lights on with nuclear

 [JAIF]原産協会メールマガジン

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原産協会メールマガジン4月号
2010年4月26日発行

Index

■最近思うこと  (理事長コラム)  
■原子力政策推進活動

 □第43回原産年次大会、松江市で開催
 □国に提言「原子力産業の海外展開に向けての国際戦略」
 □「2011世界原子力大学夏季研修)」参加の若手技術者・研究者への助成

■国際協力活動

 □「JAIFベトナム連絡事務所」を開設
 □ロシア国営原子力企業・ルイセンコ国際協力局長との懇談

■情報発信・出版物・会合のご案内

 □2010年版「世界の原子力発電開発の動向」を刊行

■原産協会からのお知らせ

 □22年度の原子力エネルギー安全月間ポスター標語に当協会職員の作品が選定
 原産協会「電子図書館」のお知らせ

■ホームページ・動画の最新情報

 □原産協会HP(一般向け)の更新情報
 □動画配信
 □会員向けHPの更新情報
 □英文HPの更新情報
 

■原産協会役員の最近の主な活動など
■原産協会入会のお知らせ
■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【14】
■げんさんな人達(原産協会役・職員によるショートエッセイ)

本文

■最近思うこと  (理事長コラム) 



 日本原子力産業協会理事長の服部です。今号からメールマガジンの読者の皆様に、私が最近考えていることなどををお話しさせていただきたいと思います。

理事長 服部 拓也
         

 訪印の度に毎回新しい発見があるが、「混沌」、インドの実態を一言で表現するとすれば、この言葉が最もふさわしい。
 
 今回はWANO隔年総会でデリーを訪問した機会に、インドを代表する重電メーカーを視察した。最初に出かけたのがデリーから北へ車で7時間、ヒンズー教の聖地の一つで、ガンジス河の水源に近い、ハルドワールにあるBHEL社である。視察の報告は別の機会に譲るとして、朝暗いうちにデリーのホテルを出て、午後2時過ぎにようやく目的地にたどり着くという長道中であったが、車窓から目にする情景には退屈するどころか驚きの連続で飽きることはない。
 
 秋に開催される英連邦大会に備えて道路整備に余念のないデリー市内を抜けると、田園風景が広がり、朝霧の中から真っ赤な太陽が登ってくる景色は素晴らしい。朝日に照らされながら、どこに向かうのか、暗い車内から毛布にくるまりながらうつろな目で外を眺める人々であふれる、三輪のオート・リクシャーが道路を占拠している。中には逆走してくる車もある。旧式のバスや荷物を満載して今にも止まってしまいそうなオンボロトラックを縫うようにして車を進める。そうこうしていると、突然巨大な近代的なビルに入ったショッピングセンターが目に入ってくる。そこにはブランド品やIT企業の巨大な広告。このミスマッチはどう理解して良いのか。
 
 更に進むと数キロおきに突然姿を表す集落に出くわす。揚げ物や焼き物を売る売店、食料品店、車の部品やビデオ、IT機器の部品を扱う雑貨屋、などなど雑多な店が並ぶ。そしてそこに群がるおびただしい数の群衆、土ぼこりと絶えることのないクラクションなど喧騒に圧倒されてしまう。周りに住宅が見当たらないのでどこからこんなに大勢の人たちが集まってくるのだろうか。
 
 そんな中にスクールバスで通ってくる小奇麗な制服を着た中学生くらいの男女の生徒を眼にする。なんとなく皆利口そうに見えるのが不思議だ。IT企業などは、事務所や工場がある敷地は外と物理的に隔離されており、学校や病院などを含めてコロニーを形成しているが、親の車に送られて外から通ってくる生徒もいる。小学生はおしなべて学用品を入れた大きなカバンを背にしている。聞けば毎日宿題がたくさんあるし、土曜日も学校があるとかで、我が国の生徒との勉強時間の差はどれくらいあるのかと、日本の将来が不安になってしまう。    (次号へつづく)


 

