[原子力産業新聞] 2000年2月10日 第2024号 <3面> |
[レポート] 高レベル処分 「地下水と放射性核種」「普通の水」とは異なる「地下水」高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える上で重要な地下での地球化学的現象の一つに、ガラス固化体に含まれる「地下水と放射性核種」との相互作用が挙げられる。これまでの研究によると、地表から深いところにある「地下水」は、雨水や飲料水といった普通の水とは性質を大きく異にしており、地上での水には溶ける放射性核種でも地中奥深い所の「地下水」には殆ど溶けないという。このことが地層処分が安全だということの理由の一つになっている。地下水とはどのような性質を持っているのか、地下水と核種との相互作用の研究を開始したサイクル機構の「地層処分放射化学研究施設」(クオリティ)について取材した。 深部の地下水には「酸素」が殆どない私たち生きていく上で欠かせない「水」。同じ水でも「美味しい」のと「不味い」のがあることは皆よく知っている。だからスーパーなどで「自然水」が売れるのを見ても不思議ではない。 よく知られているよう.に、水が美味しいのはそこに溶け込んでいる様々な成分(元素)が混ざっているからだ。普通は飲料水にカルシウムやナトリウム、鉄などミネラルが溶けている。もちろん酸素も含まれている。ところが車のラジエーターに使われるような蒸留水は他の元素が殆どなく純粋な水(H20)に近くなり、これは「不味い」。 「地下水」が普通の水と異なっている一つの点は、水に含まれる酸素(02)が少ないというものだ。雨水や河川水などの空気に触れている場所の水は酸素はおよそ10ppm前後だが、地中に入り込んでいくにつれて少なくなる。例えば東濃地域での例では、堆積岩層150メートル程度の下水中の酸素濃度はほぱゼロppm。また花崗岩では地下500メートル程度でゼロとなる。 酸素がないと物質は水に溶けにくい一般に、水に溶け込んだ「酸素」はものを水に溶け易くしたり、ある元素と結合して酸化物となり、その物質を腐食するという性質がある。逆に酸素が少ないと物質は溶けにくく、錆びにくい状態になる。よく、地下から古代の遺跡や刀剣などが良好な保存状態で発掘されたというニュースを耳にするが、これは地下では酸素が少なく鉄などが錆びにくい状態となっていたためである。 地上付近では酸素を含んでいた水も、深度とともに酸素が岩石などとの化学反応で消費されていき、段々と地下水中の酸素濃度がゼロに近づいていく。このような状態を「還元性」というそうだ。 水にどれだけ元素が溶けるか。これは「溶解度」で表すが、すでににこれまでの研究で酸素含有量ごとにおおよその溶解度は分かってきている。酸素が少ない還元状態でも比較的溶けやすいのはセシウムなどで、逆に溶けにくいのはウランなどに代表されるアクチニド元素。ウランは酸化した状態、つまり音通の水では溶けやすいが、酸素濃度が低く、かつ環元性の状態であれば非常に溶けにくくなる。殆ど酸素が含まれていない還元状態の地下500〜1,000メートル地下水が有するウランに対する溶解度は、普通の水と比べて実に「100万分の1」程度で、殆ど溶けないことが分かっている。 東濃ではウランは地下水に溶けず保存こうしたことから、ウラン鉱床が形成されたのは、例えば岩石中に含まれるウランが酸化性の水に溶け込んで運搬され、酸素が段々と少なくなり還元的な環境下で沈殿・凝集してできたというのが1つの定説になっている。ウランが地下深部では溶けにくいという事実は沢山あるが、日本最大のウラン鉱床である岐阜県・東濃のウラン鉱床では、鉱床が約1,000万年前に形成され、これまで断層活動や隆起・沈降などの変動を被ってきたにも拘わらず、現在まで地下水中に溶けださず、そのまま保存されていることからも証明されている。 アクチニド元素は地下水に溶けるかそれでは「物質が水にどれだけ溶けるのか」は酸素の景や還元性という状態だけで決まるのだろうか。専門家によると、この問題は完全に解明されてはいないという。他にも炭酸との反応などによってごく僅かだが溶解することも指摘されている。 還元状態の地下水でアクチニド元素等が溶けにくいことは分かっており、研究はかなり進んでいるが、より詳細なデータの積み重ねも必要である。そこで深部の地下水と同じような酸素がない環境を作り、実際に核種を用いて研究しているのが「クオりティ」だ。v クオリティは、同じ敷地内にある地層処分基盤研究施設(エントリー)が放射性物質を使わないで、人エバリアや岩石の中での地下水の動き、人工バリアの健全性などを試験するのに対して、実際に放射性物質を使って試験を行うことができるのが特徴。 世界最大級の試験施設「クォリティ」クオリティでは、廃棄物中の放射性物質が地下水に溶けたとすると@どのくらい地下水に溶けるのかA溶けた放射性物質は人エバリアや天然然バリア(岩石)にどれだけ吸着するかBこれらのバリア中で溶けた放射性物質はどの程度の速度で移動するか――などについて実際に放射性物賓を用いて試験する施設であり、処分研究専用の施設としては世界でも最大級のものだ。 同施設にはボックス内の酸素濃度を1ppm以下にして、地下数100メートル以上の深い地層中で想定される様々な化学的環境条件を再現できる「雰囲気制御グローブボックス」を12基備えている。外国ではこれを何基か持っている国があるが、これほどの数と性能を持っている所はないという。 1基のグローブボックスは複数のボックスとオープンポートから構成。この中にRIを用いて、色々な模擬環境を設定して試験を行っている。使用できる核種は固化体に含まれるネプツニウム、鉛、セシウム、キュリウムをはじめ26核種。 模擬「地下水」環境作り試験を開始現在はネプツニウム、キュリウム、鉛など数種類の核種を用いて、酸素濃度1ppm以下のアルゴンまたはチッソ雰囲気下で(1)ネプツニウムはどういう条件下でどの程度、地下水に溶けるか(2)水の移動に伴ってネプツニウムが岩石やベントナイトとどれだけくっつくか(収着試験)(3)ベントナイトの片側に鉛溶液などをを塗って、どれだけ移動するか(拡散試験)(4)堆積岩中の有機物も一種である「フミン酸」が溶解度を増加させるという説があるので、それを解明する――ことなどを実施している。また酸素とともに炭酸濃度によっても溶解度が上下するので、PHを変えたり炭酸ガス濃度を変化させて調べている。 これらの試験の後には、レーザーを組み込み、放射性物質がどういう化学形態になっているか声を媒介に調べる。これは光が元素の化学形態によって特定の音になることを利用するものだ。 昨年末に公表されたサイクル機構による2000年レポートでは、日本国内での高レベル放射性廃棄物処分の技術的成立性や立地可能な場所が存在することを科学的に示したわけだが、サイクル機構ではこれまでの東濃地域や釜石鉱山での実測データに基づく研究成果に加え、今後ともクオリティやエントリーでの試験を続けるとともに、地下研究施設を建設し、さらなる精微な技術を構築していく考えだ。 (三浦研造) |