[原子力産業新聞] 2000年1月20日 第2021号 <5面> |
[NEI-insight] 南アの選択、モジュール型高温ガス炉「小さい事は良い事だ」問題=南アフリカでは主要都市は内陸部にあるが、いくつかの人口密集地は主力電源である産炭地から千マイルも離れた場所に位置する。 解決法=小型で経済性に優れた原子力発電所を複数、沿岸部の電力消費地近郊に建設する。 もちろん、問題はそれほど単純ではないが、南アフリカの国営電力会社であるESKOM社が将来電源として原子力発電所を選択した背景には、同国にとって何が必要であるかが分かっていた。つまり、原子力発電所は大出力の石炭火力発電所と十分競合でき、いかなる場所にも建設可能で、さらに国民の理解も得やすいということである。 こうした条件から、ESKOM社は小型のモジュラー型式のペブルベッド炉を選択したのである。この原子炉は、燃料として野球ボールのサイズの「球形(ペブル)燃料」−一つの燃料には一万あまりの酸化ウランの燃料要素を含有する−が使われることからこう呼ばれる。また、同炉の設計は新型のヘリウム冷却炉であり、この形式の原子炉はこれまでにドイツなど複数の国で建設・認可されており、こうした技術経験を活用することができるのである。 同炉は経済性も優れている。これまでの調査検討によれば、出力11万4,000kWペブルベッド炉は総工費1億ドル以下で建設可能であり、発電コストもキロワット時あたり焼く1.6セントである。ちなみに現在のESKOM社の発電コストは、平均で約1セント/kW時だが、ペブルベッド炉の発電コストは新規電源としては最も安い。 また、設計のフレキシビリティが高い。モジュラー方式を採用しているため、必要に応じて増設が可能である。また、一つの中央制御室で10基の原子炉をコントロールでき、これにより現行の原子力発電所の標準的な100万kWの出力をペブルベッド炉で得ることができる。 しかし、ESKOM社にとって本当に魅力的だったのは、同炉の設計が環境への放射能放出を伴うような事故への耐性を有している事であり、同社の首脳はペブルベッド炉の固有安全性を確信したのである。 ペブルベッド炉の導入計画は1993年にスタートし、ドイツ、英国、フランス、オランダ、ロシアおよび中国などの協力によって概念設計を固めるとともに、認可申請を行い、初号機の建設サイト選定のための環境影響評価に着手し、資金確保のための投資家を募るなど、ESCOM社の準備も迅速に進んだ。 昨年9月の時点で同社のペブルベッド・モジュラー型炉計画部長であるデビッド・ニコルス氏は、「今年末までには、ESKOM社の専門家によって初号機建設の最終決定が下される」と述べていた。同氏はまた、「ESKOM社はこのプロジェクトに30%出資し、国営の開発金融機関である産業開発公庫が25%を出資する」と語り、「残りの出資者も年末までには集まるだろう」と付け加えていた。 ニコルス氏はさらに、「同炉の設計が南アフリカの原子力規制機関である原子力安全評議会の了承を得られれば、2001年にも着工し、2004年後半あるいは2005年初頭にも運開できる」との見通しを明らかにしている。 ESKOM社は、1980年から93年にかけての電力需要の平均伸び率が3.5%であることから、南アフリカ国内で年間10基のペブルベッド炉を建設(販売)できると見込んでいる。同炉1基で約3万の南アフリカの需要家に電力を供給する事ができる。 このESKOM社のプロジェクトは、そもそも自国の電力需要に対処するためのものだったが、同炉の経済性が高いことから国外市場も期待できる。「確かにモジュラー形式炉としての特徴や固有安全性、低い発電コストなどを考えれば、同炉は発展途上国にとって魅力的だろう」と国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長は昨年9月に語った。しかし、同事務局長はまた、「原子力発電の将来にとってただ安全ということだけでは不十分であり、同様にただ発電コストが安いというだけでも十分とは言えない。原子力発電所の大きなポテンシャルを発揮するためには、これら二つに加えて国民の理解が必要不可欠だ」とも述べている。そして、「原子力発電に対する国民の理解は将来を握るカギといえる。世論というものは、すぐに良い悪いを判断し、それをなかなか忘れないのだ」と付け加えた。
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