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福島第一2号機の燃料デブリ 分析に向け原子力機構へ
東京電力は11月12日午後、福島第一原子力発電所2号機から試験的取り出しとして採取した燃料デブリを、日本原子力研究開発機構の大洗原子力工学研究所に輸送を完了した。翌13日には、車両への積載作業の模様を紹介した動画を公開。14日には、原子力規制委員会の事故分析検討会で、作業状況について説明を行った。〈東京電力発表資料は こちら〉福島第一原子力発電所廃止措置ロードマップで、燃料デブリ取り出しは2号機より着手することとされており、試験的取り出しのため、今夏、テレスコ式装置(短く収納されている釣り竿を伸ばすイメージ)を、原子炉格納容器(PCV)にアクセスする貫通孔の一つ「X-6ペネ」から挿入し準備を開始。ガイドパイプの接続手違いによる作業中断も生じたが、10月30日に同装置は燃料デブリに到達し、11月7日には試験的取り出しを完了した。原子力機構に輸送された燃料デブリは今後、数か月から1年程度をかけて分析が行われ、本格的取り出しに向けて、工法、安全対策、保管方法の検討に資することとなる。燃料デブリを受入れた原子力機構では、分析に必要な設備・装置を有する照射燃料集合体試験施設(FMF)で、その性状を評価し、炉内状況推定の精度向上を図っていく。同機構廃炉環境国際共同センター(CLADS)技術主席の荻野英樹氏は12日夜、大洗原子力工学研究所で行われた記者会見の中で、「取り出された燃料デブリは0.7g程度」としながらも、今後の試料分析に際し「結晶構造がどのような温度変化をたどって、どのくらいの速さで事象が進捗し形成されたかが推測できる」と述べ、技術的立場から試験的取り出しの意義を強調した。分析が完了後、使用目的のない残りの燃料デブリについては東京電力に返却される。〈原子力機構発表資料は こちら〉今後、燃料デブリの分析・評価の中心となる大洗原子力工学研究所の構内・近隣には、走査型電子顕微鏡などの高度な分析機器を備えた日本核燃料開発、材料研究や学生の実習受入れでも実績のある東北大学金属研究所が立地している。段階的に燃料デブリの取り出しが進む中、分析・評価の成果は、将来的に廃炉人材の育成や事故耐性燃料(ATF)の開発にも活かされそうだ。
- 14 Nov 2024
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福島第一2号機 燃料デブリの試験的取り出し完了
東京電力は11月7日、福島第一原子力発電所の2号機において、燃料デブリの試験的取り出しを完了した。〈東京電力発表資料は こちら〉廃止措置ロードマップで、いわば「本丸」となる燃料デブリ取り出しの初号機とされる2号機については、原子炉格納容器(PCV)の内部調査に向けて、英国との協力で開発したロボットアームの導入を予定している。今回、試験的取り出しのため、テレスコ式装置(短く収納されている釣り竿を伸ばすイメージ)を、PCVにアクセスする貫通孔の一つ「X-6ペネ」から挿入。8月22日にガイドパイプが挿入されたが、接続の手違いにより一旦作業が中断した。9月10日に、パイプの復旧作業および現場確認が完了し作業を再開。同日、「テレスコ装置の先端治具が隔離弁を通過した」ことで、試験的取り出し作業が開始となった。その後、同装置先端部のカメラからの映像が遠隔操作室のモニターに適切に送られていないことが確認されたが、10月24日にはカメラ交換作業を完了し、28日に試験的取り出し作業を再開、30日に燃料デブリに到達することができた。試験的取り出しで採取した燃料デブリは、日本原子力研究開発機構大洗研究所などの構外分析施設に輸送し、詳細分析が行われる。同研究所に隣接する日本核燃料開発では既に電子顕微鏡などを用いた分析準備も進められており、分析結果は、今後の本格的取り出しに向けた作業計画の立案や、従事者への教育・訓練にも資することとなる。今回の燃料デブリの試験的取り出し完了を受け、武藤容治経済産業相は11月8日、閣議後の記者会見の中で、「より本格的な廃炉作業を迎える中で重要な一歩となる」と、その意義を強調。加えて、今後の分析を通じ廃炉進捗に資する情報・知見の取得を期待するとともに、東京電力に対しては、引き続き安全確保に万全を期し作業を進めていくよう求めた。
- 08 Nov 2024
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中西準子氏 環境リスク管理学で文化勲章
政府は10月25日、2024年度の文化勲章受章候補者7名を発表した。原子力・放射線分野では今回、中西準子氏(横浜国立大学名誉教授)が受章する。同氏は、環境リスク管理学の分野で、環境政策の立案や法整備に貢献。科学的定量化に基づく環境リスク評価・リスク管理のスキームを世界に先駆けて提唱するなど、産業技術の発展や原子力災害対策で功績があった。先端技術の製品化に係る工業ナノ材料開発の他、2011年の福島第一原子力発電所事故後は、放射能汚染、避難、除染に関して、住民らが自身で判断するために有用なリスク情報の提供にも取り組んできた。食品中の放射性物質に係る基準値の理解に向けては、「原発事故と放射線のリスク学」などを著し、放射線分野のリスクコミュニケーション啓発にも努めている。今回の受章決定は、研究成果として、「化学物質環境リスク研究の国家拠点形成や環境問題での政策立案に活かされた」ことが高く評価されたもの。高度経済成長が停滞し始めた1970年代は公害が喫緊の社会問題となっており、同氏は、都市工学の視点から、化学物質の広域大気濃度推定モデル開発など、環境汚染の定量的評価に着目し技術面で貢献。産業技術総合研究所にも籍を置き、化学物質リスク管理の社会実装に取り組んできた。受章決定に際し、中西氏は、「少し先の時代の声に耳を傾けつつ、研究を進めてきた」とするとともに、高等教育に携わってきた経験から「多くの学生たちの知性と応援もあった」とのコメントを発表した。2013年には瑞宝重光章を受章している。今年度の文化勲章は、中西氏の他、「あしたのジョー」や「おれは鉄兵」の著者として知られる漫画家のちばてつや氏も受章する。
- 28 Oct 2024
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規制委 原子力災害時の屋内退避で中間まとめ
原子力規制委員会の検討チームは10月18日、原子力災害時における屋内退避の運用について、中間まとめを示した。これまで、放射性物質の放出に伴う住民避難など、防護措置の目安について記載した原子力災害対策指針では、外部被ばくを避けるため、UPZ(原子力施設から概ね5~30km圏内)の住民は屋内退避するとされていたが、その解除に関しては示されていなかった。能登半島地震の発生により、複合災害や厳冬期の対応に係る不安も高まり、規制委では4月より効果的な運用に向け、専門家も交え検討を開始。福島第一原子力発電所事故を踏まえた新規制基準で要求される重大事故対策の有効性を前提に、原子力災害の事態進展を、「炉心損傷防止ケース」、「漏えいケース」、「ベントケース」の3つに分類し、OSCAARと呼ばれる解析コードを用いて線量評価のシミュレーションを行った。今回の中間まとめでは、重大事故対策が成功したと判断される原子炉の状態、屋内退避の開始および解除の判断、その継続および避難への切替えなどを、7つの合意事項として整理。屋内退避を続ける期間については、全面緊急事態に至ってから、3日間を目安としている。避難への切替えは、地方自治体からの情報提供などを踏まえ、国が総合的に判断するものとした。福島第一原子力発電所事故時には孤立住民が問題となり、昨今は新型コロナに伴い密室における感染症対策にも関心が高まっている。合意事項では、屋内退避実施中の考慮事項として、「被ばくを直接の要因としない健康等への影響を抑えることも必要」と指摘。住民に対し、先行きに関する状況が把握できるよう、原子炉施設の状態、緊急時モニタリングの情報、生活維持に係る情報(支援物資の配給、電気・ガス・上下水道の復旧など)をわかりやすく提供する必要性を述べている。検討チームでは今後、地方自治体からの意見も聴取し、年度内を目途に最終報告書を取りまとめる予定。
- 21 Oct 2024
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東京電力本社で91回目の「復興大バザール」
