、米、仏、加、日の5か国が合意した事実にも今回触れている。今回の支援が実行されれば、英国がウクライナに提供する民生向け支援金は総額50億ポンド(約9,220億円)に達する見通し。原子力はウクライナの総発電量の半分以上を供給していることから、英国はウクライナが必要とする電力の確保を引き続きサポートし、エネルギー供給保証の強化に協力していく考えだ。DESNZのシャップス大臣は、「プーチンはエネルギーを戦争兵器として利用しているが、その野蛮な侵略に直面するウクライナへの我が国の支援は揺るがない」と強調した。URENCO社のB.シューヒトCEOは、エネルゴアトム社に対する2009年からの濃縮サービス提供など、既存の契約を挙げた上で、「ウクライナ支援で今後も責務を果たす準備は出来ている。このためには、今回のような英国政府との協力が不可欠だ」と指摘している。(参照資料:英国政府、URENCO社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 24 Aug 2023
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加テレストリアル社 WH社製熔融塩炉燃料を調達へ
カナダのテレストリアル・エナジー社は8月3日、同社製の「小型モジュール式・一体型熔融塩炉(IMSR)」で使用する燃料を将来的に調達するため、同燃料の製造・供給契約を米ウェスチングハウス(WH)社の英国子会社と締結した。この子会社「スプリングフィールド燃料会社(SFL)」は、英ランカシャー州のスプリングフィールドにあるWH社の燃料製造工場を運営している。この契約の下で両社は、同工場の様々な既存インフラを活用してIMSR用燃料の試験製造プラントを設計・建設する計画だ。同契約はまた、2030年代に複数のIMSRを稼働できるよう、最終的に商業規模の製造施設建設を想定している。このため、英国政府はこの試験製造プラント建設に「原子燃料基金(NFF)」の中から290万ポンド(約5億2,500万円)の支援を約束。同契約は元々、テレストリアル社とSFL社および英国の国立原子力研究所(NNL)がIMSR用燃料の商業規模の確保に向け、2021年7月に調印した協力契約に基づいていることから、英国政府もこの協力関係を利用して国内エネルギー供給の保証戦略を進めていくとしている。テレストリアル社のIMSRは熱出力40万kW、電気出力は19万kWで、電力のほか熱エネルギーの供給が可能。使用する熔融塩燃料は、これまで数10年以上にわたり民生用の軽水炉に装荷されてきた「標準タイプ」の低濃縮ウラン((U-235の濃縮度が5%以下))を熔融フッ化物塩と混合して製造する。同社の説明によると、先進的原子炉設計の多くがHALEU燃料((U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用するのに対し、IMSRは第4世代設計の中でも唯一、標準濃縮度のウランを使用する。この関係で、同社は2022年11月にこの標準タイプ燃料の梱包方法と国境を越えた輸送について、第三者に依頼して規制面の独自評価を行っている。その結果、これまで既存炉に利用されてきた燃料の梱包方法は、新たな種類の燃料梱包に派生するコンテナの設計や製造、許認可等の面でコストや時間がかからず、IMSRの燃料輸送に適していることが実証された。IMSRを主要な市場に速やかに送り出すという商業的側面でも、有利な燃料選択だったと強調している。同炉は今年4月、カナダの規制要件に対する適合性の事前審査で、同国の原子力安全委員会(CNSC)が提供している「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」の第2段階を完了。CNSCが「カナダで同炉の商業利用を阻むような根本的障害は見受けられなかった」と結論づけたほか、テレストリアル社も、「VDRは熔融塩を燃料として使う先進的原子炉がクリアした最初の規制審査になった」と指摘していた。IMSRについては、カナダのアルバータ州政府が建設に向けた検討を進めており、テレストリアル社と同州の州営非営利企業「インベスト・アルバータ(Invest Alberta)社」は2022年8月、同州をはじめとするカナダ西部地域でのIMSR建設に向けて了解覚書を締結している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 07 Aug 2023
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英政府 SZC計画の加速で1.7億ポンドを投資
SZC原子力発電所の完成予想図 ©DESNZEDFエナジー社が英国で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)建設プロジェクトの準備を加速するため、英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は7月24日、同計画用資金の中から1億7,000万ポンド(約309億円)を新たに歳出すると発表した。この資金は、サイトでの建設準備活動や主要機器の調達、労働力の確保等に充てられる。同計画では建設ピーク時に英国内で1万人規模の雇用が見込まれるほか、関連契約の約70%が英国内のサプライチェーンにもたらされる見通し。DESNZとしては、新しい資金調達方法として「規制資産ベース(RAB)モデル」を採用した同計画に新たな民間投資を呼び込み、EDFエナジー社に対しては同計画への最終投資判断(FID)を促す方針である。DESNZはまた、同発電所のこの2基を追加することで、2050年までに英国の原子力発電を現在の約4倍の2,400万kWに拡大する政府目標の達成に近づき、英国のエネルギー供給保証を強化できると指摘。ロシアのV.プーチン大統領を、世界のエネルギー市場から締め出す原動力にもなるとしている。DESNZの発表によると英国では7月中旬、原子力発電所の迅速な新設を主導する新しい政府機関の「大英原子力(GBN)」が正式に発足した。GBNでは近年浮上してきた原子炉技術のみならず、SZCやヒンクリーポイントC(HPC)のような従来型大規模原子力発電所の建設プロジェクトも支援していく予定であり、国家経済の成長や電気料金の削減にも貢献すると強調している。SZCプロジェクトついては、EDFエナジー社の下で同計画を担当している子会社のNNB GenCo(SZC)社が2020年5月、計画法に基づいて「開発合意書(DCO)」の発給を計画審査庁(PI)に申請した。この当時、エネルギー政策を担っていたビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、PI審査官の報告書等の結論に基づき、2022年7月にDCOの発給を決定している。BEISはまた、同年11月にSZCプロジェクトに対して総額6億7,900万ポンド(約1,236億円)の直接投資を行うと発表した。EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とともに同計画に50%ずつ出資する一方、NNB GenCo社と協力して、SZCプロジェクトへの出資者を新たに募る方針。同計画では2015年の合意に基づき、中国広核集団有限公司(CGN)がEDFエナジー社に20%の出資を約束していたが、BEISは英政府が出資することで所有権の買取や税金なども含めて、CGNの撤退を促すことが可能だと指摘した。同計画のFIDに関してはEDFエナジー社が昨年、「うまくいけば2023年中に下すことが可能」と述べていた。今年2月にBEISからエネルギー政策を引き継いだDESNZのG.シャップス大臣は、SZCプロジェクトについて、「すでに実施中のHPCプロジェクトと、国産原子力発電シェアの25%まで拡大という長期目標を橋渡しする役割を担っている」と指摘。その上で、「新しい原子力発電所で信頼性の高いクリーン・エネルギーを安価で提供するだけでなく、英国がプーチンのような暴君にエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」との決意を表明している。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 03 Aug 2023
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WH社 英政府補助金で燃料工場を拡張へ
