[原子力産業新聞] 2000年1月5日 第2019号 <1面> |
[JCO臨界事故] 最終報告書取りまとめ「リスク基準で評価を」、絶対安全から転換求める原子力安全委員会のウラン加工工場臨界事故調査委員会 (委員長・吉川弘之日本学術会議会長) は12月24日、第11回会合を開き、昨年9月30日に茨城県東海村で発生したジェー・シー・オー (JCO) の東海事業所・転換試験棟での臨界事故についての最終報告書を取りまとめた。報告書では、直接的原因を使用目的が異なる沈殿槽に臨界量以上のウラン (約16.6キログラムU) を含む硝酸ウラニル溶液を注入したことだとし、こうした行為を行い事故を起こした背景を技術・規制・産業経営など様々な角度から検討し、事故の再発防止に向けて、1.原子力に携わる全ての組織と個人が「絶対安全」から「リスクを基準とする安全の評価」へ意識を転換、2.原子力事業者における安全確保の徹底、3.国は加工事業にも定期検査を義務づけ、保安規定の遵守状況の検査制度の導入を図るなど安全規制体制を再構築する、4.原子力安全文化の定着と21世紀の安全社会システムの構築−など103項目の提言を行った。 同調査委では、昨年10月8日の初会合から約1か月後に、安全審査の見直しや安全教育の徹底などを盛り込んだ「緊急提言・中間報告」を政府に提出していた。その後、事故原因を多面的に究明していくため「技術・評価」、「企業・産業」、「祉会・安全」の3つの検討チームを発足させ、事実の背後にある構造的・倫理的な問題を含め検討し、今回最終的な報告を取りまとめた。 最終報告によると、事故により希ガスやヨウ素などガス状物質が放出され、広範囲の複数の地点で空間放射線量率が上昇したが、それは最大でも数マイクログレイ/時であり、かつ短時間に減衰する核種でもあり、「住民の健康及び環境に影響を及ぼすものではない」と最終的に判断している。 また防災対策について、初動対応は適切さを欠いていた面や連絡についても十分でなかった面があるとし、通報や指示の迅速的確に伝える体制整備の必要性を指摘している。さらに原子力災害防止措置法で制定された初動期から内閣がリーダーシップをとる形式は有効だとするとともに、現地本部で原型が示された「オフサイトセンター構想」のより実効性ある具体化を要望した。事故による住民らの健康影響や心のケアについては長期にわたり継続することを考慮した対策の必要性をうたっている。 一方、事故の背景についての考察では、事故が国際競争下での経営効率化が行われ、それを契機に社員らの倫理等が低下したことが「背景」にあったと推測。原子力産業においては効率化と安全性の両立が求められるが、安全性の確保を最重視した組織・体制の整備、企業風土としての安全文化の醸成が必要だと指摘し、原子力分野での大学等の教育の場も含め、技術者に専門職としての倫理教育を行うなど、倫理規定を有効に機能させる方策の検討を求めた。さらに社会の責任として「安全」価値に対して適正なコスト負担をしていく必要があり、国・企業・自治体等がコストを負担し、責任と役割を果たすべきだともしている。 報告書の最後には「委員長所感」を掲載し、原子力技術には「安全性を向上させると効率が低下する」といった二律背反することがあるが、長期的に見ると原子力技術の持つ技術的固有性を明らかにしつつ、原子力技術固有の品質管理を開発することによって、十分に解決できるものだと強調した。また事故の可能性を予知できなかったのは、安全委と国などの権限と責任の区分が明瞭でなかったことに起因していると論じ、それらの明確化と現場の事象等についての完全な情報公開を行い、視点のすき間と対象知識の不足とが重畳する状況を脱却することが重要だと提案している。 審議の最後に、中曽根弘文科学技術庁長官は今回の事故を「わが国の原子力開発利用での試練となった」と省み、同委報告書に指摘された提言を厳しく受け止め、安全体制の再構築に努め、21世紀に向けて万全の安全確保のもと原子力開発利用を進めていきたいと述べた。
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