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アツイタマシイ Vol.8 クリスティン・マデンさん
ダイバーシティに取り組むIAEAまず、IAEAでのお仕事について教えてください。クリスティン原子力保障措置は、世界が原子力エネルギーを利用できるように、核拡散防止条約(Non-Proliferation Treaty=NPT)への法的コミットメントを維持しつつ、平和目的のためだけに原子力科学技術を移転できる基盤を各国に提供しています。保障措置局での私たちの任務は、加盟国が平和的でない目的で核物質や施設を悪用しないという国際的義務を果たしているかを確認することです。私は資格を持った査察官です。現在、査察官は180以上の国々を訪問し、保障措置を実施しています。現在の私の主な役割は、保障措置評価官として、上司である保障措置局長をサポートすることです。保障措置の実施について、局長や管理チームに専門的なアドバイスを提供することに重点を置いています。現在、IAEAには女性の職員はどれぐらいいるのでしょうか?クリスティンここ数年で大幅に増えました 。現在約2,500人の職員のうち4割が女性です。査察官については、2017年時点では女性の占める割合が23.1%でしたが、直近の2023年のデータでは30.6%になりました。女性向けのリクルート活動を強化したこと、リクルート活動自体に女性を幅広く参画させたことで、大幅に増やすことができました。私には、ジェンダーフォーカルポイント としての役割もあります。「ジェンダーフォーカルポイント」とは?クリスティンR.M.グロッシー事務局長が数年前に開始した「ジェンダー平等イニシアチブ」の達成を支援するために、各局で責任者が数名選ばれました。私は保障措置局に3人いるジェンダーフォーカルポイントの1人です。保障措置局では、世代間や地理的な平等性も考慮に入れ、「ジェンダー・地理的・世代的行動プロジェクト」を立ち上げました。誰もが局内に帰属意識を持てるようにすることに力を入れています。他の国際機関とも協力して、リクルートイベントなど、多くのアウトリーチ活動を行っています。さらに、IAEAの技術協力局と協力して、アジア地域の学校教師を対象に、原子力科学技術の理解と普及を強化する方法について議論しました。気候変動問題を懸念する両親の影響で原子力の道へ原子力工学を専攻されたきっかけを教えてください。クリスティン私は自動車産業のメッカ、ミシガン州デトロイト都市圏の郊外にあるロメオという町 で生まれ育ちました。父はフォードで働いていました。私も元々は父のようなキャリアを歩みたいと思っていたのですが、当時、米国の自動車産業は衰退期にありました。両親は気候変動問題に関心が高く、よくテレビのドキュメンタリー番組を見ていました。1990年代から2000年代初頭にかけて、アル・ゴア氏が気候変動と環境への影響について問題提起した時代です。両親は、「気候危機を解決するために力を貸してほしい。原子力工学はこの危機を解決する道だ」と言っていました。私は数学が得意だったので、STEM教育に重点を置いた高校に行きました。当時は原子力分野にあまり気乗りしませんでしたが、放射線腫瘍医になりたい気持ちはありました。いとこが幼い頃に目のがんに苦しんだことが心に残っていたからです。医学部への道筋になると考えて、原子力工学を学ぶことに折り合いをつけました。大学卒業後の進路はどのように決めたのですか?クリスティン学生時代に原子力発電所でインターンを経験しました。中央制御室で働く人たちや、原子炉の起動、進行中の核分裂を目の当たりにし、発電所がとても気に入りました。原子力発電が地域コミュニティにもたらすプラスのインパクトにも感銘を受けました。同僚の多くは、家族が原子力発電所で働いており、その息子や甥っ子がそこで働くようになる感じでした。私の場合、家族の中でこの業界で働くのは私が初めてです。両親の影響で早い段階から原子力に触れていなければ、そうしようとは思わなかったでしょう。その頃の米国の原子力発電所地元の発電所に就職されたのですか?クリスティンはい。2009年にミシガン大学を卒業してから2012年までミシガン州内のパリセード原子力発電所で働きました。どんな職場でしたか?クリスティン100人以上のスタッフがいる部門の中で、女性エンジニアは3人だけでした。「ボーイズクラブ」と呼ばれるような排他的な雰囲気がまだあって、ちょっと疎外感がありましたね。その後、運転部門に異動して、40年間運転しているプラントの歴史上初の女性として、上級原子炉運転員のライセンスクラスに参加しました。そのクラスには女性が3人いました。私たちが最初の3人だったのです。発電所では運転員を区別するために制服を着用します。白いシャツに黒いズボンです。今考えると馬鹿げた話ですが、当時は女性用の制服がありませんでした。女性用の制服を注文できないかと聞いたのですが、男性用を着るよう言われました。身体が小さいので、最小サイズでもドレスみたいにぶかぶかなんです。ある時、上司から、「クリスティン、君が制服を着ていないという苦情が来ている」と呼び出されました。「私に合うサイズがないんです。大きすぎる制服を着るのはプロフェッショナルではありませんよね」と言うと、上司は「なぜ誰も私に知らせなかったのか」と言いました。たぶん、事務担当の職員が制服を注文したくなかったんだろうと思います。結局、解決はしたのですが、このような細かなことが問題になるのです。たとえば、中央制御室には女性用のトイレがなくてとても不便でした。今でも原子力発電所で働いている友人によると、状況はかなり改善されているようです。ウェスティングハウスで働いている親友は、最近副社長に昇進しました。 女性が障壁を乗り越えて成功していくのはエキサイティングですが、まだまだ道半ばだと思います。福島第一原子力発電所の事故を受けとめてクリスティンさんが原子力発電所で働いていた2011年に、日本では福島第一原子力発電所の事故がありました。米国内にはどのようなインパクトがあったのでしょうか。クリスティン私はファクトベースの人間なので、とにかく、何が起きたのか、それはなぜなのかを知ることが重要でした。職場でさまざまな調査をしました。たとえば、私たちの発電所ではどのような自然災害が起こり得るのか、そして、その影響を評価し、定量化するのです。また、私は当時、北米原子力若手連絡会(NAYGN)のメンバーで、学生教育の責任者を務めていたので、米国原子力エネルギー協会(NEI)から、科学コミュニケーションを手伝ってほしいという依頼がありました。原子力に関する一般の人々からの質問にメールで答えるという任務です。事故を受けて、反原子力の機運が高まった時期もあります。そういった状況をクリスティンさんはどのように受け止めておられたのでしょうか?クリスティン人々の怖れは正当だと感じました。怖れは理解不足から生じる傾向がありますが、原子力業界ではシンプルに言えることを非常に複雑な言葉で表現しがちなのです。かつて両親は、幼稚園児や小学生のいとこたちにもわかるように、私に原子力のことを説明させることがありました。技術的な話を始めると、母は、「クリスティン、難しすぎるわ。もう一度やり直して」と言ったものです。人々は耳を傾けてもらいたいのです。時間をかけて相手の考えや懸念を理解し、建設的な対話をすれば、不安感は解消されていくと思います。私自身は原子力事故について懸念を持ったことはありませんでした。原子力を支持する環境で育ったため、偏っていたのかもしれませんね(笑)気候変動のリスクの方がはるかに大きいと考えていました。国際経験を積み、IAEAへキャリアチェンジその後、海外での仕事はご自身で志願されたのですか?クリスティンそれもNAYGNがきっかけです。ある会議でホルテックの副社長と知り合いました。そしてある日、職場のチームでソフトボールをしていたら、リクルーターから電話がかかってきたのです。その時は、「わかりました。後でかけ直します」と言ったのですが、まさか、チョルノービリで働くことになるとは思いもよりませんでした。喜んでオファーを受けたのですか?クリスティンええ、とてもワクワクしました。ホルテックは、乾式および湿式の使用済み燃料貯蔵システムを世界中で管理・開発しています。ホルテックへ転職し、ウクライナでのプロジェクトに8か月間携わりました。その後、一旦米国へ戻り、ウクライナとイギリス両方のプロジェクトをサポートしていた頃、エネルギー省の友人からIAEAに派遣する人材を探しているという連絡がありました。日本もそうですが、各国は国連の各機関にジュニア・プロフェッショナル・オフィサーを派遣しています。おそらく、ライセンス経験と国際経験を持つ32歳以下の候補者を見つけるのに苦労していたのでしょう。そこで、この面接を受けました。実はIAEAで査察官として働きたいといつも思っていたのです。IAEAの査察官に憧れていた?クリスティン元々は母の願望(笑)だったんです。