米ウェスチングハウス(WH)社は7月27日、英国スプリングフィールドにある同社の原子燃料製造工場の拡張・アップグレード用として、英国政府の「原子燃料基金(NFF)」の中から総額1,050万ポンド(約19億1,200万円)の補助金を獲得したと発表した。2025年3月末までに交付される見通しだ。WH社はこの補助金を次世代原子炉関係の3つの用途に使用する予定で、まず第3世代+(プラス)の同社製PWRであるAP1000、およびその出力縮小版のAP300など、様々な軽水炉に使用する原子燃料を同工場で製造。英原子力産業界が将来にわたって、最新の燃料を供給できるようにする。また、英国での新規炉開発に備え、WH社は同工場でのHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の製造検討に補助金を活用する。同社はさらに、カナダのテレストリアル・エナジー社および英国立原子力研究所(NNL)との協力に基づき、テレストリアル社製の小型モジュール式・一体型熔融塩炉(IMSR)に使用する4フッ化濃縮ウラン(UF4)燃料と熔融塩燃料の試験製造にも補助金を活用する方針だ。NFFは2022年7月、英国内の原子力部門で高度なスキルを要する雇用を維持しつつ新たな原子力インフラへの投資を促進するため、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)が発電用原子燃料の国内製造拡大を目的に、7,500万ポンド(約136億5,700万円)の予算で設置した。これは、2050年までに国内の民生用原子力発電設備を2,400万kWまで拡大(現在は653.4万kW)して、英国のエネルギー供給を保証するには、しっかりとした燃料サプライチェーンを国内で確保・維持することが重要との認識に基づいている。英国政府はすでに2022年12月、NFFの7,500万ポンドのうち最大1,300万ポンド(約23億6,700万円)をWH社のスプリングフィールド・サイトに提供すると決定した。英国内で稼働する既存のガス冷却炉(AGR)用として、回収ウランと新たに採掘されたウランの両方を転換する能力の開発を目的としたもの。これにより、現時点でロシア以外の国では不可能な回収ウランの転換を可能にし、国際社会がロシアの燃料供給から脱却することを目指している。今年1月には、英国政府はNFFに残っている約5,000万ポンド(約91億円)の中から、資金提供するプロジェクトの競争入札を開始した。ここでの目的は、SMRを含む軽水炉用として英国産の燃料サプライチェーンを新たに構築するとともに、2030年代以降に運転開始が見込まれる先進的モジュール炉(AMR)用のHALEU燃料など、新しいタイプの燃料製造プロジェクトを支援すること。BEISのエネルギー政策を今年2月に引き継いだエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は7月18日、国産燃料のサプライチェーン構築を支援する国内8つのプロジェクトに対し、今回総額2,230万ポンド(約40億6,200万円)の補助金をNFFから拠出するすると発表した。WH社の燃料製造工場に交付する1,050万ポンド以外では、カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に950万ポンド(約17億3,000万円)を拠出し、低濃縮ウランおよびHALEU燃料の製造を支援。また、AMRの一つである熔融塩炉の国内開発企業であるモルテックスFLEX社に120万ポンド(約2億1,800万円)以上を交付し、バーナー・リグなど熔融塩の製造に必要な機器の製造と運転を支援するとしている。(参照資料:WH社、英国政府①、②、③の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Jul 2023
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JAEA 英高温ガス炉の燃料製造技術開発に参画へ
日本原子力研究開発機構(JAEA)と英国国立原子力研究所(NNL)が共同で、英国の高温ガス炉実証炉用の燃料製造技術開発に取り組むこととなった。JAEAが7月19日に発表した。〈海外NEWS 既報 もご覧下さい〉多様な熱利用の可能性や優れた安全性を有する高温ガス炉は、ポーランド、中国、韓国、米国など、各国で開発が進められており、かつて英国でも1960~70年代に実験炉「Dragon」(熱出力20MW)が建設・運転されたことがある。英国では脱炭素化に向けた原子力利用の最有力候補として高温ガス炉に着目。2030年代初頭までの実証を目指している。2022年9月に英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、英国高温ガス炉実証炉プログラムの実施事業者として、JAEA 、NNL他、英国企業からなるチームを選定した。〈JAEA発表資料は こちら〉同プログラムは、フェーズA:事前概念検討(2022年9月~23年2月)フェーズB:基本設計、採算性評価(~2025年3月)フェーズC:許認可、建設、詳細エンジニアリング・運転(2030年代初期)――での3段階で行われる。このほど、英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ、2023年2月にBEISの担ってきたエネルギー政策を引き継いだ)は、JAEAとNNLとのチームをフェーズBの事業者として選定し、合わせて、高温ガス炉実証炉用の燃料開発プログラムの開始を発表した。フェーズBとして1,500万ポンド(約27億円)、燃料開発プログラムのステップ1として1,600万ポンド(約29億円)の予算額がそれぞれ投じられる運び。JAEAは、高温工学試験研究炉「HTTR」(熱出力30MW、2021年7月に再稼働)の開発実績を有する。「HTTR」の核となる技術は世界有数の国産技術で、例えば、原子力用構造材として世界最高温度950℃で使用できる金属材料は国内メーカーによるもの。高温ガス炉は国産技術のみで建設可能だ。今後、JAEAは、NNLと連携した燃料製造技術開発を通じ、日本の高温ガス炉技術の国外実証、英国における社会実装を進め、これらの成果を国内の高温ガス炉実証炉計画に活かしていく。
- 20 Jul 2023
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英国 SMRへの官民投資拡大でコンペを開始
©British Government英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣は7月18日、革新的な技術を用いた小型モジュール炉(SMR)の開発を促進するため、支援金の交付対象を選定するコンペを開始した。これにともない、支援金を希望する企業は同日からこのコンペに参加登録することが可能になった。英国で原子力発電所の新設計画を牽引する新しい政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」は、同コンペの担当機関として、今秋にも基準を満たした企業の最初の絞り込みを行い、詳細協議の段階に移行する計画だ。このコンペの実施は、今年3月にDESNZが公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいている。英国でエネルギーを自給していくため、GBNは前例のない規模とスピードで原子力発電の復活・拡大政策を進めており、このコンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針。英国のエネルギー供給保証を強化し、価格が変動しやすい化石燃料の輸入量を削減するほか、原子力の生み出す安価な電力で経済成長や良質の雇用創出を英国全土で実現することを目指している。政府の発表によると、SMRは従来の大型炉と比べて設備が小さいため、工場での製造および迅速で低価格な建設が可能になる。ただし、ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所など、大型原子炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援する方針で、GBNとともにこれらの発電所に続く大型炉の発電所が英国のエネルギー・ミックスの中で果たす潜在的な役割を考慮していく。GBNも、2050年までに国内の総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府目標の達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現するとしている。DESNZのG.シャップス大臣は今回、「原子力やその他のクリーン・エネルギー源の供給量を急拡大して各世帯の電気代を抑え、プーチンのような暴君に英国がエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」と明言。「GBNが最先端のSMR開発でコンペを始めたことは、今後数十年にわたり英国と英国経済をパワーアップしていく原子力ルネッサンスの最初の一歩になった」と指摘している。