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原産協会メールマガジン9月号 2012年9月25日発行 |
Index
□理事長コメント『革新的エネルギー・環境戦略についての意見』を発表
□「量子放射線利用普及連絡協議会」第16回会合を開催
□第56回IAEA総会開催、産業協力フォーラムで服部理事長がスピーチ
□台湾高校生日本訪問団随行記
本文
□理事長コメント『革新的エネルギー・環境戦略についての意見』を発表
当協会は14日、政府の「革新的エネルギー・環境戦略」が決定されたことを受け、服
部理事長コメントを発表しました。
全文はこちらをご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/paper_db/member-melmag/comme20120914.pdf
□「量子放射線利用普及連絡協議会」第16回会合を開催
当協会は8月21日、都内で「量子放射線利用普及連絡協議会」第16回会合を開催し、全国中学校理科教育研究会(全中理)・会長で練馬区立開進第一中学校・校長の高畠 勇二氏から「中学校理科における放射線・エネルギー環境教育について」、福島県郡山市立明健中学校・教諭の佐々木 清氏から「福島県における放射線教育について」と題し、ご講演いただきました。
高畠氏からは、全中理としては、放射線教育の特別委員会を発足し、放射線教育に力を入れて活動していくことや、放射線の専門家がやりにくいところで我々教員ができる部分を相補しながらやっていきたいという意気込みが語られました。また、福島第一原子力発電所事故の際には、放射線から身を守るための知識が足りなかったため、避難された方々がどのように行動すればよいのかと戸惑われたことや、今後の放射線教育には、チェルノブイリ事故から得られた教訓を生かして、地域の方々と共に実践的な放射線教育をしていくことの重要性も指摘されました。また、福島をチェルノブイリにしてはいけない、日本全体で福島の、東北の痛みを分け合うべきとの意見が述べられました。
佐々木氏からは、福島原発事故後に、生徒たちから放射線について、「先生、すぐに教えて!」という声が多く、中学3年まで待つのではなく、中学1年から各学年毎教えることや、こどもたちが最も学びたい内容は、「放射線による人体への影響」であるので、今年の9月に養護の先生とともに授業を実施することについて説明がありました。さらには、福島県における放射線教育のための副読本として、文部科学省が作成した副読本では、原発事故やリスクについて触れていないので、福島県における放射線教育としては、原発事故と放射線によるリスクも取り扱うことが大切であり、今後の展望として、①空間線量が会津地方のように比較的低い地域、②空間線量が郡山のように比較的高い地域、③今後帰還する地域で空間線量が高い地域の3つのバージョンの放射線教育を考えていきたいこと等について紹介がなされました。
講演後、今後の放射線教育やリスクに関する考え方等について、活発な意見交換が行われました。
詳しくは、以下をご覧ください。↓
(議事メモ・公開)
http://www.jaif.or.jp/ja/sangyo/16th-kyogikai-report_ryoshi-hoshasen.pdf
□第56回IAEA総会開催、産業協力フォーラムで服部理事長がスピーチ
国際原子力機関(IAEA)の第56回通常総会が9月17日から21日の5日間の日程で、オーストリアのウィーンで開催され、同機関の諮問的地位を有している当協会もオ ブザーバーとして参加しました。
天野之弥・事務局長は開幕の声明の中で、食品や医療など多岐の分野にわたり原子力が活用されていることを紹介したほか、核開発が懸念される国に対し必要な協力を速やかに行うよう要請しました。原子力発電については、アジア諸国を中心に今後20年間でますます利用が広がっていくことに触れ、福島第一原子力発電所事故での教訓を活かし原子力安全に最大限に留意が重要であると訴えました。また、12月にIAEAと日本政府が福島で共催する原子力安全に関する閣僚会議についても触れました。
日本からは山根隆治・外務副大臣が出席し、今後も引き続きIAEAの活動に協力を続けていくことを示す一方、日本国内のエネルギー政策については白紙から見直し、2030年代に原子力発電の割合をゼロにしていく方針であることなどを表明しました。
また、IAEA総会に合わせ18日に開催された「原子力産業協力フォーラム」において、当協会の服部理事長がスピーチを行いました(=写真下)。