■原子力政策推進活動

□第43回原産年次大会、松江市で開催

 当協会は4月20日から22日、島根県松江市の「くにびきメッセ」で、第43回原産年次大会を開催しました。今回は、「エネルギー安定供給と温暖化対策の担い手として―原子力の将来を考える」を基調テーマに、19か国・地域から約1,060人が参加し、活発な議論と意見・情報交換を行いました。また、初日20日には約90人の参加を得て、中国電力・島根原子力発電所等を視察するテクニカルツアーを実施しました。

 
21日の開会セッションで、今井敬・原産協会会長(=写真左)が所信表明を行い、地球温暖化対策の切り札として、原子力発電の重要性を改めて強調しました。さらに、今後の積極的な海外展開を推進する必要性に言及するとともに、今大会が世界的な「原子力ルネッサンス」の潮流の中、島根県の方々と原子力関係者との信頼感の醸成、相互理解に資する有意義な大会となるよう期待を示しました。

 続いて、近藤洋介・経済産業大臣政務官(=写真右)が、鳩山由紀夫総理大臣のメッセージを代読しました。世界規模で地球温暖化問題に対処するためには、原子力の活用が不可欠との考えのもと、「政府としても、原子力産業の国際展開に積極的に貢献していきたい」と述べました。

 また、開催地を代表して溝口善兵衛・島根県知事、松浦正敬・松江市長から、「県・市内に立地する原子力発電所の一層の安全確保がなされるよう求める」などとする挨拶をいただきました。

 続く特別講演では、国際原子力機関 (IAEA)の天野之弥事務局長(=写真左)がグローバル・イシューの解決に向けたIAEAの取り組みを紹介。また、米国エネルギー省(DOE)のウォーレン・ミラー原子力担当次官補がオバマ政権の原子力政策について、露・ロスアトムのピョートル・シェドロビツキー副総裁がロシアの原子力発電開発計画について講演しました。
 このほか、国際エネルギー機関(IEA)のリチャード・ジョーンズ事務局次長のビデオ講演が流されたほか、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のベルナール・ビゴ長官の「長期エネルギー安全保障および環境保護に関するフランスの政策と戦略」と題する講演が代読されました。

 21日午後には、セッション1「気候変動問題解決の切り札として、原子力をどう位置づけるか」を開催。フランツ=ミカエル・スキョル・メルビン駐日デンマーク大使が「原子力がグリーン・フューチャーの一部となるために」と題して基調講演を行った後、鳥井弘之・元日本経済新聞社論説委員を座長に、秋元 圭吾・(財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループリーダー、鈴木達治郎・原子力委員会 委員長代理、東嶋和子・科学ジャーナリスト、松井三生・中国電力(株)取締役副社長にご参加いただき、パネル討論を行いました。

 大会最終日の22日は、セッション2「原子力ルネッサンスの実現に向けて――各国の原子力・エネルギー政策と展望」では、ベトナム、中国、韓国の代表からの発表がありました。
 
 セッション3「原子力発電所のある町で、私たちは考える――島根県の原子力、40年とこれから」では、ドイツのヒルデガルト・コルネリウス=ガウス・ヘッセン州ビブリス町長が「ドイツにおける不確実な原子力の将来とビブリスへの影響」と題する基調講演を行った後、八木絵香・大阪大学コミュニケーションデザインセンター特任准教授をファシリテータに、井川陽次郎・読売新聞論説委員、石原孝子・松江エネルギー研究会代表、大谷厚郎・松江商工会議所副会頭、山名元・京都大学原子炉実験所教授、山本廣基・島根大学学長にご参加いただき、原子力発電を推進する上での社会とのコミュニケーションや合意形成のあり方について、パネル討論を行いました。

 次回大会は来年春、愛媛県松山市で開催する予定です。

 なお、原産協会の動画配信「Jaif Tv」では今回の年次大会と開催地・松江市の紹介を5月17日に配信する予定です。


□国に提言「原子力産業の海外展開に向けての国家戦略」

 当協会は、日本の原子力産業の海外展開に向けての提言を取りまとめ、19日、仙谷由人国家戦略担当大臣など、関係府省、原子力委員会等に、また26日には、岡田克也外務大臣に提出しました。