原子力に1.6億ポンドの助成金交付DESNZはこのほか、政府が同じ日に原子力関係で合計約1億5,700万ポンド(約283億3,400万円)の助成金交付を決定したことを明らかにした。このうち最大7,710万ポンド(約139億1,400万円)が英国内で先進的原子炉の開発事業を進める企業に支払われる予定。次の議会の会期中(2024年~2029年)に出来るだけ多くのSMRや先進的モジュール炉(AMR)を建設するため、これらの原子炉設計が規制手続きに入れるよう支援する。また、最大5,800万ポンド(約105億円)をAMRと次世代型原子燃料のさらなる設計・開発に充てる。AMRはSMRよりも高温で運転されるため、水素製造その他の産業利用に適した高温熱を供給可能。具体的には、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の英国法人が進めている第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「MMR」の開発促進に最大2,250万ポンド(約40億6,000万円)、国立原子力研究所(NNL)が日本原子力研究開発機構(JAEA)の実績に基づいて進める高温ガス炉の設計開発促進に最大1,500万ポンド(約27億円)、および同炉用の国産被覆燃料粒子の開発継続に最大1,600万ポンド(約28億9,000万円)となっている。さらに、2,230万ポンド(約40億2,200万円)が「原子燃料基金」から、ロシアからの輸入に依存しない新しい燃料の製造能力開発プロジェクト8件に提供される。これには、英スプリングフィールドにあるウェスチングハウス(WH)社の燃料製造プラントへの支援金、最大1,050万ポンド(約19億円)や、英カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に対する最大950万ポンド(約17億1,000万円)の支援などが含まれている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 19 Jul 2023
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英国 深地層処分候補4地点の適性評価を開始
英国の放射性廃棄物処分の実施主体である原子力廃棄物サービシス(NWS)は6月29日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の深地層処分施設(GDF)建設プログラムの現状報告書の中で、イングランドの4つの候補サイトでサイトの適性評価を開始すると発表した。幅広い評価作業結果を分析した上で、最終判断を下す方針である。NWSは原子力廃止措置機構(NDA)の傘下機関で、放射性廃棄物の処分事業を担当していた放射性廃棄物管理会社(RWM)や低レベル放射性廃棄物処分会社(LLWR)の知見を統合し、2022年1月に設立された。今回のGDF建設報告書は、今年3月末時点の進展状況をまとめたもので、これによると、これまでにイングランド北西部カンブリア州のコープランド市中央部と同市南部、アラデール市に加え、東部リンカンシャー州のテッドルソープでも、この問題について実施主体のNWSとの対話や地元住民の理解促進活動を行う「コミュニティ・パートナーシップ」が設立されている。このため、NWSは差し当たりこれら4つのパートナーシップとの協議を重ね、放射性廃棄物を安全かつ恒久的管理が可能かを評価。今後新たなパートナーシップがGDFサイトの選定プロセスに加わる可能性も視野に入れて、NWSは主要な許認可の取得等、同プログラムを次の段階に進める準備作業を進めていく考えだ。英国では2008年から2009年にかけて、カンブリア州の2つの自治体がGDF受け入れに関心を表明したものの、州政府の反対を受けて建設サイトの選定プロセスは2013年に白紙に戻った。英国政府は2018年12月に策定した新たな政策に基づき、改めてGDFサイトの選定プロセスを開始している。それは地元コミュニティとのパートナーシップに基づく合意ベースのアプローチで、まずGDFの受け入れに関心をもつ個人や団体、企業がNWSとともに作業グループ(WG)を立ち上げ、NWSとの初期協議を開始、GDF建設の潜在的適性があると思われる「調査エリア」を特定する。この検討段階では地元自治体がWGに参加する必要性はないが、特定された「調査エリア」で適性評価を始めるには、同エリアに関係する地方自治体が少なくとも1つ参加する「コミュニティ・パートナーシップ」の設立が必須となる。同パートナーシップでは、構成員が共同作業をする際の原則やそれぞれの役割、責任事項などを定めた協定を締結。英国政府はパートナーシップを構成するコミュニティに対して、経済振興や福祉の向上を目的としたプロジェクトに限り年間最大100万ポンド(約1億8,000万円)を提供するほか、サイト選定プロセスが深地層のボーリング調査段階まで進んだコミュニティには、年間最大250万ポンド(約4億6,000万円)を交付する奨励策を打ち出している。このアプローチではまた、担当の国務大臣がGDF建設に合意する判断を下す前に、地元自治体はGDF受け入れの意思があることを証明するため、住民投票その他の方法でテストを実施。その実施時期を決める権利やサイト選定プロセスから撤退する権利は、各「コミュニティ・パートナーシップ」を構成する主要自治体の保有となるが、複数の自治体が参加している場合はすべての自治体の合意が必要になる。NWSは今回の報告書で、4つの「コミュニティ・パートナーシップ」が形成されたことから、これらのコミュニティと一層深く関わり合い、情報共有するための基盤が築かれたと表明。また、「コミュニティ投資ファンド」の中から、これらのコミュニティの若者向け制度や精神保健イニシアチブなど、約80のプロジェクトに300万ポンド(約5億5,000万円)が支給されており、サイト選定プロセスの参加コミュニティには明らかなメリットがあるとした。さらにサイトの適性評価を、すでに行われているその他の調査と同時に進める方針で、コープランド市の沖合で昨年8月に行われた海洋の地球物理学的調査の結果は、今年後半にも共有が開始されるとしている。NWSの印象では、GDF建設プログラムは4つの「コミュニティ・パートナーシップ」とGDF建設の可能性に関する対話や質疑応答、情報共有が行われるなど、目覚ましい進展を見せている。目標達成まで長期を要するプログラムだが、将来世代に対する責任を明確に負っているため、初期的な作業は順調に進んでいる。英国政府は、グリーンなエネルギーミックスの構築や確実なエネルギー供給保障で、原子力が重要な役割を担うと認識しており、過去数十年にわたった放射性廃棄物の管理を今後も継続する。それには、放射性廃棄物を安全に管理する能力がこれからも重要になると指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 30 Jun 2023
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米英が民生用原子力協力を強化 大西洋宣言
米国のJ.バイデン大統領と英国のR.スナク首相は6月8日、米ワシントンD.C.での会談後、経済分野における両国間の協力強化の枠組「大西洋宣言」を発表。その中で両国は、クリーン・エネルギー経済の構築に向けてクリーン・エネルギー技術産業を支援し、世界の民生用原子力市場からロシアを締め出すため、民生用原子力分野で高次の政府間連携協力を開始することを明らかにした。「クリーン・エネルギー経済の構築」は、両国間の協力を強化する具体的かつ調和のとれた5つのアクション項目の一つで、両国はともにパリ協定の目標達成を目指して、重要技術のサプライチェーンに内在する脆弱性を克服すべく、産業基盤への投資を行うと表明。クリーン・エネルギー経済の構築は良質の雇用を生み出す最も重要な機会となることから、大胆な投資と戦略的な資金提供を実施するとしており、それぞれの国家戦略の遂行に際してクリーン・エネルギーへの移行を確実なものとし、これらのエネルギーを一層安価にするため、適宜協調アプローチを取るとした。また、パリ協定の下で双方が2030年までの意欲的な目標を達成し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するため、2020年代中に地球温暖化への対処で決定的なアクションを取ることで合意している。具体策の一つとして両国は、クリーン・エネルギーのサプライチェーンについて、1年の期限付きで合同の行動計画を実施すると「大西洋宣言」に明記。同エネルギーの供給と適正価格の保証に向けて、両国合同の実施グループ(JAG)を設置する。将来のクリーン・エネルギー需要に十分応えられるだけの設備建設を両国および第三国で加速するため、JAGで両国が同時並行的に協力していくための短期的アクションを年末までに決定する方針。