Index
□「原子力人材育成ネットワーク」が第1回報告会を開催
□韓国教育科学技術部(MEST)・韓国国際協力財団(KONICOF)との会合
□新年会員交流会を開催
□「震災復興支援カレンダープロジェクト」による義捐金のお届け
□冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」の頒布
本文
■原子力政策推進活動
□「原子力人材育成ネットワーク」が第1回報告会を開催
当協会は、(独)日本原子力研究開発機構とともに、産官学連携により平成22年11月に発足した「原子力人材育成ネットワーク(以下、ネットワーク)」の共同事務局を務めていますが、ネットワークのこれまでの活動状況を報告し、情報共有を図る目的で、昨年12月20日、東京で、「第1回ネットワーク報告会」を開催しました。
「第1回ネットワーク報告会」には、国、研究機関、大学、高等専門学校、電力会社、メーカー、関係団体等から104人が参加したほか、新聞、雑誌等の報道機関9社も参加して関心の高さを示しました。
報告会では、ネットワーク運営委員長である服部拓也当協会理事長と森山善範文部科学省大臣官房審議官がそれぞれの立場から開会挨拶を行い、原子力の人材育成を強化していく決意を新たにしました。その後、「国内人材の国際化」、「高等教育段階の人材育成」、「初等中等教育支援」、「実務段階の人材育成」の4つの分科会活動ならびに「ネットワークデータベースシステム構築」について事務局より報告しました。午後には、松浦祥次郎 元原子力安全委員長より、「原子力の安全と人材育成-私の教育論オムニバス-」と題する特別講演のなかで、「どの民族にもリーダーの資質に恵まれた人間が3%存在し、それらが適切にリーダー的役割を果たすときその民族は興隆した」という歴史家トインビーの示唆に富む説が紹介されました。続いて、「大学・高等専門学校の活動」、「研究機関における活動」、「産業界および国の活動」について、それぞれの取組み状況が報告されました。
ネットワーク参加機関は、現在62機関です。
ネットワークは、福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力人材育成の従来の課題に加え、原子力安全確保の観点からとくに注力すべき課題として次の5項目を提起し、この方向に沿い連携した取組みを強化しています。
【福島原子力発電所事故を踏まえた人材育成の課題】
(1) 原子力安全・防災、危機管理、放射線等の専門知見を有する人材の確保
(2) 現場技術者・技能者の確保
(3) 原子力を志望する学生・若手研究者の確保
(4) 国際人材の育成
(5) 放射線の知識に係る対話の強化
ネットワークでは、ホームページ( http://nutec.jaea.go.jp/network/ )やメルマガ配信等により情報共有を図ってまいりますので、メルマガ配信等をご希望される方はご連絡ください(お問合せ:jn-hrd.net@jaea.go.jp )。
■国際協力活動
□韓国教育科学技術部(MEST)・韓国国際協力財団(KONICOF)との会合
当協会は昨年12月19日、韓国国際協力財団(KONICOF)からの要請により、韓国教育科学技術部(MEST)5名およびKONICOF2名からなる韓国代表団と会合を持ちました。
当協会国際部より、当協会の組織と活動紹介、および福島第一原子力発電所事故前と事故後の日本の原子力産業の状況についての説明したのに対して、韓国側より「韓国における原子力人材育成(HRD)プログラムの現状」についてのプレゼンテーションがありました。主な内容は以下の通りです。
- 福島事故後においても、韓国政府は原子力政策を推進する意向であり、現在6基が建設中で、21基が運転中。
- 原子力政策の推進に伴い、韓国では原子力技術分野での専門家育成を目指しています。現在8大学が原子力専攻分野を設けており、2004~2009年の間は一定数の大卒者が育っています。また、23,000人余りの人材が原子力分野で活躍しており、このほとんどが発電所の運転や保守を担っています。
- 韓国原子力研究所(KAERI)、韓国原子力安全技術院(KINS)、韓国水力・原子力(KHNP)、韓国原子力統制技術院(KINAC)や大学など多くの原子力関係機関がHRDプログラムに携わっており、より効果的なHRDプログラム展開を図るための総合的運営を行うために原子力研修アドバイザリー委員会を設置しています。
- KAERI、KINS、KINACは以前教育科学技術省の傘下だったが、現在は原子力安全・保障委員会の傘下にあります。また、KHNPや大学は知識経済省管理下にあります。
- アドバイザリー委員会には、14の原子力関係機関が連携しており、KONICOFがコントロールタワーの役割を果たしています。
- 原子力学科を設けている8大学では、年間150名の学士、60名の修士、30名の博士を輩出しており、それ以外には、KAERI、KHNP、KINSなどが機関内のトレーニングユニットを有しています。
- KINACの国際原子力安全研修センターは建設中で、今後3年を目処に開設予定です。
- 原子力専攻の大学生には、KAERI、KINS他での現場実習、トレーニングコースが行われており、また、シニア専門家のフル活用を行って、大学での講義や中小企業での相談、指導などを行っています。