東京電力は10月9日、東京都千代田区の本社本館にて、福島県産品・宮城県産品を中心に取り扱う社員向け販売会「復興大バザール」を開催した。今回で91回目を数える同販売会は、「三陸・常磐もの」の魅力を発信する人気イベントで、定期的に年4回実施している。農産品、水産加工品、菓子、酒類など、200以上の商品を取り揃えたほか、福島の伝統工芸品である「だるま」のおみくじガチャや、福島ご当地の人気キャラクターグッズが当たる抽選会も行われ、会場は11時オープンと同時に多くの東電社員とその関係者が訪れ、僅か3時間半で約730名が詰めかけ、完売した。同社は2013年3月より、福島県産品を扱う社内販売会をスタートさせ、被災地である福島の復興の後押しを進めてきた。2年前より宮城県産品を扱い、また、社員食堂のメニューなどとも連動しこれまで継続してきている。昨年開始されたALPS処理水の海洋放出以降、これまでに禁輸措置の影響を受けているホタテやホヤなど水産物の支援にも取り組んできている。三陸・常磐ものの鮮魚は、東京豊洲市場での評価が高く人気がある。なお、10月1日から11月4日まで、三陸常磐ものネットワークによる、三陸常磐ウィークスと銘打って、応援キャンペーンが開催されている。このネットワークには、1200もの企業、団体等が会員となり、三陸常磐ものを支え、盛り上げている。この機会に食卓に並べてみてはいかがだろうか。
- 10 Oct 2024
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中国による日本産水産物の輸入規制が緩和に向け動く
福島第一原子力発電所のALPS処理水海洋放出開始に伴い、現在も続く中国による日本産水産物の輸入規制が緩和される方向で動き出した。岸田文雄首相は9月20日、IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と電話会談。会談後、記者会見を行った岸田首相は、「IAEAの現行のモニタリングが拡充され、その中で、中国を含む3か国の専門家による採水等のサンプリングや、分析機関間の比較が実施されることで一致した」と説明。加えて、これまでの日中政府間における事務レベルの協議に関して言及し、「中国側は、日本産水産物の輸入規制措置の調整に着手し、基準に合致した日本産水産物の輸入が着実に回復されることとなった」と述べた。今後の具体的道筋については明らかされていないが、駐日中国大使館に対するこれまでの度重なる説明や情報発信に加え、今回の追加的なモニタリング実施計画も踏まえ、両国間が共通認識に至ったものとしている。福島第一原子力発電所事故後、諸外国・地域で設定された輸入規制は49の国・地域(EUは一つとしてカウント)で既に撤廃。その一方で、ロシア、中国、香港、マカオ、韓国、台湾では、検査証明書の要求も含め、輸入規制が継続している。岸田首相は、会見の中で、日本産食品などに係る科学的根拠に基づかない輸入規制の「即時撤廃」を求めていく姿勢をあらためて強調。今回の中国側による動きに関して、「追加的なモニタリングの実施を踏まえ、当然、日本産水産物の輸入が着実に回復されるもの」と、期待を寄せた。ALPS処理水の海洋放出は、2023年8月に開始し、約1年が経過。IAEAは、日本政府との間で署名された「ALPS処理水の取扱いの安全面のレビューに関する付託事項」(2021年7月)に基づき、海洋放出開始以前から、これまで安全性レビューミッションを日本に派遣してきた。2024年4月には、海洋放出開始後、2回目となるミッションとして、IAEA職員の他、国際専門家9名(アルゼンチン、英国、オーストラリア、韓国、中国、フランス、ベトナム、米国、ロシア)で構成するタスクフォースが訪日。その結果、「関連する国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されなかった」とする報告書を公表している。坂本哲志農林水産相は9月24日の閣議後記者会見で、まず北陸・東北地方の大雨被害に万全の対応を図ることをあげた上、同25~30日にイタリア・シラクーザで開催されるG7農業相会合への出席について言及。世界の食料安全保障の確保を参加国に対し呼びかける姿勢を示すとともに、日本産食品の輸出先多角化に向け、「日系のみならず現地系スーパーやレストラン、新興国、地方都市等の新たな市場開拓が重要」と強調した。坂本農水相は8月にも、香港で開催されたアジア最大級の食の見本市「Food Expo PRO 2024」を訪れ、日本産食品の輸出拡大に向けてトップセールスに臨んでいる。
- 24 Sep 2024
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処理水放出から一年 新聞は「歴史の記録者」としての任に堪えられるか
二〇二四年九月二十日 新聞の役割とは何だろうか。世の中で起きている数々の現象を伝えることが主な役割であることは間違いない。だが、もうひとつ重要な使命として、歴史的な記録資料を残すことが挙げられる。三十年前の日本がどんな状況だったかを知ろうとすると、やはり新聞が筆頭に上がるだろう。では、福島第一原発の処理水放出から一年経ったいまを記録する資料として、新聞はその任に堪えているだろうか。 処理水の放出から一年が経った八月下旬、どの新聞社も特集を組んだ。中国が日本産水産物の輸入を禁止したことによって、その後、日本の水産物がどうなったかは誰もが知りたい情報だろう。そして福島の漁業がどうなったかも知りたいはずだ。そういう観点から、新聞を読んでみた。福島の漁業に活気は戻っていない? 毎日新聞の社会面(八月二十三日付)を読んだ。主見出しは「福島の海 活気返して」で、副見出しは「操業制限 漁師、東電へ不信なお」。地元の漁師を登場させ、「放出への不安や東電への不信感を拭えずにいる。いまも操業制限が続いており、かつてのような活気は戻っていない」と処理水の放出から一年経っても、活気は戻っていないと極めて悲観的なストーリーを載せた。 その一方で、福島の水産物の価格は高い水準を維持し、放出前より高値を付けることもあり、風評被害は出なかったと書く。ならば福島の水産物の明るい部分もあるはずだが、そのレポートはない。逆に、国と東電は「関係者の理解なしに、いかなる処分も行わない」と約束したのに、海へ放出し、いまも県漁連は反対の姿勢を崩していないと書き、国や東電への不信感を強く印象づける記事を載せた。 さらに三面では、東京電力は二三年十月から風評被害を受けた漁業者や水産加工業者などに賠償手続きを開始したが、約五五〇件の請求のうち、支払いが決まったのは約一八〇件(約三二〇億円)しかなく、賠償が滞っている様子を強く訴えた。しかも、大半は門前払いで泣き寝入りだという大学教授のコメントも載せた。同じ三面の別の記事では水処理をめぐるトラブルを取り上げ、見出しで「後絶たぬトラブル 東電に疑念」と形容するなど東電への批判を繰り返した。 かなり偏った内容(歴史的記録)に思えるが、同じ毎日新聞でも千葉支局の記者がルポした千葉版の記事(八月二十七日付)は違った。こちらは見出しが「福島原発でヒラメ飼育 1号機『普通の服装』で見学 処理水の安全、魚でテスト」と、敷地内の様子を極めて素直な目線でレポートしていた。これを読む限り、処理水の放出と廃炉作業は少しずつではあるが、前進している印象を与える。 ただ、毎日新聞からは水産物のその後の全体像はつかめず、一紙だけでは歴史的記録としては不十分なのが分かる。東京新聞はネガティブな印象を強調 毎日新聞の記事は全体として悲観的なトーンだが、東京新聞はさらにネガティブだ。一面で「七回で五・五万トン 収まらぬ漁業被害」「今も反対、政府は責任を」「首相近く退陣 漁師不安」と不安を強調し、二面では「汚泥 待ち受ける難題 タンク解体」「過酷作業 被ばくの不安」と、今度はタンクの「解体」や汚染水の処理過程で発生する「汚泥」の保管・処分をどうするかという難題が立ちはだかると厳しい内容を載せた。記事からは課題は分かるものの、前進している材料は全く見えない。これも歴史的記録の一面しか伝えていないように思える。読売・産経はホタテの脱中国に着目 毎日新聞と東京新聞を読む限り、暗い気持ちになるが、読売新聞(八月二十五日付)を読むと、一面で「処理水放出一年異常なし」、社会面では「処理水放出 不屈の漁業」「国内消費拡大・輸出『脱中国』へ」との見出しで明るい面を強調した。社会面の記事では「風評被害の拡大も懸念されたが、好調な国内消費や支援の声に支えられ、漁業関係者らは踏みとどまってきた」と書き、希望を持たせる印象を与えた。 社会面記事は、北海道湧別町のホタテ漁の写真を載せ、「今の湧別町には活気がある。官民挙げて取り組んだ消費拡大キャンペーンの結果、国内消費が好調であるためだ」と書いた。