洋上風力や電気自動車用バッテリーなど主要なクリーン・エネルギーについては、サプライチェーン全体を官民で協議するほか、ストレス・テストも実施して盤石なサプライチェーン構築を目指すとしている。原子力に関しては、双方が互いに補い合う能力を有していることから、両国政府の高官による監督の下で、経済面や安全保障面の連携協力に基づく「民生用原子力パートナーシップ」プログラムを開始する。2030年までに、北米大陸や欧州で米英が原子燃料サイクル全般を手掛け、新たな関係インフラを確立できるよう、JAGはここでも合同アクションの短期的優先項目を設定。ロシアが供給している燃料やサービスへの依存を、実質的に最小限にとどめる。また、行動計画の実施を通じて両国は厳しい核不拡散要件を順守しつつ、地球の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5°C増までに抑えるため、小型モジュール炉(SMR)も含めた先進的原子炉を世界中で確実かつ持続的に建設していけるよう、関係活動を支援・牽引していく。このような優先項目を実施することで、両国は「原子力協力合同常設委員会(JSCNEC)」の設置を目指す。年末までに同委を発足させて、JAGが特定する両国共通の短期的優先項目など、政策面の目標達成を目指す協議の場とする考えだ。(参照資料:米国政府、英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Jun 2023
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英国と韓国が共同宣言:エネルギー移行で協力強化
英国と韓国の両政府は4月10日、共同宣言を発表した。同宣言の中で両国は、原子力や再生可能エネルギーなどクリーン・エネルギーの開発加速やエネルギー供給の確保に向け、これまで以上に緊密に協力していく姿勢を示した。韓国側はこれにより、英国の新規原子力発電所建設プロジェクトに韓国企業が参加できる可能性が高まったと指摘。洋上風力発電や水素製造等、その他のクリーン・エネルギー分野でも協力していくとしている。今回の共同宣言は、英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣が、札幌で開催される「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」に向かう途中、訪韓したことにともなうもの。同相はソウルで韓国・産業通商資源部(MOTIE)のイ・チャンヤン長官と、クリーン・エネルギー関係の様々な協力について協議した。シャップス大臣は、「石炭や天然ガスに依存した発電がもはや経済的に成立しないという転換点に我々は近づいている」と指摘。その上で、韓国に対し英国への投資を呼びかけた。イ長官は、「韓国では電力の安定供給を確保しながらCO2の排出量を実質ゼロ化するため、エネルギーの移行に向けた政策を幅広く推進中だ」と表明。達成可能なレベルまで再エネの拡大を適切に進めつつ、CO2を排出しない原子力の利用を継続していくと述べた。共同宣言に盛り込まれた主な協力項目は以下の通り。原子力発電所の建設計画を加速する。堅固で回復力の強い原子力サプライチェーンの構築計画を進め、小型モジュール炉(SMR)など最新の先進的原子力技術の開発経験を共有する。CO2の排出量が多い未対策の石炭火力発電所からの脱却と、再生可能エネルギーの拡大を積極的に進める。英政府は先月末、クリーン・エネルギーによる長期的なエネルギーの供給保証と自給の強化に向けた新たな投資対策「Powering Up Britain」を公表。その中で、昨年4月の「エネルギー供給保証戦略」に盛り込んだ「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」の設置計画を具体化していた。GBNは明確な費用対効果が見込まれることを確認しながら、原子力発電所開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供する機関。DESNZによると、今回の韓国との協力強化は「Powering Up Britain」を補完する役割を担っており、GBNがグリーン技術の開発にもたらす数十億ポンドの投資金を通じて、国際的なエネルギー取引で利益を上げ、英国経済の活性化や雇用の創出、エネルギーの供給保証と自給につなげていく考えだ。一方のMOTIEは、韓国側の強みとして原子力発電所の設計や建設、主要機器の製造に秀でていると表明。英国側の強みが原子力施設の廃止措置や原子燃料の製造にあることから、両国間の協力強化を通じて双方がともに利益を得られると強調している。参照資料:DESNZ、MOTIEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 12 Apr 2023
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英政府 エネルギー投資新政策を公表:供給保証と自給が目標
英政府は3月30日、クリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新たな投資政策「Powering Up Britain」を公表した。原子力と再生可能エネルギーへの莫大な投資を通じて、エネルギー源の多様化と脱炭素化、および国産化を進めていく方針だ。この政策は、これまでビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が担ってきたエネルギー政策を引き継ぎ、今年2月に新たに発足したエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)が取りまとめた。DESNZのG.シャップス大臣によると、①クリーンで廉価な国産電力の発電量を拡大し、国内にグリーン・エネルギー産業を根付かせる。②エネルギーの供給保証と自給を強化するだけでなく、各家庭が支払う電気代を長期的に削減、③英国が世界に先駆けてCO2排出量の実質ゼロ化をリードすることが狙い。この政策の背景として、DESNZはロシアの違法なウクライナ侵攻にともない世界のエネルギー市場が壊滅的な影響を受けたと説明。エネルギー卸売価格や電気代の高騰を受けて、英政府はこの冬季のエネルギー料金を約半分肩代わりする措置を取っている。英国のエネルギー・システムは過去数十年にわたり、高価な輸入化石燃料に依存してきたが、今後はクリーンで一層安価なエネルギー源に大幅にシフト。今回の政策によって、国内では2030年までにクリーン・エネルギー関係の雇用約50万人分を創出するほか、英国がクリーン・エネルギー産業戦略で優位に立つことで世界中にその専門的知見を輸出する考えだ。この政策を実行に移す12の具体的手段として、DESNZはCO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)プロジェクトの実施を挙げたほか、「ネットゼロ水素製造基金」の2.4億ポンド(約395億円)を通じてCO2を排出しない水素製造の新規プロジェクトを支援する。また、電気自動車(EV)の充電器設置地点や関係インフラの拡充に3.8億ポンド(約625億円)を投資。建物等の暖房用としては化石燃料への依存を減らし、ヒート・ポンプの利用を拡大するため関係基金から3,000万ポンド(約49億円)を拠出するとした。マンチェスターでの「大英原子力」設置が具体化原子力については、英政府が将来のエネルギー・システムにおける重要なベースロード電源と位置付けていることから、大規模な開発プログラムを策定して世界的な競争力を確保する方針である。英政府はすでに昨年11月、サフォーク州で計画されているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトに、6億7,900万ポンド(約1,119億円)の直接投資を行うと発表。これに続く新たな原子力発電所の建設計画にも、英政府は産業界や投資家の迅速な取り組みを強力に支援する。具体的には、昨年4月の「エネルギー供給保証戦略」で約束していた新たな政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」を、イングランド北西部のマンチェスターに設置する。2050年までに最大2,400万kWの設備容量を原子力で確保、現行の原子力発電シェア15%をそれまでに25%に引き上げられるよう新設計画を牽引していく。GBNとしての最初の優先事業は英国にとって最適の小型モジュール炉(SMR)を選定することで、第一段階として4月から関係市場でコンペを開始し、夏からの第二段階で候補リストの絞り込み評価を実施、秋には炉型を最終決定する計画だ。英政府はその後、選定したSMR技術の開発に共同出資する方針で、事業者が資金調達や建設サイトの選定を適切に進めるための協力を提供。次の議会期間中に、2件のSMR建設計画で最終投資決定(FID)が下されるよう促していく。また、BEISが昨年5月に立ち上げた1億2,000万ポンド(約198億円)の補助金交付制度「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」を通じて、新規の原子力発電所建設を阻む課題の解決等に資金提供するとしている。GBNの暫定会長としては、昨年5月から首相やエネルギー相の原子力産業アドバイザーを務めていたS.ボウエン氏を起用。暫定CEOには、原子力施設の廃止措置専門企業マグノックス社のG.パリージョーンズCEOを充てることになった。(参照資料:英政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 31 Mar 2023
