[原子力産業新聞] 2000年3月23日 第2030号 <4面>

[日立と北澤東大グループ] 電子波顕微鏡を開発

 日立製作所基礎研究所の外村彰フェローのグループと日立製作所計測器グループ・ビームテクノロジーセンターのグループ、東大院新領域創成科学研究科の北澤宏一教授のグループはこのほど、100万ボルトの高輝度電子線を備えた電子波干渉型電子顕微鏡を開発し、50ピコ(10のマイナス12乗)メートルを切る格子分解能の世界記録を達成した。この成果は科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業の一環として同グループらが共同で取り組んできたもので、これまで試料が厚いために観測の制約を受けていた高温超伝導体中の磁束量子の特異な挙動や「磁束ピン止め」現象の解明に役立つという。

 高温超伝導の「磁束ピン止め」メカニズムを解明するためには、電子波の干渉性や輝度が高い電子線を持った超高圧電子顕微鏡が求められる。同装置は、電子加速管・電子銃、電子銃制御用電源、高電圧発生装置を分離し、別々のタンク内に隔離・収納して高圧ケーブルで接続する方式により、安定した高圧電源と極限近くまで振動が抑制された構造を実現。これによりエネルギーのばらつきが従来の10分の1と電子波の干渉性が高く、1000倍の明るさを備えた電子線を得ることができた。また従来の35万ボルトを大幅に上回る100万ボルトの電圧で電子が加速されるため、電子波の波長も0.9ピコメートルと極めて短いという特徴を有している。

 この顕微鏡を用いて金の薄膜を観察したところ、斜めから見た結晶格子に対応する原子間隔よりも狭い微細構造(49.8ピコメートルの結晶格子像)を観察することができた。この格子分解能の世界記録樹立は、超高圧電子顕微鏡本来の高分解能性能が初めて達成されたことを意味するという。超伝導体への応用だけでなく、半導体中の局所的な電場分布の観察やこれまで見えなかった微細構造の高分解能観察などさまざまな分野での応用が期待される。


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