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原産協会メールマガジン5月号 2013年5月27日発行 |
Index
□第46回原産年次大会 東京で開催
□インフォコム2013を開催
□理事長コメント『新規制基準案について』ほかを発表
□東アジア原子力発電フォーラムの開催
□英国産業調査および英国新規建設調査団報告会の開催
本文
当協会は4月23日から25日にかけて、東京都港区のニッショーホールで、第46回原産年次大会を開催しました。今回は「原子力ゼロ?― 世界がつきつける日本の責務」を基調テーマに、30か国・地域、4国際機関から約780人が参加し、活発な意見・情報交換を行いました。
開会に当たり今井敬・原産協会会長(=写真右)が所信表明を行い、ほぼ全ての原子力発電所の長期稼働停止にともなう日本経済への影響に加え、安定供給、エネルギー安全保障の観点からも、安全が確認された原子力発電所の早期再稼働が必要だと訴えました。また日本は自己の経験と知見を世界と共有し、原子力安全向上に繋げる責務があり、原子力技術の海外展開は日本の成長戦略の一翼を担っていくと強調しました。
(今井会長の所信表明の全文はこちらをご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/annual/46th/46th-chairman_opening-address.html)
続く経済産業省挨拶で、髙原一郎・資源エネルギー庁長官(=写真左)より、福島第一原子力発電所の廃炉の着実な推進、原子力分野における国際協力、原子力発電所の継続的な安全性の向上、世界最高水準の安全性の確保に向けた取組について述べられました。
「特別講演」では、ジャック・レガルド世界原子力発電事業者協会(WANO)議長から、最高レベルの安全性確保による公衆の信頼回復の必要性が、アグネタ・リーシング世界原子力協会(WNA)理事長からは、放射線のリスクコミュニケーションの重要性などが訴えられました。笠木伸英
東京大学名誉教授、科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェローからは、科学者は自らの役割と責任について検証を進め、社会と理解を共有していくべきであることが、ピーター・ファロス欧州委員会(EC)エネルギー総局副総局長からは、欧州のエネルギーロードマップ2050において今後も原子力が重要な役割を担っていくことが、英国原子力産業協会(NIA)会長のハットン卿からは、英国においていかに原子力がエネルギーの要として再浮上したかについてが語られました。
レガルド WANO議長 | リーシング WNA理事長 | ハットン卿 NIA会長 |
セッション3のパネル討論 |
原産協会の動画配信「Jaif Tv」では年次大会の総集編を来月(25年6月)、配信する予定です。当協会HPからご覧下さい。また、同年次大会の概要、講演資料については、当協会ホームページに掲載されておりますのでご参照ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/annual/46th/46th-annual_presentation.html
当協会は、第46回原産年次大会のサイドイベントとして、4月25日、「原子力広報関係者連絡会-インフォコム2013」を開催し、同大会に登壇頂いたG.トーマス氏(=写真下)の講演および、秋庭悦子原子力委員をモデレーターに原子力広報関係者との意見交換を行ないました。また、東京電力福島復興本社のリスクコミュニケーション活動について、紹介がありました。
G.トーマス氏講演のポイント
○100%安全と言うと、問題が発生した場合、非常に深刻な問題に発展してしまう。人間は 間違いを起こすし、間違いから学ぶことが重要。
○リスクコミュニケーションには、多様なニーズがある。人々が何を心配しているかに耳を傾ける必要がある。医者等、一般市民が信頼を寄せる人物にも対応していかないといけない。
○人々を安心させるために、リスクを効果的に監視していることを伝える必要がある。時間の経過とともにリスクがどのように変化するかを分かるようにする。
