lights on with nuclear

 [JAIF]原産協会メールマガジン

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原産協会メールマガジン7月号
2011年7月25日発行

Index

■原子力政策推進活動

 □福島事故後の原子力発電の海外展開について理事長コメントを発表
 東北工業大学において原子力について議論 
 □「量子放射線利用普及連絡協議会」第13回会合を開催

■国際協力活動

 □WNU(世界原子力大学)夏季研修に原産協会職員が協力、「福島」が話題に 

■ホームページの最新情報

 □原産協会HP(一般向け)の更新情報
 □会員向けHPの更新情報
 □英文HPの更新情報

■原産協会役員の最近の主な活動など
■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【27】

本文

■原子力政策推進活動

□福島事故後の原子力発電の海外展開について理事長コメントを発表

 菅首相が21日の参院予算委員会で、原子力発電プラント輸出に関して、もう一度きちんと議論しなければならない段階に来ているとの発言を行いました。
 福島発電所事故以降も、関係各国からは日本の原子力発電技術に対する関心が示されており、事故の経験を踏まえた上で、「世界への貢献」と「わが国にとっての意義」の両面から原子力発電の海外展開を推進することが重要であることから、当協会は、政府は各国からの協力要請に真摯に応える方針を早急に説明するよう求める理事長コメントを発表しました。


全文はこちらからご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2011/hattori_overseas-development110722.pdf
(英訳 http://www.jaif.or.jp/english/news_images/pdf/ENGNEWS02_1311568875P.pdf )


□東北工業大学において原子力について議論

 当協会は、福島の原子力事故により大きく損なわれた、原子力に対する社会からの信頼の回復への一助とするため、地域で活動する市民グループなどの方々と原子力について意見交換する活動を行っています。その一環として、7月5日(火)、東北工業大学(宮城県仙台市)において同大学教職員及び学部生約30名と、原子力について議論しました。
 今回の意見交換会は、3年ほど前から高レベル放射性廃棄物処分問題に関するシンポジウムや対話集会などを通じて交流のある同大学青木准教授のご協力により実現しました。
 
 当協会からは、まず、今回の事故を正しく理解してもらうため、原子力発電所の安全確保の仕組み、福島事故の原因、現状、環境への影響、今後の対策などについて説明しました。その上で、今回の事故から見えてきたことや新聞各紙の世論調査の結果、再生可能エネルギーの可能性などを紹介しつつ、“私たちの望む社会を作り上げるためには、どのようなエネルギーが必要であるのか”、“経済的に活気に満ちた社会の維持には、電力が不可欠ではないのか”など、電力不足にある現状についての問題を参加した学生らに対して投げかけました。

 これに対し、「そもそも、なぜ原発が必要なのか。火力発電の稼働率を90%以上にすれば、原発なしでも電力は足りるのではないか」、「今回の福島事故を見たら、とてもクリーンとは言えない、非常にハイリスクなエネルギーだ」といった厳しい意見が出る一方、「今日の話を聞いて、自分としては、結局は原発に頼らないといけないと判断した。原発の地元自治体で原発反対が大きいのはなぜか」といった、原子力発電所の必要性を認める意見も出ました。
 
 原子力の利用を含むエネルギー問題を巡る議論は、わが国の将来を大きく左右するものです。その意味で、わが国の将来を担う若者たちにも、積極的に議論に加わってほしいと思います。今回の意見交換会が、学生らにとって原子力やエネルギー問題について考える一助となることを願っています。


□「量子放射線利用普及連絡協議会」第13回会合を開催

 当協会は6月15日、都内で「量子放射線利用普及連絡協議会」第13回会合を開催し(=写真)、京都大学名誉教授・ICRP(国際放射線防護委員会)主委員会委員の丹羽 太貫氏から「放射線の健康影響+胎児被ばくの影響」について、また、医療放射線防護連絡協議会総務理事・自治医科大学 大学RIセンター管理主任の菊地 透氏から「対応を影響から考える‐放射線影響を基準としたレベル区分の提案」について、ご講演いただきました。