母は、イラクに入って仕事をする査察官をテレビで見て、夕食の時、「いつかあなたもあそこにいるわ」と言っていました。私がIAEAで働きたいのは、IAEAの使命が国際平和と安全保障の促進、さらに、貧困からの脱却のためのエネルギーへのアクセスにとって非常に重要だと考えているからです。査察官としての初仕事の時はどんなお気持ちでしたか?クリスティン初めて査察に行った時は少し不安でしたが、私のメンターである経験豊富なもう一人の査察官と一緒に出張し、彼女は出発前に実用的なアドバイスをたくさんくれました。そのおかげで、私は準備万端、自信を持って臨むことができました。彼女は今や局内の上級査察官に昇進していますが、今でも私のメンターとしてアドバイスをくれます。査察官は、原子力科学技術が地域社会に恩恵をもたらすさまをこの目で見ることができ、仕事にとてもやり甲斐を感じています。故郷を離れ、出張続きで、 ホームシックになりませんか?クリスティンいいえ。旅行が大好きなんです。今までに59か国を訪ねました 。世界中に友だちがいます。私は就職して以来、国際青年原子力会議(IYNC)のメンバーで、IYNCには、50か国に10万人以上の若い専門家や学生のネットワークがありますからね。IYNC会長としてのリーダーシップそのIYNCで、クリスティンさんは現在、会長を務めておられます。リーダーとしてのお考えを聞かせてください。クリスティン私は、若い世代が意思決定プロセスに参加することが重要だと考えています。そこで昨年、原子力の応用分野、原子力発電分野、保障措置の3分野で若手の技術的なスキルやリーダーシップを磨くグローバルなパイプラインを開発する「Leaders for Nuclear Program」を立ち上げました。IAEAなどの機関と協力して最初の15人のフェローを選考しているところです。また、日本も参加している「NICE Future Initiative」を通じて、ワーキンググループに初めて若者の声を取り入れることができました。意思決定プロセスへの参加が可能になれば、当事者意識を持つことができ、その結果、さまざまな環境問題の解決に向けた力を得たように感じられます。持続可能性や気候変動の問題は、私のいとこたちも含めて世界中の若者にとって最大の関心事です。そこで、IYNCでは、原子力分野以外の若い世代のグループともパートナーシップを構築しています。昨年は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の青年組織であるYOUNGOと緊密に連携しました。若い世代というのは、何歳ぐらいの人たちですか?クリスティンYOUNGOのメンバーは35歳未満です。10代の高校生もいます。IYNCでは原子力のリスクについて透明性を持って対話する場を提供しています。その際、原子力だけに焦点を当てるのではなく、問題をより広い文脈に位置付けることにしました。たとえば、「クリーンエネルギーの安全保障への貢献」とか「エネルギー部門の廃棄物戦略」といった具合で、原子力もたくさんのテーマの中の一つのトピックです。こうすることで、誰もが自分の問題として関心を持って考えられるようになります。ですから、私にとってリーダーシップとは、メンバーに自信を持たせるエンパワーメント、そして、これまでとは違った議論の道筋を作ることであると言えます。放射性廃棄物をどうする?今のお話に出てきた廃棄物ですが、高レベル放射性廃棄物の処分については、最終処分地をどこに決めても、同世代間の地理的な不公平がありますし、将来世代に負担をもたらす難しい問題です。クリスティンさんのお考えをお聞かせください。クリスティンコミュニティと若者を意思決定に参加させることが重要だと思います。そうすれば、決定に対する当事者意識を持つことができるからです。カナダ原子力学会が放射性廃棄物を定量化した際に出した比喩によると、原子力だけですべてのエネルギー需要をまかなった場合、人の一生で発生する廃棄物は1本のソーダ缶ほどの量だそうです。それを再処理すると、廃棄物はその10分の1ほどになります。すべてのエネルギーには廃棄物があり、生分解性でない廃棄物も多いのです。比較のうえでの基準が得られる形で文脈化することがだいじだと思います。しかし、放射性廃棄物だけについて言えば、そもそも廃棄物なのか?という問題もあります。そのほとんどは再利用可能だからです。放射性廃棄物と言うと怖しいものに聞こえますが、そのままの形ではコスト効率が良くないので原子炉で使えないという意味だったのでしょう。しかし、そのほとんどは実際には廃棄物ではありません。再処理すれば利用可能なのです。いつか再処理するかもしれないと?クリスティン現在、多くの国では再処理を行っていませんが、回収可能な容器に使用済み燃料を保管しています。将来再処理する可能性があると考えているからです。そして、このことも原子力産業が他の産業とは異なる点だと思います。他の産業では、将来使えるかもしれないから保管するよりは、今使えないものは埋め立て地に捨ててしまう傾向があるからです。もちろん、原子力ではそんなことはできません。でも、少なくとも原子力業界では、将来使いたければ使えるような形で廃棄物を保管していると言えるでしょう。原子力の魅力とはクリスティンさんにとって、原子力の魅力とは何でしょう?クリスティンいろいろなことに活用できることです。原子力は医療にも応用できますし、食品の安全性を高め、水不足を解消するのにも役立ちます。放射性同位体を照射してがん治療薬の開発にも役立ちます。これほどさまざまな用途に使えるエネルギー源は他にありません。今までずっと原子力の仕事をしてこられたクリスティンさんの、モチベーションを支えているものは何でしょうか。クリスティン保障措置の仕事は、これほど多くの異なる分野に大きな影響を与える技術と専門家を、各国が共有することができる基盤を提供していると思います。そのことに本当に奮い立たせられます。海外派遣の任務でも査察活動でも、世界中の人々と交流する機会が多くあります。IAEA内でも、毎日のように世界中からたくさんの訪問者がやってきます。彼らの話を聞くと、原子力科学技術がいかにプラスの影響を与えているかがわかり、自分の仕事が影響力を持っていることを感じます。そして、より大きな公平性を提供するためにこの仕事を続けること、特に女性のために、教育の擁護者であることが非常に重要だと思います。電気へのアクセスがあることは、水くみや料理など、主に女性の仕事とされている骨の折れる作業の負担を軽減し、女性が学校に通い、勉強し、社会に貢献する機会を与えてくれるのです。現在、ジェンダー平等の達成までに約200年かかると言われていますが、それは労働力の半分を活用していないことを意味します。もし誰もが貢献する機会を得られたら、人類としてどれほど大きな可能性を秘めていることでしょう。ですから、私がIAEAで担っている役割や、IAEA全体が担っている役割は、そのような障壁を取り除き、教育や意思決定への参加をより身近なものにしていると思います。教育こそは人間の能力を伸ばし、あらゆる可能性の基礎になるものだと思うのです。それが私のモチベーションになっています。そして、さまざまな異なる文化の人々と一緒に働くと、自分と似たような環境で育った人だけと働くよりも、はるかに影響力と洞察力のあるアイデアが生まれると思うことがしばしばあります。互いの違いに焦点を当てるのではなくさまざまな人々とのコミュニケーションの中で、これまでに、異なる考えの人から反対の意見をぶつけられたといったご経験もありましたか?クリスティン数年前からCOP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に参加しているのですが、最初に参加した頃は、原子力の団体は、原子力が唯一の解決策であると言わんばかりに原子力を強力に推進していました。しかし、いろいろ議論するうちに、私は、原子力が必要であるのと同等か、それ以上に、再生可能エネルギーも必要だと考えるようになりました。すると人々は、「待って。あなたは原子力が唯一の解決策だとは思っていないのですね?そして、私が重要だと思うことにも意味があると思っているのですね」と言ったのです。実際、私はそう思っているのです。こうして私が発見したのは、互いの違いに焦点を当てるのではなく、そもそもなぜこの議論をしているのかに焦点を当てるのがだいじだということです。私たちは、気候変動の影響を緩和したいわけで、そこにたどり着くための方法は違うかもしれませんが、目的は同じです。ですから、互いの考えの相乗効果を生み出すことで、人々は原子力科学技術のアイデアに対してオープンになると感じています。昨年のCOP28では、原子力科学技術がネットゼロへの移行に重要であることが初めて認識されました。そのうえで、IYNCが20か国以上から70名以上の代表団をCOPに送り、若い世代の声を届けたことを誇りに思います。 COPの場で誰もが原子力を好きになるわけではありません。しかし、私の目的は、人の心を変えることではなく、ただ、事実を伝え、十分な情報に基づいた判断をしてもらうことなのです。ある時、COPのIYNCのブースにドイツの人が来て、原子力の本当の問題は核拡散だと言いました。そこで私は、IAEAという機関があり、世界中の国々を訪ねて施設が悪用されていないことを確認していると説明しました。彼女が「ニュースで報道されているのはごく一部の国だけだから、IAEAが行くのはごく一部の国だけだと思う」と言ったので、私は「いいえ、ぜひIAEAの公式サイトを見てみてください」と言いました。数日後、彼女はブースに立ち寄り、「IAEAのウェブサイトを見た。もう原子力のことを心配していない」と言いました。だから、コミュニケーションの相手を尊重することが大切だと思います。闘争的になるのではなく、その人の考えや懸念を受け入れることです。相手の考えは、自分の考えと同様に、正当なのです。それは原子力に限らずあらゆる問題について言えることですね。クリスティンそうですね。互いを尊重し合えば、人々はあなたの言っていることにもっと心を開いてくれるものです。こうした当たり前の教訓を学ぶのに、原子力業界は少し遠回りしてしまったのかもしれません。