ホタテはふるさと納税の返礼品としても人気があり、別海町は二三年度の寄付額が百三十九億三百万円と前年度の二倍になったという内容も載せ、脱中国に向けて欧米への輸出にも取り組む様子を力強く伝えた。 三面では「政府、水産業支援を継続」という文言を見出しにし、「タンク解体、来年にも開始」とほぼ計画通りに進む様子を伝えた。 読売新聞の記事を読むと、毎日新聞や東京新聞とは全く逆の印象を受ける。毎日新聞に登場する漁業関係者は東電への批判を口にするが、読売新聞では漁業関係者が以前の日常に向けて頑張っている様子が伝わってくる。 産経新聞(八月二十五日付)は三面で「ホタテ輸出 脱中国進む、上期ゼロ、米向けなど急増」との見出しでホタテの輸出が増えている様子を伝えた。ホタテに着目した点は、読売新聞と同じであり、内容も読売新聞と似ている。朝日は意外に穏当か では、朝日新聞はホタテの状況をどう報じたのだろうか。八月二十四日付の社会面を見ると、「ホタテ『王様』復活なるか 国内消費上向き 中国への輸出見通せず」との見出しで「(中国への輸出の)主役だったホタテは行き場を失い危機的な状況に一時陥ったが、国内消費は上向きで回復に向かっている」と明るい要素もあることを報じた。国は基金や予備費を使い、約一千億円を投入、北海道の森町などは水産加工業者からホタテを買い取り、全国の学校給食に無償提供したと書き、自治体の奮闘ぶりを紹介した。また、ホタテの輸出量は減ったものの、米国、ベトナム、タイの三か国が中国の禁輸で行き場を失った分の約五割をカバーしたとも書いた。「楽観はできない」と書きつつも、朝日の記事は読売のトーンに近く、意外に穏当な内容だ。歴史的な記録は全紙が揃って初めて成立? これまでの記事を読み、みなさんは新聞の歴史的な記録を残す価値をどう思われただろうか。同じ現象を報じた歴史的な記録と言いながら、中身は新聞によってかなり異なることが分かるだろう。どの新聞も現象の一断面を切り取って記録していることがよく分かる。 つまり、一紙や二紙では歴史の記録者としての任は果たせない。裏返せば、新聞社の数(記者の数)が多いほど、歴史の多面的な現象を後世に伝えることが可能になる。そういう意味では、いま新聞の販売部数(記者の数も)が減少の一途をたどり、新聞社がつぶれそうな状況になっているのは、多様な歴史的な記録物を残す観点からみると極めて由々しき事態だといえる。 では、新聞社を残す方法はあるのだろうか。提案したいのは、読売新聞の読者はたまには産経新聞を読む、そして朝日新聞の読者はたまには毎日新聞や東京新聞を読むといった「交互購読」で大手五紙を共存させる方法だ。新聞社が減れば、いまの歴史の真実を後世に残す手立てが消えることに通じる。処理水から一年経った各紙の記事を読み比べてみて、そのことに気づいた。前回のコラムの最後に「重大なことに気づいた」と書いたのは、このことである。
- 20 Sep 2024
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環境省WG 除去土壌の再生利用で基準案示す
福島第一原子力発電所事故に伴う除去土壌の再生利用、減容化技術、最終処分について検討する環境省の3ワーキンググループ・チームは9月17日、合同会合を行い、環境再生の取組について審議した。〈配布資料は こちら〉今回の合同会合に先立ち10日、環境省は、IAEAより除去土壌の再生利用などに関し専門家会合が取りまとめた最終報告書を受領。同報告書は、技術的・社会的観点から日本の取組に対し助言を行うもので、「これまで環境省が実施してきた取組や活動はIAEAの安全基準に合致している」と、評価している。福島県内で発生した除去土壌については、中間貯蔵施設(大熊町・双葉町)に一時保管中。中間貯蔵後30年以内(2045年3月まで)に県外で最終処分を完了するため、必要な措置を講ずることが放射性物質汚染対処特別措置法で規定されている。福島県外の除去土壌についても、現在、仮置場などに保管されており、県内外で発生する除去土壌の処理を安全に進めるため、今回の合同会合では、再生利用の基準案が示された。周辺住民や工事作業者の「年間追加被ばく線量が1mSv/年を超えない」よう、再生資材化した除去土壌を行うとしている。福島県内で発生する除去土壌の保管量は約1,300万㎥(東京ドームの約11杯分に相当)。県外最終処分量を低減するため、環境省では、福島県出身のタレントで「福島環境・未来アンバサダー」を務めるなすびさんを起用した特設サイトや、国内各地での「対話フォーラム」などを通じ、除去土壌の再生利用に向け理解活動に努めている。既に、技術開発公募を通じ、実証事業も行われており、例えば、福島県飯舘村の長泥地区では、農業利用として、直接、食に供さない花きの試験栽培(再生資材で盛土した上に覆土することで農用地を造成)が行われている。今回、示された再生利用の基準案は、こうした実証事業で得られた知見を踏まえたものだ。なお、これまでも福島第一原子力発電所事故後の風評などをめぐり、多くの意見を述べてきた三菱総合研究所はこのほど、中間貯蔵施設に一時貯蔵される除去土壌に関し、「2024年度は最終処分の具体化への重要な目標年」との認識に立ち、提言を発表。社会的合意形成に向け、最低限必要な事項として、「最終処分に向けた取組の全体像を示すこと」、「物量・安全性などを定量的に示すこと」、「意思決定のプロセスを示すこと」をあげ、対応のあり方を考察している。
- 19 Sep 2024
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福島第一2号機 燃料デブリ試験的取り出しの動画公開
東京電力は9月12日、福島第一原子力発電所2号機で行われている燃料デブリ試験的取り出し作業の動画を公開した。初の燃料デブリ取り出しを実施する2号機では、本格作業に向けてロボットアームの導入が計画されているが、今回、テレスコ式装置(短く収納されている釣り竿を伸ばすイメージ)を、原子炉格納容器(PCV)にアクセスする貫通孔の一つ「X-6ペネ」から挿入。少量の試料サンプリングを実施し、その分析結果を踏まえ、今後の取り出し量拡大につなげていく方針。同装置は、押し込みパイプ、ガイドパイプ外筒、ガイドパイプ内筒を介し、先端治具をワカサギ釣りのイメージでPCV内部に吊り降ろす。先端治具では約3gの試料を採取。各パイプを挿入の逆手順で引き抜き、運搬用ボックスに収納するという手順だ。8月22日より開始された作業で、押し込みパイプ(1.5m×5本)の接続準備中、現場の最終チェックにおいて、その1本目が計画していた順番と異なることが確認されたため、作業が中断。押し込みパイプの復旧作業および現場確認が完了したことから、9月10日より作業が再開した。今回、公開された動画は、テレスコ式装置のアーム箇所に設置された先端治具監視カメラ、アーム先端部カメラ、アームテレスコ下部カメラ、アームチルト部カメラの4か所の映像。東京電力として、試験的取り出し作業の着手とみなす「同装置の先端治具が隔離弁を通過する」状況(9月10日午前7時20分)を写している。同社の広報担当者は、9月12日の定例記者会見で、映像を示しながら、同日の状況として、「ガイドパイプは約170cm挿入(PCVへは約90cm程)され、『X-6ペネ』内でトラブルなく作業が進んでいる」と説明。翌13日の見通しとして「テレスコ式装置は水平で最大に伸びた状態になる」と述べた。今後の作業に向け、「発生し得る事案を想定し、それに応じた予防対策・対応方針を検討する」とした上、「引き続き安全最優先で緊張感を持って取り組んでいく」と強調。総勢60~70名(協力会社含め)の体制で当たっている状況下、週明け以降の作業予定について質問されたのに対し、「一歩一歩進捗した段階で見通しを示す」と、予断を持たずに対応していく姿勢を示した。東京電力では8月19日より、ホームページ内に「燃料デブリポータルサイト」を開設し、福島第一1~3号機の燃料デブリに関するわかりやすい情報発信に努めている。
- 13 Sep 2024
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処理水放出から一年 奇しくも朝日と産経が 絶妙なコンビで中国批判