その中で服部理事長は、福島原発事故から約1年半が過ぎた今、事故から得た教訓を共有して世界の原子力発電所の安全性の向上に貢献することが日本の責務であるとし、政府と国会それぞれの事故調査委員会報告の内容を紹介しました。
自身の見解としては、同事故が「原子力発電技術そのものに起因するものではなく、その技術を管理するシステムに根本原因があった」と言明。発生頻度は低くても過酷な事態を想定して事前にしっかりと準備し、事前の準備が十分になされていれば、事故の発生や進展は防げたと指摘しました。
また、事故直後の情報提供も即座に適切になされていれば、避難や対処の遅れ、混乱はある程度防げたのではないかとの考えを提示。安全文化の中心をなす「常に問い続ける姿勢」が日本の原子力界全体の中で欠落していたことを反省しなければならないと述べました。
さらに事故後の日本における安全確保への取り組み、現在の日本における原子力発電所の状況、除染の基本的考え方、廃炉に向けた中長期的課題への取り組みのロードマップなどについて説明。人材確保・育成、福島の復興、国際協力の大切さについても触れるとともに、日本の原子力の将来を考えるにあたっては、国民の信頼回復に向けて公開性と透明性を確保することが重要だと強調しました。
8月19日~24日の6日間、台湾から台湾清華大学の李敏教授を団長とする高校生の日本訪問団が来日しました。訪問団は、台湾各地から選抜された高校生21名(男子7名、女子14名)を、大学教授3名、高校教諭5名が引率され、謝牧謙先生が顧問兼通訳として参加されました。当協会は訪問先のアレンジ等に協力しました。
高校生同士の原子力に関する意見交換を目的とした台湾高校生の日本訪問は、台湾でも初の試みです。2010年11月に台湾で開催された「第25回日台原子力安全セミナー」において、当協会服部理事長と清華大学李敏教授との間で、台湾の高校生向け原子力教育への協力で合意がなされ、今回初めて具体化したものです。
本訪問は下記を目的としています。
① 日本における放射性廃棄物処分と原子力発電の現状について学ぶ。
② 福島事故について学ぶ。
③ 日本の高校生とのフリーディスカッションを通じ、相互に、原子力に対する意識や、原子力産業界の将来について考える好機とする。
行程 | 宿泊地 | |
8/19(日) | 成田着 | 品川 |
8/20(月) | 東京 → 八戸 → 奥入瀬散策 → 三沢 | 三沢 |
8/21(火) | 三沢 → 六ヶ所施設(09:30-14:00) → 八戸 → 仙台 | 仙台 |
8/22(水) | 仙台 → 女川原子力発電所(10:30-13:30) → 福島 | 福島 |
8/23(木) | 福島 → 福島高校(09:00-12:00) → 福島 → 東京 | 品川 |
8/24(金) | 成田発 |
一行は、六ヶ所村にある日本原燃のPRセンターを見学、再処理について学んだ後、東北電力の女川原子力発電所を訪問。津波に耐えた女川原子力発電所の特徴について、福島第一との比較を交えながらレクチャーを受けました。これらを踏まえ、翌日には福島県立福島高等学校を訪問し、日台双方のプレゼン・ワークショップ形式でのディスカッションを行いました。
台湾高校生は宿泊先のホテルで深夜2時まで資料の修正やプレゼン準備に当たる等、真剣に取り組み、双方のディスカッションもレベルの高い、冷静な議論が展開されました。
詳細内容を以下にご報告致します。
六ヶ所村の日本原燃PRセンターでは桜井副館長から六ヶ所施設全体についての概要説明を受けた後、展示コーナーへ移動。説明員から、実物を縮小したモデルで再処理工程についての説明を受けました。再処理工程の各々のポイントで、李教授が詳しく追加説明を加えられ、高校生たちも熱心に質問しながらメモをとっていました。
続いて一行は広報部大久保課長の案内で、再処理工場の中央制御室や使用済み燃料保管施設を窓越しに見学。高校生達は、放射線量がバックグラウンドレベルと変わらないことを知り、驚いた様子でした。また、最後に見学したLLW埋設地では、台湾におけるLLW埋設地の候補となっている台東の高校生も参加していることから、ひときわ熱心に質問する姿が目立ちました。
翌日は、東北電力の女川原子力発電所を訪問しました。移動中、仙台からのバスの車窓から、ガレキの山や損壊した建物など、石巻の惨状を目の当たりに致しましたが、その復興の早さに高校生たちは目を瞠っていました。