- IAEAやWNUなど、国際機関との連携を行っており、後進国や新規導入国の研修生のために修士課程を設けるなどして原子力人材のインフラを整えています。
質疑応答:
Q -日本では、現状たった7基の原子力発電所でどうやって電力供給を維持しているのですか。
A -冬の電力需要も大きいが、一年間の中で、電力需要のピークは夏です。電力使用量を抑えるために、日本政府が産業界や一般家庭に、特に夜間の節電を喚起しています。(特に東京、大阪など)今夏は企業が工場を土日に稼動するなどの対策を行っており、また、古い火力発電所を修繕して利用するなど、工夫してなんとか凌いでいます。原子力発電所が稼動できない理由としては、ストレステストが完了していないことや地方自治体の運転への理解が得られないことです。来夏までには稼動できることを願っています。
Q -韓国では、原子力の分野は学生にとって魅力的な職業ですか。
A -そのとおりです。しかし、それでもこの分野に就職するのは簡単ではなく、我々はより多くの職務内容を設けたり給料を上げるなどの努力が必要になっています。ヨルダンやUAEなどへの原発輸出を行うので修士や博士レベルの人材が不足してます。
■会員との連携活動
□新年会員交流会を開催
当協会は1月11日、「新年会員交流会」を東京・霞が関の東海大学校友会館で開催しました。これは、新年にあたり、会員相互の交流等を目的としているもので、今回は、会員を中心に約450名の参加がありました。
年頭の挨拶で、今井敬会長は、福島事故から10か月たったことに触れ、関係機関等が一体となって除染や賠償、廃炉などの課題解決に協力し、福島県の復興を支援していく必要があると訴えました。除染・廃炉を進めるにあたっては、日本国内だけの閉ざされた中で行うのではなく、世界の英知を集めた国際プロジェクトとして進めていくことがよいのではないかとし、そのための国際的な研究拠点を福島県に設置すれば、福島地域の復興や原子力人材育成にも役立つと述べました。
また、今後の課題として、既存原子力発電所の再起動問題を挙げ、日本の産業の国際競争力が失われ、それに伴い国内の雇用に多大な影響があるため早急に手を打たなければならないとする一方、建設中の原子力発電所については、世界最高の安全性を高めたものを導入し、そのことを情報発信した上で建設を進めていくべきだと強調しました。さらに、使用済燃料の中間貯蔵が重要性を増してくることになるとし、燃料サイクルやバックエンドの問題について産業界として意見をまとめていくべきと語りました。
続いて有馬朗人・東京大学名誉教授が来賓挨拶を行い、人類の英知を心から信じるとの強いメッセージを送るとともに、エネルギー問題の真実を伝え、力を合わせて使用済み燃料の問題に取り組んでいく必要性を訴えました。
■福島支援クラスターによる活動
□「震災復興支援カレンダープロジェクト」による義捐金のお届け
当協会は日本原子力文化振興財団との協力のもと“東北三県ふるさと カレンダー”を制作し、その売上金を東日本大震災の義捐金として関係自治体にお届けしました。
昨年3月11日の東北地方太平洋沖地震に起因し、発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故により、国民の皆様が被った経済的及び精神的な被害は、極めて大きなものとなりました。
特に地震・津波で大きな被害を受けられた東北三県(岩手・宮城・福島)において、原発事故により環境中に放出されてしまった放射性物質が、今なお復興を妨げる大きな要因となっている現実について、これまで地域とともに原子力を推進してきた関係者の多くが、断腸の思いでこれを受け止めています。
当協会と日本原子力文化振興財団は、原子力産業界が一体となり困難な状況にあるこの東北三県を支援しなければならないとの想いから、“東北三県ふるさと カレンダー”を制作し、その売上金を東日本大震災の義捐金として、東北三県に寄付する「震災復興支援カレンダープロジェクト」を展開してまいりました。
このたび集まった義捐金を、岩手県、宮城県、および福島県の被災・避難をしている13自治体(飯舘村、いわき市、大熊町、葛尾村、川内町、川俣町、田村市、富岡町、浪江町、楢葉町、広野町、双葉町、南相馬市)を訪問し義捐金目録をお届けいたしました。
広野町副町長に目録を手渡す
■原産協会からのお知らせ
□冊子「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」の頒布
当協会は、原子力損害賠償制度を解説する「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」の頒布を行っています。
今回で3回目の発行となるこの冊子では、原産協会メールマガジン2009年3月号~2011年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害 賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」をとりまとめ、これに最新の情報、データ等の加筆修正を施しております。
2011年5月以降に原産協会メールマガジンで連載した、東日本大震災による原子力事故への対応に関するQ&Aや、関連する法令も収録していますので、2010年版をお持ちの方も是非お求めください。
