[原子力産業新聞] 2000年5月2日 第2036号 <1面>

[原産] 第33回原産年次大会特集

招待講演・後半の部

既報のとおり、日本原子力産業会議は4月26日から28日までの3日間、「信頼される原子力を、今ここから」を基調テーマに第33回年次大会を開催。始めの2日間は都内の東京国際フォーラムで、最終日は茨城県東海村に会場を移し、JCO臨界事故を踏まえた今世紀における反省点とともに21世紀を前にしたエネルギーの安定供給や地球環境保全の問題など、原子力の健全な利用について議論を展開した。初日の午後には、午前中から始まったセッション1・招待講演の続きとして、原子力発電技術機構の松田泰理事長および東芝の西室泰三社長を議長に4か国・1機関の代表が登壇し、それぞれが抱える事情や今後の展望について説明した。

まず、「太平洋・島サミット」への出席に合わせて来日したパラオ共和国大統領で南太平洋フォーラム(SPF)議長のK・ナカムラ氏が、経済基盤の脆弱な同地域におけるエネルギー利用への希望を述べるとともに、原子力先進諸国による近隣海域の放射性物質輸送に対して、実質的な被害だけでなく風評被害の場合でも同様の補償が可能になるよう次のように訴えた。

南太平洋地域では、重要な観光資源である原始のままの自然や世界の漁獲量の3分の1を占めるマグロ漁などが経済基盤となっている。このような地域に産業が根づくようインフラを整備するためにはエネルギーへのアクセスが不可欠なのは判っているが、国内技術の乏しさという問題でアクセスが果たせない。我々でも容易に使えるような適切な技術を模索していかねばならないのだが、あくまでも我々の環境をリスクにさらす可能性のないものでなければ採用できないと考えている。

原子力先進国による近隣海域の核燃料および放射性廃棄物の輸送については多大な懸念を抱いている。「輸送を止めろ」と言うつもりはないが、東海村事故やMOXデータ捏造事件などの発生を聞くにつけ懸念は高まるばかりだ。少なくともこうした懸念に十分応えられるような対策を取るとともに、万一被害を被った場合や風評被害に対しても確固たる補償メカニズムを準備してほしい。

□シア原子力省(MINATOM)のE・アダモフ大臣はロシアにおける原子力開発の現状と世界も含めた今後の展望について解説した。

現在ロシアでは総発電量に占める原子力の割合は14.4%とさほど高くないが、今後は第一世代の原子炉など既存炉の安全性をさらに向上させ、炉寿命を40年に伸ばすことを課題としている。成功すれば2010年の設備容量を6.7GW分増加させることが可能だ。

5月末には政府は原子力開発の今後の戦略について議論する予定だが、ここでは@炉寿命の延長も新規の建設もしないA第一、二世代の原子炉寿命を40年に延長B既存炉の寿命延長に加えて新たに設備を増設する−など3つの開発シナリオが考えられている。我々が支持するB案では先に述べた6.7GWのほかに、20億ドルの予算で年間1GWずつ増設していき、2010年には合計32GW(現在の約1.5倍)まで設備を拡大することになる。

新たな技術開発としてはブランケット燃料を取り除き、増殖比を1に近づけて暴走を未然に防ぐなど固有の安全性を備えた高速炉BREST300の研究開発が進んでいる。冷却材には鉛を利用することになっており、工学設計はすでに完了。実証炉の建設サイトを選択する段階に入った。商業規模のBREST1200については実行可能性調査が終わっており、これらの成果は5月末にモスクワで公表することになっている。

韓国電力公社(KEPCO)の朴用澤副社長は韓国における原子力開発の将来見通しについて述べた。韓国では現在、昨年12月に営業運転を開始した蔚珍4号機を含む16基が稼働しているほか、霊光5、6号機および蔚珍5、6号機が建設中。合計の設備容量は1,400万キロワットで全電源設備の29%となっている。

昨年はまた、第5次国家電力開発長期計画が策定され、この中で原子力の設備は2015年までに2,600万キロワットに拡大される予定。建設されるのは主として韓国標準型炉(KSNP)と韓国次世代型炉(KNGR)だが、前者としては霊光3、4号機の設計に基づき98年から99年に完成した蔚珍3、4号機があり、今後もKNGRが実現するまでの間、継続して建設していく計画だ。KNGRでは安全性と経済性の向上を重点に開発中となっており、出力140万キロワットの標準型炉の設計を2000年代初頭に終え、2010年の営業運転開始を目指している。