 丹羽氏の講演の主なポイントは、以下の通り。
① 原爆被爆者における全致死がん頻度と線量については、「1000mGy」でがん死亡の頻度は「10%増加」する。同じ線量をゆっくり受けるとその効果は半減するので、がんの頻度上昇は5%にとどまる。100mGy以上で、直線的にがん死亡頻度が増加するが、100mGy以下での増加は、統計的有意性がない。しかし、防護目的には、線量に対して直線的に増加と想定しており、100mGyの急性被ばくで1%、遷延被ばくで0.5%の増加を想定している。
② 発がんは、食生活、生活習慣、ウイルス感染、ストレスレベル、環境要因(紫外線、他)等々様々な影響に依存する。よって、がんの死亡率の地域変動(国内)の幅は大きく、10%以上である。国別変動は、さらに大きい。
③ 内部被ばくは、線質が同じで、線量も同じであれば、外部被ばくと影響も同じ。内部被ばくの方が危ないというのは誤解。
④ 「遺伝的影響」に関しては、被爆者2世の調査において、これまでの解析では検出されていない。遺伝的影響は「無い」とは言えないが、7万人の集団の解析で検出されない程度に低いと言える。
⑤ 「胎児期の被ばくの影響」に関しては、大脳発達期の被ばくで小頭症・精神遅滞が増加するが、小児がんの増加は顕著ではない。ICRPは、100mGy以下で胎児影響無しと結論付けている。


 菊地氏からは、「対応を影響から考える‐放射線影響を基準としたレベル区分」として、これまでの人での放射線影響の健康調査から、100mGy以下で有意な影響が起きていないため、今回の福島原発事故の緊急時対応に関する国民への説明には、100mGy(mSv)を基準とした以下のようなレベル区分が提案され、国民の関心が高い健康影響を基準に解り易く説明し、風評被害を防ぐことが重要である、との講演がありました。


 その後、放射線の健康影響についてどのように国民に説明すべきか、放射性物質によって汚染された瓦礫の問題や放射線業務従事者の被ばく線量をどうすべきかなどについて、活発な意見交換が行われました。


詳しくは、以下(議事メモ)をご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/sangyo/13th-kyogikai-report_ryoshi-hoshasen.pdf


■国際協力活動

□WNU(世界原子力大学)夏季研修に原産協会職員が協力、「福島」が話題に

  2011年の世界原子力大学(WNU)夏季セミナー(SI)は、英国の大学都市オックスフォードが開催地です。今年は「福島」も大きな話題になりました。事故そのものへの関心、我が国、自らの国でのインパクトに多くの参加者(フェロー)が深く関心を持ち、我が国から参加のフェローも自らの体験を紹介するなど、従来以上に活動的に輪に入る姿を目にして「日本の国際化」に頼もしい希望を感じました。開講第一週の現地からの報告です。(メンター小西俊雄職員記)

 今年の夏季セミナーは、7回目。3月の「福島」以降、何らかの話題になるだろうと予想して、参加のフェローに「自分の目で見た『福島』を語れる心構え」をアドヴァイスしていました。「自分の目で」が他のフェローに関心と親近感を持たせる好手段と考えたからです。

 当初予定していなかったメンター役(研修運営をサポートするシニアグループ)の一員を急遽続けることになった5月以降、「『福島』をどう取り上げるか」とロンドンの研修運営事務局からの相談を受けてプログラム構成を調整して来ました。事務局では、例年第一週に取り上げる【Global Setting】の中に位置づけていました。原子力発電や原子力安全の一課題ではなく、「グローバル」な視点で考えさせよう、との意図でしょう。

 結局、全体を「『福島』の教訓は何なのか?」【What should we learn from Fukushima?】として「皆で考えよう」とのメッセージにしました。中身は「1.何か起きたのか、その概要」【What happened?】、「2.直接のインパクト:日本では?世界では?」【Immediate Impacts】、「3.国の対応と今後のアクション」【Government Responses】、「4.実体験他」【Real Experiences】の4構成とし、1.では事故の経緯と現状、2.では主として市民や産業界におけるインパクトの概要を紹介しました。何れもWNAスタッフの力も借りて、技術的な内容、海外諸国での概要を入れました。3.では主として政府の対応と今後の課題を概観し、今後国際的に取り組まねばならないとする意見を紹介し、最後の4.では身近の経験として、3人の日本人フェロー、避難生活を送る「原子力屋」の経験談、私自身の今の受け止め観を述べた後、全体の意見交換という流れになりました。