- 24 Jun 2024
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核セキュリティ対策を巡る内外の動きが活発化
核セキュリティ対策の強化に向け昨今、国内外で注目すべき動きがみられている。5月20~24日に、IAEA主催の「核セキュリティに関するIAEA国際会議」(ICONS、ウィーン)が開催され、日本からは、政府代表として辻清人外務副大臣が初日の閣僚会合に出席。同会議は、2013年の初回開催以来、概ね4年ごとに行われており、今回、第4回会合での議論は、今夏のパリ五輪開催を前に、国際的関心が高いものとみられる。〈外務省発表資料は こちら〉核セキュリティとは、テロリストなどが魅力とする核兵器の盗取盗取された核物質を用いた核爆発装置の製造放射性物質の発散装置の製造原子力施設や放射性物質の輸送等に対する妨害破壊行為――といった脅威が現実のものとならないよう、とるべき措置を指しており、国内でもIAEAミッションによる提言などを踏まえ、所要の法整備が図られてきた。辻外務副大臣は、今回のICONS閣僚会合での代表演説の中で、「各国におけるエネルギー需要の増大や脱炭素の世界的潮流の中で、原子力発電への国際社会の関心が高まる中、原子力の平和的利用を進める各国は、非国家主体への核兵器や核物質の拡散リスクといった核セキュリティに対する認識を向上させ、最高水準の核セキュリティの確保に向け取り組んでいく必要がある」と強調。閣僚会合で発出された議長声明では、加盟各国による小型モジュール炉(SMR)への関心高揚、サイバー攻撃に関するリスク対応など、昨今の情勢にも留意し、引き続き核セキュリティ分野のコミュニケーション向上を図っていくことが盛り込まれた。議長声明では、IAEA核セキュリティ実演訓練センターの開所を歓迎した上で、加盟各国による能力構築の重要性も強調している。日本では、これまでも核セキュリティ分野の能力構築に向け、技術的な立場から貢献してきた。2024年3月末には、日本原子力研究開発機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN)による核物質防護実習フィールド(PPフィールド)がリニューアル。5月10日には、元ISCNセンター長で現在、原子力委員会委員を務める直井洋介氏出席のもと、新施設の開所式が行われた。PPフィールドは、核物質防護・核セキュリティに係る国内外の人材育成を支援すべく2012年度に整備された施設で、実際の脅威を模擬し侵入検知センサーや監視カメラなどの機能を体験型で実習する施設だ。セキュリティ確保上、報道関係者による取材も厳しく制限されている。PPフィールドはこのほど、12年に及ぶ使用による経年劣化から、建屋の更新を中心とした整備・拡充を実施。バーチャルリアリティ(VR)システムを更新したほか、新たな脅威に対応するトレーニングシステムの開発機能も備え、「ISCN実習フィールド」としてリニューアルされた。
- 06 Jun 2024
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放射線審議会 ICRP2007年勧告の国内法令取り入れで部会設置へ
放射線審議会は4月23日に総会を開き、航空機乗務員の被ばく管理ガイドラインの見直し、国際放射線防護委員会(ICRP)2007年勧告の国内法令への取り入れ方等について審議し、今後、部会を設置するなどして必要な検討を進めることを決めた。航空機乗務員の宇宙線被ばく管理に関するガイドラインは、年間5mSvを管理目標値として航空会社に自主管理を求めたもので、2006年に策定された。以来、約18年経過している。その間にICRPが、航空飛行時の宇宙放射線からの防護に関する刊行物「ICRP Pub.132」を、また国際原子力機関(IAEA)が職業上の放射線防護に関する刊行物「GSG-7」などを発刊し、航空機乗務員の被ばく管理に関していくつか新たな考え方が示されている。民間航空機の飛行ルートに関しても、ロシアによるウクライナ侵攻によって2022年以降、欧州線が北極付近への迂回ルートをとることが増え、ロシア上空を通過する従来ルートより被ばく線量が高めになっている可能性が指摘されている。総会では、こうした状況の変化を的確にフォローアップし、論点を整理した上でガイドラインの見直しを進めてはどうかとの事務局(原子力規制庁)案が提案され、了承された。出席した各委員からは、被ばく線量の最新の状況を確認することや現場での被ばく管理の状況を確認した上で、必要な見直しについて議論を進めるべき、といった意見が出され、論点の整理や部会設置案など今後の検討にむけた準備を進めることになった。またICRP2007年勧告の国内法令への取り入れに関しては、これまで同審議会で進められてきた議論を踏まえ、外部被ばくと内部被ばくに分けて2つの部会を設置し、本格的に検討を開始することになった。2007年勧告に準拠した公衆の内部被ばくに関する刊行物はまだ発刊されていないため、その刊行を待ち技術的な情報が揃ってから部会を設置するなどの案も事務局から示されたが、各委員の意見を踏まえて2つの部会を設置し、内部被ばくに関しては職業人に関する検討から始めることになった。部会の設置、検討開始は来年度になる見通し。ICRPの2007年勧告は1990年勧告以来、放射線防護体系の総論的な勧告となるもので、国内法令への取り入れは多くの時間と作業量を要し、社会経済への影響も大きいため、同審議会ではどのように取り入れるか、その影響はどうか、また海外の状況確認や具体的な検討に必要な事項の調査などを進めてきた。2020年1月の総会では検討の中間とりまとめが行われ、「外部被ばくと内部被ばくの線量係数、職業被ばくと公衆の被ばくの線量係数を同時に法令に取り入れることが適当」との考え方が示された。昨年7月に開催された前回の総会では、検討が必要な技術的な事項や海外の状況確認がなされ、部会の設置やスケジュール等の案を準備することが了承されていた。
- 24 Apr 2024
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G7外相会合 ALPS処理水の海洋放出をあらためて支持
G7(=先進7か国)外相会合が4月17日~19日の3日間、イタリアのカプリ島で開催された。中東やウクライナ、インド太平洋といった地域情勢や国際社会の喫緊の諸課題について討議し、最終日の19日、「グローバルな課題への対処及びパートナーシップの促進」に関するG7外相コミュニケが発出された。同コミュニケによると、G7外相会合では30もの多岐にわたるテーマで討議。うち、原子力をめぐる課題は、軍縮、核不拡散、北朝鮮問題のほか、気候変動、エネルギーセキュリティー、環境のテーマの中で討議されている。気候変動、エネルギーセキュリティー、環境のテーマでは、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑制し、2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標達成のため、国際社会が団結して、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を公正、秩序ある、持続可能な方法で実施し、低排出技術やゼロ排出技術の加速化に貢献する必要性を訴えた。なお、エネルギー安全保障上の潜在的なリスクに対処するため、エネルギー源やエネルギー供給を多様化する政策を確保しつつ、クリーンで、安全、持続可能かつ手頃な価格のエネルギーの開発と普及を迅速に進める必要があるとしている。