原産協会メールマガジン5月号 2009年5月25日発行 |
Index
□米国エネルギー省緊急時対応専門家と懇談
□第42回原産年次大会での海外参加者との懇談会概要
□フランス電力会社(EDF)原子力安全総合監察局局長が原産協会を訪問
□原産協会HP(一般向け)の更新情報
□動画配信
□会員向けHPの更新情報
□英文HPの更新情報
本文
当協会では我が国の原子力法規制のあり方の検討に資する目的で、平成19年度より欧米主要国の原子力発電所の規制体系とその運用実態について、最新知見や運転経験の活用、科学的・合理的規制の実施などの観点から調査・整理を行っています。
平成19年度の米国主体の調査に引続き、平成20年度は欧州(英国、フランス、フィンランド、ドイツ)を主体に原子力発電所に対する国の許認可、検査等の具体的内容、許認可で用いられる審査基準や民間規格類、国の審査員・検査員の資格・教育などについて調査・整理を行いました。
主な調査結果としては、例えば英国では既存のマグノックス炉・AGRは2023年までに順次閉鎖される予定であり、さらに温室効果ガス排出削減の要求にこたえる必要があることからも原子力発電所の効率的な新規建設が必要であり、炉型の設計認証(一般設計評価:GDA)と戦略的立地評価(SSA)の活動が精力的に進められている状況にあります。
また、フランスでは2006年に「原子力の透明性と安全に関する法律」が制定され、従来の原子力安全機関(ASN)が改組されて独立行政機関として放射線防護・原子力安全研究所(IRSN)の支援の下に審査・検査業務を行っています。
オルキルオト3号機(EPR)を建設中のフィンランドにおいては、米国やその他の原子力先進国の許認可規制の優れた点やIAEAの安全基準などを参考に独自の安全基準や許認可規制を構築しており、許認可プロセスに関しては、建設認可及び運転認可の前の段階でエネルギー政策に関する政府の基本決定(DIP:Decision
in Principle)が行われ、施設が社会の全体的な利益に沿っているかに関する肯定的な決定が議会により批准される必要がある点が特徴的といえます。
ドイツについては連邦委託行政として州当局(州の環境省又は経済省)が許認可業務を行い、連邦の環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)は州政府の許認可規制の合法性と合目的性の見地から監視・監督し、必要に応じて指示を行うとともに、許認可手続の制定、安全基準の策定、運転経験の評価分析などの州個別で規定または実施することが適切でない事項を担当しています。
このようにわが国の原子力法規制に関する課題の洗い出し、改善策の検討を行うにあたって比較対象として有効な情報が得られました。今後、当協会では関係機関と連携して原子力法規制の課題、改善策を整理してその実現に結び付けていく計画です。
米国エネルギー省(DOE)の国際緊急時対応専門家一行が4月20日、当協会を訪問し、石塚常務理事らと懇談しました。一行は、ビンス・マクレランド国際緊急時対応・協力担当部長、ロナルド・チェリー米国大使館エネルギー省日本代表ら6名。
マクレランド部長は、核テロ対策や原子力緊急時対策で世界中を出張し、国際原子力機関(IAEA)との協力やアジアネットワークも軌道に乗っていると説明しました。また、近く、米・中・韓・日で長距離トレーサー実験(放射能プルームの移行経路をモニターする)を行うことや、ニューヨーク州でダーティボム演習を実施することを紹介しました。
石塚常務理事は、原産協会として直接緊急時対応には関係しないが、会員企業間での情報共有や、中国原産協会、韓国原産との間でも情報交流を進めていきたいと述べました。さらに、原子力発電の新規導入国の基盤整備を支援するために、最近、原子力国際協力センターを設立したことに触れ、そのテーマには安全性やセキュリティが含まれるだろうと付け加えました。
マクレランド部長は、これまでに日本の原子力発電所の防災訓練に何回か参加しており、その都度、改善されているとの印象を語りました。日本では、防災訓練に公衆が参加し、また首相、大臣、副大臣等のトップクラスが参加し前向きに対応しているとして、米国にも参考になると述べました。
当協会では、第42回原産年次大会(4月13日~15日)に海外から参加した要人を歓迎し、意思疎通・情報交換を図る等の目的で懇談会を開催しました。当協会の今後の活動に係る主な内容をご紹介します。