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英政府 原子力を同国のグリーン・タクソノミーに分類へ
英国財務省のJ.ハント大臣は3月15日、議会下院で新年度の予算案を公表。その中で、原子力を環境上の持続可能性を備えたグリーン事業とみなし、英国グリーン・タクソノミーの投資対象に含める方針を明らかにした。同相はまた、小型モジュール炉(SMR)関係で政府が最初のコンペの実施を計画しており、このコンペを通じて年末までに国内外のベンダーの優れたSMR炉型をいくつか選定。建設の実行可能性が実証されたものは、政府が共同出資するとしている。同相はまず、国内で原子力を強力に支持している自治体として、かつてガス冷却炉が稼働していたウェールズのアングルシー島や現在も稼働中のイングランド北東部ハートルプール、地層処分場の受け入れを検討中のイングランド北西部カンブリア州のコープランド、国立原子力研究所の分室が存在しSMRの誘致にも関心表明している同州ワーキントンを列挙。これらの自治体が、「CO2排出量の実質ゼロ化という目標を英国が達成するには、原子力設備の拡大が極めて重要」と述べている点を指摘した。その上で同相は、国内原子力プログラムへの民間投資を促すだけでなく、公開協議という手続きにより原子力を英国のグリーン・タクソノミーに含めていくことを確認したと表明。再生可能エネルギーと同様に、原子力も投資対象となるよう促すとした。この関係で、同相はビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が昨年11月、サフォーク州のサイズウェルC原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)建設プロジェクトに、政府として初めて6億7,900万ポンド(約1,089億円)の直接投資を行うと発表した事実に触れた。同相はまた、政府がこれまでの約束を踏まえ、2022年4月の「エネルギー供給保証戦略」で明示していた「大英原子力(Great British Nuclear)」を立ち上げると述べた。同組織は、明確な費用対効果を確認しながら、原子力発電施設の開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供。これにより開発コストを削減し、原子力サプライチェーン全体にビジネス・チャンスをもたらすもので、2050年までに英国の総発電量の四分の一までを原子力で賄えるようにする考えだ。英国では、SMR関係でBEISがすでに2021年11月、ロールス・ロイスSMR社製のSMR(PWR、47万kW)に対し、民間部門の投資に対するマッチング・ファンドとして2億1,000万ポンド(約337億円)の提供を約束。2022年3月には、同SMRの包括的設計審査(GDA)の実施を原子力規制庁(ONR)に要請しており、同年4月から審査が始まった。その後ロールス・ロイスSMR社は、同年11月にSMRの建設候補地としてイングランドとウェールズの旧原子力発電サイトなど、4地点を選定している。政府の今回の予算案に対しては、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長が同日、歓迎のコメントを発表。英国のグリーン・タクソノミーに原子力を加えることで、英国のエネルギー供給保証は一層強化され、CO2の排出量も実質ゼロ化に向けて大きく前進するとした。新たな原子力開発プロジェクトに極めて重要な投資が行われることで、原子炉開発プロジェクトへの資金調達は一層容易になり、建設コストも抑えられると指摘した。同理事長はまた、「大英原子力」が始動して新たな原子力発電所開発プロジェクトのサイト選定が進めば、発電所建設の効率性が飛躍的に増すとともにサプライチェーンの受注ルートも明確になると表明。SMRコンペにより、英国原子力産業界は世界レベルの競争に返り咲くことになり、国産その他の技術を通じてビジネス・チャンスや新たな雇用、投資の機会を確保、世界的な巨大市場に輸出するチャンスも得られると強調している。(参照資料:英政府、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Mar 2023
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米ホルテック社 SMRの機器製造で英企業と提携
米ホルテック・インターナショナル社の英国法人は2月9日、同社製小型モジュール炉(SMR)「SMR-160」の機器製造協力で、英国の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ社と了解覚書を締結した。シェフィールド・フォージマスターズ社は、世界中の民生用原子力プロジェクトに鍛造品を供給している。今回と同様の覚書をすでに、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英ロールス・ロイスSMR社と締結済み。米ニュースケール・パワー社とは2016年、同社製SMRのベッセル・ヘッドを共同で実証鍛造する計画を発表している。ホルテック社との協力では、SMR機器が実際の製造工程に適合するよう設計に改良を加える作業を実施するほか、特定の機器の鍛造品について、機械加工や組み立て、溶接、供用期間中検査時の要件や仕様を詳細に記した「購買仕様書」を作成する。同社はこれまでの実績を足掛かりに、ホルテック社が2050年までに英国で計画している32基、合計512万kWの「SMR-160」建設に向けて、機器の最適な製造工程を特定し英国のSMR機器サプライチェーンの頂点に立つ方針だ。 ホルテック社の「SMR-160」は電気出力16万kWのPWR型SMRで、事故時に外部からの電源や冷却材の供給なしで炉心冷却が可能な受動的安全系を備えている。開発チームには三菱電機の米国子会社が計装制御(I&C)系の開発で参加しているほか、カナダのSNC-ラバリン社や米国最大の原子力発電事業者であるエクセロン・ジェネレーション社が協力、燃料はフランスのフラマトム社が供給する予定である。同SMRは2020年12月、米エネルギー省(DOE)の「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定され、2030年~2034年頃の実用化を目指すSMRに分類されている。ホルテック社は2022年7月、米国内で同SMRを4基建設する計画に政府の融資保証プログラムの適用を求めてDOEに申請書を提出。建設予定地としては、同社が保有する閉鎖済みの旧オイスタークリーク原子力発電所や、原子力発電事業者であるエンタジー社のサービス区域内などが検討されている。国外では、チェコやウクライナが建設に向けた評価作業や準備作業を実施中である。英国については、ホルテック社が昨年12月、「包括的設計審査(GDA)」の申請書を2023年初頭にも英国政府に提出すると発表。早ければ2028年にも、初号機の建設工事を開始する考えを表明している。今回、ホルテック社で国際プロジェクトを担当するR.スプリングマン上級副社長は、「盤石な安全性を備えた当社のSMRを英国で多数建設し、900万世帯にクリーンな電力を24時間休まず供給する」と表明。シェフィールド・フォージマスターズ社のD.アシュモア戦略・事業開発部長は、「核融合炉の実現可能性や大型炉の建設とともに、SMRは英国の将来的な民生用原子力プログラムを構成している。今回の覚書を通じて当社が同プログラムで引き受けている作業の多くが補われる」と指摘した。(参照資料:シェフィールド・フォージマスターズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 14 Feb 2023
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デンマーク企業が小型熔融塩炉で英国の設計審査を申請