「あなたに知ってもらいたい原賠制度2011年版」入手をご希望の方は、有料[当協会会員1000円、非会員2000円(消費税・送料込み)]にて頒布しておりますので、(1)必要部数、(2)送付先、(3)請求書宛名、(4)ご連絡先をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。
■ホームページの最新情報
□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
- 【アジア原子力情報】サイトに「モンゴルの原子力発電導入準備とウラン鉱業」を掲載(1/10)
- 「日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)」の更新 (12/26, 1/14)
- 福島第一原子力発電所の事故情報(毎週木曜日更新、PDF)
- 福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報(毎週木曜日更新、PDF)
- 福島地域・支援情報ページ(随時)
- 地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
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JaifTv動画配信(
http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/archive41.html )
- 「第1回原子力人材育成ネットワーク報告会」(1/10)
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会員向けHPの更新情報(
https://www.jaif.or.jp/member/ )
- 【海外原子力情報】2011年12月分を追加、掲載(1/19)
- 【日本の原子力発電所の運転実績】12月分と2011年暦年データを掲載(1/16)
- メールマガジン「原産会員エクスプレス」の定期掲載 (1/16)、その他
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英文HPの更新情報(
http://www.jaif.or.jp/english/ )
- Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ)(随時)
- Earthquake Report(毎日更新)
- Overview of the status of countermeasures at Fukushima Daiich Unit 1-4(毎週木曜日更新、PDF)
- Environmental effect caused by the nuclear power accident at Fukushima Daiichi nuclear power station (毎週木曜日更新、PDF)
[Information]
- An interim reprt by the government panel looking into the disaster at the Fukushima Diichi nuclear power plant released (12/27)
- Operating Records of Nuclear Power Plants (随時)
- Japan's NPP Status before and after the earthquake (随時) (12/27, 1/16)
- Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident in Japan (随時)
- Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident in Japan (随時)
[福島事故情報専用ページ] 「
Information on Fukushima Nuclear Accident」
■原産協会役員の最近の主な活動など
[今井会長]
- 1/11(水) 新年会員交流会出席(於:東海大学校友会館)
[服部理事長]
- 1/11(水) 新年会員交流会出席(於:東海大学校友会館)
- 1/28(土) 原子力産業セミナー2013(於:新宿エルタワー)
[石塚常務理事]
- 1/11(水) 新年会員交流会出席(於:東海大学校友会館)
- 1/16(月) 双葉町長訪問
- 1/19(木) 広野町副町長訪問
- 1/23(月) インフォコム2011出席(於:いわき市)
- 1/30(月) 宮城県環境審議会放射能対策専門委員会議出席(於:仙台市)
[八束常務理事]
- 1/11(水) 新年会員交流会出席(於:東海大学校友会館)
■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【33】
ドイツの原子力開発事情と原賠制度
今回は、脱原発を目指すドイツの原子力開発事情と原賠制度についてQ&A方式でお話します。
Q1.(ドイツの原子力開発事情)
ドイツの原子力開発はどのような状況ですか?