二〇二四年九月六日 福島第一原発の処理水の海洋放出が始まって、一年がたった。大手新聞がどんな報道をしたかを読み比べしたところ、驚愕の事実を発見した。なんと朝日、毎日、産経の各新聞が足並みを揃えたかのように、中国の日本産禁輸を批判する内容を載せた。特に朝日と産経が似た論調を載せたのは極めて異例だ。いったいどんな論調なのか。最大の武器は「自己矛盾」を突くこと だれかを批判するときに最も効果的な武器は、相手の言い分の「自己矛盾」を鋭く突くことである。相手に「痛いところを突かれた。勘弁してくれ」と言わしめる急所を突く論法である。 では、処理水の自己矛盾とは何だろうか。 中国政府は処理水を「核汚染水」と呼び、国民の健康と食品の安全を守るためと称して日本からの水産物の輸入を禁止した。これは言い換えると「日本の沖合で取れた魚介類は核汚染水で汚染されていて危ないから、中国の消費者には食べさせない」という国家の意思表示である。 ところが、中国の漁船は日本の沖合に堂々と来て、魚介類を取り、中国で販売している。同じ太平洋の海で捕獲しながら、日本の漁船が取って、日本に持ち帰った魚は危ないが、中国の漁船が取って、中国の港に持ち帰った魚は安全だという中国の論理は、どうみても自己矛盾の極みである。 中国の禁輸措置を批判する場合、いろいろな言い方はあるだろが、私は、大手新聞がこの自己矛盾をどう報じたかに注目した。朝日新聞は地図入りで矛盾を指摘 すると、なんと朝日新聞は八月二十四日付朝刊の一面トップで「処理水放出 漁続ける中国 日本産禁輸でも近海で操業」という大見出しで中国の自己矛盾を大きく報じた。 記事によると、当初、中国は日本の汚染水は放出から八か月で中国の沿海に届くと言っていた。この通りだとすれば、中国の漁船が中国の沿海で漁をすることは不可能になる。ところが、そんな事情にお構いなく、中国の沿海では八百隻を超える漁船が漁を続けている。中国の漁師は「もし汚染があれば、国(中国政府)は我々に漁をさせない」と意に介さない様子だ。福建省全体からは日本沖の太平洋に向かう漁船が毎日出漁している。 さらに日本の近海でも中国の漁船が多数出漁し、北海道の東方沖の公海にはサンマ、サバ、イワシなどの中国漁船が活発に活動している。そうした中国漁船の操業状況がひと目で分かるよう、朝日新聞は「明るい部分ほど盛んに操業」との解説を入れた日本周辺の海図を載せた。この記事を読んだ朝日新聞の読者はきっとこう思ったに違いない。 「中国は言っていることと、やっていることが全く矛盾している。日本産水産物の輸入を禁止したのは、食の安全とは全く関係ないことがこれで分かった」。 この朝日新聞の記事は、中国の矛盾した態度を鋭く突く、拍手喝采ものの傑作だろう。産経新聞も朝日新聞と同様に鋭く突いた 驚いたのは、産経新聞の八月二十五日付朝刊の一面トップ記事と、三面の特集記事を見たときだ。朝日新聞とそっくりの内容なのだ。三面の見出しは「中国、禁輸でも日本沖で操業」と、朝日新聞の「日本産禁輸でも近海で操業」とほぼ同じ内容だ。 産経新聞の三面記事の前文の締め言葉は、「中国は禁輸措置の一方、中国漁船が日本沖で取った海産物を自国産として流通させる矛盾した対応を取り続けている」と厳しく断じた。 そして、産経新聞も朝日新聞と同様に、「中国漁船が操業している日本周辺の水域」と題した地図まで載せた。そのうえで、はっきりと「中国漁船が福島県や北海道の東方沖の北太平洋でサンマやサバの漁を続けている。同じ海域で日本漁船が取ったサンマは日本産として輸入を認めない半面、中国漁船が中国の港に水揚げすれば、中国産として国内で流通させている。日本政府関係者は不合理としか思えないと批判する」と書いた。 言わんとしていることは産経も朝日と同じである。おそらく新聞の題字(ロゴ)を隠して記事を読み比べたら、どちらが産経か朝日か見分けにくいだろう。毎日新聞も社説で矛盾を指摘 おもしろいことに、毎日新聞も八月二十四日付社説で中国の矛盾した態度を指摘した。社説は後半で「中国政府は『食品の安全と国民の健康を守る』と禁輸を正当化しながら、中国漁船による三陸沖の公海などでの操業は規制していない。これでは矛盾していると言わざるを得ない」ときっぱりと言い放った。 朝日、毎日、産経が横並びで中国の禁輸措置を「矛盾」と形容して批判する記事は、そうそうお目にかかれない。朝日新聞の記事を喜ばない読者もいる! 最後に、この一連の報道に関する、私のちょっとした考察を述べてみたい。 普段は真逆の朝日と産経が的確な記事を報じたわけだが、それぞれの読者層からは、いったいどう評価されているのだろうか。今回の朝日の記事を私は高く評価するが、左派リベラル層はおそらく苦々しく思っていることだろう。 朝日新聞が一年前に中国の禁輸に対して「筋が通らぬ威圧やめよ」と書いたところ、「朝日はおかしくないか。批判すべきは海洋放出を強行した政府ではないか」と主張するネット記事が出た。そう、左派リベラル層が朝日に期待しているのは中国への批判よりも、日本政府や巨大企業への鋭い批判である。だとすると、朝日新聞が地図まで示して中国の矛盾を鋭く突けば突くほど、朝日の読者層は「最近の朝日はおかしくないか」との思いを募らせるであろうことが想像される。一方、産経の論調は首尾一貫しており、読者層は「よくぞ書いた」と喝采を送っていることだろう。 朝日新聞の記者とて、矛盾が明らかな以上、中国の禁輸の矛盾を書かないわけにはいかない。ただ、記者が鋭い記事を書いても、それを喜ばない読者層がいることを思うと、記者の悩ましいジレンマが伝わってくる気がする。 処理水の報道をめぐっては、もうひとつ重大なことに気づいた。それは次回に詳述する。
- 06 Sep 2024
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三菱総研「ALPS処理水の海洋放出量を拡大する検討も重要」
福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始してから、8月24日で丸1年を迎えた。同日、福島県を訪問した岸田文雄首相は、いわき市小名浜魚市場の視察、県漁業協同組合連合会との意見交換に臨み、地元水産物「常磐もの」の美味しさを絶賛する一方、ALPS処理水の海洋放出を理由とした一部の国による輸入停止の継続に関し、「科学的根拠に基づかず、極めて遺憾なことだ」と、強い懸念を表明した。こうした中、三菱総合研究所は、ALPS処理水の海洋放出に関するコメントを22日に公表。海洋放出開始前後における諸外国・地域の反応を整理した上で、長期にわたる福島第一原子力発電所廃炉作業を見据え、処理水放出について「まだ序盤に過ぎない」との見方を示し、今後、プロセスの定期的見直しと改善を行いながら、風評被害の排除とリスク管理を最後まで続ける重要性を提言している。同コメントは、三菱総研の社会インフラ事業部他が随時、ウェブサイト上で原子力問題の議論を喚起するコラム「カーボンニュートラル時代の原子力」の一環。関係省庁による三陸・常磐産品の販売促進イベント、在京外交団向け説明会、バナー広告や解説動画を通じた発信など、政府主体の継続的取組を評価するとともに、日本原子力文化財団実施の「2023年度原子力に関する世論調査」結果や、2023年度版原子力白書の記載にも言及し、ALPS処理水の安全性について「国民の間に一定程度浸透している」ことを首肯する見方を示した。さらに、福島第一原子力発電所の廃炉完遂に向け、「処理水などを保管する1,000以上のタンク群を減らす」ことの重要性をあらためて強調。これに関し、トリチウム総量が「多いケース」と「少ないケース」のそれぞれについて、2051年度までの放出シミュレーション結果を試算した上で、「地上保管によるリスクを可能な限り低減するためには、ALPS処理水の海洋放出量を拡大する検討も重要」などと指摘している。今回のコメントは、まとめとして、「現在見込まれる約30年間という放出期間に鑑み、この1年は序盤に過ぎない」と、今後も、予断を持たずに対応していく必要性を述べるとともに、技術的観点からの一般論として「30年間もの期間をトラブルゼロで過ごすことは、どんな機器であっても難しい」と強調。その上で、「トラブルを未然に防ぐための対策と、トラブル発生時における迅速かつ適切な対処を徹底すべき」と提言している。
- 27 Aug 2024
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農水相 ALPS処理水海洋放出に伴う禁輸の「即時撤廃」求める