そのためG7諸国が達成に向けて具体的にコミットする戦略的分野として、バイオエネルギーなどの再生可能エネルギー、原子力エネルギー(先進的ならびに小型モジュール炉を含む)、エネルギー効率、メタン排出削減、産業の脱炭素化、水素エネルギー、炭素管理技術を掲げ、それらの重要な役割を認識すると表明している。軍縮、核不拡散のテーマでは、原子力安全、セキュリティ及び不拡散に関する最高水準の遵守を表明するとともに、国際原子力機関(IAEA)による国際的な不拡散体制の維持、原子力安全、セキュリティ及び保障措置の強化と、原子力技術の平和的利用の促進という、極めて重要な役割を強調した。また、ロシアのウクライナ侵略をうけて、ロシアからの民生用原子力及び関連製品への依存を更に低減するための措置を評価し、供給を多様化しようとする国々を支援するとのG7首脳のコミットメントにも言及。さらに、福島第一原子力発電所のALPS処理水に関し、「日本は海洋放出を責任をもって管理しており、科学者、パートナー及びIAEAと積極的に調整しながら、安全で透明性のある科学に基づくプロセスを実施していることを支持する」と表明した。G7外相会合では、ウクライナ情勢をめぐる討議も行われた。上川外務大臣は、「『きょうのウクライナはあすの東アジアかもしれない』という問題意識で取り組んでおり、ウクライナとともにあるという日本の立場は揺るがない」と述べ、ロシアに対する厳しい制裁とウクライナへの支援を継続していく方針を強調。最終日には、「ウクライナへの確固たる支援」に関するG7外相コミュニケが発出された。同コミュニケでは、より広範な国際社会への影響を伴う原子力安全、セキュリティに深刻なリスクをもたらすロシアによるウクライナのザポリージャ原子力発電所の占拠、継続的支配及び軍事化を非難、IAEA専門家の継続的な駐在と現場における原子力安全、セキュリティの確保など、IAEAのリスク軽減に向けた取り組みを支持する文言が盛り込まれた。
- 23 Apr 2024
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柏崎刈羽の核物質防護 IAEA専門家ミッションが終了
東京電力柏崎刈羽原子力発電所で3月25日より実施されていた、国際原子力機関(IAEA)による専門家ミッションの全日程が、4月2日に終了した。同ミッションは、IAEA主導のもと、国際的な専門家で構成されたチームが、加盟国内の事業者が有する原子力施設、その活動について、国際基準に照らして評価・助言を行うもの。柏崎刈羽原子力発電所では2023年12月27日、原子力規制委員会による「特定核燃料物質の移動を禁ずる是正措置命令」が、規制上の対応区分変更に伴い解除となった。今回、東京電力が受け入れたミッションは、核物質防護の国際専門家により、主にその設備面および運用面の改善に向けた同社の取組についてチェックを受け、継続的改善につなげていくのが目的。来日した5名の専門家らは期間中、ヒアリングや現場の視察を実施。最終日の4月2日、稲垣武之・柏崎刈羽原子力発電所長らとのミーティングに臨んだ。その中で、稲垣所長は、専門家ミッションによる助言に関し、「重要な意見として所員全員で受け止め、今後はこれらのアドバイスに基づきIAEAの国際基準に沿って、当社の核セキュリティを強化していく」と述べた。ミッションの一員であるテクニカルオフィサーのタパニ・ハック氏は、2018年に日本が受け入れた国際核物質防護諮問サービス(IPASS((IAEAが加盟各国の核セキュリティ強化のため勧告や助言を行うもので、日本では2015年に初めて受け入れられ、2018年にフォローアップミッションが行われた。)))を振り返り、「核物質防護システムの幾つかの分野で継続的な改善がなされていることを確認した」と評価。柏崎刈羽発電所において核物質防護事案が発生した2020年以前とも比較して、改善が進んでいると認められた形となる。今ミッションの最終報告書は数週間後に取りまとめられる見通し。
- 03 Apr 2024
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IAEAグロッシー事務局長来日 ALPS処理水に関し地元評議会に出席
福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水・処理水対策に係る資源エネルギー庁の評議会が3月13日、福島県いわき市で開催された。今回会合には、来日中のラファエル・マリアーノ・グロッシー国際原子力機関(IAEA)事務局長も出席し、ALPS処理水の安全性レビューに関して説明し意見を交わした。同評議会は、県および立地市町村との意見交換の場として、随時行われているもの。ALPS処理水の海洋放出は2023年8月に開始。日本政府との覚書に基づき実施されているIAEA専門家による安全性レビューミッションが同年10月、海洋放出開始後、初めて行われ、2024年1月30日には、日本の取組について「妥当」とする報告書が公表されている。グロッシー事務局長の来日は昨夏以来。今回の評議会で同氏は、当時、日本政府に提出したALPS処理水の安全性に関し、IAEAが取りまとめた包括報告書についてあらためて言及。「IAEAは大変重要な意志決定を行った」と述べるとともに、「環境にマイナスの影響が及ばないようしっかりとプレゼンスを示していく」との強い姿勢を示した。これに立脚し、独立した評価を担保すべく、福島第一原子力発電所構内にIAEA職員を駐在させている意義を繰り返し強調。海洋放出の現状に関しては、「放出されているのはまだ5%未満に過ぎず、長い道のりの最初の段階にある」と述べ、引き続き「高い透明性、正確な技術を持ち、オープンに対話する」必要性を述べた。一方で、「近隣諸国からIAEAの活動自体に対する批判がある」と、政治的な懸念も示した上で、「皆様から色々なことを学んでいきたい」と、忌憚のない意見を求めた。グロッシー事務局長は、12日には齋藤健経済産業相との会談、東京大学での講演会などに臨んだ。13日には同評議会への出席後に福島第一原子力発電所を視察し14日には資源エネルギー庁・日本原子力産業協会主催の「原子力サプライチェーンシンポジウム」に出席する。
- 13 Mar 2024
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IAEAがレビューミッションの報告書 海洋放出後初
福島第一原子力発電所におけるALPS処理水に関し、海洋放出が始まってから初となるIAEA安全性レビューミッションの報告書が1月30日に公表され、日本の取組は「妥当」と評価された。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉今回の安全性レビューミッションは、2023年10月24~27日に行われたもので、6回目となる。IAEAからは、リディ・エヴラール事務次長、グスタボ・カルーソ氏(原子力安全・核セキュリティ局調整官)ら、7名の職員が、この他、アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、中国、フランス、ベトナム、マーシャル諸島、ロシアの国際専門家9名が来日。経済産業省、原子力規制委員会、外務省、東京電力との会合を通じ、海洋放出開始後のモニタリング状況、放出設備の状況などについて説明を受け、意見交換を行うとともに、現地調査を実施し、IAEA国際安全基準に基づき技術的事項を議論した。このほど公表された報告書は、技術的事項ごとに議論のポイントや所見の概要を記載したもので、「関連する国際安全基準の要求事項と合致しない如何なる点も確認されなかった。IAEAが2023年7月4日の包括的報告書で示した安全審査の根幹的な結論を再確認することができる」と、日本の取組を「妥当なもの」と評価。現地視察に基づき、機器・設備が国際安全基準に合致した方法で設置・運用されていることも確認したとしている。また、国際安全基準の要求事項とは別に、「すべてのモニタリングデータを単一のウェブサイトに集め、アクセスしやすい形式にすることが非常に有用」と、情報発信に関し指摘した。IAEAによる次回のレビューミッションは、今春に実施される予定。今回のIAEA報告書を受け、日本政府では、「引き続き、IAEAレビューを通じ国際的な安全基準に従った対策を講じ続け、安全確保に万全を期していく」としている。合わせて、IAEAは、ALPS処理水および海洋環境中の放射性核種分析に関する2つの報告書を公表しており、IAEAの研究所などによる「分析機関間比較」(ILC)を通じ、それぞれ、東京電力、日本の分析機関の分析能力の公正さが確認されている。
- 31 Jan 2024
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福島第一近傍の2022年海洋モニタリングでIAEAが報告書