 技術的には原子力発電国を中心に、私よりもよく事態を把握理解しているフェローがいて、討論に参加してくれました。例えば「2号機の建物だけがなぜ壊れなかったのか」と私自身が理解していなかった疑問について、カナダのフェローが現場写真を紹介して解説してくれました。「海側から見た建物写真」で、私の調査からは漏れていました。

 3人のフェローは、自らの経験、所属組織の関与を紹介してくれました。本人たちにとっても良い発表の機会ではなかったかと思っています。「福島」は最初の週でしたから、第2週以降に好影響が残るのではないかと期待しています。
 諸国でのインパクトの詳細は紙面上余裕がありませんが、外からとかく「見えにくい」と言われる日本の状況をモニターするのに、メデイア以外では「東電」「原産協会」のホームページが役立った、との声を多く聞き、産業界としては努力していると自負心、安心感を覚えました。

 例年、「特定の課題を議論する小集団(Forum Issue Group)」で関心を共有するフェローが集まって調査から発表会に至ります。今年は「福島」をこの課題の一つにすることも当初検討されましたが、多くの分野で教訓があるはず、との立場から独立のグループは作らず、それぞれの課題の中でその関連を取り上げる形になりました。世界の若者が、どんな目で、どんな教訓を得ようとしているか、その結果が楽しみです。

 夏季研修では気候変動問題から人材育成まで、原子力を取り巻く広範な課題を世界の100名近くの若者が6週間、生活を一緒に過ごして共に考え英語で議論します。夏季セミナーの最大の狙いは、「知識修得」ではなく「課題を議論するプロセスを学び」「人の輪を広げる」ことにあります。英語環境における小グループでの討議を通して、議論への加わり方、主導の仕方、協力作業の進め方、プレゼン手法などを実習することは、日本人の若手には極めて向いている研修だと思っています。

 日本からは原産協会「向坊事業」で支援を受けた3人が参加しました。今後はそれとは別に各組織から直接参加のフェローも増えて、より多くの「国際感覚ある若手原子力屋」が育つことを期待しています。

 例年、他国に比べ「立ち上がりが遅め」と感ずる日本人フェローも、「福島」が幸いして最初から皆との交流が始まり、早く立ちあがったようです。出発前に、前年までの経験者から入手したノウハウも利いているでしょう。今後の参加が継続すれば更に効果が出て来るように思います。

 以下週単位に「原子力産業」、施設訪問を挟んで「安全、放射線防護」「広報、原子力経済、国際法」「原子力教育と知識管理」「原子力知識管理、課題検討発表会」と続きます。 議論を通して青年たちは各分野の今の課題を知り、他の若者の視点、考え方を知り、自分の国を見直し、自分自身の将来像、課題を見つけて行くのでしょう。



・世界原子力大学(WNU)夏季セミナー(SI)についてhttp://www.jaif.or.jp/ja/wnu_si_intro/index.html
・世界原子力大学(WNU)ホームページ
http://www.world-nuclear-university.org/default.aspx?ekfxmen_noscript=1&ekfxmensel


■ホームページの最新情報

□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )

*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。

・福島第一原子力発電所の事故情報(毎日更新、PDF)
・福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報(随時)
福島地域・支援情報ページ(随時)
  地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
【アジア原子力情報】サイトに「マレーシアの原子力発電開発の現状」を掲載 (7/14)
日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)を更新(7/23)


【解説・コメント・コラム】
理事長コメント:「福島事故後の原子力発電の海外展開について」 (7/22)
理事長コメント:「今後のエネルギー政策の策定について」 (7/15) 


□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/
・【日本の原子力発電所の運転実績】6月分データ (7/12)
・原産協会会員専用動画を公開 (7/1)