□フランス電力会社(EDF)原子力安全総合監察局局長が原産協会を訪問
フランス電力会社(EDF)原子力安全総合監察局(IGSN)局長のピエール・ウィロト氏はじめ同監察局の幹部6名が5月15日、当協会を訪れ、服部理事長、石塚常務理事らと懇談しました。
今回の訪問の目的は、退任予定のウィロト局長の後任となるジャン・タンドネ氏を紹介するとともに、EDFの原子力事業をあらためて説明し、また当協会の活動に理解を深めるためのものです。
ウィロト現局長は元空軍中将、タンドネ次期局長は元海軍中将です。
ウィロト局長は、EDFの原子力事業について次のように紹介しました。
・ EDFの原子力事業はPWRに規格化しているのが特長です。現在9基の原子炉が解体中で、その中には黒鉛ガス炉とスーパーフェニックスが含まれます。EPRがフラマンビルで建設中で、さらにパンリーでのEPR新規建設が発表されました。
・ 課題は、今後5年間に多くの原子力技術者が定年を迎えることから、能力の継承をどうするかです。また、原子力発電所寿命の60年への延長(最低でも40年への延長)を今年になって政府に公式に申し入れたところです。寿命延長については、EDFが10年ごとに行う重大検査の機会に次の10年の延長を決めていく考え。
・ EDFは国際展開にも力をいれており、ブリティッシュ・エナジー社の買収、ドイツEnBW社株の取得、米国コンステレーション社の原子力資産取得、ユニスター社との合弁事業、中国の台山にEPR2基を建設するため広東核電集団公司と合弁企業設立など実績をあげています。
原子力安全監査は、①CEOレベル、②発電部門、③各発電所サイトの3つのレベルで互いに独立して実施しています 。
意見交換のなかで、ウィロト局長は、フランスで原子力を深く理解しているジャーナリストは数えるほどしかいないこと、このため、原子力安全当局は、能力があり、理解のあるジャーナリストを育てなければならないことなどを述べました。
また、服部理事長が、EDFの現在の原子力発電依存率(約80%)は将来も維持する計画かたずねたところ、ウィロト局長は、EPRも建設中であり原子力発電依存率が減ることはないだろうと答えました。
右から3番目がウィロト局長、その右隣がタンドネ次期局長 |
東北原子力懇談会の創立50周年記念行事が4月24日、定時総会に引き続き開催され、 外交ジャーナリストで作家の手嶋龍一氏が、「オバマ政権の変革と日本の針路」と題して記念講演、その後、レセプションが行われました。
レセプションでは、須藤義悦・東北原子力懇談会会長の挨拶に続き、関係各位ならびに、当協会の石塚昶雄常務理事が祝辞を述べ、東北地方が原子力発電、原子燃料サイクルの分野でいまや重要な地域になっていることへの、同懇談会のこれまでの活動と、今後より一層の活躍に期待が寄せられました。続いて、東北電力の高橋宏明社長が乾杯の音頭を行いました。
レセプションには、東北経済界の関係者をはじめ、原子力関係からは、高橋宏明・東北電力社長、皃島伊佐美・日本原燃社長、皷紀男・東京電力副社長、森本宜久・電気事業連合会副会長、石川迪夫・前日本原子力技術協会理事長など300名以上が参加しました。
東北原子力懇談会は、1959年に、日本原子力産業会議の関西、中部に次ぐ、3番目の地方組織として設立されて以来、新潟県を含む、東北7県の地区エネルギー懇談会の68の組織と連携し、地域の方と一緒になって、原子力平和利用のための普及・啓発活動を展開してきました。
東北地域においては、現在、21基の原子力発電所が運転を行っており、昨年は、大間原子力発電所が着工、女川原子力発電所のプルサーマル実施の地元申し入れが行われ、さらに、六ヶ所再処理工場では竣工を目指してアクチィブ試験が行われるなど、大きな進展をみせています。
当協会は、「放射性物質等の輸送法令集2009年版」の刊行準備を進めています。
本書は、核燃料物質等の運搬、放射性同位元素等の運搬、放射性医薬品の運搬など、
分野ごとの整理を行い、実務上の使い勝手を改善し、また内容の充実をはかっております。
詳細はこちら→ http://www.jaif.or.jp/ja/book/yuso/
□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
・「プレスキット」に「世界の原子力発電の概要」、「世界の原子力発電の動向2009」を追加
(5/19)
・お知らせ「平成21年度放射線取扱主任者試験を受験される方へ」(5/11)