福島第一原子力発電所近傍における海水・海底土や福島県の水産物の採取によるIAEAの海洋モニタリングに関する2022年報告書が12月12日までに公表された。〈発表資料は こちら〉日本政府の要請に基づき、わが国の海域モニタリングの信頼性、透明性を担保すべく、2014年から実施されている分析機関間比較調査で、IAEAが福島第一原子力発電所廃炉の進捗について、2013年度に取りまとめた報告書のフォローアップとなるもの。2022年は、11月7~14日に、モナコのIAEA海洋環境研究所(MEL)の専門家に加え、さらなる透明性向上の観点から、独立した第三国として韓国とフィンランドの分析機関も参加している。今回公表された報告書によると、採取した海水・海底土、福島県で水揚げした数種類の魚は、均質化した上で、日本の11機関、IAEA/MEL、第三国の分析機関に送付され分析。IAEAが集約・評価した。その結果、それぞれの試料中の放射性核種を比較し、大多数に有意な差がみられず高い信頼水準にあると結論付けた上、「日本の分析機関が、引き続き高い正確性と能力を有する」と、評価している。2022年からは、日本政府とIAEAとの覚書により実施されているALPS処理水安全性レビューの一環となる分析機関間比較調査も行われており、その結果については別途公表される予定。2023年も、10月16~23日、IAEA/MELに加え、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の専門家も来日し、同調査が行われた。
- 12 Dec 2023
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IAEA/IRRSミッション受入 25年度下期に
原子力規制委員会は11月8日、IAEAによる総合規制評価サービス(IRRS)ミッションの2025年度下期頃の受入れに向け準備を進めることを決定した。〈規制委発表資料は こちら〉IRRSは、IAEAが加盟国の要請に基づき原子力利用の安全確保に向け実施しているレビューサービスの一つ。専門家で構成されるレビューチームにより、対象国の原子力規制に関し、その許認可・検査に係る法制度、関係組織も含む幅広い課題について、規制当局や被規制者へのインタビュー、原子力施設への訪問などを通じた総合的レビューを実施し助言・勧告を行う。IRRSミッションは、欧州諸国を中心に、毎年、数か国で受け入れられてきたが、近年では新興国での活動も顕著で、2022年には原子力発電所の建設が進むトルコ、バングラデシュでも受け入れている。日本におけるIRRSミッションは、2007年に旧原子力安全・保安院および旧原子力安全委員会が受け入れており、両者の役割の明確化などが助言・勧告された。福島第一原子力発電所事故後は、規制委員会が2016年に受け入れ。IRRSミッションによる勧告・提言に関し、同委は「IRRSにおいて明らかになった課題への対応方針」のもと、プロジェクトチームを設置し検討を行い、検査制度や放射線源規制の改善に向けた法整備などにつなげている。規制委員会による今回のIRRSミッション受入れは、山中伸介委員長が就任して1月後の2022年10月、今後の重点的活動方針の一つとして示された「国際機関による外部評価」を具体化するもの。同委では、今秋11月中を目途にIAEAに対する正式要請文書を発出。関係省庁とも調整しながら、2024年度冬以降、IAEAとの公式準備会合を行いスケジュールの詳細を詰めていく。なお、2023年に、IRRSミッションの受入れは、チェコ、オランダ、ベルギー、ポーランド、サウジアラビアで実施されたほか、ルーマニア、モロッコでも予定されている。
- 08 Nov 2023
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ALPS処理水海洋放出後初 IAEAレビュー終了・年内に報告書
福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の海洋放出に関するIAEAレビューミッションが10月27日、4日間の日程を終了した。今回のミッションは、2022年2月以来、6回目で、2023年8月24日に海洋放出が開始されてからは初となる。〈資源エネルギー庁発表資料は こちら〉日本を訪れたIAEAタスクフォースチームは、リディ・エヴラール事務次長、グスタボ・カルーソ氏(原子力安全・核セキュリティ局調整官)を含む、7名のIAEA職員の他、アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、中国、フランス、ベトナム、マーシャル諸島、ロシアの9名の国際専門家で構成。日本滞在中、経済産業省、原子力規制委員会、外務省、東京電力との会合を通じ、海洋放出開始後のモニタリング状況、放出設備の状況などについて説明を受け、意見交換を行うとともに、25日には現地調査を実施。ALPS処理水の海洋放出の安全性について、IAEA国際安全基準に基づき技術的議論を行った。今回のミッションに関しては、年内に報告書をまとめる予定。レビュー開始に先立ち、23日にフォーリン・プレスセンターで外国人記者団らとの会見に臨んだエヴラール事務次長はまず、7月にIAEAが公表したALPS処理水の安全性レビューに係る包括報告書に言及。海洋放出計画に関し、「国際安全基準に合致しており、人および環境に対して無視できるほどの放射線影響だ」と、あらためて強調した上で、IAEAとして、海洋放出中・放出後を通じ、引き続き安全性評価にコミットしていく姿勢を示した。同氏は、ラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長と上川陽子外相が9月の国連総会に伴う渡米中、署名したALPS処理水に係る日本・IAEA間の協力覚書についても紹介。IAEAによる確認・評価に関する枠組みを設定したもので、専門家の日本駐在、独立した裏付け(サンプリング・分析)、アウトリーチ・広報活動などを盛り込んでいる。会見には、ドイツ、フランス、スペイン、ロシア、シンガポール、韓国、中国の外国人記者が参加。エヴラール事務次長は、「独立性、客観性、透明性を確保することで、国内外の信頼醸成につながるものと考える」と、IAEA安全性レビューのスタンスを強調したALPS処理水の海洋放出は、10月23日に2回目が終了。11月2日に3回目の放出が始まる予定。
- 30 Oct 2023
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IAEAの海洋モニタリング開始 中国も参加
福島第一原子力発電所周辺の海洋試料を採取し分析を行う、モナコ所在のIAEA海洋環境研究所(MEL)の専門家一行が、10月16~23日の日程で調査を開始した。日本の海域モニタリングの信頼性・透明性確保に向け、IAEAや国内外分析機関による分析結果を比較評価するもので、2014年より継続実施されている。〈外務省発表資料は こちら〉今回、さらなる透明性向上の観点から、IAEA/MELに加え、IAEAから指名されたカナダ、中国、韓国の専門家も新たに参加する。中国の参加に関し、日本サイドとして同調査をリードする原子力規制委員会の山中伸介委員長は、11日の定例記者会見で、「IAEAの客観的モニタリングについて、中国も含めた第三者が加わったことで、より中立性、透明性、公平性が高まった」と、期待を寄せた。調査期間中、専門家一行は海水・海底土、水生生物・水産物などの試料を採取。評価結果は、IAEAが別途、実施しているALPS処理水の取扱いに関する安全性レビューの裏付けにも資する。例えば、水産庁が参画する水産物の採取については、福島県で漁獲される6種程度を予定しており、19日にいわき市沿岸で採取した後、20日に海洋生物環境研究所(千葉県御宿町)で分析状況の確認を行う。直近、2021年度実施分の報告書では、「日本の分析機関の試料採取方法は適切であり、高い正確性と能力を有している」と、評価されている。ALPS処理水の海洋放出は8月24日~9月11日の初回分が終了し、続く2回目が10月5日から約17日間の予定で行われている。海洋放出開始後、初となるIAEAの安全性レビューミッションは、10月24~27日に来日する予定。今回、調査を行うタスクチームには、IAEA職員の他、独立した立場で参加するアルゼンチン、豪州、カナダ、中国、フランス、韓国、マレーシア、マーシャル諸島、ロシア、米国、英国、ベトナムの各国出身の国際専門家11名が含まれる。
- 16 Oct 2023
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原産協会・新井理事長 処理水放出「着実に安全に」