女川原子力発電所で加藤所長代理、遠藤前所長代らに迎えられた一行は、加藤所長代理から英語で、津波に耐えた女川原子力発電所の特徴について、福島第一との比較を交えながらレクチャーを受けました。特に女川町住民の10人に1人が失われた津波については、ビデオ映像も交え詳細に説明されました。
その後バスの中から、サイト内を一通り巡回。4月に新たに完成した防潮堤(高さ3mの追加分)や、津波で倒壊した重油タンク、駐車場に設置された3台の緊急時注水車(カバーで覆われていた)、新設の3基の空冷式ディーゼル発電機(DG)、町民が避難生活を送っていた体育館などを車窓から眺めました。
昼食をとりながらのQ&Aでは、加藤氏の「女川はエンジニアリングが津波に勝った好例」との言葉に、多くの高校生が感銘を受けた様子でした。高校生からの数々の質問に、加藤、遠藤の両氏が真摯に(本音で)回答していただきました。
一行は翌木曜日の早朝に福島県立福島高等学校を訪問。生徒たちに歓迎されながら、交流会会場である「梅苑会館」へ移動。そこで6つのテーブルに分かれ、各テーブルに日台双方の混合チームでグループ分けしてワークショップ形式でスタートしました。
本間校長から、挨拶とともに福島の4つの苦しみ「地震・津波・放射線・風評」が紹介され、李教授から本日のアレンジに対する感謝が述べられました。また、國立南科國際實驗高級中學の蔡先生より、「台湾の人々は昨年以降原子力について再考している状況で、各高校で生徒たちが実施した原子力に関する世論調査について紹介する」旨の挨拶がありました。
その後、日台双方の生徒代表による挨拶の後、福島高校のグループが同高校の被害状況や放射線の状況について基調発表。特に、最後に”We’ll never give up !”と宣言したのが強く印象に残りました。
台湾側は台中市の暁明女子高級中學のグループが基調発表、火力、水力、太陽光、原子力の各電源について、コスト/エネ効率/立地/環境影響の側面からメリット・デメリットを比較する内容の発表をしました。この中で、「各国はそれぞれ自分たちのエネルギー政策を持つべきだ、また地球温暖化という共通課題に取り組むためには原子力が最良のオプション」と指摘しました。そして、「女川のように、エンジニアリングは自然災害を押さえ込むことが出来るにも拘わらず、脱原子力を進めるべきと主張するのであれば相応に合理的な説明が必要である」と強調しました。
そのほか台湾側の國立台東女子高級中學、國立台東高級中學、國立基隆高級中學の3校からそれぞれが実施した世論調査概要およびその分析が発表され後、全体でのディスカッションに入りました。
当初、福島高校の先生方も、「果たして高校生同士で上手く討論が成立するのか?」とご心配されていましたが、これは杞憂に終わり、日台双方の高校生により非常に質の高い活発な意見交換が展開されました。
ある台東の男子生徒は「自分は台東のLLW処分場建設に反対だ。LLW処分場自体に不安は持っていないが、台湾政府の処分場立地に向けた進め方に不快感を覚える」と発言。福島の男子生徒も「大事なことは何かあったときにどう対処するかで、今回の日本政府の対処には不満が残る」と発言するなど、意外にも冷静な見方をしていることが判りました。
李教授が当日の朝刊で、「47%が原子力に反対」を示し、福島の高校生たちにどう思うかとたずねたところ、ある男子生徒は「2030年の脱原発は難しいのではないか?」と回答。別の男子生徒も「日本は資源の多くを輸入に頼っており、それが手に入らなくなったら電気を止めなければいけない。電気がないと生きていけない病人も大勢いる」と応えるなど、福島の高校生から極めて冷静な回答が続きました。
交流会終了後は生徒たち同士でメールアドレスの交換、記念撮影など大いに盛り上がっていました。なお、福島高校では来年3月に台湾訪問を検討しており、今回の交流会を契機に、日台双方の交流を深めたい意向です。
<追記>
台湾の高校生たちの発表準備にかける意気込みには驚かされました。写真は福島のホテル・ロビーでの光景なのですが、21時ごろに高校生たちがグループに分かれ、ノートPCを広げてなにやら話し合っているのです。
プレゼンテーションのリハーサルだったようで、高校の先生が生徒たちのプレゼン時の目線から姿勢、英語に至るまで厳しくチェックしていました。勿論、原稿内容はすべて暗記。ある程度内容が固まると、清華大学の先生のところへ行き、ロジックの弱点や矛盾を直してもらうという流れで、最後のグループがリハーサルを終えたのは深夜2時でした。脱帽!
(国際部 石井敬之)