○リスクとメリットのバランスを理解してもらう。リスクに伴うメリットがどういうものなのか伝える。
○一般市民に平等なパートナーとして、計画を立て、有効性について評価し、やり方を改善していくことに参加してもらう。統計的なデータだけでなく、「信頼と共感」が重要。
○どんな人間でも、ウソは好ましくない。後で、実はそれは真実ではなかったと言われるほうが、悪い情報をそのまま伝えられるよりも心情的に良くない。
○信頼できる情報源として、独立性のある、偏見のないオープンで正直な科学者を使うことが必要である。
○容認されやすいリスクは、
・自分(個人)が管理できるリスク
・メリットのあるリスク→英国では、原子力発電のメリット(安定的に電力が供給されること、CO2排出低減や環境保護)を提示している。
・自然由来のリスク(津波など自然災害のリスク)
・信頼できるもののリスク→原子力発電は、なかなか信頼されない。
・ありふれたリスク→原子力事故のように稀なリスクは、受け入れられにく
い。
○放射線は、成人より子供に影響することが分かっている。子供に影響するリスクというものは、何よりも嫌われる。
○かつて放射線は良いものであると思われた時代があった。この変わってしまった考え(放射線が良くないものだという考え)をさらに変える(放射線は利用できる)必要がある。
○英国では、様々な専門分野の科学者が同じメッセージを明確に伝えたことが効を奏した。
○住民にリスクについて予め認識してもらうと共に、万一事故が起きた場合、避難についてどういう対応が望ましいか聞くことが将来への道筋をつける意味で必要かもしれない。
○一般市民の人たちに意思決定のプロセスに参加してもらい、様々なエネルギーのメリット・デメリットについて話し合う。そのことで、リスクについての理解が進み、リスクを受け入れやすくなる。
○ストレスは、実際の放射線影響よりも健康に大きな影響を与える。日本では、放射線に関しては、線量も低く、適切な対応が行なわれている。
○線量の制限値を低くしてしまったことに懸念を抱いている。今からでもきちんと議論をすることを提案する。日本国民にとって正しい判断をしなければならない。
○逆境からこそ強さが生まれる、という言葉がある。日本がこの逆境を乗り越え、再生することを確信している。
白井真・東電福島復興本社企画総務部部長代理 講演のポイント
○放射線の健康影響について、理解活動に取り組もうとしているが、正しい情報をどのように伝えるかが課題。
○東電が直接コミュニケーションを行うのは非常に難しい状況もあるので、第三者である専門家を通じての理解活動に期待するところが大きい。
○除染活動など活動の中から得られた新たな知見や地域の声などを国や県に伝えている。
○現状の除染目標値が1mSvと広まってしまっているため、1mSv/年を超えると危険だと誤解されている。福島県知事もこの件で国に意見を伝え、その結果、原子力規制委員会において、基準値見直しの議論が始まったと聞いている。
モデレーターを務めた秋庭悦子原子力委員 | 連絡会の様子 |
意見交換
Q1メディアに事実を提供させるために、具体的に行われた活動の例は?
(G.トーマス氏)
福島第一原子力発電所の事故が起き、放射線が関心を集めるようになった際に、BBCに明確な情報を発信したいという科学者が数人集まって、BBCに働きかけを行なった。
また、視聴者から信頼されているジャーナリストが担当しているラジオ番組で、色々な分野の科学者が同じ一貫したメッセージを発信した。
Q2ネガティブな発言をする科学者の方が国民に受け入れられてしまう傾向にある。英国ではどうか?
(G.トーマス氏)
英国には、チーフ・サイエンティストという制度があり、政府に対して科学的なアドバイスを行なう。時には政府に反対意見を言うこともある。そういう経緯から、独立性があると認められている。その科学者が我々を指示してくれた。
また、環境保護派の方から、放射線について全く違った意見が出てきているが、どうなっているのか、説明してほしいという要請が我々と並行して反対の立場の科学者にもあった。双方の説明を聞いた結果、環境保護派の人たちが判断して、我々が正しいとメディアに発信してくれた。正しいことを適切な科学者が伝えることが重要。
Q3日本では、科学リテラシーが少ないと感じる。英国での科学リテラシー教育は?