日本原子力産業協会の新井史朗理事長は10月6日、記者会見を行い、福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出について発言した。8月24日から17日間かけて行われた1回目の海洋放出は、安全かつ着実に実施され、海域モニタリングや魚のトリチウム濃度分析においても異常値は検出されておらず、10月5日からは2回目の放出が始まっている。今のところ、福島県内魚介類の価格低下はみられず、むしろ「常磐もの」の流通量が不足していることから、新井理事長は、「全国の多くの方々が福島を応援している」と、原子力産業に携わる立場から謝意を表した。一方で、中国や北朝鮮による科学的根拠によらない主張や、中国による日本の海産物輸入の全面停止を「大変遺憾に思う」と非難。特に、北海道産ホタテへの影響を憂慮した。さらに、新井理事長は、先般、開催されたIAEA総会(ウィーン、9月25~29日)への出席、「原子力とグリーントランスフォーメーション(GX)」をテーマとする日本ブース展示について紹介。そのオープニングセレモニーは、高市早苗内閣府科学技術担当相の「処理水海洋放出を科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要」とのスピーチで幕を開け、浜通り地方の日本酒を来訪者に振る舞い福島の復興をアピールしており、「好評だった」と所感を述べた。その上で、新井理事長は、処理水の海洋放出に関し、「何十年にもわたって続く長い取組」との認識をあらためて示し、「東京電力が着実に安全に海洋放出を継続することが大前提であり、その上で、一日一日、異常がないというデータが積み重なっていくことが極めて重要」と強調した。また、新井理事長は、9月29日に資源エネルギー庁と共同で公開したウェブサイト「原子力サプライチェーンプラットフォーム」について紹介。日本国内では、1970年以降に運転開始した原子力発電所の多くで、原子力技術の国産化率が90%を超えるなど、国内企業にその技術が集積されており、国内の発電所の安定利用や経済・雇用に貢献してきた。しかしながら、東日本大震災以降は、再稼働の遅れや新規建設プロジェクトの途絶により将来の事業見通しが立たず、重要な技術を持つ中核サプライヤーの撤退が相次いでいる。こうした状況を踏まえ、3月に原子力サプライチェーンの維持・強化を目的とした「原子力サプライチェーンプラットフォーム」が資源エネルギー庁により設立され、原産協会が共同事務局を務めることとなった。このたび公開したウェブサイトでは、人材や技術の維持・強化に向けた各事業者の取組事例、補助金・税制に関する紹介の他、海外の建設プロジェクトへの参画に向けた情報公開を行っていく。
- 10 Oct 2023
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IAEA総会が開幕 高市大臣が処理水問題で安全性を強調
国際原子力機関(IAEA)の第67回通常総会が、9月25日から29日までの日程でオーストリアのウィーン本部で始まった。開会の冒頭ではIAEAのR.M.グロッシー事務局長が演説し、「世界中の世論が原子力に対して好意的に傾きつつあるが、原子力発電の利用国はそれでもなお、オープンかつ積極的にステークホルダーらと関わっていかねばならない」と表明。安価で持続可能なエネルギーによる未来を実現するには大胆な決断が必要であり、原子力も含め実行可能なあらゆる低炭素技術をすべて活用する必要があると述べた。同事務局長はまた、IAEAの進める原子力の活用イニシアチブが地球温暖化の影響緩和にとどまらず、がん治療や人獣共通感染症への対応、食品の安全性確保、プラスチック汚染などの分野で順調に進展していると表明。原子力発電所の安全性は以前と比べて向上しており、他のほとんどのエネルギー源よりも安全だと指摘した。その上で、原子力が地球温暖化の影響緩和に果たす役割と、小型モジュール炉(SMR)等の新しい原子力技術にいかに多くの国が関心を寄せているかを強調。加盟各国でSMRの活用が可能になるよう、IAEAがさらに支援を提供していく方針を示した。同事務局長はさらに、8月から福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が始まり、IAEAが独自に客観的かつ透明性のある方法でモニタリングと試料の採取、状況評価等を行っていると説明。この先何10年にもわたり、IAEAはこれらを継続していく覚悟であるとした。IAEAの現在の最優先事項であるウクライナ問題に関しても、ウクライナにある5つすべての原子力発電所サイトにIAEAスタッフが駐在しており、過酷事故等の発生を防ぐべく監視を続けるとの決意を表明している。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した高市早苗内閣府特命担当大臣が登壇。核不拡散体制の維持・強化や原子力の平和利用、ALPS処理水の海洋放出をめぐる日本の取組等を説明した。ウクライナ紛争については、同国の原子力施設が置かれている状況に日本が重大な懸念を抱いており、ロシアの軍事活動を最も強い言葉で非難すると述べた。また、原子力の平和利用に関しては、気候変動等の地球規模の課題への対応とSDGsの達成に貢献するものとして益々重要になっていると評価。その上で、食糧安全保障に係るIAEAの新しいイニシアチブ「アトムスフォーフード(Atoms4Food)」に対し賛意を示した。東京電力福島第一原子力発電所の廃炉にともない、8月にALPS処理水の海洋放出が開始されたことについては、処理水の安全性に関してIAEAの2年にわたるレビュー結果が今年7月に示されたことに言及。処理水の海洋放出に関する日本の取組は関連する国際安全基準に合致していること、人および環境に対し無視できるほどの放射線影響となることが結論として示された点を強調した。高市大臣はまた、日本は安全性に万全を期した上で処理水の放出を開始しており、そのモニタリング結果をIAEAが透明性高く迅速に確認・公表していると説明。放出開始から一か月が経過して、計画通りの放出が安全に行われていることを確認しており、日本は国内外に対して科学的かつ透明性の高い説明を続け、人や環境に悪影響を及ぼすことが無いよう、IAEAの継続的な関与の下で「最後の一滴」の海洋放出が終わるまで安全性を確保し続けるとの決意を表明した。 同大臣はさらに、日本の演説の前に中国から科学的根拠に基づかない発言があったと強く非難。この発言に対し、「IAEAに加盟しながら、事実に基づかない発言や突出した輸入規制を取っているのは中国のみだ」と反論しており、「日本としては引き続き、科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を中国に求めていく」と訴えた。 ♢ ♢例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素と持続可能性のための原子力とグリーントランスフォーメーション」をテーマに、GX実現にむけた原子力政策、サプライチェーンの維持強化、原子力技術基盤インフラ整備、高温ガス炉や高速炉、次世代革新炉、ALPS処理水海洋放出などをパネルで紹介している。展示会初日には、高市大臣と酒井庸行経済産業副大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。高市大臣は挨拶の中で、ブースにおいて次世代革新炉開発を紹介することは時宜を得ているとするとともに、ALPS処理水海洋放出は計画通り安全に行われており、関連するすべてのデータと科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要だと述べた。4年ぶりに行われた今回のオープニングセレモニーでは、日本原子力産業協会の新井理事長による乾杯が行われ、福島県浜通り地方の日本酒が来訪者に振舞われるなどした。(参照資料:IAEAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
- 27 Sep 2023
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Net Zero Nuclear イニシアチブをロンドンで立ち上げ 原産協会も参加