当協会は9月12日、2回目となるテーマ別原産会員フォーラムとして、中国での原子力ビジネスに関わるための諸事情について、それぞれの分野から専門家を招き講演会および交流会を開催しました。当協会は今年度、中国でのビジネス参入に関心をお持ちの会員各社を対象として、「日中ビジネス交流支援事業」の展開を計画しており、本フォーラムは、同事業のキックオフ的な位置づけとなりました。
講演会会場は90名を超える参加者で埋め尽くされ、会員の皆さんの高い関心が伺えました。講演会後に開催された交流会でも、活発な意見交換が行われました。
講演会概要
1.講演「原子力の国際展開と輸出規制」(経済産業省資源エネルギー庁原子力政策課 高木直樹氏)
2.講演「中国の原子力情勢」(日中科学技術交流協会 永崎隆雄氏)
3.会員からの発表
(1)「中国進出の注意点」(双日株式会社 林千野氏)
(2)「対中原子力ビジネスにおける心がけ」(イーエナジー株式会社 鈴木真氏)
なお講演資料は、原産協会の会員向けウェブサイトに掲載されています。
・(株)前川製作所(大阪)
・(株)バリュー・クリエイト
・ 井上電気(株)
・(株)オリコム
・(株)シー・エス・エー・ジャパン
・(有)エヌ・イー・ワークス
□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
・『原産会員フォーラム 平成24年度 開催予定』を掲載(9/19)
・『革新的エネルギー・環境戦略についての意見』を掲載(9/14)
・OECD/NEAとIAEAの共同報告書「ウラニウム2011:資源、生産、
需要」(2012年7月刊行、通称レッドブック)から、国別のウラン資源量、生産
量、原子力発電規模見通しなどのデータを日本語版の形にして編集・掲載(8/30)
・【受付を終了】第2回 テーマ別原産会員フォーラム(日中原子力ビジネス交
流支援講演会)開催のご案内(8/27)
・福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等の状況 (随時)
・福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報 (随時)
・福島地域・支援情報ページ (随時)
地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中
・「日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)」を掲載 (随時)
□会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/ )
・【海外原子力情報】2012年8月分を追加、掲載(9/24)
・「第2回テーマ別原産会員フォーラム」配布資料を掲載しました。
・「第2回テーマ別原産会員フォーラム」配布資料を掲載(9/18)
・【日本の原子力発電所の運転実績】8月分データを掲載(9/10)
・「第1回テーマ別原産会員フォーラム」配布資料を掲載 (9/3)
□英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/ )
・Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ) (随時)
・Fukushima & Nuclear News (毎日更新)
・Status of the efforts towards the Decommissioning of Fukushima Daiichi Unit 1-4 (随時)
・Environmental effect caused by the nuclear power accident at Fukushima Daiichi nuclear power station (随時)
[Information]
* JAIF President's Comment on Innovative Energy and Environment Strategy (9/18)
* JAIF Comment on the Three Energy-and-Environment Options (8/31)
* Stress Test and Restart Status (随時)
* Current Status before and after the earthquake (随時)
* Operating Records of Nuclear Power Plants (随時)
* Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident in Japan (随時)
* Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident in Japan (随時)
[福島事故情報専用ページ]
「Information on Fukushima Nuclear Accident」 (随時)
[今井会長]
・9/14(金) 平成24年度第351回理事会
[服部理事長]
・9/27 プレスブリーフィング(予定)
「最近の原子力を巡る国際動向について」および
「革新的エネルギー・環境戦略についての意見」
・9/16~9/22 IAEA総会出席、サイドイベント登壇に伴うウィーン出張
・9/14 平成24年度第351回理事会
・9/12 第2回テーマ別原産会員フォーラム
[佐藤常務理事]
・9/14 平成24年度第351回理事会
・9/12 第2回テーマ別原産会員フォーラム
政府の賠償基準の考え方と総括基準
今回は、政府による避難指示区域の見直しに伴う賠償基準と原子力損害賠償紛争解決センターによる総括基準の追加分についてQ&A方式でお話します。
Q1. (政府の賠償基準の考え方) 2012年7月20日に政府から公表された、「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」はどのような内容ですか? |
A1.
・ 原発事故に関わる賠償の中でも、避難指示区域内の不動産等に関する賠償については、被災者が今後の生活再建を展望する上でとりわけ密接に関わることから、政府は被害を受けた自治体や住民の意見や実情の調査結果を踏まえて、賠償基準の考え方を公表しました。これが2012年7月20日に公表された「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」です。
・ この賠償基準では、被災者が帰還を希望する場合も移住を希望する場合も、賠償上の取り扱いは同一とするとされています。
・ 具体的には、避難区域見直しに伴い原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針第二次追補を踏まえて、不動産や家財の賠償、精神的損害や営業損害・就労不能損害の賠償を一括払いするための、算定方法が示されています。
【A1.の解説】
東京電力は、これまで原子力損害の賠償を実施するに際して、原子力損害賠償紛争審査会(紛争審査会)が策定した指針を踏まえ、同社としての賠償基準を定めて、各被害者に対して個別状況を勘案した損害賠償を行ってきました。
実際の避難指示区域の見直しは当初の予定から大幅に遅れた状況にありますが、この区域の見直しに関連して、それぞれの区域における不動産や家財等の財物損害の賠償、営業や就労等に対する賠償が被害者の今後の生活再建にとりわけ密接に係わるものといえます。そのため、政府は被害を受けた自治体や住民からの意見・実情を調査し、それを踏まえて賠償基準に反映させるべき考え方を取りまとめ、今回の公表に至りました。
避難住民の中には、できるだけ早く帰還して生活再建を希望する者や、新たな土地に移住することを選択する者など、様々な立場や考え方があり得ます。それを前提として、賠償が個人の判断・行動に影響を与えるべきではないという指針における基本的な考え方に立ちつつ、帰還した上での生活再建や、新たな土地における生活の開始など、それぞれの選択に可能な限り資することが賠償の基本方針とされました。
具体的には、帰還を希望する場合も、移住を希望する場合も賠償上の取り扱いは同一とし、財物、精神的損害、営業損害、就労不能損害等幅広い損害項目について賠償金の一括払いを可能とすること等により、住民の生活再建のための十分な金額を確保するものとされています。
「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」の概要は以下の通りです。
<避難指示区域における各賠償項目の考え方>
1. 不動産(住宅・宅地)に対する賠償
【基本的な考え方】
(1) 帰還困難区域においては、事故発生前の価値の全額を賠償する。
居住制限区域・避難指示解除準備区域においては、事故時点から6年で全損とし、避難指示の解除までの期間に応じた割合分を賠償する。
(2) 解除の見込み時期までの期間分を当初に一括払いをすることとし、実際の解除時期が見込み時期を超えた場合は、超過分について追加的に賠償を行うこととする。