英国原子力産業協会(NIA)の1月5日付発表によると、デンマークの原子力技術開発企業であるコペンハーゲン・アトミクス社が、第4世代の小型トリウム熔融塩炉(MSR)を英国の包括的設計審査(GDA)にかけるため、申請書を英国政府に提出した。審査に先立ち現在、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が、設計者に同審査を受ける能力が備わっているか確認中と見られているが、同社の英国法人であるUKアトミクス社はすでに、フルサイズの原型炉を建設済み。今年から様々な試験を実施して、この炉が英国の安全・セキュリティ面の厳しい基準をクリアしていることを示す「設計承認確認書(DAC)」を原子力規制庁(ONR)から取得する予定。環境保護と放射性廃棄物の管理面については「設計承認声明書(SoDAC)」を環境庁(EA)から取得し、2028年にも最初の商業炉を英国内で完成させる予定である。MSRは燃料として熔融塩とトリウムなどの混合液体を使用する設計で、北米では1950年代に米オークリッジ国立研究所を中心に開発が始まった。CO2を出さずにクリーンな電力を発電できるほか、既存の軽水炉から出る長寿命放射性廃棄物を大量に燃焼出来る等の利点があり、「第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)」は2002年に溶融塩炉を国際共同研究開発が可能な6種のコンセプトの1つに選定している。UKアトミクス社のMSRは、減速材として重水を使用するコンテナ・サイズのモジュール炉(SMR)で、熱出力は10万kW。560°Cの熱を顧客に供給する。また、燃料としてトリウムや既存炉の使用済燃料を使用するなど、ウラン燃料ベースの既存炉を根本的に改善した革新的な原子炉技術であると同社は強調。最終的に排出される廃棄物は大幅に削減され、廃棄物の貯蔵期間も10万年から300年ほどに短縮できるとした。同社はすでに8年前から、英国の複数の大学と同炉の主要技術や機器類の開発・試験と実証を進めている。今後は、自動車や飛行機の製造と同様に同炉を工場で大量に製造し、先進的原子炉開発分野を牽引したい考えだ。UKアトミクス社としては、将来的に数千基規模のMSRを製造・所有・運転することを計画しており、関連設備や技術など付随するサービスも含めた総合的なエネルギー・ソリューションの提供というビジネス・モデルを検討中。同モデルでは開発リスクが軽減される一方、コスト面の効果が高い。また、顧客は設備投資などの資本支出を必要としない上、同炉の運転にともなう支出も非常に小さく済むことから、同社はMSRで競争力の非常に高い電力を安価で提供し、クリーンエネルギーへの移行を世界レベルで加速することができるとしている。BEISは2021年5月、GDAの審査対象としてSMRその他の先進的原子炉技術を含めると表明した。これを受けて、ロールス・ロイスSMR社は同年11月、同社製SMRのGDA申請書をBEISに提出。米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社も2022年12月に同社製SMRをGDAにかけるため、申請書を提出している(参照資料:NIA、BEIS、UKアトミクス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Jan 2023
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GEH社 英国で「BWRX-300」の設計審査を申請
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は12月20日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」(出力30万kW)を英国の包括的設計審査(GDA)にかけるため、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に申請書を提出したと発表した。規制当局の実際の審査に先立ち、BEISは同審査を受ける能力が設計者に備わっているか確認するため、最大4か月をかけて初期スクリーニングを実施すると見られている。GDAは英国内で初めて建設される原子炉設計の事前認証審査で、審査項目は土木建築から原子炉化学まで17の技術分野にわたる。安全性とセキュリティ面については原子力規制庁(ONR)が、環境影響面については環境庁(EA)が担当し、対象設計が英国の基準を満たしているか評価。最終承認までの所要期間は約5年で、これまでにフラマトム社製の「欧州加圧水型炉(EPR)」、ウェスチングハウス社製「AP1000」、日立GE社製の英国版「ABWR」、中国広核集団有限公司(CGN)を中心とする中国企業の英国版「華龍一号(HPR1000)」が承認を受けている。BEISはまた、2021年5月にGDAの審査対象として、SMRその他の先進的原子炉技術を含めると表明した。これを受けて、ロールス・ロイスSMR社は同年11月、同社製SMRのGDA申請書をBEISに提出。ONRとEAは今年3月にBEISから要請を受け、同設計のGDAを開始している。英国では、2050年までに国内の発電システムから温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロ化することを目指しており、原子力発電についてはエネルギー供給保証の観点からも、この年までに2,400万kWを配備する目標が掲げられている。GEH社は、英国がこれらの目標を達成する上で「BWRX-300」は理想的な炉型だと明言。英国内で複数の「BWRX-300」を建設すれば、目標達成に向け大きく前進するとの認識から、同社はグローバルな環境事業を展開する米ジェイコブス社から許認可手続き関係の支援を受けながら、GDAの申請準備を進めてきた。「BWRX-300」の建設に関しては、カナダと米国でも予備的設計審査が進展中で、カナダ・オンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社(OPG)は今年10月末、同州南部のダーリントン原子力発電所で早ければ2028年にも同炉を完成させるため、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に建設許可を申請した。同じくカナダのサスカチュワン州のサスクパワー社も今年6月、初号機建設にともなう規制面や建設・運転面のリスクを軽減するため、州内で2030年代半ばまでに建設するSMRとしてOPG社と同じ「BWRX-300」を選択している。また、ポーランド最大の化学素材メーカー、シントス社の傘下企業と最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社は、折半出資の合弁事業体「オーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社」を通じて「BWRX-300」の建設に向けた活動を展開中。同社は今年7月、「BWRX-300」について、予備的な許認可手続きの一つである「包括的(評価)見解」の提示を同国の国家原子力機関(PAA)に申請している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 21 Dec 2022
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英政府 SZC建設計画に50%出資を決定
ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のG.シャップス大臣は11月29日、EDFエナジー社がイングランド南東部のサフォーク州で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉:EPR×2基)の建設プロジェクトに、6億7,900万ポンド(約1,124億円)の直接投資を行うと発表した。1987年にサイズウェルB原子力発電所建設計画への投資を承認して以来、約30年ぶりのことであり、英国政府はこれにより、EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とともにSZC建設プロジェクトを50%ずつ保有することになる。英国政府は今後、プロジェクト企業である同社傘下のNNB Generation(SZC)社と協力して、SZC発電所の建設・運転プロジェクトに出資する第三者を募る方針。同計画では2015年10月の合意に基づき、中国広核集団有限公司(CGN)がEDFエナジー社に20%の出資を約束していたが、英国政府が出資することで、所有権の買取や税金なども含めてCGNの撤退を促すことができるとした。また、一部の報道によると、CGNはSZC計画からすでに撤退したと伝えられている。BEISの発表によると、同省のシャップス大臣は今週、「規制資産ベース(RAB)モデル」を通じて資金調達を行う最初の原子力発電所建設計画としてSZC計画を指定した。RABモデルでは資金調達コストなどが軽減されるため、現在建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWのEPR×2基)計画に適用された差金決済取引(CfD)と比較して、大型原子力発電所一件あたりの運転寿命期間中に顧客(消費者)が負担する電気料金が、累計で300億ポンド(約5兆円)削減できるとしている。SZC計画ではNNB Generation社が2020年5月、国家的重要度の高いインフラ設備の建設・操業プロジェクトで取得が義務付けられている「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出。BEISのK.クワルテング大臣(当時)は今年7月、PIによる審査結果等に基づき、同計画へのDCO発給を決定した。BEISのシャップス大臣は今回、SZC計画に出資することで国内の約600万世帯に50年以上にわたってクリーンで信頼性の高い電力が供給され、地元サフォーク州や英国全体で最大1万人規模の雇用が新たに創出されると指摘。このほかにも、英国がエネルギー自給を確立するための方策を複数提示しており、安価でクリーンな国産エネルギーの長期的確保に向けて、エネルギー法案を議会に提出する予定だと表明した。エネルギー関係の主要立法としては2013年以来のことになるが、これにより国内のエネルギー産業を改革してその成長を促進、エネルギー関係の民間投資も喚起する。具体的には、水素産業やCO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)など、国産の低炭素エネルギー技術の開発に集中的に取り組み、電気料金の削減やクリーンエネルギー関係の雇用創出につなげたいとしている。シャップス大臣はまた、英国の長期的なエネルギー供給保証で、SZC発電所以降も新たな原子力発電所を継続的に建設していくため、今年4月の「エネルギー供給保証戦略」で設立を約束していた政府の新機関「大英原子力(Great British Nuclear)」を来年初頭にも立ち上げると表明した。同機関では明確な費用対効果が見込まれることを確認しつつ、開発プロセスの各段階で事業者に支援を提供。これにより、世界中のエネルギー市場における化石燃料価格の高騰から将来世代の国民を守り、クリーンで安全な電力を今後数十年にわたって供給すると強調している。同大臣によると、天然ガス価格が記録的な高値になったのはロシアのV.プーチン大統領がウクライナで始めた不法な軍事侵攻が原因であり、英国政府は国民のために国産の安価なクリーンエネルギーを確保しなければならない。このことから、「本日の歴史的な政府決定は、英国におけるエネルギー自給の強化と世界市場における不安定なエネルギー価格というリスクの回避という点で非常に重要だ」と指摘した。EDFエナジー社のS.ロッシCEOは今回の決定について、「英国政府が当社のパートナーとしてプロジェクトの準備を進めることになり、SZC計画の継続に大きな自信が付いた」と表明。HPC計画と同じ設計を採用したSZC計画はHPC計画の実績に基づいて実施されるため、一層確実なスケジュール管理やコスト見積もりが可能だと強調している。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 30 Nov 2022
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英政府 劣化ウランを活用した水素貯蔵法の実証に支援金
英国政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は11月28日、「長期エネルギー貯蔵技術(LODES)」の実証コンペの第2段階として、EDF UK(フランス電力の英国子会社)の企業連合が開発している「劣化ウランで水素を貯蔵する(HyDUS)技術」の実証プロジェクトに773万ポンド(約12億9,000万円)の支援金を交付すると発表した。この資金は、BEISが地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation Portfolio)」が原資となる。BEISは今回、EDF UKの企業連合によるプロジェクトも含めて、合計5件の新たなエネルギー貯蔵技術のプロジェクトに合計3,290万ポンド(約54億7,000万円)を提供して、間欠性のある再生可能エネルギーの設備拡大を図り、安価なクリーンエネルギーを確保。再エネの持つ潜在的な能力がフル活用することで、英国のエネルギー供給保証も一層強化されると指摘している。EDF UKの企業連合には核融合技術の開発を牽引する英国原子力公社(UKAEA)のほか、ブリストル大学と欧州のウラン濃縮企業であるウレンコ社が参加。オックスフォード近郊にあるUKAEAのカラム科学センター内で、劣化ウランを使った水素貯蔵の実証モジュールを24か月以内に開発する計画である。EDFエナジー社は、いずれはこの技術を原子力発電所に設置して原子力の収益性を高めるとともに、輸送業や製鋼業などに広く役立てたいとしている。HyDUSではまず、余剰の無炭素電力による電気分解で水素を製造し、水素を吸蔵する劣化ウランの特性を利用してこれを貯蔵、水素が必要となった折りにそのまま使用するほか、電力需要のピーク時には再び電力に転換して使用する。貯蔵時の水素は金属水素化物の形で劣化ウランと化学的に結合しているため、安定している一方で逆の転換も可能である。HyDUS技術を考案した技術者の一人であるT.スコット教授は「UKAEAでは過去数十年にわたって水素同位体の貯蔵技術を小規模で活用しており、HyDUSはこのように確認済みの核融合燃料技術をエネルギーの貯蔵用に転換する世界でも最初の例になる」と述べた。ウレンコ社の担当者は、「当社が貯蔵している劣化ウランの商業利用により、水素経済の構築に向けた持続可能で低炭素なエネルギー貯蔵が可能になるのは誇らしいことだ」と表明している。実証コンペは、2021年3月にBEISが産業界に「関心表明」を呼びかけており、2つのコンペ・グループが長期のエネルギー貯蔵を可能にするために実施する実証プロジェクトに対し、総額約6,800万ポンド(約113億円)を提供する。1つ目のグループ(Stream 1)は、技術成熟度レベルが全9段階のうち6/7段階(技術成立性が確認できる)にあり、予算総額は約3,700万ポンド(約61億5,000万円)である。もう片方のグループ(Stream 2)は技術成熟度が4/5段階(ラボ・レベルあるいは実空間での実証レベル)で、EDF UKのプロジェクトもこれに含まれる。「Stream 2」では、第1段階のプロジェクト19件に約270万ポンド(約4億4,900万円)が提供されており、EDF UKの企業連合はそのうち約15万ポンド(約2,500万円)を受け取っている。(参照資料:英国政府①、②、EDFエナジー社、ウレンコ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 29 Nov 2022
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英政府 原子力を活用した水素製造に資金援助
英国のEDFエナジー社は11月16日、同社のヘイシャム原子力発電所((ヘイシャムA発電所はAGR×2基、各62.5万kW、B発電所はAGR×2基、各68万kW))が生みだすエネルギーで低炭素な水素を製造し、その水素でアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化を図るというEDF(フランス電力)主導の取り組みに、英国政府から約40万ポンド(約6,600万円)が提供されることになったと発表した。この資金は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が地球温暖化防止の目的で2021年3月に設置した総額10億ポンド(約1,660億円)の基金「CO2排出量を実質ゼロ化する革新的技術のポートフォリオ(Net Zero Innovation Portfolio)」を原資とする、総額2,600万ポンド(約43億円)の「産業用水素(製造)の加速プログラム(Industrial Hydrogen Accelerator Program)」から拠出される。支援を受けるEDFの企業連合には、同社の研究開発部門と産業・輸送用の低炭素な水素を供給する目的で同社が設立したイナミクス(Hynamics)社のほか、英国立原子力研究所(NNL)、アスファルトやセメント等の建築材料を供給するハンソン(Hanson)UK社、次世代型燃料電池を開発しているCERESパワー社が参加している。