世界原子力協会(WNA)とアラブ首長国連邦(UAE)の首長国原子力会社(ENEC)は9月7日、「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブを共同で立ち上げた。NZNの下、エネルギー・セキュリティの確保と、CO2排出量の実質ゼロ化の両立に、原子力が果たす多大な貢献を世界中に周知し、原子力開発の世界規模での拡大を目指す。同時に、UAEがホスト国となる今年11月末から開催される国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)において、こうした原子力の価値が言及されることを狙う。同国の原子力発電の導入スピードはめざましく、発展が期待されるMENA地域(中東および北アフリカ)における、原子力導入のモデルケースとして世界中から注目を集めている。NZNは、国際原子力機関(IAEA)の同様のイニシアチブである「Atoms4NetZero」の協賛を得ており、英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)もNZNへの参加を表明。日本からは、日本原子力産業協会(JAIF)が参加表明し、NZNの発足式には植竹明人常務理事が出席した。最新の分析では、世界的規模でクリーンなエネルギーによる供給を保障しつつ、2050年までに世界中のCO2排出量を実質ゼロ化するためには、原子力設備容量を少なくとも現在の3倍に拡大しなければならないと指摘されている。すなわち原子力発電プラントを年平均4,000万kWのペースで建設する必要があり、これは過去10年間の開発規模の6倍以上ときわめて難しい数字である。WNAのS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「我々はエネルギー危機の真っただ中におり、CO2排出量の実質ゼロ化で原子力の果たす役割を過小評価している余裕はない」と強調。同時に、実際に原子力設備容量を拡大するには迅速で効率的な資金調達や政治的意志が必要だとした上で、「クリーン・エネルギーへの移行において、一刻も早く現実的かつ実証済みのアプローチを取るべきだ」との見解を示した。原産協会の植竹常務理事は「これまで国連気候変動枠組条約締約国会議の場では原子力の役割りが十分に議論されてこなかった。しかし、今や世界の多くの国は原子力なしで地球温暖化を防ぐことが難しいことに気付いている。今回こそイデオロギーの違いを乗り越えて原子力を正当に評価する議論をしてほしい」と、同イニシアチブ参加の意義を強調し、「COP28まで時間的余裕はないが、原産協会としても可能な限り広く賛同を得るべく努力していきたい」と強い意欲を示した。今後NZNでは、各国の政府機関や産業界、NGOなどに呼び掛けて、イニシアチブへの参加を促していく。そして世界中からステークホルダーが集まるCOP28の場で、世界へ向けてNZNとしての強いメッセージを発信していきたい考えだ。
- 12 Sep 2023
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IAEA 女子学生向け支援制度の参加者募集
国際原子力機関(IAEA)は、M.キュリー夫人の偉業に基づき、若い女性が原子力分野でキャリアを追及できるよう支援するために設置した「マリー・スクウォドフスカ・キュリー・フェローシップ・プログラム(MSCFP)」の今年の参加者を募集している。応募締め切りは9月30日。MSCFPは女性物理学者のパイオニアであるとともにノーベル賞を2度受賞したキュリー夫人にちなんで名付けられ、若い女性に原子力分野でキャリアを積む意欲を喚起させ、原子力分野における女性の数を拡大することを目的とし、現在のIAEA事務局長、ラファエル・グロッシー氏によって設置された。MSCFPは原子力関連課目の修士号取得を目指して勉強中の女子学生に修士課程への最高2万ユーロ(約313万円)の奨学金とIAEAが推進する実習研修制度(internship)に最大12か月参加する機会を提供している。さらに、学生には様々な教育的かつ専門的ネットワーク形成のためのイベントに参加する機会も提供される。2020年の創設以来、110ヶ国360人の学生が選抜されているが、さらに多くの女子学生に機会を付与できるよう、今年度は最大200名の奨学生を選ぶことを目標としている。IAEAは、女子学生を対象としたMSCFPの他にも、若手・中堅女性専門家向けのキャリア開発を目的としたリーゼ・マイトナー・プログラムを用意しており、これらを通じて原子力分野のジェンダーバランス改善に取り組んでいる。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
- 11 Sep 2023
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原子力マネジメントスクール 14か国が参加
「Japan-IAEA 原子力エネルギーマネジメントスクール(NEMS) 2023」が8月22日~9月8日の日程で、東京大学本郷キャンパス(一部の講義とテクニカルツアーを福島・茨城県で実施)で開催されている。原子力発電の導入を検討する各国および日本の原子力政策・規制組織の若手担当者、技術者・研究者が対象。NEMSは、世界各国で原子力エネルギー計画の策定・管理をリードする人材の育成を目指し、エネルギー戦略、核不拡散、国際法、経済・環境問題など、幅広い課題について学ぶ機会を提供し、マネジメントに必要な基礎能力を養うことを目的に、2010年にイタリアで始まった。日本での開催(2012年初開催、2014年より日本主催・IAEA共催)は今回で11回目。東京大学大学院工学系研究科の他、日本原子力研究開発機構、日本原子力産業協会、原子力国際協力センターなどで運営する産学官プラットフォーム「原子力人材育成ネットワーク」により実施され、国内行政機関、電力・メーカーからも講師を招く。今回の研修生は、海外13か国(ブルガリア、チェコ、エストニア、ガーナ、インドネシア、ヨルダン、カザフスタン、メキシコ、フィリピン、ポーランド、サウジアラビア、スロバキア、ベトナム)から18名、日本からは11名、計29名が参加した。今回のNEMSは4年ぶりの全面的な対面開催となり、8月22日に行われた開講式で、組織委員長の東京大学大学院工学系研究科准教授・出町和之氏は、会期を通じ対面・現地で講義、グループワーク、施設見学に臨む各国研修生らを大いに歓迎。続いて挨拶に立ったIAEA企画・経済調査官のアンリ・パイエール氏は、気候変動対策における原子力発電の重要性を述べた上、研修を通じ将来に向け専門的なネットワーク構築が図られることに期待を寄せた。また、NEMS前組織委員長の上坂充原子力委員会委員長は、「国際的な討論は極めて重要」と、原子力政策の立案において他国の状況も理解する必要性を強調するとともに、研修生らに対し、カリキュラムの一環となる福島訪問に関して「ALPS処理水対応も含め、福島第一原子力発電所廃炉の現状をよく見て理解して欲しい」と述べた。研修生らは、8月25日まで東大で講義とグループワークに臨んだ後、28日~9月1日には茨城・福島県に移動。原子力機構の高温工学試験研究炉「HTTR」、福島第一・第二原子力発電所、水素エネルギー研究フィールドなどを見学。4日には東京へ戻り、最終テストが実施され、8日に閉幕となる運びだ。
- 01 Sep 2023
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処理水海洋放出 引き続きIAEAと連携
8月24日に福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水の海洋放出が開始された。〈既報〉西村康稔経済産業大臣は25日、IAEAのラファエル・グロッシー事務局長とオンライン会談。廃炉が完遂するまで日本政府として責任をもって取り組んでいく考えを述べた上、引き続き長期にわたるIAEAによる安全性確保への協力を要請。また、林芳正外務大臣も同日、グロッシー事務局長と会談し、ALPS処理水の安全性確認に係る日本・IAEA間の協力・連携関係を対外的に示す文書を早期作成・公表することで一致した。ALPS処理水の安全性に関しては、IAEAが7月に「海洋放出は関連する国際安全基準に合致しており、人および環境に対し、無視できるほどの放射線影響」とする包括報告書を日本政府に提出している。ヨークベニマル各店舗に掲示されているポップには、関係省庁と並び弊紙記事へのリンクもまた、西村経産相は8月24日に放出後の東京電力、環境省、水産庁による海水や魚のトリチウム濃度の分析結果の公表とともに、地元水産業の風評影響に備えた対応や漁業者らの生業の継続支援に取り組むとの談話を発表。28日には、太田房江副大臣とともに、福島県を訪問し、東日本大震災被災地の水産物「三陸・常磐もの」の魅力発信・消費拡大に向けた取組の一環として、県内の流通・小売事業者との意見交換・試食イベントを福島市内のスーパー「ヨークベニマル南福島店」で行ったほか、復興再生に関する地元関係者との協議会に出席。「ヨークベニマル」では、ALPS処理水の安全性を科学的根拠に基づき説明すべく、「連携しながら県産品の魅力発信に力を入れていきたい。安全性を確認しデータを公表することが一番の風評対策になる」と強調。海洋放出後に福島県相馬市で水揚げされたヒラメやホッキ貝の刺し身を試食するなどした。東京電力は、24日のALPS処理水の海洋放出開始後に、発電所から3km以内の10地点で海水試料を採取。すべての地点でトリチウム濃度は検出下限値(10ベクレル/リットル程度)未満であることが確認された。なお、海水による希釈後のトリチウム濃度は1,500ベクレル/リットル未満とされている。東京電力は、海洋放出の状況を知りたいというニーズに応え、ALPS処理水に関するポータルサイトを刷新。経産省も、福島第一原子力発電所近傍における海水中のトリチウム濃度の分析結果について、「異常なし」は青丸表示、「放出停止判断レベルを超える」ときは警告表示と、一目でわかるウェブサイトを公開した。