(G.トーマス氏)
教育に科学を取り入れることも重要であるが、メディアも非常に重要な役割を果たす。
英国では、多くの子供向けの科学番組があり、例えば、ブライアン・コックスという若くてセクシーな物理学者をプレゼンターとして起用して科学への関心を高めることに成功している。
全ての大学には、地域の人たちにデモンストレーション活動するアウトリーチプログラムがある。一般市民の科学リテラシーをあげることもでき、またより効果的なコミュニケーションを図ることができる。
また、研究予算の申請書を書くときにも、一般市民とどのように対話を持つのか、科学についてどのようにコミュニケーションを図るのかについても記載する義務がある。
また16日には、「もんじゅに対する保安措置命令」についてコメントを発表しました。
本文はこちらをご覧ください。
当協会は、これまで、中国、韓国、台湾の原産協会・原産会議や学会と協力覚書を結び、定期セミナー等による情報交換・交流を中心に協力を行ってきましたが、これまでの2国間の情報交換の場を東アジア地域の多国間の場に広げ、情報交換をより効果的に行うため、4月26日に「東アジア原子力発電フォーラム」を開催しました。これは当協会としては初めての取組みです。
原子力発電が盛んに開発・利用されている東アジア地域(中国、日本、韓国、台湾)は、今後とも世界の原子力発電の成長センターとなることが予想されています。
2011年3月の福島第一原子力発電所事故は、アジア地域をはじめとする世界の原子力発電の未来に陰を投げかけ、日本はもとより、中国、韓国、台湾などでも、原子力・エネルギー政策をはじめ、運転、建設、計画中の原子力発電所に関して、監視の強化や計画の変更等、大きな影響を及ぼしました。
これに対して東アジア地域の原子力産業界は、今後とも情報交換・交流を密にして、安全性の向上等で協力を進めていく必要があります。
同フォーラムでは、「福島事故後の原子力安全」を主要テーマに、福島事故を契機に原子力安全に対する考え方の変化、また、各国・地域における福島事故後の原子力をとりまく状況や、安全性向上のための取組み、技術等について、参加者間で情報共有と活発な意見交換を行いました。
冒頭、議長(当協会 服部理事長)が挨拶し(=写真)、被災地域再生・復興の加速と一日も早い避難者の帰宅、そして事故の教訓を世界と共有して原子力施設の安全性向上に役立てていくことが重要であり、日本の責務だと述べました。また、原子力発電開発が積極的に進められている東アジア地域の原子力産業界は、今後とも情報交換・交流を密にして認識を共有し、福島事故を踏まえた安全性向上の取り組みを相互に学び合うなど、連携・協力を一層深めて安全の確保を大前提に原子力の持続的発展という共通の目標達成のため、同じ地域の仲間として手を携えていこうと呼びかけました。
意見交換の中では、日本で7月施行される原子力新規制基準に関する質問や、日本の原子力発電所の早期再稼働を期待する意見が寄せられました。また、各国・地域の原子力安全対策や緊急事態における措置の他、PA対策も関心事項であることがうかがえました。次回は来年4月、再度、日本での開催に向け、準備を進めることとなりました。
フォーラムの会場風景 |
【ご参考】各国・地域参加者リスト
服部拓也 | 日本原子力産業協会 理事長 【議長】 |
富岡義博 | 電気事業連合会 原子力部長 【発表者】 |
「安全性向上に向けた事業者の取り組みについて」 | |
藤江孝夫 | 原子力安全推進協会 理事長 【発表者】 |
「原子力安全推進協会(JANSI)の設立と原子力施設の安全性向上に係る取り組みについて」 | |
佐藤克哉 | 日本原子力産業協会 常務理事 |
李鍾振 | 韓国原子力産業会議 常勤会長 |
金炯澤 | 韓国水力原子力 中央研究院 重大事故解析グループ長【発表者】 |
「韓国における安全性向上の取り組み:福島事故後の韓国のアプローチ、フォローアップ措置」 | |
閔庚業 | 韓国原子力産業会議 情報管理・国際協力部 副部長 |
許文都 | 台湾核能級産業発展協会 理事長 |
謝牧謙 | 台湾核能級産業発展協会 顧問 |
林德福 | 台湾電力公司 原子力発電部 部長 |
林正忠 | 台湾電力公司 原子力発電部 炉内燃料管理課 課長補左【発表者】 |
「台湾における原子力発電」 |
雷梅芳 | 中国核能行業協会(CNEA) 国際協力部長【オブザーバー】 |
当協会は4月26日、英国産業調査および英国新規建設調査団報告会を開催しました。当協会の会員企業および英国大使館からおよそ60名が参加しました。
英国原子力産業協会(NIA)のクリス・サベージ氏からは、当協会と日本電機工業会が共同で、英国原子力産業協会(NIA)に委託して実施した「英国の原子力産業の動向」についてご講演いただきました。これは、1995年以降、原子力発電所の新規建設が無かった英国の原子力産業の実態と、現在、新規原子力発電所建設計画を立ち上げる際の問題点と対応を調査し、今後、日本における原子力産業のあり方の参考に資するものです。