 当協会では昨年10月、柳井俊二・元駐米大使(原産協会顧問)を委員長とした計13名の専門家グループにより構成された「原子力産業海外展開検討会」を設置し、検討を重ねておりましたが、このほど、海外展開、特に原子力発電の新規導入国への展開を成功裏に進めるため、国が策定検討中の「新成長戦略」への反映を目指して提言を取りまとめることにしたものです。

 提言では、原子力産業の海外展開を国の最重要・優先政策課題の一つであることを明確に位置づけることを要望するとともに、官民で戦略本部を設置し、受注活動を一本化することの必要性を訴えました。また、海外展開の前提として、外交関係について、2国間原子力協力協定締結へのプロアクティブな取り組みや、導入国現地での対応力の強化が必要としています。さらに、事業形態を具体化するにあたっては、電気事業者とプラントメーカーが一体となった、新たな体制を構築して原子力システムの輸出を図るべきとしており、原子力発電の新興・途上国に対しては、国の積極的な関与を求めています。

 提言の概要は、原産協会HPでご覧いただけます。 ( http://www.jaif.or.jp/ )

仙谷国家戦略担当相(=正面)に提言書を提出する柳井委員長
(左から2人目))
提言内容についてプレスにブリーフィングを実施(19日)


□「2011世界原子力大学夏季研修」参加の若手技術者・研究者への助成

 当協会の「向坊隆記念国際人育成事業」では、今年度も、来年の「2011世界原子力大学夏季研修(WNU-SI)」に参加する若手技術者、研究者の参加費用を助成することとなりました。助成申込募集は今年の秋頃、募集の詳細は後日ウェブサイトやメルマガ等でご案内する予定です。

 当協会の「向坊隆記念国際人育成事業」は、国際的に活躍できる日本人若手技術者、研究者の育成を目的に平成20年度にスタートしました。
 「向坊事業」の主要プログラムとして、若い世代(35歳以下)のリーダー育成を目的とする「世界原子力大学夏季研修(WNU-SI)」への参加を促すため、研修参加費用を助成しています。

 WNU-SIには世界の30ヶ国以上から約100名の若手技術者、研究者が参加し、世界の現役リーダーから直接話を聞いたり議論したり、同世代どうしで議論やコミュニケーションを深めたりすることを通じて、リーダーシップのあり方を学びます。

 「向坊事業」では、今夏7月3日~8月14日の6週間、英国のオックスフォード大学で開催される「2010WNU-SI」について、当協会会員企業・機関に所属する4名の方々の参加費用を助成しており、来年の夏季研修についても同様の支援を行うこととなりました。
 来年のWNU-SIプログラムや参加募集要項は秋頃発表される見込みです。また、当協会の助成支援プログラムも同じ頃ご案内する予定です。

 (ご参考)WNUウェブサイト:
 http://www.world-nuclear-university.org/about.aspx?id=17688
 
 

■国際協力活動

□「JAIFベトナム連絡事務所」を開設

  当協会は、ベトナムの原子力発電導入に対する協力推進の一環として、同国ハノイ市に「JAIFベトナム連絡事務所」を、ベトナム当局からの正式認可を受け3月25日に開設しました。
 今後、同事務所を活動拠点として、ベトナムへの協力を一層強化してまいります。
詳細は、こちらをご覧下さい
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/jaif-vietnam-office_press-release.pdf


□ロシア国営原子力企業・ルイセンコ国際協力局長との懇談

 当協会の服部理事長は、日本外務省との定期協議のために来日したロシア国営原子力企業ロスアトムのルイセンコ国際協力局長と3月26日に懇談しました。

 服部理事長は、ロシア原子力産業界とのこれまでの協力の実績について言及し、ロシアの原子力関係者、専門家と興味深く有益な情報交換をできたことに日本の産業界は満足していること、ならびにこれまでの協力に対する謝意を述べました。また、昨年5月に調印された日露政府間の原子力協力協定は発効されておらず、産業界としては可能な範囲で協力に取り組んでいるところであるが、より実質的な協力段階に進むためには一刻も早い協定の発効が望まれると述べました。

