[原子力産業新聞] 2000年3月9日 第2028号 <3面>

[スイス] 早期閉鎖は400億フランの損失

 スイスの電力会社からの委託で脱原子力政策が及ぼす影響について調査していたブレーメン大学・エネルギー研究所は2月22日、「もしこのような発議が実施に移されればスイスの国家財政は400億スイスフラン(2兆6400億円)もの出費を強いられる」との結果報告を明らかにした。

 「スイスにおける原子力発電からの段階的撤退の経済効果」と題したこの調査は、2年以内に国レベルの投票にかけられることになっている2つの反原子カイニシアチブについて分析したもの。1つは「原子力モラトリアムの延長」で、既存の原子炉4基が40年以上運転するのを認めるかどうか、また、10年間に及んだ新規原子炉の建設モラトリアムをさらに10年延長すべきかどうかを国民投票で決めることを呼びかけている。調査の結果、同研究所はこのイニシアチブが採用された場合にスイス経済が被る費用を300億フラン(約2兆円)と見積もったが、これは発電設備の基本的な運転シナリオを変更させるために生じる追加費用だと説明。基本シナリオでは第1世代の原子炉であるベッナウ(30万キロワット級PWR2基)とミューレベルク(37万2000キロワット、BWR)の両発電所は50年間、比較的新しいゲスゲン(102二万キロワット、PWR)とライプシュタット(113万5000キロワット、BWR)発電所は60年間稼働させることになっていた。

 もう一方のイニシアチブは「原子力なき電力」で、原子力発電所を早急に閉鎖させることを意味している。ここではまず、ペツナウとミューレベルク発電所を票決後2年以内に閉鎖するほか、ゲスゲンとライプシュタットの両炉は30年の操業の後、閉鎖する計画だ。非原子力電源への転換には約400億フランを要すると見込まれている。

 このような結果についてバーゼル大学・経済科学センターのS・ボルナー教授は、「これほどの経済損失は大規模地震にも匹敵する」と指摘。今回の調査はスイスの原発が自由化された地力市場で十分な競争力を持っていることを図らずも示したと述べたほか、原子力発電所は建設に費用がかかる一方で、お金に換算した場合の運転価値は他の電源よリも高いと強調した。

 同調査はこのほか、原子力を放棄することによって大気への温室効果ガス排出が増加する点に注目。ガス火力など経済的に有利な電源へのリプレースに繋がり、CO2排出削減に関するスイスの国際公約達成を危うくするとの見方を示している。さらには「原子力を利用することは国家経済における大々的な節約を意味し、結果的に再生可能エネルギーや代替エネルギーの研究開発にたくさんの予算を回すことが可能になる」との考えも表明した。


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