【事故発生前の価値の算定】
(1) 土地
宅地については、固定資産税評価額に1.43倍の補正係数をかけて事故前の時価相当額を算定する。
(2) 建物
住宅については、固定資産税評価額を元に算定する方法と、建築着工統計に基づく平均新築単価を元に算定する方法を基本とし、個別評価も可能とする。
(3) 住宅の修復費用等
住宅について、早期に修繕等を行いたいという要望も強いことから、基準公表後、建物の賠償の一部前払いとして、建物の床面積に応じた修復費用等を速やかに先行払いすることとする。
【事業用の不動産等の賠償】
事業用不動産や償却資産、田畑、森林等については、その収益性は営業損害の賠償に反映することを基本とし、加えて、資産価値についても別途賠償を行うこととするが、適切な評価方法については継続して検討する。
2. 家財に対する賠償
(1) 家族構成に応じて算定した定額の賠償とし、帰還困難区域は、避難指示期間中の立入などの条件が異なり、家財の使用が大きく制限されること等から、居住制限区域・避難指示解除準備区域と比較して一定程度高くなる設定とする。
(2) 損害の総額が定額を上回る場合には個別評価による賠償も選択可能とする。
3. 営業損害・就労不能損害に対する賠償
(1) 営業損害、就労不能損害の一括払い
従来の一定期間毎における実損害を賠償する方法に加え、一定年数分の営業損害、就労不能損害を一括で支払う方法を用意する。ただし、大企業は適用対象外。
(ア) 農林業:5年分
(イ) その他の業種:3年分
(ウ) 給与所得:2年分
(2) 営業・就労再開等による収入は差し引かず
営業損害及び就労不能損害の賠償対象者が、営業・就労再開、転業・転職により収入を得た場合、一括払いの算定期間中の当該収入分の控除は行わない。ただし、大企業は適用対象外。
就労不能損害で控除を行わない収入は月額50万円を上限とする。
(3) 事業再開費用等
帰還して営農や営業を再開する場合、その際に必要な追加的費用に加え、一括払いの対象期間終了後の風評被害等についても別途賠償の対象とする。
4. 精神的損害に対する賠償
(1) 2012年6月以降の精神的損害について、帰還困難区域で600万円、居住制限区域で240万円(2年分)、避難指示解除準備区域で120万円(1年分)を標準とし、一括払いを行う。
(2) 居住制限区域、避難指示解除準備区域について、解除の見込み時期が(1)の標準期間を超える場合には、解除見込み時期に応じた期間分の一括払いを行う。その上で、実際の解除時期が標準の期間や解除の見込み時期を超えた場合は、超過分の期間について追加的に賠償を行うこととする。
<旧緊急時避難準備区域における賠償の方針>
1. 住宅等の補修・清掃費用
住宅等の補修・清掃に要する費用として、30万円の定額の賠償を行うこととし、これを上回る場合は実損額に基づき賠償するものとする。
2. 精神的損害・避難費用等の賠償
中学生以下の年少者の精神的損害について月額5万円として2013年3月分まで継続するとともに、全住民について、通院交通費等生活費の増加分として、2013年3月分までを一括して一人当たり20万円を支払うこととする。
3. 営業損害・就労不能損害の賠償
営業損害については、2013年12月分まで、就労不能損害(勤務先が避難指示区域外の場合)については、2012年12月分まで継続するとともに、一括払いの選択肢を用意する。また、一括払いの算定期間中の追加的な収入については賠償金から控除しない。
4. 早期帰還者等への精神的損害の賠償
早期帰還者・滞在者については、避難継続者との賠償の差異を解消する観点から、遡って支払いを行う。
5. 旧屋内退避区域等への対応
旧屋内退避区域及び南相馬市の一部については、避難継続者に対して2011年9月末まで精神的損害の賠償金が支払われていたことから、早期帰還者及び滞在者に対してもその間の精神的損害の賠償について遡って支払いを行う。また、家屋の賠償、営業損害等についても、旧緊急時避難準備区域の考え方に準じた扱いとする。
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中間指針第二次追補と総括基準(2012年3月14日公表分)
Q2.(紛争解決センターが策定した総括基準) 原子力損害賠償紛争解決センターは、これまでも総括基準を公表してきましたが、その後4月、7月、8月に追加した6つの総括基準はどのような内容ですか? |
A2.