□英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/
・Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ)(随時)
・Earthquake Report、Status of countermeasures for restoring from the
accident at Fukushima Daiich(毎日更新)
・Environmental effect caused by the nuclear power accident at
Fukushima Daiichi nuclear power station (随時)


[Information]
・JAIF President's Comment on Overseas Promotion of Nuclear Power Generation after the Fukushima Nuclear Accident (7/25)
・Japan's NPP Status before and after the earthquake as of July 22, 2011(7/22)
・JAIF President's Comment on the Fomulation of a Future Energy Policy (7/19)
・Operating Records of Nuclear Power Plants in June 2011(7/11)
・AIJ FOCUS:JAIF Chairman's Remarks at the Ordinary General Assembly (7/5)
・Summary of Opinions/attitude of the Prefectural Governors toward METI Minister's Request for the NPP Restart (6/28)
・Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident in Japan (随時)
・Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident in Japan (随時)

[福島事故情報専用ページ] 「Information on Fukushima Nuclear Accident



■原産協会役員の最近の主な活動など

[服部理事長]
・7/21(木) 原子力産業と地域・産業振興を考える会主催 
       緊急講演会で講演(於:青森グランドホテル)
       「世界の原子力発電の動向~福島事故の影響~」
・7/26(火)~27(水) 日台原子力安全セミナー(於:世界貿易センタービル)


[石塚常務理事]
・7/26(火)~27(水) 日台原子力安全セミナー(於:世界貿易センタービル)


■シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」【27】

国をまたぐ原子力損害賠償と国際的な制度整備
 6月に開催された原子力安全に関するIAEA閣僚会議において、「原子力損害に対して適切な賠償を提供するため、原子力に係る損害賠償責任に関する一つの国際的な制度の必要性を認識する」という閣僚宣言が採択されました。
 そこで、今回は、国をまたぐ原子力損害賠償の裁判についてQ&A方式でお話します。


Q1.国をまたぐ原子力損害賠償)
日本で原発事故が起き、海洋汚染によって万一A国の漁業者に損害を与えてしまった場合、どのように裁判が行われますか?

A1.
・ 国をまたいで原子力損害が及んだ場合の訴訟については、一般的には、被害者であるA国の漁業者はA国あるいは日本のどちらの裁判所にも提訴することが可能です。
・ 一般的に、日本の裁判所においては日本の原賠法に基づく原子力事業者の賠償責任が問われますが、A国の裁判所では同国の原賠法が適用されず、原子力損害に関しても一般の不法行為法に基づき、加害者に対する損害賠償が問われるのが原則となります。


【A1.の解説】
 国を越えた民事に関わる損害賠償等の裁判など、自国と他国の法律がぶつかりあう部分については、各国において渉外的な私法関係を定めた法律分野があり、これを国際私法と言います。日本の原子力発電所が原子力事故を起こしたことによって、外国で原子力損害が発生した場合、その被害者は①どの裁判所に提訴できるのか(国際裁判管轄権)、②どの国の法律が適用されるのか(準拠法)、などが基本的な問題となってきます。
 国際裁判管轄権や準拠法については、条約等で定めている場合を除けば、国際的な取決めがあるわけではなく、各国がその国の法律においてどのように規定しているかという各国独自の問題となります。
 
国際裁判管轄権
 我が国の法律では、国際裁判管轄権についての直接の定めはありませんが、民事訴訟法の規定から類推して、裁判が可能な場所(国)は次の3通りと考えられます。
・被告の所在地国・・・日本
民事訴訟法第4条に「訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する」とあり、被告企業の所在する日本の裁判所に管轄が認められる。
・不法行為地国(その1)=事故発生地国・・・日本
民事訴訟法第5条9項に「不法行為があった地を管轄する裁判所に提起することができる」とあり、不法行為の事故発生地として日本の裁判所に管轄が認められる。
・不法行為地国(その2)=損害発生地国・・・A国
民事訴訟法第5条9項に「不法行為があった地を管轄する裁判所に提起することができる」の規定から、不法行為の損害発生地としてA国の裁判所にも管轄が認められる。

 上記は我が国の民事訴訟法の規定によるものですが、こうした管轄の定め方は世界的に見て一般的なものであり、他国においても3種の国際裁判管轄権(被告の所在地、事故発生地、損害発生地)が認められることが多いといえます。
 