 さらに、ロスアトムのキリエンコ総裁からの招待により、今年の6月7~9日にモスクワで開催される国際フォーラムATOMEXPO-2010に産業界のメンバーとともに参加する計画があること、訪ロの際には原子力発電所VVER-1000の視察や、ロシアの原子力人材育成の拠点である国立原子力大学を訪問して共通の課題である人材育成問題について意見交換をしたい旨述べ、支援をお願いしました。

ルイセンコ局長(=中央) キリエンコ総裁の親書を読む服部理事長

 ルイセンコ局長は、ロシア側は原産協会のロシア原子力産業界との協力活動を高く評価しており、日露の原子力産業界の交流の場として相応しいATOMEXPO-2010への原産協会の参加団の出席と原子力関連施設への訪問、ならびに今後の協力として人材育成分野も含めることに歓迎の意向を示しました。

 また、ロシア側は原産年次大会も高く評価していると述べ、これに対し当協会もロシアの原子力関係者による発表と参加を歓迎すると述べました。

 ルイセンコ局長は、日露政府間協定についても触れ、昨年の調印までの道のりは長く困難を伴うものであったこと、調印後の現在も両国議会での批准・発効に向けて双方が努力をしていると述べました。ルイセンコ局長自身、協定の一日も早い発効、国会批准を願い作業を進めており、今年末または来年までに完了するのではないかという個人的見解を示しました。

 また、この会合に同席したロシアの原子炉科学研究所のビチコフ所長は、ロシア政府が最近採択した新世代の高速炉開発に関する新しい連邦プログラムに言及し、これを基に研究基盤を更新、新たな実験炉を作り、それをオープンな国際的共同利用に供する計画をもっていることを紹介しました。最近、高速炉開発に関しては状況が変わっており、(少なくとも日本より)積極的な国が3カ国(ロシア、中国、インド)あるとし、複数の国が1つの傘の下で力を合わせ、核不拡散を前提に協力を実施していくことが目標であると述べました。


■情報発信・出版物・会合のご案内

□2010年版「世界の原子力発電開発の動向」を刊行

 当協会はこのほど、2010年1月1日現在の世界の原子力発電所と核燃料サイクル施設の状況とデータをまとめた「世界の原子力発電開発の動向-2010年版」を刊行しました。
 今回、中国、ロシア、インドの原子力計画拡大、韓国・台湾の高稼働率、ベトナム・UAEの新規導入計画など、最新の世界の動きを掲載しました。

詳細は、http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/1004doukou.html



■原産協会からのお知らせ

□22年度の原子力エネルギー安全月間ポスター標語に当協会職員の作品が選定

 平成22年度原子力エネルギー安全月間ポスターの標語の優秀作に、当協会企画部の加藤芽久美さんの作品が選ばれました。(各社から選抜された131編(応募総数8,482編)中から優秀作1編、佳作6編が選定)

優秀作(標語採用作品) 「謙虚な学びと責任感 誇りを胸に安全確保」

 優秀作の標語を記したポスターは、5月の原子力エネルギー安全月間に併せて、原子力事業者の各事業所、原子力事業所所在自治体庁舎などに掲示され、安全文化の浸透・定着を呼びかけます。

 原子力エネルギー安全月間は、原子力事業者における原子力安全に対する意識の高揚を図るとともに、原子力安全の意義についての認識を国民規模で深めることを目的に、チェルノブイリ原発事故発生の翌年の1987年、経済産業省が定めたもので、原子力エネルギー安全月間推進委員会(事務局は(社)火力原子力発電技術協会内)などが、 毎年5月に各種行事等を行っています。

表彰状を手に服部理事長と記念写真の加藤さん

  