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A1.
- 旧西ドイツでは1955年に原子炉の研究が解禁された後、1959年に原子力法が制定され、1962年に最初の原子力発電に成功しました。
- 1973年の石油危機により国内の石炭資源の見直しと原子力開発が進められ、急速に原子力開発が進みましたが、1980年代以降は反対運動が活発になり、2000年代には脱原子力の方針がとられています。
- 2009~2010年には脱原子力政策の見直しに向けた動きもありましたが、福島原発事故を受けて、現在は2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖する方針が決定されています。
- ドイツでは現在17基2151万7000kWの原子力発電所が運転されており、総出力は世界で5番目の規模になりますが、新規建設の計画はありません。
【A1.の解説】
旧西ドイツでは第二次世界大戦後、原子炉やウラン濃縮の研究が禁止されていましたが、1955年の主権回復の際に、核兵器の製造を放棄することと引き換えに禁止措置が撤回され、原子力発電開発がスタートしました。1959年には原子力法が制定され、カール実験所(BWR,1万6000kW)において1962年に最初の原子力発電に成功しました。
豊富に産出する石炭がエネルギーの中心であった旧西ドイツは、1960年代以降は安価な輸入石油への依存が高まりましたが、1973年の石油危機以降は国内の石炭資源の見直しと原子力開発が急務となり、1970年代から1980年代の初めにかけて社会民主党(SPD)政権のもとで急速に原子力開発が進みました。
しかし、1980年代から原子力の安全性に対する危惧により反対運動が活発になり、特に1986年のチェルノブイリ事故以降は原子力発電開発が困難な状況にあります。
また、1990年のドイツ統一に伴い、旧東ドイツで運転されていたグライフスバルト発電所は安全面で問題があるとして1990年に5基すべて閉鎖され、建設計画もすべて中止されました。
ドイツでは第1次SPD・緑の党連立政権下で脱原子力の方針がとられ、2002年4月27日に施行された改正原子力法には、
(1)原子力発電所の発電電力量の制限
(2)使用済み燃料再処理の2005年6月までに限定した実施
(3)2005年7月以降の直接処分に備えた中間貯蔵施設の設置
(4)原子力発電所の運転継続に関する連邦政府の保証(今後の運転期間中にわたって連邦政府が安全基準などを一方的に変更し、運転継続を妨害しないという保証)
(5)新規原子力発電所の建設禁止
が盛り込まれました。
政府と国内4大電力会社は、原子力発電所の稼動期間を送電開始から32年とした上で、2000年以降の原子力発電電力量を国内合計で約2兆6000億kWhと設定し、各発電所の発電電力量の枠の移転・譲渡を可能とすることを合意し、規定の発電量になった原子力発電所から順次(ただし発電所間で電力量の譲渡が可能)、閉鎖することになっています。
しかし近年では燃料価格の上昇やロシアへのエネルギー依存体質への不安などから脱原子力政策の見直しに向けた動きも出てきました。2009年の総選挙伝誕生したA・メルケル首相の右派中道連立政権は、既存炉の運転可能年数を平均12年延長することとし、脱原子力政策の見直しに向けて動き出していました。ところがこれは福島原発事故を受けて転換され、2022年までに全ての原子力発電所を閉鎖する方針が決定されています。これに対して電力会社は財産権の侵害に当たるとして提訴を検討しており、原子力政策の先行きは不透明です。
ドイツでは現在17基2151万7000kW(PWR:11基1478万3000kW、BWR:6基673万4000kW)の原子力発電所が運転されており、総出力は米仏日露に次いで世界で5番目の規模になります。総発電電力量に占める原子力の割合(2010年)は27.26%に達しており、太陽光及び風力の2倍以上の発電量となっていますが、新規原子力発電所の建設計画は1基もありません。
ドイツにおいて商用原子力プラントの開発・製造を担ってきたシーメンス社は、2011年9月に原子力からの撤退を表明し、タービン機器製造は継続するものの、原子力発電所の建設や資金調達の総合的管理には行わないことを決定しています。
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Q2.(ドイツの原賠制度)
ドイツの原賠制度はどのようになっていますか?