坂本哲志農林水産相は8月15日の閣議後記者会見で、現在も一部の国・地域で続く日本産農林水産物・食品に係る輸入規制の現状について述べた。同日から17日までを予定する香港訪問に関連し、記者からの質問に答えたもの。坂本農水相は、16、17日、アジア最大級とされる食の見本市「Food Expo PRO 2024」で日本産農林水産物・食品のトップセールスを行うほか、その輸出拡大に向けて、香港政府関係者との会談や現地食品製造・販売事業者の視察などに臨む。会見の中で、坂本農水相は、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出を受け、香港政府が10都県産の水産物の輸入を禁止していることに対し、「いずれも科学的根拠に基づかないものであり、極めて遺憾だ」と強調。一方で、香港について「わが国の農林水産物の重要な輸出先」との認識をあらためて示した上で、今回の訪問で予定する同政府関係者との会談に向け、「規制の即時撤廃を要請する」考えを述べた。福島第一原子力発電所事故後、諸外国・地域で設定された輸入規制は、49の国・地域(EUは一つとしてカウント)で既に撤廃。その一方、香港の他、ロシア、中国、マカオ、韓国、台湾が現在も規制を継続している。中でも、昨夏に開始したALPS処理水の海洋放出に伴い、中国とロシアでは全都道府県の水産物が輸入停止となっている状況だ。中国で続く輸入規制に関し、坂本農水相は、これまでの二国間会談や国際的議論を通じた即時撤廃の働きかけに言及した上、「引き続き科学的根拠に基づかない輸入規制措置に関して、政府一丸となって強く働きかけていく」と強調した。農水省が8月2日に発表した2024年上半期の農林水産物・食品輸出額によると、中国は対前年同期比43.8%減、香港は同10.5%減。輸出額の減少が最も大きい品目は、ホタテ貝(生鮮等)の同142億円減で、中国・香港による日本産水産物の禁輸措置が減少要因とみられている。一方で、海外バイヤーの日本招へい、国内加工業者の海外派遣など、国内の水産業を守る政策パッケージが成果をあげており、ホタテ貝の輸出額は、ベトナム、タイ、米国向けで、それぞれ対前年同期比約7.9倍、約3.5倍、約1.6倍と、増加している。
- 16 Aug 2024
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東京電力が新橋で水産物のPR 今日まで
福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始して、間もなく1年。一部の海外諸国による日本産水産物の輸入停止措置などを踏まえ、東京電力では、全国各地でのイベントや販売促進会、社内販売などを通じ、全社員・全グループが一丸となって国産水産物の消費拡大に取り組んでいる。一方、北海道では2024年上半期の水産物輸出額が前年同期比で半減しており、依然として厳しい状況だ。こうした中、同社はこのほど、東京・JR新橋駅前SL広場を中心に毎年開催される「新橋こいち祭」に初めて出店。7月25、26日の期間中(両日とも、15時~20時30分)、「常磐もの」を使った「さんまのポーポー焼き」(サンマのすり身に味噌と薬味を混ぜて団子にした漁師飯)や福島の酒を提供する「発見!ふくしま」の他、昨年11月にSL広場で行われた復興応援イベント「ホタテ祭り」でも盛況だった「ホタテ応援隊」のブースを設け、福島県・北海道の美味を振る舞う。開催初日の25日には小早川智明社長が応援に駆け付け、「ホタテ串焼き」の調理・販売に当たった。「ホタテ応援隊」のブースは、JR新橋駅日比谷口を出てすぐ。駅のコンコースにも香ばしさが漂う。15時の開場後、小早川社長がブースに立った16時半頃には、ホタテを求める来場者の列ができ、仕事帰りの人たちが繰り出す19時半過ぎには既に売り切れとなる人気ぶりだった。ブース対応後、取材に応じた小早川社長は、これまでの国産水産物販売支援に対する謝意を繰り返し強調。7月16日に通算7回目(今年度3回目)を完了したALPS処理水の海洋放出については、「これからもしっかりと安全を第一に進めていき、海域の放射能測定データを示していく」と述べた。会場内、C11形SLの脇に設置された温度計は34℃。17時頃からは小雨がぱらつきながらも、さらに賑わいを増し、「かにみそ甲羅焼き」、「うに貝焼」の他、福島特産の桃を用いたアイス「ふしぎなピーチバー」(竹内まりやのヒット曲に因んだ命名)など、様々な美味が食欲をそそった。同氏は、まず「食べてもらう」ことと強調し、今後も着実に応援していく姿勢を示した。「新橋こいち祭」は、バブル崩壊後の90年代半ば、新橋界隈に務めるサラリーマンらに「“小一”時間楽んでもらう」思いで地元商店会が始めたもの。近年では、若者連れも多く、27回目となる今回、2日間で約14万人の動員を見込む。
- 26 Jul 2024
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太平洋・島サミット ALPS処理水海洋放出も理解へ
太平洋・島サミット(PALM10)が7月16~18日、都内で開催された。同サミットは1997年以降、日本と太平洋島しょ国とのパートナーシップを強化することを目的として、3年ごとに日本で開催されているもの。前回、2021年は、コロナの影響によりテレビ会議方式で行われた。〈外務省発表資料は こちら〉岸田文雄首相は、会期中、17日までに、ツバル、バヌアツ、ニウエ、パプアニューギニア、パラオ、マーシャル諸島、フィジー、サモア、クック諸島、トンガ、ソロモンの各首脳と会談。福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出に関し、岸田首相が「今後も安心を高めていく」旨、発言したのに対し、各国首脳からは歓迎の意が示された。ALPS処理水の海洋放出に関しては、2023年7月4日、IAEAラファエル・グロッシー事務局長より、安全性レビューを総括する「IAEA総括報告書」が、日本政府に対し手交された。それを受け、8月24日に海洋放出が開始。2024年7月16日には、都合7回目の海洋放出が完了した。なお、IAEAは、ALPS処理水取扱いに関し、同年4月23~26日に海洋放出開始後2回目となる国際専門家からなる安全性レビューミッションを日本に派遣した。7月18日、現地調査、関係機関との議論などを通じた調査結果として、「国際安全基準の要求事項と合致しないいかなる点も確認されなかった」とする報告書が公表された。
- 18 Jul 2024
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学術会議シンポ 福島第一の安全確保も取り上げる
「安全工学シンポジウム2024」が6月26~28日、日本学術会議講堂(東京・港区)で開催された。同シンポは学術会議主催のもと、毎年、「国民安全の日」(7月1日)の実施時期に合わせ、多分野の学協会が共催し行われているもの。今回は、能登半島地震にも鑑み、大地震への備えや災害避難に係るセッションが多く設定されるとともに、AI導入や労働環境に対する関心の高まりなど、昨今の社会変化から、会期中を通じ、ソフト技術の信頼性や「安全とリスク」の考え方も広く議論された。27日には、「福島第一原子力発電所の安全確保」と題するパネルディスカッションが行われ、山本章夫氏(名古屋大学教授大学院工学研究科教授、進行役)、阿部守康氏(東京電力福島第一廃炉推進カンパニーバイスプレジデント)、岩永宏平氏(原子力規制庁東京電力福島第一原子力発電所事故対策室長)、高田孝氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、斉藤拓巳氏(東京大学大学院工学系研究科教授)、更田豊志氏(元原子力規制委員会委員長)らが登壇した。現在、福島第一原子力発電所は、事故炉としての特性から原子炉等規制法上、「特定原子力施設」と位置付けられ、運転中の原子力発電所とは異なる規制対応がなされている。両者を比較したリスクの違いについて、事業者の立場から、阿部氏が整理。運転中の発電所については「運転に伴うリスク。つまり、運転しなければリスクはない」、その一方で、福島第一原子力発電所については「既に存在するリスク」と大別。設計で対処されていない様々なリスク、公衆・作業員へのリスクなど、「錯綜したリスク状況」にあるとした上で、長期にわたる廃炉作業に向け「このような状況をどのようにマネジメントしていくか」と、問題意識を示した。これに関し、原子力規制委員会は「中長期リスクの低減目標マップ」を策定し、随時、東京電力と意見を交わしているが、岩永氏は、将来的に燃料デブリを取り出し、発生する廃棄物を安定的に管理することなどを見据え、「技術的に経験のない領域において、求められる規制活動はどうあるべきか」と、課題を提起。さらに、「現在の技術水準で達成できるリスク低減の姿は、いかなるものか」と述べ、技術的課題と安全規制の適切なあり方については、模索中であることを示唆した。アカデミアの立場から、高田氏は、福島第一原子力発電所のリスク源の特徴として、「運転中の原子力発電所に比べ、安定な状態でエネルギー源も小さい」とした上で、「大規模な事故が発生しても、放射性物質の放出量はかなり少ない」、その一方で、「小規模な事故でも微量の放射性物質の放出があり得る」と説明。低頻度事象には緩和策、高頻度事象には防止策を、それぞれ充実させ、両側面について、「バランスを踏まえ、着実にリスクを減らす取組が重要」などと指摘した。また、斉藤氏は、廃棄物管理について発言。発生、前処理、保管、処分といった一般的な流れをあらためて整理した上で、福島第一原子力発電所由来の廃棄物の特徴として、多様な素性、発生量・時期が不透明、放射性核種の総量は限定的なことなどをあげた。原子力損害賠償・廃炉等支援機構の技術委員を務める更田氏は、使用済み燃料の取り出しや、燃料デブリ取り出しに関する課題・技術戦略の動向について説明。リスク管理に関しては、サイト周辺への影響は殆ど考えられず、むしろ現場に携わる作業員の安全管理を問題視した。また、燃料デブリなどの廃棄物処分に関し「地層処分しかないのでは」との見通しも述べた。