・柏崎刈羽原子力発電所の運転再開について(服部拓也・原産協会理事長のコメント)(5/8)
・植松邦彦氏を偲ぶ (同氏執筆のショートエッセイを再録しました)(5/8)
・訃報:植松邦彦氏(原産協会担当役、元OECD/NEA事務局長)が死去 (4/30)
・「インドネシアの原子力開発の現状」を掲載 (4/27)
□動画配信 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*第18回 解説 世界の原子力発電開発の状況 (5/18配信)
□会員向けHPの更新情報 ( https://www.jaif.or.jp/member/login.php )
・【日本の原子力発電所の運転実績】4月分を掲載 (5/18)
・JaifTv 動画配信に『第18回 解説 世界の原子力発電開発の状況』を追加(5/18)
□英文HPの更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/english/index.html )
・Atoms in Japan (AIJ) : 週刊英文ニュース(12本 4/28 -5/25)
・FOCUS (AIJ) : (2本 4/28 - 5/25)
[服部理事長]
5/11(月) ICAPP2009 プレナリーセッションでの座長(於:京王プラザホテル)
5/25(月)~5/31(日) ロシア出張(ATOMEXPO2009で講演)
[石塚常務理事]
4/24(金) 東北原子力懇談会総会および50周年記念行事出席
(於:ホテルメトロポリタン仙台)
5/13(水) 中部原子力懇談会総会出席(於:名古屋商工会議所ビル)
5/25(月) 茨城原子力協議会総会にて講演(於:水戸京成ホテル)
・(独)日本貿易保険
・東北インフォメーション・システムズ(株)
・新むつ小川原(株)
原賠法適用の条件と原子力損害の形態
今回は、原賠法適用の条件と原子力損害の形態についてQ&A方式でお話します。
Q1. (適用の条件) 原賠法はどんな場合に適用されるのですか? |
A1.
原賠法には適用の条件が定められています。
事例を分けてわかりやすく説明すると次のようになります。
【1 原子力発電所の運転中に事故が発生し、放射性物質が大量に放出された場合】
これにより生じた損害(原子力損害)については、原賠法の定めにより原子力発電所を運転する電力会社のみが損害賠償責任を負います。
【2 原子力発電所の運転中に高温の蒸気(非汚染)が通っている配管が破断して死傷者が出る等の損害が発生した場合】
この場合は原賠法の対象とはならず、電力会社は一般の不法行為責任による損害賠償責任が問われます。(=原子力損害ではありません)
【3 原子力発電所の運転中に事故が発生したが、死傷者が出るなどの損害が発生しなかった場合】
もともと第三者に損害がなければ法律上の賠償責任の問題にはなりません。放射性物質が放出されていなければもちろん、たとえ放射性物質が放出された場合でも、第三者に損害がなければ原賠法の対象とはなりません。
【4 原子力発電所から窃盗犯により放射性物質が持ち出され、それによって第三者に損害が発生した場合】
この場合は、原子炉の運転のような原子力事業によって生じた事故とはいえません。そのため第三者に損害が生じても原賠法の対象とはなりません。但し、電力会社の管理が不十分なために盗難が生じた場合には、民法上の管理責任に基づく損害賠償責任が問われます。(原子炉の運転等によらない)
【5 原子力発電所の運転中に地震によって、又はテロリストの攻撃によって、放射性物質が大量に放出された場合】
これにより生じた第三者の損害は、原賠法の定めにより原子力発電所を運転する電力会社のみが損害賠償責任を負います。
【6 原子力発電所の運転中に想定外の巨大地震によって、又は外国からの攻撃によって、放射性物質が大量に放出された場合】
これにより生じた第三者の損害は、原賠法の定めにより、電力会社の損害賠償責任とはならず、政府が必要な措置を講じることになっています。
【A1.の解説】
適用条件となるキーワードは、原賠法に定められている「原子炉の運転等」、「原子力損害」、「原子力事業者」です。