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A2.
- ドイツの原賠制度に関する基本的な事項は1959年に公布された「原子力の平和利用およびその危険に対する防護に関する法律」(原子力法)に規定されています。
- ドイツは原子力損害賠償に関わるパリ条約、ブラッセル補足条約、ウィーン・パリ条約の共同議定書等の国際条約を締結しています。1975年より、国内法に特別の規定を設けることによってパリ条約を受け入れており、パリ条約がドイツ国内において直接適用されます。
- ドイツの原子力賠償制度では、原子力法制定当時から無過失責任が採用されており、不可抗力による免責も認められていません。また、外国で生じた損害や外国の原子力事故による損害にもドイツ法が適用される場合があります。
- 原子力法制定当初、原子力事業者の責任限度は有限でしたが、1985年以降は無限責任が採用されています。また、原子力損害賠償措置額は25億ユーロとされており、第一段階を責任保険によって、その上の第二段階を電力会社による資金的保証によって措置されています。損害賠償措置が機能しない場合は、最大25億ユーロまでを国家が負担します。
【A2.の解説】
ドイツの原賠制度に関する基本的な事項は1959年12月3日公布、1960年1月1日施行、最終改正2008年8月29日の「原子力の平和利用およびその危険に対する防護に関する法律」(原子力法)の第4章責任規定の25~40条に規定されています。
ドイツは原子力開発の当初より経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)メンバーであり、次の原子力損害賠償に関わる国際条約を締結しています。
- 原子力分野における1960年パリ条約、1964年及び1982年改正議定書
- 1963年ブラッセル補足条約及び1982年改正議定書
- 核物質の海上輸送における民事責任に関わる1971年ブラッセル条約
- 1988年のウィーン条約及びパリ条約の適用に関する共同議定書
なお、2004年パリ条約及びブラッセル補足条約の改正議定書に署名しており、これに向けた対応のため2008年8月29日に原子力法の改正が行われていますが、今後において他のEUメンバー国と共に批准・発効することとなります。
ドイツは1960年にパリ条約に署名していましたが、条約と国内法の規定内容に相違があったため当初は批准していませんでした。その後、パリ条約の「自国の立法により、この条約のより広い適用範囲を定めることを妨げない」との規定に基づいて1975年に国内法に特別の規定を設けることにより、パリ条約を受け入れ、1975年以降はパリ条約がドイツ国内において直接適用されることになっています。
ドイツ原賠制度の仕組みは他国と較べて特徴的な事項がありますが、主な内容は以下のようになっています。
(1)責任主体
原子力法には、原子力施設の事故に関する責任を誰が負うかについて規定されていませんが、パリ条約(1982年議定書)が適用される(25条1項)ので、パリ条約3条(運転者の責任)、4条(核物質の輸送)、6条(賠償の請求権)などにより、原子力施設の運転者のみが責任を負うことになります(責任の集中)。
(2)無過失責任
パリ条約では3条、4条、6条及び9条(運転者の免責)
*などで賠償責任を規定していますが、ドイツでは1959年の原子力法制定当初から、原子力施設の運転者の無過失責任を定めており、不可抗力による免責も「免責理由に該当するような場合こそまさに市民が原子力責任法の保護下におかれるべきである」などの理由により認められていません(25条3項)。
*パリ条約9条(運転者の免責):運転者は戦闘行為、敵対行為、内戦、反乱、又は原子力施設が設置されている締約国の国内法に別段の規定がある場合を除き、異常かつ巨大な自然災害による原子力事故による損害に対して責任を負わない。
