[原子力産業新聞] 2000年3月30日 第2031号 <6面>

[新刊抄] 「心の人類史」

 地球上の動物(生物)のなかで、人類だけかなぜ他の動物とは違った進化を遂げたのであろうか。その促進要因とは何か。モノの生産(石器作り)のように道具行動から人類の発達を論じる方法に加え、著者は知的活動の発達という観点からその要因を追求することで「人類史の統一的理解が可能となる」と主張する。

 知的活動、すなわち人類の心(知能)の発達史を解明し、モノと心の統一的人類史の枠組みを構築するという筆者の試みは、5年前に書き上げた「人類史からのロングコール」で行われているが、本書は前言での課題をさらに探究したものだ。

 本書は、石器作りは人類的な生産活動の起点を画したものであったが、人類は石の性質を利用し、それを多少の加工を施しながら使い分けるうちに、次第に多くの自然力を引出し、それを行使できるようになる発達のメカニズムが自然との間で形成された。知的活動のパターンは道具行動から言語行動へ、さらに社会的行動へと継承されて、人類の全活動の段階的、相関的発達を促してきた、ことを論証している。

 中々、難解なテーマだが、著者の経歴を生かし、社会科学とくに経済学的視点を切り口とした人類史への挑戦は専門家からも高く評価されている。次はダウィーンの進化論への評価研究を目指しているとのことで、3部作で研究は一応完結するという。川上幸一氏(神奈川大名誉教授)は本紙「世界の原子力」の元著者。

 A5判、228頁、定価2500円(税別)。白桃書房刊。


Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.