2017年の年頭にあたり

2017年1月5日

一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男

 新年明けましておめでとうございます。
 昨年11月4日に地球温暖化対策の新しい枠組みであるパリ協定が発効しました。先進国だけでなく新興国や発展途上国も含む初の国際枠組みであり、世界的な温室効果ガスの排出削減に向けて新たなスタートが切られました。我が国は、2030年度に2013年度比で温室効果ガスを26%削減する目標を掲げています。この目標を達成するためには、運転時に温室効果ガスを排出しない原子力発電の活用が必要であり、2030年度に総発電電力量の20~22%を担うべく、安全性が確認された原子力発電所の再稼働を進めていくことが重要です。
 原子力発電を利用していくにあたり、国民の皆さまにご理解いただくためには、安全性向上に不断の努力を傾注するとともに、原子燃料サイクルや放射性廃棄物処分などの課題にも取り組んでいかなければなりません。
 2017年の年頭にあたり、当協会の本年の取り組みについて、4点述べたいと思います。

<福島復興支援>
 福島第一原子力発電所の事故から約6年が経過しますが、未だに約8万人の方々が避難を余儀なくされています。そうした中、昨年11月15日に、除染作業で出た汚染土壌などの中間貯蔵施設が本格着工しました。福島第一原子力発電所の廃止措置においては、凍土方式による陸側遮水壁の凍結作業が進められ、汚染水対策が進展するとともに、今年は使用済燃料、燃料デブリの取り出しに向けた取り組みが進むことが期待されます。避難されている皆さまに安心して帰還いただけるよう、これらの作業を安全第一で着実に進めていただきたいと思います。
 また、今年の3月には帰還困難区域を除いて避難指示が解除される予定となっております。こうした進展を踏まえて、復興に向けた様々な取り組みが一層加速されることを期待しています。
 当協会ではこうした福島の復興、廃止措置の状況などについて、幅広く情報発信をしていくとともに、地域の皆さまのお力になれるよう引き続き皆さまに寄り添った活動を継続し、福島の復興に貢献できるよう取り組んでまいります。

<原子力発電に対する理解の促進>
 昨年は四国電力伊方発電所3号機が、新規制基準施行後5基目となる再稼働を果たしました。営業運転再開後1サイクル運転を継続し、定期検査を行っていた九州電力川内原子力発電所1号機については、12月8日に起動し、11日に発電を開始しました。川内原子力発電所2号機についても1サイクル運転を終え、12月16日より定期検査を行っております。また、関西電力高浜発電所1,2号機、美浜発電所3号機においては、昨年40年超運転が認可されました。事業者において技術評価やそれに基づく保守管理方針の策定、高経年化対策をしっかりと講じ、原子力規制委員会において厳正に審査されたものであり、後続プラントにおいても事業者はこの経験を活かして、効率的に審査に対応することが大切だと思います。
 一方、再稼働差止め仮処分により関西電力高浜3,4号機は運転を停止したままであり、沸騰水型原子炉についてはまだ1基も再稼働に至っておりません。資源の有効活用、温室効果ガス削減の観点から、原子力発電の果たす役割は大きく、今後とも新規制基準に的確に対応していくことはもとより、原子力発電所の安全確保に尽力するとともに、立地地域の皆さま、国民の皆さまにしっかりと説明し、ご理解いただけるよう努めていかねばなりません。また、原子燃料サイクルや高レベル放射性廃棄物処分などの諸課題についての議論にも着実に取り組んでいかねばなりません。
 当協会ではこれまで築き上げた多種多様なネットワークを活用し、原子力発電の必要性や諸課題に関する理解促進に資するため、幅広い提言や情報発信に努めてまいります。

<国際社会への貢献>
 福島第一原子力発電所事故後も、世界の多くの国々で原子力発電の導入、拡大が進んでおり、日本の高品質な原子力技術には海外から高い期待が寄せられています。昨年11月11日に日印原子力協力協定に署名がなされ、平和利用を前提に、日本の原子力技術やノウハウを活かした国際貢献を果たしていくことが重要となっています。福島第一原子力発電所の事故の教訓や廃止措置から得られる知見などを国内外で共有し、世界の原子力安全の向上に役立てることは、事故の当事国として重要な責務であります。また、原子力技術の海外輸出を通じ、停滞する国内の原子力産業が活性化し、原子力技術の更なる向上や、国の成長戦略に寄与していくことが望まれます。
 福島第一原子力発電所事故の教訓を共有するため、当協会は、中国、韓国、台湾の原子力産業界と東アジア原子力フォーラムを開催し、東アジアにおける原子力安全の一層の向上と原子力産業の健全な発展を図っています。また、日本の原子力産業の国際展開に資するため、当協会は昨年スペイン原子力産業協会との間で、今後の協力基盤強化に向けた協力覚書を締結しました。今年1月には、協力覚書を締結している英国原子力産業協会(NIA)とともに日英原子力産業フォーラムを開催し、両国産業界のビジネス交流を促進していきます。
 こうした海外諸国との交流機会を通じ、連携を強化していくとともに、構築したネットワークを活かし、国内の原子力産業界の取り組みや福島第一原子力発電所の状況など、積極的な海外への情報発信に努めてまいります。

<人材確保・育成>
 福島第一原子力発電所の事故以降、原子力産業への就職を目指す学生が減少し、残念ながら未だにその傾向は改善されておりません。一方原子力発電所の再稼働が徐々に進むとともに、今後廃止措置も本格化していく中で、運転や保守に携わる人材や、研究・開発など幅広い分野の人材が必要となっています。また海外への原子力輸出が進めば、人材のグローバル化も必要であり、優れた人材の確保、育成が求められています。今後、原子力産業が魅力あるものとなるためには、幅広い研究・開発といったイノベーションが欠かせません。今年の4月には、国内外の英知を結集し、産官学が一体となって研究開発、人材育成を進める廃炉国際共同研究センターの国際共同研究棟が、福島県富岡町に開所となる予定です。廃炉に関する研究・開発の更なる充実、加速化が期待されます。
 当協会としては、原子力発電所の運転・保守を安全に行っていくことが社会への貢献であることや、そのための研究・開発はやりがいのあるチャレンジであることの理解を高めるように努力、工夫を重ねるとともに、将来の原子力業界、エネルギー業界において活躍できる人材を確保・育成するため、国内外の関係組織と連携しながら様々な取り組みを展開してまいります。

 九州電力玄海原子力発電所3、4号機の新規制基準への適合性審査は、最終段階を迎えており、今年は再稼働が更に進むことが期待されます。また、産業界としては原子力をはじめとするインフラ輸出が進むことで、産業技術の向上、人材育成への寄与、日本の経済の発展につながることが期待されます。当協会としても積極的な情報発信、意見提言に努め、一歩でも二歩でも前に進むよう全力で取り組んでまいる所存です。

以 上

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