準拠法
 準拠法については、我が国では、「法の適用に関する通則法」の第17条「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による」から類推して、損害発生地の法律によることが原則となることから、損害発生地A国の法(一般の不法行為法)が該当することとなります。各国の原賠法では、自国の許認可取得者である原子力事業者が賠償責任の負担者となっており、他国の事業者による原子力損害に関わる損害賠償は原賠法の対象とはならずに一般の不法行為法が適用となります。
 ただし、一方で通則法第20条(明らかに密接な関係がある地がある場合の例外)の「・・・適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の法があるときは、当該他の地の法による」の類推適用により、原賠法を持つ日本の法によるという考え方が採られ可能性もあります。

 以上は我が国の法律の規定による場合ですので、設例の場合には損害の発生したA国の法律の規定によることになります。したがって、もしもA国が我が国と同じような法律を定めている場合には、上記の通り、国際裁判管轄権では、日本あるいはA国のどちらでも裁判を行うことが可能であり、準拠法ではA国の法律(一般の不法行為法)若しくは日本の法律(原賠法)の適用が考えられます。
 
 上記の内容を取り纏めると、一般的に考えて、A国の被害者が日本で訴訟を提起する場合には当然日本の原賠法に基づいて訴訟をすることになります。もちろん、被害者の選択にしたがい、あえて日本の一般不法行為法に基づいて損害賠償請求をすることも可能です。また、A国で自国の不法行為法に基づいて訴訟をすることもまたあり得るでしょう。このほかに、A国において日本の原賠法に基づく訴訟が提起されることも考えられますが、もしA国に日本の「法の適用に関する通則法」と同様の法律があれば、密接関連法という例外規定により、A国において日本の原賠法に基づく裁判が受けられる可能性もあります。
 A国で日本の原賠法に基づく損害賠償請求ができれば被害者にとっては便宜といえますが、但し、A国で受けた判決は直ちに日本国内では執行できません。したがってその場合には日本の裁判所で所定の手続を行うことが必要となります。


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Q2.(原賠に関する国際的な制度)
原子力安全に関するIAEA閣僚会議において、原子力損害賠償に関する一つの国際的な制度の必要性が認識されました。なぜそのような制度が必要なのですか?


A2.
・ 原子力損害賠償に関する条約が無い場合、前述のA1.のとおり、関係する各国の国際私法に基づく賠償訴訟が行われることとなり、国際裁判管轄権や準拠法などが容易に一つに定まらず、また原子力事業者以外に賠償責任が及ぶなど、各国での訴訟の多発、裁判の長期化や被害者間の不公平が生じたりする可能性があります。
・ 原子力損害賠償に関する国際条約に加盟した場合、加盟国間において原子力事業者の責任範囲、責任額の制限、国の役割、裁判管轄権、準拠法、判決の承認や執行等があらかじめ決められることになります。
・ 条約は加盟国間においてのみ効力があるため、国際間の原子力損害賠償対応を円滑、迅速、公平に実施するためには、原子力施設国は勿論のこと非施設国を含めて可能な限り多くの国々が同一の条約を締結することが望ましいと言えます。


【A2.の解説】
原子力損害賠償に関わる国際間の問題点と対応
 Q1のような国をまたぐ原子力損害賠償では、被害国における被害者は原則として自国の裁判所に提訴し損害賠償請求を行うことになります。この場合には、一般の不法行為法の対象となるため、原賠法の無過失責任や責任集中などの原則が適用されず、過失の有無、損害賠償の範囲等を争って裁判が長期化したり、場合により原子力事業者以外のメーカー等にまで賠償責任が及んだりする可能性があります。
 また同様の損害に対して関係する各国において数多くの裁判が行われ、様々な判決が出ることになれば、被害者間に不公平が生じる可能性があります。より迅速、適切に裁判を行うためには、国をまたぐ原子力損害賠償訴訟においては原賠制度の枠組みを共有するとともに、裁判管轄権を有する国をあらかじめ取り決めておかなければなりません。
 そのためには、各国が条約を締結し、締結国との間で原子力事業者の責任、国の役割、裁判管轄権、準拠法、判決の承認・執行など、国際的な原賠制度の枠組みとなる事項を決めておく必要があります。