講演では、英国内のサプライチェーンの実情、新規原子力発電所の建設が中止に至った経緯、20年間新規建設が無かったことの影響、廃止措置の成功例、原子力発電所新規建設プログラム等の説明がありました。
NIA サベージ氏による 「英国の原子力産業の動向」について 講演風景 |
サベージ氏の講演に続き、当協会が、今年3月18日~22日に実施しました「英国の新規建設調査団」について、国際部の松崎章弘担当部長より報告を行いました。
報告では、Nuclear New Build Conference 2013への出席、EDFエナジー、ホライズン等との英国新規原子力発電所建設プロジェクト会社との会合およびサイズウェルB原子力発電所見学の概要について説明がありました。
また、調査団との会合を持っていただいた相手先の一つで、英国の代表的な原子力関連企業であるAMECのマイク・スミス氏より、「英国の原子力サプライチェーン」と題して、AMECの紹介およびAMECの役割を例にして英国の原子力サプライチェーンについてご講演いただきました。
会員からは、固定価格買取制度、EDFエナジーのサプライチェーン、AMECの業務内容等についての質問がありました。
「英国の新規建設調査団」報告風景 | |
AMECスミス氏による 「英国の原子力サプライチェーン」について 講演風景 |
当協会はこのほど、2013年1月1日現在の世界の原子力発電所と核燃料サイクル施設の状況とデータをまとめた「世界の原子力発電開発の動向-2013年版」を刊行しました。
世界の原子力発電所一覧表には、国別の各発電所の状況、炉型・原子炉モデルを始め発注・着工から営業運転までの年月や設備利用率、主契約者、供給者、運転サイクル期間等、広範な情報を網羅しています。
今回、福島事故後の世界の原子力政策への取組状況、中・韓・露で営業運転開始に関する情報などを掲載しています。
詳細はこちらをご覧ください。
http://www.jaif.or.jp/ja/news/2013/doukou.html
□原産協会HP(一般向け)の更新情報 ( http://www.jaif.or.jp/ )
*国内、海外ニュースは毎週および随時更新しております。
・「世界の原子力発電開発の動向2013年版」を刊行(5/21) ・理事長コメント『もんじゅに対する保安措置命令について』(5/16) ・第9回 原産会員フォーラム(テーマ別会合)の開催について(5/15) ・パブリックコメント『新規制基準について』を提出 (5/9) ・第46回原産年次大会の講演資料を掲載 (5/1) ・原子力発電に係る産業動向調査2011報告書刊行のご案内 (5/1) ・第46回原産年次大会における今井敬原産協会会長の所信表明(4/25) ・福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等の状況 (随時) ・福島原子力発電所に関する環境影響・放射線被ばく情報 (随時) ・福島地域・支援情報ページ (随時) 地元自治体の動きやニュース、地元物産・製品等の情報を掲載中 ・「日本の原子力発電所(福島事故前後の運転状況)」を掲載 (随時) □JaifTv動画配信 ・「第47回 放射線についてのQ&A-環境編-」(5/17公開) http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/archive49.html ・「第48回 放射線についてのQ&A-食品編-」(5/17公開) http://www.jaif.or.jp/ja/jaiftv/index.html □会員向けHPの更新情報( https://www.jaif.or.jp/member/ ) ・平成25年度定時社員総会開催のご案内(5/22) ・【日本の原子力発電所の運転実績】2013年4月分データを掲載(5/10) □英文HPの更新情報( http://www.jaif.or.jp/english/ ) ・Atoms in Japan:英文原子力ニュース(AIJ) (随時) ・Fukushima & Nuclear News (随時) ・Status of the efforts towards the Decommissioning of Fukushima Daiichi Unit 1-4 (随時) ・Environmental effect caused by the nuclear power accident at Fukushima Daiichi nuclear power station (随時) [Information] * Press Release: JAIF Annual Report on World Nuclear Power Plants 2013(5/23) * Nuclear Power Plants in Japan as of May 22, 2013 (5/22) * JAIF