- 02 Jul 2024
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筑波大 森林生態系によるセシウムの自浄作用効果を解明
筑波大学の研究グループは6月21日、2011年から13年間にわたり福島県内で実施した森林モニタリング調査により、「土壌中の放射性セシウムが下方移行する」という自然のプロセスが、根による放射性セシウム吸収量や空間線量率を低下させる、いわば除染効果を持つことを明らかにしたと発表した。〈筑波大発表資料は こちら〉同学放射線・アイソトープ地球システム研究センターの高橋純子助教らによるもので、これまでも同センターでは、恩田裕一教授が中心となり、浪江町・川内村での観測を通じ、降雨と空間線量率の変動を推定するモデルを開発するなど、原子力災害被災地の森林環境回復に資する研究成果をあげている。今回の研究では、川俣町のスギ林において、落葉落枝層、土壌層、木が養分を吸収する直径0.5mm以下の根(細根)、それぞれについてセシウム137の動態を調査。その結果、セシウム137の深度分布を経年でみると、存在量は、落葉落枝層では発災直後の2011年に最大だったのが2020年までにほぼゼロになった。表層から2cmまでの土壌層では2017年以降、急増し2020年頃にピークとなったのに対し、細根では2017年頃をピークに減少に転じていた。こうした土壌層と細根との間にみられたセシウム137の経年分布のズレに関し、「わずか数cmであっても土壌中でセシウム137の下方移行が進むことで、樹木によるセシウム137吸収が減少する効果がある」と分析。実際、細根では、表層から2cmまでの最も根が密集する深度で、2020年頃に著しくセシウム137の低下がみられており、「森林生態系の自浄作用効果を解明した」と結論付けている。今回の研究で、調査対象となった川俣町の山木屋地区は、2017年3月に避難指示が解除されているが、「事故以降、これまで森林管理が行われていない」と、被災地における林業再開の停滞を懸念。調査は、「スクレーパープレート」と呼ばれる土壌採取用具を用いて、土壌を5mm間隔で採取し、ふるい分けを行うという緻密な方法で2011年7月より実施されてきた。下方移行による除染効果が検証されたが、植林地が管理放棄され、下流域にセシウム137を流出させる土砂浸食といった長期的観点からのリスクも指摘。今後は、間伐によるセシウム137の下方移行の促進効果も検証し、新たな森林除染方策の提案を目指すとしている。
- 24 Jun 2024
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再エネという文化遺産
南相馬から浪江・富岡にかけて車を運転していると、日当たりのよい開けた土地に太陽光パネルがびっしりと並ぶ風景をよく見かけます。先日はその太陽光パネルのお隣に、巨大な船のような物体が横たわっているのを見て驚きました。後で聞いたところによると、こちらは新しく作られる風力発電のブレード部分とのことです。浜通りの再生可能エネルギー事業の活発さを実感する光景でした。再エネ先進国、福島福島第一原子力発電所事故の後、福島県内で再生可能エネルギー関連の研究や事業が次々と立ち上がっています。2017年に打ち立てられた「福島新エネ社会構想」では、県内エネルギーの100%を再生可能エネルギーから生み出すという目標が掲げられているからです。実は5年前にこの構想が立てられた当初、私は内心で「べつに真面目に成果を目指す必要はないな」という不謹慎なことを考えていました。当時被災の爪痕が色濃く残る浜通りで、たとえ不成功に終わっても、「仕方ないじゃないか」と開き直ればよい。それだけの被害をこの土地は受けた、と感じていたからです。そんな私のようなよそ者の無責任な感想とは裏腹に、2022年度の時点で県内の再生可能エネルギー導入実績は県内エネルギー需要全体の52.1%、県内の電力消費量でみると96.2%相当まで伸びています((福島県企画調整部エネルギー課「令和4(2022)年度 福島県内における再生可能エネルギー導入実績」))。求められた成果を真面目に達成しようとする福島県の土地柄が良く現れているな、と思います。しかしその成果は、本当に福島県が目指したいゴールなのでしょうか。浜通りが脱したかったもの「自分の親は、原発のお蔭で学校に通うことができた。もちろん事故は憎いけど、それほど簡単に割り切れる気持ちではないよ」2011年の事故のすぐ後に、地元の医師から伺ったお話です。様々な批判はあるものの、震災前の原子力発電所が、地元での雇用を含めた経済の循環を生んでいたことは否定できません。多かれ少なかれその経済循環の恩恵を受けた方々にとって、先の事故に対し、時に自責の念に駆られる人さえいらしたようです。「二度と国や政策には振り回されたくない」そのような声を、震災以降しばしば耳にしてきました。当時人々が脱したかったものは、原子力というエネルギーそのものだけでなく、知らぬ間に振り回されていた自分たちでもあったのではないでしょうか。再エネの「軽さ」このような視点から見ると、今の福島と再生可能エネルギーとの距離感はどうなのでしょうか。再生可能エネルギーは「輸入したパネルやバイオマスで電力を作っているだけで、地元の雇用を生まない」という批判もあります。これは、地元の雇用や経済循環に大きく貢献してきた原子力発電所に比べて大きく異なる点でしょう。しかし別の見方をすれば、雇用や関連産業を生みにくい再生可能エネルギーは、また依存も生みにくいということも意味します。もちろん再生可能エネルギーには素人が無責任に評価すべきではない自然破壊や事業継続性の問題等、解決しなくてはいけない課題は多々あるでしょう。しかし付き合い方さえ間違えなければ、福島県の名を売りつつ、かつ過度に依存をしない関係も築き得るのではないか。その為に必要なものは、再生可能エネルギーの持つある種の「軽さ」ではないでしょうか。成果主義と負の遺産これまでの福島県は、「被災地なのだから失敗が許される」という多少の安心感の元に新たな試みが次々と生まれていたように思います。それを甘えと言う人もいるかもしれません。しかし、この「軽さ」がイノベーションや思い切った投資を次々に生んだことも確かでしょう。今、復興という言葉が消えつつある中、この「軽さ」も失われつつあります。当たり前のことではありますが、「夢」と共に打ち上げられた事業が数値による成果を求められるようになってきたからです。もちろん始めたからには成果は必要でしょう。しかし、他人から押し付けられた成果を追及してしまえば、以前は雇用により国に依存していた福島県が、今度は「成果主義」という新たな軛に繋がれてしまうのではないでしょうか。本来福島県の復興も、再生可能エネルギーも、将来へ負の遺産を減らすことこそを悲願に始められたものだと思います。その負の遺産は原子力発電所事故の影響だけではありません。たとえば単純な数値を追い求める成果主義もまた、負の遺産となり得るのではないでしょうか。成果が求められる場面では、事業は「着実に」成果を出すことが得意な保守的な年配の実業家に委ねられがちです。そこには「夢」が生まれる余地がありません。さらに上意下達の「成果」で縛られることにより、原子力発電所設立時の雇用とは違う意味での「政府依存」が高まってしまう可能性もあります。これは本来福島県が、あるいは再生可能エネルギーそのものが目指してきた「夢」とは違うのではないかと思います。福島県民の真面目な努力が、むしろ将来への負の文化遺産を生み出さぬよう、文化としての再生可能エネルギーのありかたもまた、自戒を始めるべき時なのかもしれない。風車と太陽光パネルが日常の風景になりつつある浜通りを車で通るたびに、そう感じます。
