[原子力産業新聞] 2000年5月2日 第2036号 <3面>

[原産] 第33回原産年次大会

セッション3 「これからのエネ政策をどう構築するか」

大会2日目午後に行われたセッション3では、評論家の田原総一朗氏を議長に、わが国のエネルギー政策のあり方および対応策などについて、若手政治家がパネル討論形式で語り合う「これからのエネルギー政策をどう構築するか」が行われた。茅陽一東大名誉教授の基調講演に続き、棚橋泰文 (自民党)、江渡聡徳 (自民党)、枝野幸男 (民主党)、福島豊 (公明党)、畑野君枝 (共産党)、辻元清美 (社民党) の各氏が省エネや原子力についての持論を展開し、忌憚のない意見交換を行った。

茅陽一氏基調講演 非化石エネの推進を、10年後の導入には限界も

最近のエネルギー政策の条件には (1) 安定供給 (2) 環境保全。特に COP3 合意の達成(3) 市場での公正な競争の確保C経済の適正成長−が挙げられる。

これまでの日本では経済成長と CO2 排出量との間に正の相関関係があり、このことを断ち切る事がこれからのポイントになる。これまで産業部門はエネルギー消費を効率よく抑えてきたが、反面運輸・民生部門の伸びは大きく、これらの伸びをいかにして抑えて行くかが課題だ。

排出量抑制の経済的手法として効果が期待されるものに環境税がある。環境税は汚染者負担の原則に従い、また価格弾性によりCO排出量が低減するというメリットを持つからだ。しかし一方ではエネルギー多消費産業が打撃を受け、他国の競争力を増加させるという一般的問題と、税率を低くすると消費者はあまり反応を示さず産業のみが反応し、高くすると重工業が大幅な打撃を受けるか、海外に移転してしまうという日本固有の問題点がある。一般消費者の目を覚まさせるとともに、環境税を有効なものとするためには、全く個人的意見だが (1) 低い末端徴収環境税 (2) 分野ごとのグリーン税制の併置−が有効ではないか。

一方、供給面については、新エネルギーと原子力の促進が重要だ。原子力には CO2 を発生しないというメリットに加えて、原子力建設が進めばCOP3の目標値を同じ達成する場合でも、国民が行わなくてはならない省エネの量が違ってくるというメリットが生じる。新エネにはコスト、稼働率、出力の時間変動などからバックアップ電源が必要となり、メイン電源には成り得ず、飽くまで補助的電源にとどまらざるを得ないという問題はあるが、非炭素資源の拡大を加速させることは重要だ。しかし2010年という年限に区切った場合、新エネの3.1%達成は相当に難しいし、原子力の20基建設も絶望的だ。努力をするにしても限度があることを十分考えて今後のエネルギーの姿を考えて行かねばならない。

国会に「エネルギー調査会」設置を−若手政治家によるパネル討論より

○これからの日本のエネルギー供給および原子力について

田原議長
10年後の日本のエネルギー政策はいかにあるべきか。個人としての意見を伺いたい。

棚橋氏 (自民)
原子力が主役になる。新エネは爆発的に増えずに、化石燃料の消費が減った分を補う程度になるのではないか。エネルギー源に求められる3要素はコスト、安定性、環境への適合性であり、今後は原子力の安全性をいかに増していくかが大切になる。

江渡氏 (自民)
原子力は多少増えて、化石の部分が大幅に減り、相対的に原子力の比率は高くなるのではないか。

福島氏 (公明)
同じように考える。新エネについては努力目標を掲げ、集中的に導入してコストを下げるなどの努力も必要だ。

畑野氏 (共産)
原子力の平和利用3原則が守られているなら推進するのには賛成で、安全研究は最大限進めるべき。今後10年は、現在利用されずに捨てられているエネルギーを半分に減らし、原子力はゼロにすべきだ。

辻元氏(社民)
これはどういう社会の設計図を描くかということ。原子力をどうすれば増設しないで済むかを考えるべきで、天然ガスを中継ぎ に、原子力に頼らない方策の模索が必要だ。新エネについては、20年後に25%のシェアまで持っていくという目標を掲げて推進しないと、技術は進まない。

田原議長
原子力がエネルギー供給の主体となることは良いことか?悪いことか?