また、ドイツの原子力事故によって外国に生じた損害についても原子力事業者が無過失責任を負うことになっていますが(25条4項)、不可抗力による免責を排除する規定については相手国がドイツと同等の規制を確保している場合(相互主義)に限って適用されます。(25条3項)
(3)無限責任
1959年の原子力法制定当初、原子力事業者の責任限度は5億マルクとされており有限でしたが、原子力損害といえども私法の一般原則で処理すべきであること、原子力事業の保護育成よりも被害者救済が何にも増して重視されるべきであることなどから、1985年の改正時に、パリ条約7条(責任制限)の責任限度額を適用せずに、無限責任(31条1項)とされました。
ただし、戦闘行為その他不可抗力的事由によって原子力事故が生じた場合には、運転者の責任は「国の免責義務」の最高額である25億ユーロが限度とされます(31条1項)。
ドイツの原子力法は損害が他国で生じた場合にも適用されますが(25条3項)、ドイツと比較して種類、範囲、金額において同等の規制を確保しているときに限り適用されるという相互主義が採用されています。
(4)損害賠償措置
パリ条約10条(保証措置)では、責任限度額まで保険などで履行確保措置を講じることが要求されていますが、ドイツは責任限度額を設けていないため、許可手続きにおいて「填補準備(法律上の損害賠償義務の履行に対して申請者が講じるべき準備)」の種類、範囲及び金額を確定することになっています(原子力法13条)。
填補準備は25億ユーロを上限として「原子力法による填補準備に関する命令」に基準が定められ、責任保険又はその他の支払い保証措置により用意されます。填補準備のうち民間保険が責任保険として引き受けるのは2億5564万5000ユーロまでなので、それ以上は、4大電力会社による資金的保証により措置されます。
4大電力会社は、彼らの子会社である原子力発電所運営会社に1事故あたり22億4435万5000ユーロまでの賠償支払い義務を遵守できるようにさせる旨を政府に誓約しており、彼らが保有する原子炉の熱出力に応じて決められた負担割合について資金的保証を行います。保証は、負担割合相当額の2倍の流動性資産を有する証明書を提出することにより行われます。
(5)国家補償
パリ条約では7条で運転者の責任限度を定めていますが、これとは別にドイツ法における国家による救済は、国家の負担において原子力事業者の賠償義務を免責する「国家の免責義務」という方法で行われます。
要求された填補準備の額を超える損害が生じた場合、又は、何らかの理由(戦争などの不可抗力的事由によって損害が生じたために責任保険が支払われないなど)により填補準備からの填補がなされない場合には、25億ユーロ(填補準備の最高限度額と同額)までを国家が負担します(34条1項)。ただし、支払い可能な填補準備額は控除されるので、国による救済は責任保険等の填補準備と合わせて25億ユーロが限度となり、填補準備が機能する限り国家補償が発動することはありません。
(6)外国の原子力事故に対する救済
パリ条約には規定のない事項ですが、外国の原子力事故によってドイツ国内の被害者に損害が発生し、当該国の法では十分に賠償を請求できないときには、国は免責義務の最高額(25億ユーロ)までの補償を行うことになっています(38条)。
(7)消滅時効
パリ条約8条(消滅時効)では、原子力事業者に対する損害賠償請求権は事故のときから10年で時効消滅すると規定されていますが、加盟国は国内法でこれより長い期間を定めることができるため、ドイツでは事故の時から30年としています(32条)。
また、盗難、紛失、投棄又は放棄にあった核燃料等により発生した原子力事故の場合には、パリ条約では盗難等の時から10年とされているのに対して、ドイツでは20年と規定されています。