- 06 Jun 2024
- COLUMN
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東京電力 福島第一の全作業点検を開始
東京電力は5月7日、福島第一原子力発電所におけるすべての作業に対し、最近、所内で様々なトラブルが続いていることを受け、「あらためて作業リスクを評価する」ため、作業点検を開始した。4月22日には、2号機燃料取り出し用構台で作業員が負傷(指を骨折)。24日には、コンクリート舗装面の剥がし作業時のケーブル損傷により、所内電源の一部系統が停止したほか、従事していた作業員が負傷(顔・腕に火傷)。これに伴い、ALPS処理水の海洋放出が約6時間半にわたり滞った。〈東京電力発表資料は こちら〉作業点検は、具体的に、最新の現場状況を把握するそれを踏まえ、リスク要因により発生するシナリオを考え、リスクが顕在化した場合も含めて悪影響を抽出する悪影響を防止するための防護措置を検討する工事に係る東京電力ならびにすべての協力企業作業員が、リスク要因を認識し、防護措置を理解し実践する――ことを観点に行う。東京電力の広報担当者は5月7日、本社で記者会見を行い、「作業点検を実施し、問題のないものから着手していく」として、廃炉作業における安全確保徹底の姿勢を強調。現在、実施中の作業でも「安全に作業が実施できるか」、「周辺環境に影響を及ぼすリスクが潜んでいないのか」が確認できるまで作業を進めない方針だ。作業点検の対象は約800件に上る見通しで、5月末を「一つの目標」に実施する。24日に発生したケーブル損傷・作業員負傷は、充電された高圧電路の近くで行う「充電部近接作業」に係るリスク認識に問題があったことから、今後は、事前の現場確認を踏まえ、作業班全員に注意喚起事項の周知徹底を図るなど、対策を講じていく。なお、福島第一原子力発電所では5月7日、2024年度第1回目のALPS処理水の海洋放出が完了した。今回の総放出水量は7,851㎥(トリチウム総量約1.5兆ベクレル)。年度内、計7回の放出で、年間放出水量は約54,600㎥(同約14兆ベクレル)との計画だ。
- 08 May 2024
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【第57回原産年次大会】福島第一廃炉進捗と復興状況
「第57回原産年次大会」では2日目の4月10日、セッション3(福島セッション)「福島第一廃炉進捗と復興状況」が行われた。同セッションではまず、東京電力福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏が、福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水・処理水対策の現状と課題について講演。2023年8月に開始したALPS処理水の海洋放出については、2023年度内に計4回の実施で、総放出量31,145㎥との実績を述べ、「海水希釈後、海洋放出後のいずれにおいても、トリチウム濃度に異常は出ていない」などと説明。2024年度には、計7回の実施で約54,600㎥を放出する計画だ。1~4号機の使用済燃料プールからの燃料取り出しについては、残る1、2号機で、それぞれ2027~28年度、2024~26年度の開始が予定されている。そのうち、1号機(新燃料を含み392体の燃料が保管)については、取り出しの準備に向け、原子炉建屋を抱きかかえるように囲む大型カバーの設置が2025年夏頃の完了を目指し進捗している状況。2号機(新燃料を含み615体の燃料が保管)については、汚染拡散の防止、作業時の被ばく低減のため、既存建屋の南側に開口部を設け燃料取扱設備を出し入れする計画で、現在、これに必要なクレーンや走行台車を設置する構台・前室の建設が進められているところだ。また、小野氏は、安全な使用済燃料の乾式保管方式として、海外で実績のあるコンクリートキャスクの適用性を検討していることを紹介した。燃料デブリの取り出しに向けては、調査の最も進んでいる2号機から「ごく少量の取り出しから試験的に」着手する予定だが、これに用いるロボットアームは現在、モックアップ試験・訓練中で「現場への適用にはもう少し調整に時間がかかる」ことから、2019年度の調査でも実績のあるテレスコ式装置(望遠鏡の筒が伸縮するイメージ)を補完的に用い、「遅くとも2024年10月には開始したい」と説明。また、1号機では、2024年2月下旬より原子炉格納容器内の燃料デブリの状態を確認するため、小型ドローン(計4機)および無線を中継するヘビ型ロボットを用いたペデスタル(原子炉圧力容器下部の土台)内の調査を実施しており、小野氏は最近取得した映像を披露。今後の取り出し規模の拡大に向けては、3月に原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の技術委員会が示した提言「気中工法(燃料デブリが気中に露出、もしくは低水位で浸漬した状態で取り出す)に軸足を置きつつ、充填固化工法(充填材で燃料デブリを安定化させ線量を低減し、掘削により取り出す)を組み合わせる」を踏まえ、「今後、1~2年かけて、実際に現場に適用するための設計を検討していく」と述べた。「復興と廃炉の両立」を目指し、小野氏は、廃炉事業への地元企業による参入促進に向けたマッチングの取組を紹介。2024年1月までに、その成約件数は約1,000件にのぼったという。さらに、被災地域の復興の動きを、地元祭礼の復活などから振り返り、「少しずつ人々が戻り、賑わいを見せている。今後も住民の方々が安心してふるさとに帰還してもらえるよう、引き続き安全第一で廃炉を進めていく」と強調した。講演に続いて、パネルディスカッションでは、東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授の開沼博氏がモデレーターを務め、パネリストとして、それぞれの立場から福島の復興に取り組む一般社団法人HAMADOORI13代表理事の吉田学氏、株式会社haccoba代表取締役の佐藤太亮氏、浅野撚糸株式会社代表取締役社長の浅野雅己氏が登壇。いわき市出身で福島復興に関し多くの著書を有する開沼氏は、2015年開催の「第48回原産年次大会」で、福島セッション「ふくしまの未来予想図」のモデレーターを務めたことがあるが、今回の登壇に際し、ALPS処理水の海洋放出開始、双葉町における避難指示の一部解除など、近年を振り返り、「毎年、新しい動きがあるが、まだ解決せねばならない細かな課題が山積している」と、議論に先鞭をつけた。大熊町出身で東日本大震災発生時、建築士として福島第一原子力発電所構内で作業に従事していたという吉田氏は、原子力災害発生後、被災地家屋の調査に尽力。その中で、双葉郡の人口急減を憂慮し、2021年に浜通りの若者による起業を支援する「HAMADOORIフェニックスプロジェクト」を立ち上げた。実際、双葉郡8町村の人口は、2011年の約75,500人から2024年には約17,900人にまで減少しているという。同プロジェクトでは現在18社が採択されており、同氏は、地元食材を利用した古民家カフェ(川内村)、地元の伝統行事「相馬野馬追」に因んだ乗馬ジム展開構想(南相馬市)、震災前には特産品であったキウイの再創出事業(大熊町)などを紹介した。続いて、同プロジェクトに参画している佐藤氏が登壇。同氏は、埼玉県出身だが、誕生日が震災発生日の「3月11日」という因縁から一念発起し、新潟県で酒造りの修業を積んだ後、浪江町・南相馬市で酒蔵「haccoba -Craft Sake Brewery-」を始めた。どぶろくの文化に立ち返り「自由な酒作り“クラフトサケ”」とともに、「若者も集う新しいコミュニティ作り」を標榜。最近はJR常磐線・小高駅を利用した観光にも供する醸造所を開設しており、今後はベルギーでの酒蔵作りも目指しているとした。繊維業の浅野撚糸は、岐阜県に拠点を置いているが、浅野氏は、外国製品の台頭などによる厳しい下請け経営環境からの脱却、国産繊維の復権を目指し、経済産業省からの打診を受けて、2023年に新工場「SUPER ZERO」を双葉町に開設。同社は福島・東北の復興に貢献すべく、昨秋、紳士服のコナカによるプロジェクトともタイアップし「福島復興国産Tシャツ」を製造・販売した。2024年には若手新入社員を迎え入れたほか、最近では、学生も見学に訪れているという。ディスカッションの中で、若者との議論にも積極的な開沼氏は、地元に娯楽が少ないことなど、将来的に人が地方に定着していく上での課題を指摘。これに対し、浅野氏は、最近の外国人記者による取材対応経験に触れ、「社員の生活に責任が取れるのか」といった厳しい質問を受けたとする一方、若手社員らに対するインタビューを通じ「記者たちは納得した様子だった」ことを述べ、「世界はまだ『福島という響き』に誤解を持っている」として、「福島を見てもらう、来てもらう」必要性を強調した。
