[原子力産業新聞] 2000年5月2日 第2036号 <2面>

[原産] 第33回原産年次大会

セッション2 「再編進む海外の原子力産業」

欧米諸国では電力供給上の厳しい競争が展開されており、原子力産業においても国境を越えた広範な再編成や提携が進行中だ。こうした資本の集中や多領域の提携は良好な経営実績を果たしつつあるとともに、将来の原子力平和利用において、これら企業が重要な役割を果たすことが予想される。一方、国内に目を向けると昨年の臨界事故、燃料データ疑義、発電所立地問題など、原子力産業界を巡る情勢は一段と厳しさを増している。大会2日目、4月27日のこのセッションでは、原子力産業の再編成の中心にある企業の代表者が、世界の原子力開発の将来を展望し、それぞれの企業戦略の他、今後原子力発電を導入する国々に対しての貢献、若手技術者らへの期待、新しい技術への夢などについて意見交換を行った。議長は鳥井弘之日経新聞論説委員。

競争力ある原子力へ、多様な企業戦略、若手育成を

−まず最初に、パネリストのS.スペッカーGEニュークリア・エナジー社長、B.カルトフシーメンスKWU社副社長、C.プライアーWHエレクトリック社長、J−P.ローランCOGEMA副社長より、それぞれの国情・立場から原子力産業・市場再編について、続いて川村隆日本電機工業会原子力政策委員長・日立製作所副社長から、わが国の原子力産業の現状について発表を行った。

スペッカー氏
今日、米の原発は価値ある資産と見なされ、実際に売買されている。米では電気事業が規制緩和され、原発の運転実績を高める弾みとなっている。安全記録の達成こそビジネスの至上命令だ。少しでも施設を運転停止にすれば企業の年鑑収益は帳消しになるし、停止期間が長引けばビジネスを完全に台無しにするケースもある。ここに2つの経済的課題がある。第一は、運転実績最優秀プラントと実績不調なものとの格差を縮めることだ。第二は自己満足を避けること。今後、ガスタービンの効率が向上したり、天然ガスの価格が安くなることも十分考えられ、現在の原子力のコストと競争力はぎりぎりになるかもしれない。他の産業と同じく原子力産業が生産性を高めれば、一段上の競争力を身につけられると思う。生産性の改善は数多くの要因か重なり合って達成される。企業の合併はより効率のよい運転に資する。電子ビジネス革命もまた巨大な役割を果たすだろう。

カルトフ氏
EUの原子炉は安全基準が厳しく、クリーンな発電源として認められている。自由な電力市場で勝つには、稼働率も重要なポイントとなる。原子力発電は、化石燃料だけでなく再生可能エネ源とも競合司能だ。欧州の電源構成上、原子力の競争力を高めるのに決定的に重要な要因は、安全性、稼働率、燃料費の安さだ。電力会社の経営は、社内で進む事業再編成の努力の他、著しく発展した欧州の原子力産業界にも依存している。フラマトムとシーメンスは、両社の全ての原子力活動を合併し、新しい共同所有会社を設立する決定を下し、それによって世界の顧客に、高度な技術的品質と競争力ある解決策を提供していく。両社の原子力活動の合併により、欧州2大企業の専門的知見を糾合するとともに、EPR開発で築かれた既存の協力関係を、原子力活動の全分野に拡張していく。この合併は顧客のみならず、公衆全体に利益をもららすだろう。

プライアー氏
英米での規制緩和の動きによる電力供給市場への影響として、ガス事業者の発電部門参入や通信事業の拡大などが上げられる。ここで原子力産業界で重要なのは、過去から学び新しい原発を構想することではないか。AP600など新しいデザインの小型モジュール型炉を開発し、コストパフォーマンス改善を証明していく必要がある。また、顧客と供給者との間のよい関係を、安全性や品質について妥協することなく築くことも重要。

ローラン氏
原子力界に対する「追い風」となるプラスの要因は、まず第一にエネ需要の増加が上げられる。この背景には世界の人口増加がある。第二に化石燃料の価格の上昇があり、これは地政学的に改善が見込まれていない。日本も仏も資源の乏しい国だ。第三に温室効果ガスの排出削減といった、環境保護の世界的な動きがある。成功する条件として、一つは企業間の合併が行われる際など、誤りなく完全になされるということ、もう一つは透明性を図り一般への安全面の理解を得るということだ。