□原産協会「電子図書館」のお知らせ

 当協会では、長年ご愛用頂きました「会員資料室」を、本年3月末日をもって閉鎖いたしました。

 閉鎖に伴い、当協会が発行した資料(過去2年以上前に発行されたもの)につきましては、当ホームページの「電子図書館」(下記URL)のコーナーから直接閲覧いただけますので、調査業務などにご利用ください。
  http://www.jaif.or.jp/ja/library/electro_library.html
 
 また、外部機関発行の資料に関しましては、代表的な所蔵機関のHPへのリンクをお付けしています。


■ホームページ・動画の最新情報

□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )

*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。

〈原産協会からのお知らせ〉
・【アジア原子力情報】サイトに「韓国の原子力開発の現状」を追加、更新(4/23)
・「世界の原子力発電開発の動向の2010年版」を15日刊行 (4/12)
・プレスリリース 「JAIFベトナム連絡事務所」の開設について(4/6)

〈解説・コメント・コラム〉
・コメント「島根原子力発電所の点検漏れについて」(4/9)



□動画配信 ( http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/ )

・「世界に誇る日本の原子力発電技術」(4/15)


(ご紹介)
 資源エネルギー庁の委託で青森テレビが制作した「草野仁の発見!エネルギーの未来 核燃料サイクルと再処理工場」がインターネット動画サイトのYou Tubeで配信されていますので、ご案内します。下記のアドレスをクリックしてください。
http://www.atv.jp/program/energy_mirai/index.html

□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/

・動画配信に、「世界に誇る日本の原子力発電技術」(4/15)
・【日本の原子力発電所の運転実績】3月分と09年度分データを掲載 (4/9)


□英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/

・Atoms in Japan (AIJ) : 週刊英文ニュース(16本 4/1-4/26)
・Focus : Keynote Address of the 43rd JAIF Annual Conference by Chairman Takashi Imai(4/23)


■原産協会役員の最近の主な活動など

[石塚常務理事]
・4/28(水) 東北原子力懇談会定時総会出席(於:ホテルメトロポリタン仙台)


◇役員の雑誌等への寄稿、インタビュー掲載記事◇
○服部理事長
 ・週刊ダイヤモンド(4月10日号)
   インタビュー記事掲載 「原子力ルネサンス 果実と幻想」
 ・山陰中央新報(4月15日号)
   インタビュー記事掲載 「日本原子力産業協会 松江大会20日開幕」
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2010/interview_hattori_sanin-chuo0415.pdf

■原産協会入会のお知らせ(2010年4月)

・(株)日本アクシス

■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【14】

新規導入国の原子力損害賠償措置
 今回は、新規導入国の原子力損害賠償措置についてQ&A方式でお話します。

Q1.(新規導入国の原子力損害賠償措置)
新規原子力導入国の原子力事業者が原子力損害賠償措置をするとき、どのような課題がありますか?

A1.
・ 損害賠償措置は原子力事業者(事業者)の賠償責任に関わる資金的保証を必要とするものですが、特に途上国などの場合、原子力損害を賠償するための巨額の資金をどのように準備するか、また、どれだけの金額を準備できるかは大きな課題です。

・ 賠償措置のための資金的保証には、現金的手法、信用状によるもの、保証人によるもの、保険によるもの、事業者共済などの方法が考えられますが、現実的には原子力既設国の殆どにおいて民間保険制度による方法が普及しています。

【A1.の解説】
  原子力損害賠償制度の基本的な仕組みは、賠償責任の厳格化と原子力事業者への責任集中とともに、損害賠償の履行が確実に行われるように事業者に資金的な担保を予め講じさせること、すなわち事業者に損害賠償措置を強制することで、原子力損害発生時の被害者への迅速、円滑かつ確実な損害賠償を図るものです。

 事業者はこの制度により、万一の時に原子力損害を賠償するための一定の資金を準備しておくこと(賠償措置)が必要となりますが、途上国に限らず、原子力事業者が単独で巨額の資金を準備することは容易ではないため、制度として十分な賠償措置額をどのように設定するかが大きな課題となります。