・ 東京電力の回答金額を上回る部分の損害主張のみを紛争解決センターの審理の対象とすること、
・ 東京電力が審理を不当に遅延させる態度をとった場合には和解案に年率5%の遅延損害金を付することができること、
・ 営業損害に関しては複数の合理的な算定方法が存在し、いずれを選択したとしても合理的なものと推認されること、
・ 営業損害や就労不能損害算定の際の中間収入は50万円までは非控除とすること、
・ 観光業の風評被害については、青森、秋田、山形、岩手、宮城、千葉の観光業の減収は少なくとも7割を原子力損害とすること、
・ 旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等については、指針や総括基準の慰謝料支給要件を満たさない期間の慰謝料を月額10万円としたうえで、別途生活費の増加費用の賠償を受ける場合は平成23年10月1日以降の慰謝料を月額8万円とすること
の各点が示されました。
【A2.の解説】
紛争解決センターでは、申し立てられた案件の多くに共通する論点があることから、一貫性のある和解案を作成して申立人間の公平を確保するため、中間指針を踏まえ個別の和解仲介事件に適用するべき「総括基準」を策定しています。
この総括基準の公表により、他に同様な損害を被っている人にも賠償の可能性や範囲を知ってもらうことのほか、同一基準に基づく和解案提示の促進や、被害者と東京電力との円滑な相対交渉を促進することで、多数の賠償手続の処理に寄与することが期待されています。
総括基準としては、初回の2012年2月14日に、①避難者の第2期の慰謝料、②精神的損害の増額事由等、③自主的避難を実行した者がいる場合の細目、④避難等対象区域内の財物損害の賠償時期、の4項目、続いて3月14日に⑤訪日外国人を相手にする事業の風評被害等、⑥弁護士費用、2項目が策定、公表されてきました。
その後、新たに2012年4月19日に⑦営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法、⑧営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除、2012年7月5日に⑨加害者による審理の不当遅延と遅延損害金、⑩直接請求における東京電力からの回答金額の取扱い、2012年8月1日に⑪旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等、2012年8月24日に⑫観光業の風評被害、についての総括基準が策定、公表されました。
2012年4月19日以降に新たに公表された6つの総括基準の概要は以下の通りです。
<総括基準>
1.営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法
合理的な算定方法の代表的な例として以下のものが挙げられる。
■ 平成22年度の同期の額
■ 平成22年度の年額の12分の1に対象月数を乗じた額
■ 上記の額のいずれかの2年度分又は3年度分の平均値(加重平均を含む)
■ 各年度の収入額に変動が大きい場合は平成22年度以前の5年度分の平均値(加重平均を含む)
■ 平成23年度以降に増収増益の蓋然性が認められる場合には、上記の額に適宜の金額を足した額
■ 営業開始直後で前年同期の実績等が無い場合には、直近の売上額、事業計画上の売上額その他売り上げ見込みに関する資料、同種事業者の例、統計地などをもとに推定した額
■ その他上記の例と遜色のない方法により計算された額
2.営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除
営業損害や就労不能損害の算定期間中に、避難先等における営業・就労によって得た利益や給与等は、特段の事情がない限り、営業損害や就労不能損害の損害額から控除しないものとする。
原則として、一人月額50万円を越える部分に限り、営業損害や就労不能損害の損害額から控除することとする。
3.加害者による審理の不当遅延と遅延損害金