放射性廃棄物の処分については、国民の合意を得つつガラス固化工場を建設することを計画中。商業レベルの工場は2005年に完成させたい。また、LILWの処分施設については適当なサイトさえ確保できれば2008年に、使用済み燃料の集中中間貯蔵施設は2016年以降に操業開始できると考えている。

KEPCOは今年から6分割・民営化への移行手続きが進められる予定だが、原子力だけは国有企業として運営される見通しだ。

昨年10月に米国原子カ規制委員会(NRC)委員長に就任したR・メザープ氏は、気候温暖化という地球環境変化のほかに電力事業者や規制当局を取り巻く環境の変化に言及。これらに対応してNRCが今後果たしていく役割について次のように説明した。

NRCは3月、カルバートクリフス原子力発電所に対して初めて運転認可の20年延長を認めた。アジアのように新規の原子炉建設はないものの、国内で稼働する103基のうち85%%までが同様に認可の更新を検討中だと聞いている。NRCが公衆の健康と安全の確保という使命を実行するにあたり、基本的な理念は認可を受けた事業者自らが発電所の安全運転に責任を負うことに置かれており、規制プログラムにおける@安全維持Aコスト的な効果と効率の改善B不要な規制負担の削減C国民の信頼の増大−という総合目標は変わっていない。しかし、NRCが変えようとしているのはその方法で、数量的、確立論的安全評価手法が成熟しつつあることから「リスク通知」が可能であると考えている。従来の決定論的評価と併せて実績ベースで事業者に必要な措置を評価していく所存だ。

また、原子力の開発規模拡大や利用にける安全確保には国際協力が不可欠と信じており、世界各国から派遣されたスタッフが在籍するNRCとしても安全確保に不可欠なインフラ整備や安全文化の醸成にも役立てるよう主要な役割を果たしていく考えだ。

中国核工業集団公司(CNNC)の季忠良副総経理は中国における原子力開発の現状とCNNCの役割について発表した。

中国の総発電電力量は世界でも第2位につけているものの、国民1人当たりの消費量は0.2キロワット程度でしかない。しかし、人口密度が高い上に経済も急速に成長している南東部の需要に応えるためには、現在の発電シェアが1.3%の原子力をさらに拡大していくことが燃料輸送や環境保全の点からも賢い選択と考えている。

現在、国産設計の秦山1号機とフランスから購入した広東大亜湾1、2号機が稼働中。建設中の原子炉としては、秦山2期工事として60万キロワットのPWR2基が2002年の運開を目指している。また、同3期工事として70万キロワットのカナダ製の重水炉2基、フランス製の広東嶺澳1、2号機(各100万キロワット、PWR)、ロシア製の新型PWRとなる田湾1、2号機(各100万キロワット)が、それぞれ2003年から2004年頃の運転開始を目標に作業が進められている。

昨年7月に旧核工業総公司を改組して設立されたCNNCは、今後の開発姿勢として原子力技術の国産化と標準化を採用。燃料製造や技術管理における多様化を抑えるため、既存技術を活用した国産PWRの開発を目指している。閉じた燃料サイクル形式の高遠炉も87年から開発中で、熱出力6万5,000キロワットの高速実験炉(CEFR)は92年に概念設計完了、97年に予備設計が国に承認され、現在、審査中の安全分析と環境影響評価に関する報告書は今月中にも承認される予定だ。その後、直ちにコンクリート打設を実施し、2005年の初臨界達成を目指す。

また、清華大学で建設中の出力1万キロワットの高温ガス炉は昨年末に炉心の設置が完了しており、今年前半にもすべての機器が搬入・設置されるまでになっている。今後の国際協カパートナーとしては、@中国の既存技術を基礎に活用できる先進技術A手頃な価格B中国の国産化実現に協力的な態度−などを選択基準にしていきたい。


Copyright (C) 記事の無断転用を禁じます。
Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM,INC. All rights Reserved.