 賠償措置のための資金的保証には、大きく分けて民間によるものと国によるものの2通りがありますが、一般に、先ずは民間による手立てを取り、如何しても困難な事柄については国による対応となります。保証の方法には種々ありますが、例えば、以下のようなものが考えられます。

・ 現金的手法
 通貨、株式、債券、投資信託等を供託・預託することにより措置する方法。事業者は巨額の資金が必要となり、その資金は他に流用できないため、実用的ではない。
・ 信用状による担保
 銀行等の金融機関から発行される信用状(支払い確約書)により担保する方法。事業者は信用状獲得のために、状況によっては多額の費用負担となることが想定される。
・ 保証人による担保
 事業者が損害賠償の支払い義務を履行できない場合に、保証人がその支払いを担保する方法。保証人と契約するための費用は、一般的に保険による費用(保険料)と比べて高くなることが想定される。
・ 民間保険による担保
 原子力事業者が民間の保険会社に掛け金(保険料)を払い、原子力賠償責任保険により担保する方法。実際には原子力保険プール(次のQ2参照)が保険の引受を行うことになる。
・ 原子力事業者共済制度
 米国やドイツで実施されているような、第一次を民間保険制度とし、その上に第二次の原子力事業者同士が資金を出し合って巨額な損害賠償措置に備える相互扶助制度。原子力損害発生時には各事業者が資金を拠出して対応する。資金を負担する事業者が相当数あれば実際的な手段となり得るが、新規導入国には難しい。

 原子力事業者は原子力損害賠償措置のための資金的保証として上記のような方法が選択可能ですが、現実的には、原子力損害賠償のリスクに対して原子力賠償責任保険の費用(保険料)と競合できる費用で保証を得ることは難しいため、原子力発電の既設国の殆どにおいて民間保険制度による損害賠償措置が行われています。


より詳細な解説はこちら
http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/mag/shosai14.pdf

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Q2.(原子力保険の仕組み)
民間保険会社が提供する原子力賠償責任保険は、どのような仕組みで巨額の賠償措置額を担保しているのですか?


A2.
・ 原子力賠償責任保険(原子力保険)のような巨額の支払を担保する保険は1民間保険会社もしくは1国の保険業界では引受けられないため、各国は国内の保険会社を結集して「原子力保険プール(保険プール)」を組織し、各国の保険プールは相互に再保険契約を結ぶことで、当該原子力施設の巨額な原子力リスクを世界中の保険プールに分散させて、引受けの安定を図っています。

・ したがって、新規原子力導入国においては原賠制度の損害賠償措置に必要とされる原子力保険導入のため、当該国の保険会社の結集による保険プールの創設とともに、各国保険プールとの再保険ネットワークの構築が極めて重要となります。

【A2.の解説】
 1950年代から始まった原子力平和利用における原子力発電所等については、幾層もの安全確保が図られていますが、原子力リスクの性質上、膨大な規模の損害が発生する可能性は否定できません。

 現在商用発電炉は世界中で四百数十基と保険の母集団としては数少なく、また損害発生頻度は少ないが損害規模は大きいという原子力特有のリスクを填補する保険においては、世界中の保険会社の引受け能力を結集する仕組み、すなわち各国の保険プール設立および保険プール相互間の再保険契約取引は不可欠とされています。

 各国の保険プールは再保険契約を結び、原子力リスクを世界中に分散させるとともに損害発生時の保険金を世界中の保険会社から回収できるようにすることで巨額の保険金額を担保しています。

 我が国の場合には、1950年代後半において国による原子力災害補償制度の検討が行われ、これと相俟って保険業界は原子力賠償責任保険(原子力保険)および原子力保険プールの検討・準備を進めて、1960年に国内保険会社20社は原子力保険の事業免許を得て、日本原子力保険プールを設立しました。

 その後、1961年に原賠法、補償契約法の原賠2法が成立し、1966年には我が国初の商用原子炉が連続運転開始するに至りました。

 現在(2010年3月末)原子力保険プールに参加している保険会社は、日本において営業免許を取得する外国保険会社を含めた24社によって、1事故当たり最大1200億円の原子力賠償責任保険の引受を行うとともに世界の20プール程度と再保険取引をしています。