和解の仲介手続きにおいて、東京電力が審理を不当に遅延させる態度をとった場合には、和解案に遅延損害金を付することができる。この場合、利率は民事法定利率5%の割合とし、平成23年10月1日を起算日とする。
4.直接請求における東京電力からの回答金額の取扱い
東京電力に対する直接の請求に対して東京電力の回答があった損害項目については、紛争解決センターは東京電力の回答金額を上回る部分の損害主張のみを実質的な審理判断の対象とする。
5.旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等
事故発生時に旧緊急時避難準備区域に居住していた者のうち、指針や総括基準に基づく慰謝料支給要件を満たさない期間がある者は、当該期間について仲介委員の定めるところにより、以下のいずれかの慰謝料を賠償する。
■ 平成23年3月11日~平成23年9月30日まで 月額10万円
平成23年10月1日以降 月額8万円
この基準による場合は生活費の増加費用は含まれず、別途賠償を受けることができるものと扱う。
■ 平成23年3月11日以降 月額10万円
この基準による場合は当該期間中の生活費の増加費用の全額が当該慰謝料に含まれているものと扱う。
6.観光業の風評被害
青森県、秋田県、山形県、岩手県、宮城県、千葉県の観光業において事故後に発生した減収等の損害については、少なくともその7割(修学旅行、スキー教室、臨海学校、林間学校等は全部)が原子力事故による損害と認められる。
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今年も”ボジョレーヌーボー解禁”の広告を見かける季節となった。
解禁日は毎年11月第3木曜日なので、今年(2012年)は11月15日ということになる。毎年お祭り騒ぎのボジョレーヌーボー解禁日だが、日本に入ってきたのは1985年というから、ほんの27年前の話。
そもそもボジョレーヌーボーとはなに?ワインの名前?なんて疑問を持たれている方も多いと思う。ボジョレーヌーボーとはフランス パリの東南に位置するブルゴーニュ地方の南部、美食の町リヨンからは北部のボジョレー地区で、夏に収穫したぶどうをその年のうちに仕立てた新酒(=ヌーボー)のことを言う。
実はボジョレー地区では紀元2世紀頃からワイン造りがはじまったと言われており、歴史はとてもとても古い。でも、正式に”ボジョレーヌーボー”という名前が生まれたのは1951年。ほんの60年ほど前のこと。
当時フランスでは、軍隊への供給を確保するためワインの解禁日は12月15日だった。それを受けボジョレーの生産者たちはフレッシュで心躍るような新酒をより早く販売したいと申請し、それが認められ12月15日の解禁日を待たずに販売できるワイン、つまりボジョレーヌーボーが誕生したというわけである。その後パリをはじめてとして世界中に広がっていったようだ。
ではなぜ、現在では解禁日が11月の第3木曜日になったのだろうか?
ボジョレー ヌーヴォーが世界で注目を集めはじめた頃、ワインの売り手たちは、いち早く出荷しようと競いはじめた。その結果、質の悪いワインも出回ってしまい、せっかく世界に認められたボジョレーの評判を落としかねないほどだったと言われる。そこで1967年、フランス政府は、ワインの品質を下げないために解禁日を定めた。それが11月15日。じゃあ、なぜ今は11月の第3木曜日に解禁なの?そこはフランスのお国柄、11月15日が土曜日・日曜日・祝日とぶつかると運送がストップしてしまい、出荷ができなくなったらしい。そこで、フランス政府は解禁日を11月の第3木曜日に改めたそうだ。
日付変更線の関係上、日本が世界で一番早い解禁日を迎えるこのワイン。でも収穫を祝うお祭りとして世界中のひとたちと同時に乾杯できる機会は滅多にないと思いませんか?すべてを忘れてワインを楽しみたいと思うのはきっと私だけではないはず。a
votre sante!
(ノムリエ K.S.)
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