President's Comment on NRA Order on FBR Monju (5/17) * JAIF President's View on New Regulatory Requirements (5/16) * JAIF President's Comment on New Regulatory Requirements (5/15) * Presented Papers at the 46th JAIF Annual Confernce(5/7) * JAIF Chairman's Address at the 46th JAIF Annual Conference (4/25) * Stress Test and Restart Status (随時) * Current Status before and after the earthquake (随時) * Operating Records of Nuclear Power Plants (随時) * Developments in Energy and Nuclear Policies after Fukushima Accident in Japan (随時) * Trend of Public Opinions on Nuclear Energy after Fukushima Accident in Japan (随時)
[福島事故情報専用ページ] 「Information on Fukushima NuclearAccident」 (随時)
[服部理事長]
5/5-11 日米原子力ワーキンググループ出席に伴うワシントンD.C.他出張
5/20-26 WANO隔年総会登壇およびチェルノブイリ原発視察他に伴うロシア、ウクライナ出張
5/27 原子力エネルギーマネージメントスクール オープニングセレモニーでの講演(於:東京大学)
[佐藤常務理事]
5/22 中部原子力懇談会総会出席のため名古屋出張
5/23 福井工業大学原子力人材育成等推進事業運営委員会出席のため福井出張
5/29 原子力エネルギーマネージメントスクール 原産主催レセプション出席(於:東京大学)
・(株)福井新聞社
・(株)ハウスメイトパートナーズ
・(株)矢野経済研究所
原子力損害賠償紛争解決センターの活動状況と総括基準
今回は、原子力損害賠償紛争解決センターの平成24年における活動状況と、紛争解決センターが策定した総括基準についてQ&A方式でお話します。
Q1.(原子力損害賠償紛争解決センターの活動状況) 原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介は現在どのように進んでいますか? |
A1.
・ 原子力損害賠償紛争審査会は、東日本大震災に伴う東京電力福島原発による原子力損害の賠償に関わる和解の仲介の手続きを円滑かつ効率的に行うために2011年8月に「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しています。
・ 紛争解決センターが取扱った2012年の月間申立件数の平均は379件で、平均的な審理期間は約8ヶ月でした。2013年5月10日現在、申立件数6361件に対し、3563件の事件が終了、その他に仮払和解が延べ101件、一部和解が延べ449件成立しています。
紛争解決センターでは、発足以来、審理促進に向けて組織体制の強化、審理の迅速化のための工夫、更には総括基準・和解事例の公表等を行ってきましたが、さらなる人員拡充と審理簡素化の徹底や東京電力に対する適切な対応の要請、集団申立事件に対する代表案件選定による迅速処理化、弁護士等代理人の理解と協力等を進めています。
【A1.の解説】
原子力損害賠償紛争審査会は2011年8月に、和解仲介手続きを円滑かつ効率的に行うために「原子力損害賠償紛争解決センター」(紛争解決センター)を設置しました。紛争解決センターが行う和解仲介手続きは原則的に非公開ですが、福島原発事故の法的紛争の解決は国民的関心事であることなどから、2012年1月30日に、初期段階(2011年9月~12月)のセンターの活動状況が報告書として明らかにされました。それに続き、2012年における活動状況報告書が2013年2月に公開されており、その概要は以下の通りです。
1.紛争解決センターの状況
○事務所体制、人員体制
・ 紛争解決センターは東京に2つの事務所と福島県内に4つの支所を開設して執務を行っている。
・ 2012年に大幅増員を行い、2012年12月31日時点で仲介委員205名、調査官91名、和解仲介室職員112名の合計408名体制となっており、2013年も調査官及び和解仲介室職員の増員を続けている。
○申立ての動向
・ 2011年の月間申立件数の平均は130件であるのに対して、2012年の月間申立件数の平均は379件となり大幅に増加した。これは、東京電力への直接請求に対する回答が2011年末頃から増え、これに同意できない被害者が順次申立手続に至ったことが原因として挙げられる。