- 28 Aug 2023
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IAEAグロッシー事務局長が講演 産業界に支援求める
日本原子力産業協会は7月7日、都内で、IAEAのラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長(7月4~7日に日本滞在)による講演会を開催(日本経済団体連合会共催、外務省後援)。グロッシー事務局長は、産業界から集まった約70名の参加者に、IAEAが途上国の支援に向け実施している活動への理解および経済的支援を強く呼びかけた。IAEAでは、発電分野にとどまらず、保健・医療、食料、農業、環境保全、水資源管理など、多分野の放射線利用に係る取組に注力しており、加盟各国からの関心も高まっている。今回の講演会は、「IAEAがSDGsや気候変動といった『グローバルアジェンダ』に対し、いかに幅広く貢献しているのか」について紹介し、IAEAと日本企業との関係構築の一助とするもの。グロッシー事務局長はまず、「IAEAをパートナーとして見て欲しい。われわれが取り組む世界的な活動のどこかに皆さんが『ともに参加できる領域』がある」と述べ、日本の産業界と今後も連携していく意向を示した。その中で、グロッシー事務局長は、「アフリカでは人口の7割が放射線治療にアクセスできない」と、途上国のがん患者をめぐる状況を危惧し、自身が音頭を取って1年半前、放射線治療施設が欠陥・不足している20以上の加盟国を支援するイニシアティブ「Rays of Hope」を立ち上げたことを紹介。その他、医療分野では感染症を媒介する虫の根絶に、農業分野ではかんばつに強い作物の品種開発で放射線技術が用いられ、開発途上国の経済発展に寄与していると述べた。また、最近、関心が高まっている取組として、海洋プラスチック問題に対応するイニシアティブ「NUTEC Plastic」を紹介。「同位体トレーシング」と呼ばれる技術により、プラスチックの再利用をより環境に優しく実現するもので、インドネシアなどでパイロットプラントが立ち上がっているという。「Rays of Hope」も「NUTEC Plastics」も日本政府が拠出金による支援を行っている。一方で、グロッシー事務局長は、「今、われわれが取り組んでいる問題の規模は巨大で、民間企業のダイナミックな力も必要だ」と強調し、産業界に対しIAEAが進めるプロジェクトへの理解・支援をあらためて求めた。グロッシー事務局長は、地球温暖化に伴い原子力エネルギーが世界中で大きな関心を集めている点にも言及。講演後、参加者との間で、浮体式原子力発電所の将来性、一方で、規制対応、産業界の標準化、ファイナンス面での課題についても質疑応答がなされた。また、若手女性研究者を支援する「IAEAマリー・キュリー奨学金」に関連し、参加者から学生向けプログラムの導入を求める声があったのに対し、グロッシー事務局長は、「今回の来日で、福島を訪問した際、生徒たちに原子力について説明したいという地元の高校の先生に会った。次回、福島を訪れた際には、高校生たちと対話したい」などと、微力ながら応えていく姿勢を示した。
- 10 Jul 2023
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ALPS処理水の海洋放出設備 使用前検査が完了
原子力規制委員会は7月7日、東京電力に、福島第一原子力発電所のALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する。))の海洋放出に係る移送/希釈/放水の各設備について、使用前検査終了証を交付した。ALPS処理水の海洋放出設備は、(1)測定・確認用設備、(2)移送設備、(3)希釈設備、(4)放水設備――で構成。そのうち、(1)については、3月に使用前検査終了証が交付されており、今回、(2)~(4)の検査が完了し、規制委による使用前検査はすべて完了したこととなる。ALPS処理水の海洋放出設備は、2022年7月に規制委員会より福島第一原子力発電所に係る実施計画変更認可を受け、8月に設置工事が開始された。2023年4月26日には放水トンネル(長さ約1km)が完成。6月26日にすべての施設の設置が終わり、同30日に最終の使用前検査が実施された。ALPS処理水の処分に関する関係閣僚会議は2023年1月に、「海洋放出設備工事の完了、工事後の規制委員会による使用前検査、IAEAの包括的報告書等を経て、具体的な海洋放出の時期は、本年春から夏頃を見込む」との見通しを示している。ALPS処理水の安全性レビューに関するこの包括的報告書は7月4日に日本政府に提出されており、今回の使用前検査終了により、海洋放出開始に向け設備・保安上の準備は整ったこととなる。東京電力は、「ALPS処理水希釈放出設備および関連設備の保守管理に努めるとともに、同設備を的確に運用するため、引き続き、運転操作訓練・警報対応訓練を行なうなど、現場での安全に係る品質向上について積極的に取り組んでいく」とするコメントを発表した。
- 07 Jul 2023
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「処理水の海洋放出計画は国際的な安全基準に合致」IAEA結論
福島第一原子力発電所で発生するALPS処理水((多核種除去設備(ALPS)等により、トリチウム以外の放射性物質について安全に関する規制基準値を下回るまで浄化した水。海水と混合し、トリチウム濃度を1,500ベクレル/リットル(告示濃度限度の40分の1)未満に希釈した上で放水する))の取扱いの安全性に係るレビューを総括するIAEA包括報告書〈要旨仮訳は こちら〉が7月4日、ラファエル・グロッシー事務局長より岸田文雄首相に手交された。2021年7月に日本政府とIAEAとの間で署名された「ALPS処理水の取扱いに係るレビューの包括的な枠組みに関する付託事項」に基づき、IAEAが行ってきた一連のレビューを総括するもの。IAEA包括報告書では、ALPS処理水の海洋放出へのアプローチ、並びに東京電力、原子力規制委員会および日本政府による関係する活動は国際的な安全基準に合致している東京電力が現在計画しているALPS処理水の海洋放出が人および環境に与える放射線の影響は無視できる水準――と結論付けている。今回、グロッシー事務局長が来日したのは、2022年5月以来、3度目。来日初日の7月4日には、岸田首相の他、林芳正外相、西村康稔経済産業相、山中伸介原子力規制委員会委員長と会談を行った。グロッシー事務局長と面会した岸田首相は、包括報告書の受取りに際し、これまでのIAEAによる協力に謝意を表した上で、「科学的根拠に基づいて、高い透明性をもって国内外に丁寧に説明していきたい」と強調。グロッシー事務局長は、「科学的かつ中立的で、日本が次のステージに進むに当たって決断を下すのに必要な要素がすべて含まれている」と述べた。包括報告書は、ALPS処理水の海洋放出について「あくまで決定するのは日本政府であり、この報告はその方針を推奨するものでも、支持するものでもない」としている。会談後、グロッシー事務局長は日本記者クラブで記者会見に臨み、海外からの不安に関する質問に対し「われわれは科学的に健全な評価ができたと確信している」と、包括報告書の意義を強調。また、海洋放出前・中・後を通じモニタリング・評価を継続すべく、福島第一原子力発電所構内にオフィスを立ち上げ、職員を常駐させる考えを表明した。グロッシー事務局長は5日、福島に赴き、午前中、政府・原子力災害対策本部が設置する地元との意見交換の場「廃炉・汚染水・処理水対策福島評議会」(いわき市)に出席。IAEA包括報告書について説明した上で、ALPS処理水の安全性の理解に関し「魔法の杖はない。皆さんの声に耳を傾けることが何よりも大事」と、対話の重要性を強調した。午後からは、福島第一原子力発電所を視察する。IAEA包括報告書の公表を受け、東京電力は、「内容をしっかりと確認し、ALPS処理水の放出に係る安全・品質の確保・向上に活かしていく」とのコメントを発表した。
- 05 Jul 2023
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