「原子炉の運転等」とは、原子炉の運転、加工、再処理、核燃料物質の使用、使用済燃料の貯蔵、核燃料物質等の廃棄、およびこれらに付随して行なわれる核燃料物質や汚染物の運搬、貯蔵のことをいいます。「原子力損害」とは、原子核分裂の際の放射線や熱等により生じた損害、核燃料物質等の放射線および毒性により生じた損害をいいます。「原子力事業者」とは、原子炉の運転等を行うことを許可された事業者のことで、原賠法において具体的に規定されており、原子力事業者に対して、「原子力損害」を賠償するための資金的な手当て(損害賠償措置)が原賠法により強制されています。
原賠法では、「原子炉の運転等」により「原子力損害」を与えたときには「原子力事業者」だけが損害賠償責任を負い、原子力事業者以外の者は責任を負わないことが定められています(無過失責任、責任集中)。ただし、「原子炉の運転等」による損害でも、その損害が「原子力損害」でなければ原賠法の対象にはなりません。
なお、上記のような損害が「異常に巨大な天災地変又は社会的動乱」によって生じたものであれば、政府が必要な措置を講じることになっています。
日本で唯一の実例であるJCO臨界事故(1999年9月30日発生)では、核燃料の加工(原子炉の運転等)の最中にウラン溶液(核燃料)が臨界状態に達して発生した中性子線(放射線)の作用により、作業員(第三者)を死傷させる(原子力損害を与えた)などで、原賠法の適用となり、加工事業の許可を受けているJCO(原子力事業者)だけ(責任集中)が損害賠償責任(無過失責任、無限責任)を負いました。しかし、損害賠償額が当時法律に定められていた損害賠償措置額である10億円を大きく超えて150億円に達したため、被害者救済を完遂するためにJCOの親会社から損害賠償に関する資金的なバックアップがありました。
より詳細な解説はこちら → http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/mag/shosai03.pdf
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Q2. (原子力損害の形態) 「原子力損害」とはどんな損害ですか? |
A2.
原子力損害は、原子核分裂の際の放射線や熱等により生じた損害、核燃料物質等の放射線や毒性により生じた損害です。事故と損害の間に相当因果関係がある損害は全て含まれ、放射線による身体的損害、物的損害などの直接損害だけでなく、逸失利益等の間接損害も原子力損害の対象となります。
原子力損害の対象として認められる例を挙げると次のようなものがあります。但し、相当因果関係の有無は個別に判断されるため、損害形態によっては、地域的、時間的な制限が為される場合があります。
① 原子力施設で臨界が発生し、これによる放射線によって第三者が身体に傷害を負った場合の損害。
② 原子力施設所から放射性物質が大量に放出されて、これにより第三者が身体に傷害を負ったり、第三者の財物が汚染されたりした場合の損害。
③ 原子力施設で使用、貯蔵されているウラン溶液やプルトニウム溶液を第三者が摂取し、中毒症状により身体に傷害を負った場合の損害。
④ 原子力施設で事故が発生し、行政による緊急事態措置により、避難した場合の避難費用、および避難等に伴い勤務や事業活動を中止した場合の休業損害や営業損害。
⑤ 原子力施設で事故が発生し、放出された放射性物質による汚染が発生した場合、人体や財物の汚染を検査するための検査費用。
⑥ 原子力施設で事故が発生し、放出された核燃料物質による汚染が発生した場合、汚染されていない農水産物等に関わる生産、営業に生じる風評被害による損害。
他方で、こうした原子力損害の考えから、認められない例を挙げるとは次のようなものがあります。
① 原子力施設で事故が発生し、周囲への放射性物質等の放出、漏洩が無かったにもかかわらず、所謂、風評被害により農水産物に発生した損害。(核燃料物質の放射線の作用や毒性的作用によらないため)
② 原子力施設での放射性同位元素(核燃料物質を含まない)の放射線の作用により発生した身体障害。(RIは原賠法の対象外のため)
③ 原子力施設の運転中に発生した蒸気(非放射能)配管の破断により発生した身体障害。(核燃料物質の放射線の作用や毒性的作用によらないため)
なお、JCO事故時には、身体傷害、財物汚損、避難費用、検査費用(人、物)、休業損害、営業損害等が「原子力損害」の対象として取扱われました。
【A2.の解説】