・ 2012年3月から7月は月間400件を超える申立があったが2012年9月以降はピーク時より20~30%程度減少して推移している。
○取扱いの状況
・ 2012年までに申し立てられた事件の平均的な審理期間は約8ヶ月であった。
・ 2013年に申し立てられた事件については審理期間が4~5ヶ月程度に短縮することを運用上の課題としている。
・ 2011年の終了事件数6件に比して2012年の終了事件数は大幅に増加し、1856件の事件が終了した。その他に仮払和解が延べ80件、一部和解が延べ246件成立している。
※2013年5月10日現在、申立件数6361件に対し、3563件の事件が終了、その他に仮払和解が延べ101件、一部和解が延べ449件成立しています。
2.紛争解決センターの審理促進に向けた活動
紛争解決センターでは、当初、おおむね3ヶ月を目標審理期間として設定していたが、上記のように目標を達成できているとは言いがたい状況であり、審理促進に向けて人員の拡充、審理簡素化に向けた工夫、総括基準・和解事例の公表を行っている。
○人員体制の拡充
・ 2011年12月現在の体制は仲介委員約130名、調査官約30名の体制であり月間400件以上の新受事件を速やかに調査着手し迅速に審理を終えるのは不可能であったため、仲介委員および調査官の増員が実行された。
○審理簡素化のための工夫
・ 訴訟のような厳格な手続きを実施しない。
・ 申立書と同時に決算書等の資料の提出を求める(営業損害等の請求の場合)。
・ 申立書を読んだ段階から速やかに和解案や審理計画を想定し、常に審理の終局を見据えて調査・審理を行う。
・ 書面審理のみによる和解提案を活用し、口頭審理期日を開催する場合であっても目的を明確にして少数回だけ開催する。
・ 口頭審理期日は原則として東京事務所で行い、電話会議やテレビ会議システムを活用する。
・ 書証の乏しい事案の事実認定は、被害の実態に即して、申立人の陳述から事実を積極的に認定し、経験則を多用し、常識的な事実認定に努める。
・ 損害額の算定に当たっては合理的な概算で足りるものとして簡易迅速に行う。
・ 釈明要求や資料提出要求は厳選して採用する。
・ 和解案提示理由書は真に必要な場合を除いては作成せず、作成する場合にも簡素なものにとどめる。
・ 和解契約書の内容の一部を標準化・定型化し、標準化・定型化されたものはそれと異なる条項を用いないようにする。また、将来の請求権や現在の慰謝料請求権などが清算条項により消滅しないような条項を作成する。
○総括基準・和解事例の公表
・ 中間指針の細目に当たる紛争解決の基準や、中間指針から漏れた事項についての紛争解決の基準を定める総括基準を14本策定・公表した。
・ 2012年4月27日以降、和解理由書12本、和解契約書183本を公表した。
3.課題解決に向けた取組
○人員拡充と審理簡素化の徹底
・ 未済件数を減少させるためには人員の更なる拡充と審理簡素化の徹底を図ることが求められる。
○東京電力に対する適切な対応の要請
・ 紛争解決センターに申し立てをしたという理由で東京電力に直接請求での賠償を拒否されるなどの不当な対応等の苦情があった場合には、東京電力に指摘をして適切な対応を促している。
・ 和解手続は当事者の対立構造を前提にする訴訟モデルではなく、共通の目標である紛争の迅速かつ公平・適正な解決に向けて工夫しあう協調的紛争解決モデルを志向している。
・ 損害算定分野における東京電力の考え方には、貸借対照表や損益計算書から導き出される数値が優先するという傾向が見られるが、紛争解決センターはこのような考え方に賛成できない。被害の実態を踏まえ、賠償法理に基づいて適正な損害算定を行っていく。
○集団申立事件の迅速処理化
・ いくつかの代表案件を選定し、代表案件で適用された考え方を適用することを前提に当事者間の直接交渉に委ねるなどの工夫をして迅速な審理を目指していく。(チャンピオン方式)
○弁護士等代理人の理解と協力の要請
・ 紛争解決センターは弁護士等法律専門家が代理人となる案件においては事実、証拠、法的根拠等の適切な整理を求めるとともに紛争解決センターの現状と審理方針への理解が得られるよう引き続き協力を求めていく。
・ 申立人や申立代理人の準備不足や主張又は証拠資料の提出の遅れにより審理が遅延する事件も絶えないことから、申立人や被申立人には協力をお願いする。
原子力損害賠償紛争解決センター活動状況報告書はこちら
http://www.mext.go.jp/a_menu/genshi_baisho/jiko_baisho/detail/1329118.htm
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Q2.(紛争解決センターが策定した総括基準) 原子力損害賠償紛争解決センターは、これまでも総括基準を公表してきましたが、2012年9月以降に追加した2つの総括基準はどのような内容ですか? |
A2.