EDFのこの取り組みは「港湾水素製造ハブ – Hydrogen4Hansonプロジェクト」と呼ばれており、CO2を多量に排出するアスファルト・セメント製造業界の脱炭素化に向けて、2023年から2025年までの間に実用規模の技術実証を行うことを目標に最初の実行可能性調査を行う。具体的には、水素の電気分解装置(固体酸化物電解セル:SOEC)をランカシャー州に立地するヘイシャム原子力発電所の電力や熱と統合し、低炭素で低コストな水素を製造。この水素は、同発電所の近隣に点在するハンソンUK社のアスファルトやセメントの製造サイトで燃料として活用されるが、最終的には英国全土の同様サイトに提供されるため、次世代型の専用タンカーを使ったこれら水素の海上輸送の在り方についても調査することになる。EDFエナジー社によると、SOEC技術により水素の製造効率は従来の電気分解と比べて20%改善される見通し。現時点では世界でこれらの技術を実際に実証した例はなく、アスファルト製造の燃料として水素が使われたこともない。同社はこの方法でCO2排出量が大幅に減る可能性を指摘しており、英国がCO2排出量を実質ゼロ化し、アスファルト・セメント製造業で引き続き優位に立つ上で有効だとしている。EDFが英国に置いた研究開発部門の幹部は今回の政府支援について、「国内産業の脱炭素化は英国政府が直面している最大課題の一つであり、原子力発電所で製造した水素をアスファルト産業の脱炭素化に活用することは論理的に見て当然のことだ」と指摘。「これらの技術により、英国では原子力発電による明るい未来が構築され、関係雇用の維持にもつながる」と述べた。また、別の幹部は「クリーンエネルギー社会への移行にともなう原子力の有効性を実証することはEDFにとって重要な役割」と表明。支援金で実施される実行可能性調査では、将来的に建設される原子力発電所の電力や熱が、一層効率的な水素の製造にどのように活用されるかに重点が置かれると指摘した。(参照資料:EDFエナジー社とNNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 17 Nov 2022
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英カンブリア州の新興企業 ロールス・ロイス社のSMRを選択
英ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月11日、イングランド北西部カンブリア州の新興デベロッパー「ソルウェイ・コミュニティ電力会社(Solway Community Power Company)」が同社製SMRを選定したと発表した。ソルウェイ社は今年9月に同州で設立されたばかりの非公開有限責任会社で、最高責任者は、英国最大の原子力複合施設セラフィールド・サイトの管理運営を担うセラフィールド社のCEOを2000年まで務めたP.フォスター氏。ロールス・ロイス社はこの数日前の11月9日、同社製SMRの建設候補地点として、セラフィールド・サイトの近隣区域を含む4地点を選定しており、2030年代初頭にも英国でSMR発電所の最初の一群を稼働させたいと述べていた。ソルウェイ社の建設計画は、セラフィールド・サイトが立地する同州コープランド市のT.ハリソン市議の主催イベントで公表された。同市議は、「当市には敷地のほかに労働者のスキルと経験、独自のサプライチェーンもすでに備わっており、クリーンで信頼性が高く実証済みの技術を用いた原子力発電所の立地点としては、おそらく世界でも最も適している」と強調した。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは今回、「原子力廃止措置機構(NDA)がカンブリア州西部で所有する敷地を活用して2030年にも新しい原子力発電所を稼働させ、業界でも最強の地位を確保する」と表明。同州内で新たな原子力発電所の建設計画を推進するデベロッパーが設立され、同社のSMRが採用設計に選定されたことを歓迎した。ソルウェイ社のフォスター最高責任者は、原子力について「当社のアイデンティティの中心であるとともに西カンブリアに受け継がれた遺産でもある」と説明。ロールス・ロイス社のSMRを建設・操業することで、コープランド市には新しい雇用とサプライチェーンを生み出す大きなビジネス・チャンスがもたらされるだけでなく、新たな産業や投資も呼び込まれると期待を表明した。ロールス・ロイスSMR社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード電源として稼働が可能で、再生可能エネルギー源の間欠性を補えることから、その設置拡大を支援することにもつながる。今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。ロールス・ロイスSMR社に対しては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 16 Nov 2022
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英ロールス・ロイス社 SMR建設の候補4地点を選定
英国ロールス・ロイス社の小型モジュール炉(SMR)開発子会社であるロールス・ロイスSMR社は11月9日、同社製SMRの立地評価作業を終え、有力な建設候補地としてイングランドとウェールズにある閉鎖済みの原子力発電サイトなど、4地点を選定したと発表した。これは英国でSMR発電所の最初の一群(合計出力:約1,500万kW程度)を稼働させるための重要な一歩であり、同社はそれらのSMRを通じて英国がCO2排出量の実質ゼロ化を達成し、確実なエネルギー供給を可能にするとしている。今回特定された4地点は、原子力廃止措置機構(NDA)が管理しているイングランド・カンブリア州のセラフィールド原子力複合施設の近隣区域とグロスタシャー州にあるオールドベリー・サイト、およびウェールズ北部のトロースフィニッド・サイトとアングルシー島にあるウィルファ・サイトである。これらはかつて、旧式のガス冷却炉(GCR)が稼働していた地点であり、NDAはこのようなGCRサイトも含め、新たな原子力発電所の立地用に指定されている17サイトをすべて所有している。このため、ロールス・ロイス社はNDAチームと共同で、建設プログラムを進めていく第一段階の作業として、複数の候補地の地質工学的データや送電網との接続状況、および複数のSMR建設に十分なスペースが確保できるか等を調査。また、NDAの所有サイト以外の地域についても、同社はSMRの建設可能性のほかに、地元との協力の機会や同社製SMRが提供する社会経済的利益などを評価した。こうした作業は、NDAが使命としている「英国初期の原子力発電サイトを安全・確実かつコスト面の効果も高い方法で浄化し、その他の用途用に提供する」とも矛盾しないことから、ロールス・ロイス社は地元のコミュニティが得る利益や環境面の利点に重点を置いたと表明。ただし、NDAが所有する土地の活用で正式な許諾と支援を得るには、NDAを管轄するビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の承認が必要になるとしている。ロールス・ロイス社のSMRは、既存のPWR技術を採用した設計で電気出力は47万kW。少なくとも60年間ベースロード用電源として稼働が可能だと同社は述べており、今年4月からは英国原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同設計について「包括的設計審査(GDA)」を開始した。同SMRについてはまた、BEISが2021年11月、民間部門で行われている投資のマッチングファンドとして、2億1,000万ポンド(約350 億円)を提供すると約束している。ロールス・ロイスSMR社のT.サムソンCEOは、「かつて原子力発電設備を受け入れていたイングランドとウェールズのコミュニティに、新たな原子力発電所の建設について理解してもらう支援をしてくれたNDAのチームとD.ピーティ総裁には、深く感謝している」と表明。サイトで進める作業の開始が早ければ早いほど、SMRの無炭素な電力を安定的かつ確実に提供する機会も早まると述べた。BEISで気候問題を担当するG.スチュアート大臣も、「SMRは英国が目標とする『2050年までに2,400万kWの原子力発電設備を建設』という目標の達成を促し、消費者が支払うエネルギー料金の削減とCO2排出量の実質ゼロ化にも貢献する」と指摘している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 10 Nov 2022
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