 原子力保険はこのような特殊な引受け方をするため、新規原子力導入国において原子力損害賠償制度を構築する際には、賠償法―原子力賠償責任保険―保険プールはセットと考えて、法制度の整備段階から当該国の保険業界においても保険プール設立と各国保険プールとの提携を検討・準備していくことが必要となります。


 シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。


 

■げんさんな人達 (原産協会役・職員によるショートエッセイ)

「湧水を生かす文化に触れて」

 
 澄んだ湧き水と人々の生活が調和した豊かな文化が息づいている地域を訪れたときの話を紹介したい。

 その湧き水の郷は、琵琶湖西岸に位置する滋賀県高島市・針江という地区にある。2004年にNHKの番組で取り上げられるなどして、広く知られるようになったが、この針江地区にある家々では古くから、「川端(かばた)」という場を通して、日々の暮らしの中で環境と調和した水の循環利用を見事に行っているのである。

 2年くらい前だっただろうか、その番組の再放送を見て、私自身初めて針江の「川端」文化について知った。「川端」とは簡単に言ってしまえば、湧き水を用いた炊事等の生活の場のことである。番組で紹介された人と水を結びつける「川端」の映像と、何よりも水使いに対する先人の知恵が非常に印象に残り、その地をいつかは訪ねてみたいと思っていたところ、昨年暮れに訪問する機会を得たのだった。



 小雨の中降り立った針江は、どこにでも普通に見られる田舎の町だったが、公民館の前には水車が回り、小ぶりの水路には鯉が泳いでいる。小川をさらさら流れる水は水底の緑のバイカモを気持ちよさそうに揺らしている。取り立てて美しいというわけではないが、小川の清清しさは何年ぶりに体験したことだろうか。

 針江には至るところに水が湧き出ている。その湧き水を「生まれ出る水」=「生水(しょうず)」と呼ぶ。

 「生水」も水源の深さにより、さらっとした味、まろやかな味など、微妙に水味が違うというので実際に数箇所の水を飲んでみたが、残念ながら自分にはその違いがよく分からなかった。長年、「生水」と暮らしを共にしてきた地元の人々の感覚とは比べようもない。

 各家庭では地下水源(元池)から「生水」を汲み上げ、「川端」と呼ばれる台所に引き入れている。「川端」の中には、汲み上げられた水が溜まる池(壷池)と、食器を洗うため水を溜める池(端池)がつながっている。後者の池の中には鯉が飼育されている。洗った後の残飯を鯉が餌として食べることで、水はきれいな状態に保たれる仕組みだ。水の浄化に重要な役割を果たしてくれる魚たちはかけがえのない家族の一員なのだそうだ。

 貴重な湧き水を、環境への配慮と共にそこに住む人々の生活の中で上手に循環させて使うという、まさに「水を生かした」仕組みである。このシステムが始まったのは江戸時代からという。家々の「川端」から出て行く水は水路でつながっている。このため、流れの上流にある家庭は下流の家庭を配慮し汚れた水は流さず、下流の家庭は上流の家のことを信頼して、「生水」の恵みを分かちあってきたのだという。

 湧水の郷探訪の締めくくりに、琵琶湖へとつながる入り江の船着場を訪ねた。「川端」を潤し水路をめぐってきた「生水」は、ここで、きれいなまま琵琶湖に流れこむ。そして「魚が好んで住む場所になるのです」と、案内してくれた地元の方の言葉が幸せそうに聞こえた。



 短い時間での「生水の郷」体験だったが、琵琶湖で採れた公魚の甘露煮を土産に東京に戻る車内で、美しい水の恵みを受けそれを利用する者の環境に対する配慮を思い返し、生活環境と水使いについてあらためて考える良い機会を得たことを実感した。(琵琶湖王子)




◎「原産協会メールマガジン」2010年4月号(2010.4.26発行)
発行:(社)日本原子力産業協会 情報・コミュニケーション部(担当:木下、八十島)
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