・ 風評被害による減収分(逸失利益)について、平均利益率32%を利用して損害額の算定をすることを東京電力が許容しているときには、紛争解決センターにおいては平均利益率32%を用いて損害額の算定がなされます。
・ 東京電力から答弁書が提出された段階で、各損害項目について、当事者間に争いがないと認められる金額については、速やかに、一部和解案の提示が行われます。
【A2.の解説】
紛争解決センターでは、申し立てられた案件の多くに共通する論点があることから、一貫性のある和解案を作成して申立人間の公平を確保するため、中間指針を踏まえ個別の和解仲介事件に適用するべき「総括基準」を策定しています。
この総括基準の公表により、他に同様な損害を被っている人にも賠償の可能性や範囲を知ってもらうことのほか、同一基準に基づく和解案提示の促進や、被害者と東京電力との円滑な相対交渉を促進することで、多数の賠償手続の処理に寄与することが期待されています。
今回ご案内する以前の総括基準としては、初回の2012年2月14日~2012年8月24日までの間に、以下の12項目が公表されています。
①避難者の第2期の慰謝料
②精神的損害の増額事由等
③自主的避難を実行した者がいる場合の細目
④避難等対象区域内の財物損害の賠償時期
⑤訪日外国人を相手にする事業の風評被害等
⑥弁護士費用
⑦営業損害算定の際の本件事故がなければ得られたであろう収入額の認定方法
⑧営業損害・就労不能損害算定の際の中間収入の非控除
⑨加害者による審理の不当遅延と遅延損害金
⑩直接請求における東京電力からの回答金額の取扱い
⑪旧緊急時避難準備区域の滞在者慰謝料等
⑫観光業の風評被害
(なお、これらの総括基準の概要については、当協会のウェブサイト(http://www.jaif.or.jp/ja/seisaku/genbai/genbaihou_activity.html)をご参照願います。)
2012年9月以降に新たに公表された2つの総括基準の概要は以下の通りです。
<総括基準>
⑬減収分(逸失利益)の算定と利益率について(2012年11月8日公表)
中間指針第7(いわゆる風評被害について)の1(一般的基準)又は第7の4(製造業、サービス業等の風評被害)に基づく風評被害による減収分(逸失利益)について、中小企業実態基本調査に基づく平均利益率32%を利用して損害額の算定をすることを東京電力が許容しているときには、紛争解決センターにおいては平均利益率32%を用いて損害額の算定をするものとする。
(理由)
紛争解決センターの和解仲介手続において、被害者と東京電力との間の和解交渉(直接請求)において東京電力が許容している損害算定方法に平均利益率32%を使うことを全面的に認めることにより、賠償問題の解決システムの円滑な運用を迅速に進められる。(実際の利益率がこれを上回ることの挙証がなされる場合はこの限りではない。)
⑭早期一部仮払いの実施について(2012年12月21日公表)
紛争解決センターによる申立て書に対する東京電力からの答弁書が提出された段階で、必ずしも各損害項目のすべてについて合意がなくとも、各項目別に見て当事者間に争いがないと認められる金額については、速やかに、一部和解案の提示を行うものとする。
(理由)
損害賠償の早期支払の実現は、被害者の早期救済に資するので、和解仲介手続きの序盤の答弁書提出時点において、争いのないことが判明した金額については、速やかに、一部和解案の提示を行う。
総括基準本文はこちら
http://www.mext.go.jp/a_menu/genshi_baisho/jiko_baisho/detail/1329129.htm
川俣シャモまつりin四季の里
◎「原産協会メールマガジン」2013年5月号(2013.5.27発行) 発行:一般社団法人 日本原子力産業協会 情報・コミュニケーション部(担当:木下、八十島) 〒105-8605 東京都港区虎ノ門 1-2-8 虎ノ門琴平タワー9階 TEL: 03-6812-7103 FAX: 03-6812-7110 e-mail:information@jaif.or.jp |
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