韓国および台湾の脱原子力政策~日本の産業界が取り組むべきこと
一般社団法人 日本原子力産業協会
理事長 高橋 明男
昨日当協会が開催した日韓原子力専門家会合において、韓国の文在寅政権が6月に発表した脱原子力政策について、韓国の原子力産業界や学術界より懸念の声が聞かれた。韓国では、雇用や売り上げが失われ、原子力関連輸出が先細りするとして原子力産業界が中心となりこれに反対している。
同様に、台湾でも1月に蔡英文政権が2025年までの脱原子力を法律で定めたが、産業界は安定的な電力供給を求めエネルギー政策の見直しを要請している。
韓国および台湾とも、日本と同様エネルギー資源の大部分を海外からの輸入に依存しており、3E(エネルギー安全保障、環境保全、経済効率性)の課題に直面している。
韓国と台湾の発電電力量に占める原子力の割合はそれぞれ30%、16%、石炭の割合がそれぞれ43%、49%と高い。2030年の温室効果ガス(GHG)排出量を、2005年比で韓国は37%、台湾は20%削減することを目標に掲げている。両者とも再生可能エネルギーの拡大を目指しているがまだ課題は多く、脱原子力を図りつつGHG削減目標を達成することは困難である。
電気料金の値上げによる経済的影響も懸念されている。韓国エネルギー経済研究所の試算によると、再生可能エネルギーの比率を20%に引き上げ、原子力と石炭の割合を減らしLNGの割合を増やすと、2030年の発電コストは2016年比で21%増加し、物価が1.16%上昇して国内総生産(GDP)は0.93%減少する。文政権は、年内にも新たな電力需給長期計画を発表するとしているが、脱原子力政策を実現させる道筋は不透明である。
台湾で8月に発生した大停電では、供給予備率の低下が浮き彫りにされた。原子力発電所の運転停止と天然ガス発電所建設の遅れもあり、2010年には25%近くだった予備率が、昨年は10%まで低下、夏場には予備率が5%を割っており、停電発生前の一週間は平均2.4%、最小値1.72%であった。適正予備率と言われる8~10%を下回っており、安定供給の確保が課題となっている。
日本と同様電力網が海外と接続していない韓国と台湾において、供給安定性に加え経済性や環境適合性などの観点から、今後も原子力が果たす役割は大きいものと考える。
台湾が脱原子力に舵を切り、韓国でも脱原子力政策が打ち出され国民が議論を重ねているのは、福島第一原子力発電所の事故により、原子力発電所の安全性に対する国民の懸念が高まった影響が大きい。日本は福島第一事故を起こした当事者として、近隣諸国および国際社会の懸念を払拭するために、福島第一原子力発電所の廃止措置の進捗状況および福島の復興の状況や福島県産の食品の安全性を世界に発信していく責務がある。韓国や台湾のみならず世界は日本の再稼働の状況に注目しており、日本の原子力産業界としては、再稼働を着実に進め安全運転の実績を積み重ねることによって信頼回復を図る必要がある。
当協会は引き続き、原子力に対する信頼回復のため国内外への情報発信に努めてまいりたい。
以 上
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