 例えば「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」に加盟した場合、加盟国間における原子力損害賠償の概要は以下のようになります。

原子力事業者の責任
・ 原子力施設の運営者(=原子力事業者)は原子力事故により生じたと証明された原子力損害について責任を負う(付属書第3条の1)
・ 原子力損害に関する運営者の責任は絶対的なものとする(付属書第3条の3)
・ 運営者は、武力紛争行為、敵対行為、内戦又は反乱、異常な性質の巨大な天災地変に直接起因する原子力事故によって生じた原子力損害に関しては責任を負わない(付属書第3条の5)
・ 運営者はこの条約に従った国内法の規定による以外には、原子力事故によって生ずる損害に関して責任を負わされることはない(付属書第10条)
・ 運営者の責任額は3億SDR(約377億円)を下回らない額に制限できる(付属書第4条の1)、運営者は原子力損害を填補するために保険等の資金的保証を行う(付属書第5条の1)

国の役割
・ 施設国は、保険その他の資金的保証の支払額が賠償請求額に対して足りない部分について、運営者の責任限度を超えない範囲で、必要な資金を提供することにより、その賠償請求の支払いを確保しなければならない(付属書第5条の1)、施設国は、原子力損害の補償に関わる3億SDR及び公的資金の利用可能を確保する(3条の1)
裁判管轄権
・ 原子力事故による原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権は、その領域内や排他的経済水域で原子力事故が生じた締約国の裁判所のみに存する(13条の1、13条の2)
・ 原子力事故が締約国の領域内や締約国の排他的経済水域内で生じたのではない場合、又は原子力事故発生地が確定できない場合には、原子力事故による原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権は、施設国の裁判所のみに存する(13条の3)
・ 原子力損害に関する訴訟の裁判管轄権が複数の締約国の裁判所に存する場合には、これらの締約国はいずれの締約国の裁判所が裁判管轄権を有するかを合意により決定する(13条の4)

準拠法
・ 準拠法は管轄裁判所の法とする(14条の2)
判決の承認・執行
・ 裁判管轄権を有する締約国の裁判所により下された判決は承認されるものとする(13条の5)
・ 承認された判決は、当該締約国の裁判所の判決と同様に執行できるものとする(13条の6)
・ 判決が与えられた請求の本案は、重ねて訴訟手続には服さない(13条の6)

 原賠制度に関する多国間条約にはパリ条約、ウィーン条約、原子力損害の補完的補償(CSC)に関する条約の3系統がありますが、現在、我が国及び周辺国は原賠制度に関するいずれの国際条約にも加盟していません。また、条約は加盟国間においてのみ効力があるため、可能な限り多くの国々が同一の条約を締結することが望ましいと考えられます。
 このことは、福島事故を受けて6月に開催された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」においても「原子力損害に対して適切な賠償を提供するため、原子力に係る損害賠償責任に関する一つの国際的な制度(原子力事故により影響を受けるおそれのある全ての国の懸念に対処するもの)の必要性を認識する」と宣言されています。

※円換算は平成23年7月21日の為替レートによる。


                   ◇    ◇    ◇
○ 原産協会メールマガジン2009年3月号~2010年9月号に掲載されたQ&A方式による原子力損害賠償制度の解説、「シリーズ『あなたに知ってもらいたい原賠制度』」の19回分を取りまとめ、小冊子を作成いたしました。

 小冊子の入手をご希望の方は(1)送付先住所 (2)所属・役職(3)氏名(4)電話番号(5)必要部数をEメールで genbai@jaif.or.jp へ、もしくはFAXで03-6812-7110へお送りください。

シリーズ「あなたに知ってもらいたい原賠制度」のコンテンツは、あなたの声を生かして作ってまいります。原子力損害の賠償についてあなたの疑問や関心をEメールで genbai@jaif.or.jp へお寄せ下さい。
                    

 


◎「原産協会メールマガジン」2011年7月号(20117.25発行)
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