川村氏より、@原子力発電がわが国の機軸エネを担っており、今後長寿命化等が注目されることAJCO事故後のNSネットなどの設立による、安全性確保と信頼性醸成への取り組みB高転換炉の検討などの軽水炉技術開発C「もんじゅ」早期運転再開への努力などの核燃料サイクル開発DPWR蒸気発生器交換などのメンテナンス技術開発E燃料製造部門の国際的連携その他の国際展開−が述べられ、続いて各パネリストから発電コストの評価や、原子力開発に際しての留意点などが付け加えられた。

メンテなどノウハウ維持を

スペッカー氏
電子ビジネスの創出は遠隔地とのリアルタイムでの通信を可能にし、原子力産業界の生産性向上に役立っている。

カルトフ氏
新規原発の建設が活性化するまで、メンテナンスの対応の仕方など、ノウハウを低下させてはならない。

ローラン氏
原発反対派に対しても、正確な情報、特に放射線防護などについて、キチンと伝えないといけない。

川村氏
原子力発電コストは今5.9円/キロワットと考えている。40年間運転、設備稼働率80%などを条件とすれば、廃炉費用を含めても日本では一番安い。

鳥井氏
他産業再編と原子力産業再編でどう遵うか。

カルトフ氏
やはり自動車産業、通信産業とは規模が違う。

スペッカー氏
原子力は固定費がかかり、成長がゆっくりしているから、業界は再編しないといけない状況にある。他の業界以上に技術を強くしないと。

ローラン氏
タイムスケールが違うから、長期的展望・計画が必要。

川村氏
研究開発計画を掲げながらやっていかないといけない。次期の軽水炉、高温ガス炉、FBR・・・、相当大きな開発を控えている。メーカー同士協調していかないと。また、日本はエネセキュリティの重要性も考える必要がある。

カルトフ氏
欧州では電力事業の統合をすぐにでもやっていかないと競争が厳しくなると思う。このように日本もどんどん変わっていくだろう。

人材交流も重要

鳥井氏
小型炉による海水淡水化のような、新しいユーザーの開拓などがあるが、次世代を担う若い人たちの育成がなかなかうまく進んでおらず、どうすればよいか。

川村氏
若い人たちを誘い入れるために、少し先の技術の可能性を理解してもらうようにしている。粒子加速器によるがん治療、核融合とか。

ローラン氏
どのようにしたら能力を引き出せるか、あらゆる機会を利用し実際に仕事につかせて訓練し、応用のきく技術者を育てていくこと。新規原発の建設など、長期プロジェクトは少なくなるから新しい気風を植え付けていくのも必要だ。

カルトフ氏
ジョイベンでのプロジェクトなどで若い人たちの視野を広げるとか、人材を海外からも雇い入れまた逆に違った文化を持つ国に派 遣するのも面白いだろう。

鳥井氏
日本では学生の理工系離れが懸念されているが、各国での大学における原子力教育はどうか。

スペッカー氏
米では原子力産業は多様化しているから、必ずしも原子力工学専門でなくてお、化学、機械工学の優秀な学生を採り入れている。

カルトフ氏
原子力というのは学際的な仕事だ。企業が採用した後でも教育はできる。

ローラン氏
原子力産業のハイテク技術の将来的有用性を約束してあげることで、自国だけに留まらずに仕事をしていくことも可能になるのでは。

プライアー氏
業界の再編と同時に大学の再編も必要ではないか。

川村氏
成熟した産業のインフラを維持していくことの重要性をわかってもらうにはどうすればよいだろうか。JCO事故からも研究すべきテーマが出てくる。やはり教育しかないのでは。

烏井氏
新型炉開発の戦略などあれば聞かせて欲しい。

スペッカー氏
ABWRの高出力達成とか。この先10年位の市場では大型炉が求められるだろう。

カルトフ氏
EPRの知識があるから、あとは発注がくれば非常に大きなプロジェクトになろう。

プライアー氏
AP600の実証など、柔軟性を持って進めたい。

鳥井氏
会場から何か質問は。

参加者
航空機製造は現在大手企業2社でシェアを占めているが、将来の原子力産業も統合されていくと思うが。

カルトフ氏
新たに生まれる原子力産業は全てサービス部門であることから、これから局所的なビジネスが多くなっていくと思う。

鳥井氏
原子力産業が元気になるには、マーケットが広がることが条件なのでは。夢を持って進んでいって欲しい。


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