◇ ◇ ◇
○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2011年10月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」を小冊子にまとめました。
詳細はこちら。
■コラム「福島を思う」
□喫茶「つつじ」
青空が広がって日差しもあるというのに、フワフワと雪が舞っている。寒い日だった。昨年12月半ば、福島県郡山市内にある富岡町の住民が避難生活を送っている南1丁目応急仮設住宅(ビッグパレット北側)を訪れた時のことである。仮設住宅郡の中を寒さに凍えながら進んでいくと、一番奥の区画にある集会場にたどり着く。この場所に、月に数日、喫茶「つつじ」がオープンする。
喫茶「つつじ」とは、富岡町の社会福祉協議会が運営し、集会場の一室に不定期に開店する喫茶である。元々、数名の被災住民がボランティアで、自らが暮らす避難所内に設置したものだったが、昨年8月末に避難所が閉鎖した後も継続を望む声が多く、いつ戻れるのかわからない避難生活を送る中、少しでも楽しい時間を過ごしてほしいとの願いから、再度ボランティアの方々の尽力により仮設住宅群の集会場に昨年10月再オープンした。現在も避難住民のボランティアスタッフによって切り盛りされている。
喫茶「つつじ」は、週に3日程度、朝10時から13時までの3時間だけの営業なのだが、訪れた住民に無料でお茶やコーヒー、お菓子を提供している。仮設住宅に住む住民に限るが,希望があれば配達もしてくれる。喫茶店らしく、ちゃんとメニューもある。「コーヒー、紅茶、ハーブティー」などとあるのだが、訪れる人はもっぱら、コーヒーを飲みに来る。お茶は自宅で飲めるので、“喫茶に来たらコーヒー”に決まっているのだそうだ。
開店時間を過ぎると、お客さんがちらほら入ってきた。一人の女性が手作りの漬物を持参してきた。ボランティアスタッフがそれをみんなで食べられるように分け、各テーブルにある、チョコレートやお煎餅、キャンディなどが山のように入った籠の隣に置いていく。お客さんたちのおしゃべりが始まると、笑顔がこぼれ、ふわりと場が和んだ。傍らでコーヒーを入れる手伝いをしていた私も穏やかな気持ちに包まれた。
店名の「つつじ」は富岡町の町花である。現在は警戒区域で立ち入ることができない町内のJR常磐線夜ノ森駅には、ホームの両側一体に6,000株のつつじが植えられ、周辺に住む町民たちの手によって大切に守られていた。毎年春になると見事に花を咲かせ、その美しさをカメラにおさめようとする乗客のため、急行列車が速度を落として通過するほどの素晴らしさだった。
しばらくは見ることが出来ないであろう、ふるさとのつつじや桜のあでやかさ、豊かな自然、お祭りの賑わい・・・・そんな話題におしゃべりが弾み、ほとんどのお客さんがコーヒーをお替りしてゆったりと楽しんでいる。最近は借上げ住宅に暮らす人もやって来るようになったそうだ。3時間はあっと言う間に過ぎた。
昨年12月の時点で、避難生活が始まって9ヶ月以上、仮設住宅に移ってから3ヶ月以上が過ぎていた。先が見えず、辛く厳しい避難生活が続く中、この場所は、仮設住宅や借上げ住宅で暮らす人々にとって大切な憩いの場、交流の場になっているように感じた。
今年に入ってからは同じ郡山市内にある富田応急仮設住宅内にも喫茶「つつじ」富田店がオープンした。こちらもボランティアの協力で成り立っている。大変な避難生活の中、被災者自らが被災者を思いやる活動が広がっている。ほんの少しだけ立寄った私も暖かい思いで胸がいっぱいになった。町民の皆さんの心の中にほのぼのと咲いた「つつじ」、そして、今年の春には町のシンボルであり、町民の誇りでもある“2,000本の桜と花のトンネル”を2年ぶりに皆さんの目で絶対に見て欲しいと願い、桜を見て喜ぶ笑顔を思い浮かべながら、喫茶「つつじ」を後にした。
(雪うさぎ)