- 12 Apr 2024
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福島の山菜は本当に危ないのか? 基準値の意味を正しく伝えたい
二〇二四年三月二十五日 福島県内で採れる山菜を食べたら、本当に危ないのだろうか。毎日新聞が三月十二日付け朝刊で「『山菜の女王』復活へ試行錯誤 福島・飯舘村セシウム減らせ」と題した記事を載せた。基準値の意味を正確に伝えていないため、あたかも山菜を食べたら健康に影響があるかのような印象を与える、ミスリーディングな内容だ。では、記事のどこがおかしいのだろうか。コシアブラは依然として一〇八五ベクレル 記事を見てまず引っかかったのは、小見出しの「依然基準値の10倍」(写真1)だった。記事の骨子はこうだ。飯舘村が測定した山菜(ワラビ、ウド、フキなど)の放射性セシウムの濃度(二〇一四年~二〇二三年分)は二〇一一年の原発事故から低下しつつあるが、コシアブラだけは二〇二三年になっても、一キログラムあたり一〇八五ベクレル(二〇一四年は同二〇五五八ベクレル)を示し、基準値の十倍に上った。写真1 その理由は、森林の大部分が除染されていないため、多年生植物のコシアブラはセシウムの多い地表から十数センチのところに根をはり、しかもセシウムは根などに蓄積して植物体を循環するため、シーズンをまたいでも減りにくいのだという。そこで記事は「基準値を下回るにはさらに10年以上かかるだろう」という地元住民の言葉を載せた。 さらに、「山菜を塩水でゆでたあと、一時間、水に浸すとセシウムの量は調理前の三五~四五%程度に低減する」という方法を紹介している。 ちなみに、ベクレルは放射性物質が放射線を出す強さを表す単位で、一ベクレルは一秒間に一つの原子核が崩壊することを表す。セシウムの基準値は各国で異なる 放射性セシウムの現状を伝える記事自体に誤った記載があるわけではない。ただ全体を読んでいて誤解を与えかねないと感じたのは、一〇〇ベクレルという基準値にこだわるあまり、一〇〇ベクレルを超えた山菜を食べると健康に影響するかのような印象を与える点だ。 知っておきたいのは、基準値は健康影響をはかる指標値ではないということだ。そのことは各国の放射性セシウムの基準値を見ればすぐに分かる。図表1を見てほしい。日本の一般食品の基準値が一キログラムあたり一〇〇ベクレルなのに対し、EU(欧州連合)は一二五〇ベクレル、米国は一二〇〇ベクレル、コーデックス委員会(世界食糧機関と世界保健機関によって設置された国際的な政府間機関・百八十八か国加盟)は一〇〇〇ベクレルだ。 なんと欧米諸国の基準値は日本よりも十倍も緩い。記事は「コシアブラの一〇八五ベクレルは基準値の10倍」と書いたが、このコシアブラは欧米諸国では堂々と流通できる。確かに日本では一〇〇ベクレルを超えると出荷制限(販売禁止)がかかるが、欧米では基準値以下なのでそのまま流通するのだ。ということは、仮に欧米人が一〇八五ベクレルの山菜を食べても、健康に影響することはないことを意味する。 いうまでもなく、基準値の緩い(数値が高い)欧米の人たちがセシウムの影響を受けにくい体質をもっているわけではない。毒性は食べる「量」いかんで決まる もうひとつ押さえておきたいのは、基準値の一キログラムあたり一〇〇ベクレルという意味だ。これは一キログラムあたりの数値なので、一キログラムあたり一〇八五ベクレルのコシアブラの場合、十グラムしか食べなければ、体内に摂取されるセシウムはその百分の一の約10ベクレルで済む。逆に基準値以下のコシアブラでも、2~3キログラムも食べれば、体内摂取量は100ベクレルを超えてしまう。 この例でわかるように、基準値以下の食品でも大量に食べれば、基準値を超える。食べた人に健康影響が生じるかどうかは、食べる「量」によって左右され、基準値を超えたかどうかではない。つまり、一〇〇ベクレルという数値は、健康に影響するかどうかの指標ではなく、生産者に対して「出荷の際に気をつけてもらうためのシグナル」なのである。年間一ミリシーベルト以下が上限 では、健康影響をはかる指標値は何か。図表1の二段目にある「追加線量の上限設定値」の年間一ミリシーベルト(シーベルトは放射線が人体に及ぼす影響を表す単位)である。もちろん一ミリシーベルトを超える放射線を浴びたからといって健康影響が生じるわけではない(低線量による影響はいまも科学的な議論が続く)が、放射線の影響を管理する数値としては、年間一ミリシーベルトが世界的な標準管理値となっている(ただし米国は年間五ミリシーベルト)。 ここで強調したいのは、セシウムの基準値は各国の事情によって異なるが、健康影響の指標はほぼ同じという点である。欧米人も日本人も同じ人間なので、健康影響を測る数値が大きく異なるはずはない。一〇〇〇ベクレルの山菜を食べても影響はない では、仮に一キログラムあたり一〇〇ベクレルのセシウム(半減期が約三十年のセシウム137と仮定)が検出された山菜を一キログラム食べた場合、人体への影響(内部被ばく)はどれくらいになるだろうか。計算すると〇・〇〇一三ミリシーベルトである。一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム食べた場合は、十倍の〇・〇一三ミリシーベルトとなる。仮に一〇〇〇ベクレルのコシアブラを一キログラム(そもそも一キロも食べる人はいないだろうが)食べても、一ミリシーベルトをはるかに下回り、健康への影響はないことが分かる。 EUの基準値が一二五〇ベクレルでも、西欧人の健康を守ることができるのはこれで分かるだろう。そもそも私たち日本人は自然界から年間約二ミリシーベルトの被ばくを受けながら生活をしている。それと比べても、山菜から摂取するセシウム量は極めて少ない。 実はこうした考え方は農薬も同じである。農薬の残留基準値は各国の気候や風土で異なるが、健康影響をはかる指標値の一日許容摂取量(ADI)は世界共通である。このあたりのからくりは、拙著「フェイクを見抜く」(ウエッジ)をお読みいただきたい。「安全・安心」のために一〇〇ベクレルを設定 では、なぜ日本は欧米よりも十倍も厳しい基準値を設定したのだろうか。福島第一事故後にセシウムの基準値がどのように決まっていったかを、私は現役(毎日新聞)の記者として当時、熱心に取材していた。そもそも事故が起きる前の一般食品の暫定基準値は、一キログラムあたり五〇〇ベクレルだった。厚生労働省や食品安全委員会などで活発な議論が行われたが、結局、「より一層、食品の安全と安心を確保する観点から」という理由で一〇〇ベクレルに決まった。 許容していた年間追加線量も、事故前は年間五ミリシーベルトだったが、一ミリシーベルトに引き下げられた。一〇〇ベクレルが導き出される計算式の裏には、日本国内の食品(流通する食品の半分と仮定)はすべてセシウムに汚染されているという非現実的な仮定があった。これに対し、EUの一二五〇ベクレルは、流通量の一割が汚染されているという現実的な条件で計算されている。当時は旧民主党政権。結局は政治的な思惑もあって、「安心」を重視した政治的な決着となったのだ。一九六〇年代はもっとリスクが高かった 原発事故から十三年もたつと、セシウムの基準値が政治的に決められていった経過を知る記者は、少なくなっている。毎日新聞の記事について言えば、一〇〇ベクレルは健康影響をはかる指標値ではなく、たとえ一〇八五ベクレルのコシアブラを一キログラム食べたとしても健康への影響はない、という解説を入れてほしかった。 今後、セシウムの影響を伝える場合は、中国などが核実験を行っていた一九六〇年代のほうがよほど健康へのリスクは高かったという事実を、記者たちは頭の片隅に刻んでおいてほしいものだ。福島第一原発の処理水の海洋放出は今のところ順調に進むが、魚介類からいつ何時一〇〇ベクレルを超えるセシウムが検出されるかもしれない。その際に冷静に「一〇〇ベクレルを超えても健康影響とは関係ない」と、記者たちがしっかりと書いてくれることを期待したい。
- 25 Mar 2024
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