江渡氏 (自民)
FBRを含めた核燃料サイクルと廃棄物処理までしっかりやった上で、国民の理解が得られるなら良いことだ。

棚橋氏 (自民)
原子力の安全性が現状のままで、代替エネがもしあるのなら、そちらの方が良いかもしれない。安全性をもう少し上げられたら、原子力は100%肯定できる。

田原議長
畑野さんは10年後に原子力をゼロにしろと言ったが、何故か?共産主義国家は全て原子力推進に積極的で、原子力が嫌いな共産党は日本だけだが。

畑野氏 (共産)
国民の安全を考えているからであり、原子力が確実に安全と言えるなら、使っても良いと考えている。

辻元氏 (社民)
安全面、コスト面で原子力には反対だ。

田原議長
原子力の発電コストは高いのか。

茅氏
国の調査では、廃棄物処理なども含めた原子力の発電原価はキロワット時あたり5.9円だ。石油はキロワット時あたり9円だから、原子力の方が安い。残念ながら高速炉は、軽水炉よりも若干高くなる。

畑野氏 (共産)
市民レベルでは原子力に対する関心は高まっている。しかし、「安全」を言いすぎると何か起きた時に信用を失いやすい。危険性をしっかりと示すべきだ。

○原子力に対する逆風について

田原議長
何故海外先進国では、原子力が衰退気味なのか。

棚橋氏 (自民)
最終処分揚が出来ていないことに原因がある。処分場建設については、昔は金さえもらえば引き受け手はあったのだが、今はそういう時代ではなくなった。これは原子力だけではなく、基地やゴミ処分場などにも言える問題で、これからは「痛み」を分担させるシステムが必要になる。

福島氏 (公明)
原子力政策の「上からの押しつけ的構図」に問題がある。

辻元氏 (社民)
原子力は中央集権的発想であり、今や価値観は変わった。分散電源の発想が必要だ。

枝野氏 (民主)
原子力の場合は、放射線など「目に見えないもの」に危険性があり、これが原子力を不安視する人の多い原因だと考える。

棚橋氏 (自民)
あらゆるものにリスクは付きまとうが、結果論でいくと日本の原子力発電所にリスクはほとんどない。原子力に対する潜在的な恐れは火力と比べた場合、最悪の事態になった時に、原子力の方が被害が大きくなるということだ。

江渡氏 (自民)
「もんじゅ」事故は研究炉でのことであり、JCO は燃料加工施設での事故。日本の原子力発電所では大きな事故は今まで起きていない。

辻元氏 (社民)
今まで市民は、原子力は安全と思い込まされていたが、今や安全神話は崩壊している。(大きな事故は起こしていないと言うが)敦賀1号機の事故は大きいと思うかどうか?

茅氏
事故の大小は、「被害」と「大事故を引き起こす可能性」で判断できる。そういった意味で敦賀の事故は、大したものではない。

○バックエンド・最終処分場について

田原議長
最終処分場の安全性に問題はないか。

茅氏
安定した地盤ならば安全だ。

田原議長
しかし、受け入れる所はない。

江渡氏 (自民)
「処分場にされる」とのイメージがあるのではないか。どれほど情報公開と啓蒙活動がしっかり行えるかが問題だ。

田原議長
何故、啓蒙出来ないのか。

江渡氏 (自民)
報道の仕方にも問題がある。原子力に対する報道は、どちらかと言えば「怖いもの」という報道の仕方をしている。

○省エネルギー・民需削減について

田原議長
省エネ、特に民生需要を減らす方法は。

枝野氏 (民主)
家庭用の電力の容量を増やさないで、一定以上を超えた場合には、電気の供給を止める (停電を起こす) べきだ。

棚橋氏 (自民)
電気料金をある一定の部分まで定額にして、それ以上の場台は高くするような「累進課税」的な方法を取れば、省エネには効果があるのではないか。

枝野氏 (民主)
累進課税的手法を取るとしたら、相当に累進の度合いを高めないと効果は望めない。電力会社の供給義務を外して、どうしても必要なところを除いて停電を起こすべきだ。

茅氏
停電が起きれば電気の大切さがわかるから、ショック療法としては有効かもしれない。しかし技術屋的観点からいくと、そういう状況は作りたくない。

福島氏 (公明)
地域の政策と国のエネルギー政策を、縦割り式でなくミックスさせていくべき。

○会場の参加者との意見交換

質問= COP3 の国際公約を守るためにはどうするのか。

棚橋氏 (自民)
原子力を推進するしかない。もしも建設が出来ないならぱ、省エネの民生部門と運輸部門に、相当なブレーキをかけなくてはならない。

江渡氏 (自民)
民生と運輸部門のエネルギー消費拡大をカットするための大胆な政策が必要だ。

枝野氏 (民主)
公約達成年限(2010年)の直前の3年間くらいの間に、CO2削減のための強引な政策が必要になるかもしれない。

辻元氏 (社民)
需要を削減するために、税金を含めたシステムを作りなおす必要がある。国会ではなかなかエネルギー問題を議論する機会がないから、エネルギー政策全体を考える調査会を作ってはどうか。

田原議長
是非国会のなかに、調査会を作っていただきたい。


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