[原子力産業新聞] 1999年12月2日 第2015号 <4面>

電中研が研究報告会

社会学的側面から提言

電力中央研究所は、11月17日に東京・千代田区の経団連会館で、また18日には同研狛江研究所において、「電力中央研究所研究発表会・原子力部門」を開催した。

電中研の研究成果を部門別に発表する同発表会で、原子力部門は今回のテーマに「安全性と経済性の更なる向上を目指して-」を掲げ、経団連会館で行われた1日目には、「高経年化対策に関する当所研究課題と今後の取り組み」および「社会から見た原子力-価値観変化と情報ギャップの視点から-」の2本の研究成果を発表した。

その中で、研究発表「社会から見た原子力」を行った同研社会経済研究所主任研究員の土屋智子氏は、現在の電気事業では事業活動に係わる交渉が長期化するなどの現象がみられるが、こういった状況は国や自治体、企業活動における事業でも同様に起きていることから「今日の状況は社会全体の変化として捉えるべき」と述べ、一般からの批判や抵抗、不満が増大しているという状況を、原子力特有のものとして捉えるべきではないと指摘した。

また90年代の日本社会の価値観の特徴として、1.私生活中心主義の台頭、2.社会問題への参加意識の高まり、3.科学技術観の変化(科学技術万能主義から、科学技術にはマイナス面があるとの認識への変化)、4.環境意識の高まり、5.情報社会の影響、を挙げ、これら特徴を踏まえた上で行った意識調査の結果を分析し、明らかになった「無関心層」「唯我独尊タイプ」といった5つの価値観グループ間では、科学技術に対する考えが異なっているものの環境・エネルギーに対する考え方には殆ど違いがなく、特に今後のエネルギー政策について、人々に共通した意見として、1.省エネ推進と新エネの開発・普及に対して強い期待が持たれており、2.わが国の環境・エネルギー政策の遅れや民意の反映不足についての不満、がある事を発表するなど、数々のデータや事例を挙げながら、原子力の直面する問題を社会学的側面から検証した。

そして同氏は原子力について、温暖化防止に役立つエネルギー源ではあっても、今の日本人が希求している社会像を支えるものでなくては、臨界事故で強まった逆風の向きを変えることは出来ないだろうとして、現在の社会の中での原子力の役割を考えて行くことの必要性を訴えた。


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