「原子力損害」とは「核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用もしくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害」と原賠法第二条2項に定義されています。すなわち、原子力損害の形態は、①原子核分裂の連鎖反応時に発生する放射線による損害、並行して発生する熱的・機械的エネルギーによる損害、②核燃料物質の放射線による損害、核燃料物質の核分裂に際して放射化された物・核分裂生成物の放射線による損害、③核燃料物質、核分裂生成物(例えば、プルトニウム等)を摂取し、吸入することによって発生する損害であります。
また、原賠法第二条2項で定義されている放射線の作用等による直接損害だけでなく、これと因果関係のある間接損害も原子力損害に含まれます。JCO臨界事故では、避難要請や屋内退避勧告に伴う避難費用や、働きに出られなかったことによる休業損害、事業や商売が立ち行かなくなったことによる多額の営業損害(風評被害)が原子力損害として取扱われました。
より詳細な解説はこちら → http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/mag/shosai03.pdf
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シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで
genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。
「還暦祝いは「コンバイン!?」
♪帰りたい 帰れない♪ 若い頃はそんな心境ではなかったが、上京して三十年も経つと「ふるさと」が恋しくなるものだ。ちょうどその頃、『五十の手習い』でコンバイン(稲刈+脱穀の機械)を操作しての稲刈りに取り組むこととなった。機械の操作なんて方法さえ教われば、あとは機械のほうで動いてくれるとタカをくくっていた。『機械は止めてから触るんだぞ』とも聞いてはいた。しかし、詰まった藁くずを取り除こうと何気なく手が出た。ガツンという衝撃を手のひらに感じて、アッという声とともに引き寄せた右手を見た。
「よかったあ、指があった」。軍手に守られて大怪我は免れたものの、滲み出る血と痺れと恐怖感で身体はワナワナと震えていた。8年ほど前、「おとうさんの様子がおかしいから(変だから)稲刈りに帰ってきてくれへん」と母からの要請に、「来るべきものが来たか」と観念して帰省し、コンバインに挑戦した一年目だった。
農作業は、手工業的ならば中学生でほぼ修了していたが、機械作業は初めてだった。最初に怖い経験をすることは決して悪いことではない。それからは、必ずエンジンまたはクラッチを切ってから点検すること、こわごわではなく堂々とされど細心の注意を払って作業すること、「キャブレター」の掃除も必要なことを知った。装置の各部位の掃除や点検は小まめに行うことなど、さまざまな心がけが大事なことを機械に教えられた。
写真のコンバインは、父の代からのもので十年以上の古物だ。運転席付きではなく、写真で示す何種類かのクラッチやレバーをうしろから歩きながら操作して作業する。作業中は、刈取りレバーでの刈取り位置の調整、進行方向の調整、こき深さの調節、籾30kgで袋が一杯になり、ブザーの知らせで袋を交換することなど、のんびりしている暇は無い。
昨年、とうとう部品の取替えを含む分解点検に引き取られてしまった。代替機による刈り取りは、運転席付きで作業は非常に楽だったが、運転席付きの何百万円もする最新型に買い換えるほどの耕作規模ではない。
この五月の連休に田植えで帰省し、「今年は稲刈りどうするかなあ」と母に言った。「修理費26万円で戻ってきたよ」。今や愛機となったコンバインは新品のように磨かれて農具小屋に鎮座していた。「そうか、戻ってきたか」とつぶやきながら、『還暦のプレゼント』にうれしくなった。今年も8月下旬から9月上旬に、汗みどろの作業が待っている。(一字違いのATOM)
◎「原産協会メールマガジン」2009年5月号(2009.5.25発行) 発行:(社)日本原子力産業協会 情報・コミュニケーション部(担当:喜多、八十島) 東京都港区新橋 2-1-3 新橋富士ビル5階 TEL: 03-6812-7103 FAX: 03-6812-7110 e-mail:information@jaif.or.jp |
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