[原子力産業新聞] 2000年5月2日 第2036号 <面> |
[原産] 第33回原産年次大会 東海大会「JCO事故からの再出発−東海村の将来展望」原産年次大会の3日目の4月28日には会場を茨城県東海村の東海文化センターに移し、東海大会「JCO事故からの再出発−東海村の展望」が開催された。同大会は「原子力発祥の地」である東海村で起こったJCO臨界事故が、村民等の原子力に対する信頼感を失墜させるとともに、風評被害など深刻な事態を引き起こしたことを受け、事故後の原子力関係者等の安全対応などについて発表し、その評価について地元の人々と討論、意見交換を行い、今後の東海村と原子力の将来を展望する出発点とすることを目的に開いたもので、大会には地元からの参加者約350名を含む500名を超える参加書が詰めかけた。議論に先立って、参加者全員が前日朝、多臓器不全のため死亡した篠原理人さんの冥福を祈るとともに、原子力関係者からは改めて二度とこうした事故が起こらないよう安全確保に万全を尽くして取り組むとの決意が表明された。 村上東海村長講演 事故をどう考えるか大切大会は森島昭夫大会準備委員長(地球環境戦略研究機関理事長)が議長を務め、村上達也東海村村長ら4名の講演からスタートした。 まず村上村長が講演。村上氏は、福岡大の大嶋仁教授の著書「福沢諭吉のすすめ」の中で「共同体社会とは神話幻想に支えられた社会であって、社会科学はその神話幻想を対象化し、社会科学が発達すれば人々は神話幻想をそのまま信じることは困難となる」と述べていることを紹介。その共同体の一つに「原子力村」があり、その一員と思い込まれていた東海村の村長の発言が共同体にとって逸脱発言として波紋を投げかけていることに触れ、事故について「私は立脚点を村と村民の生命と生活においてきた。私の良心にかけ当たり前のことを発言してきた」と語り、「共同体の仲間の原子力事業全体の問題ではないというような考えでは、日本の原子力の未来はなく、原手力施設立地地域の住民としては安心して住むことはできない」と論じ、「原子力界に関係する人達が、あの事故をどうか考えるか、事故を契機に厳しさを増した原子力に対する世論、批判を含めてどう考えるか、それがこれからを決定付ける。それには仲間内の閉鎖的な共固体社会から意識して外に出てみる努力が必要だ」と要望した。 また東海村として「原子力との関係を大事にしつつも、村民の英知を集め自主独立の精神の思想に立ち、21世紀に相応しい関係を作り上げていきたい」と語った。 国の立場から政府の取り組みについて科学技術庁の興直孝原手力局長が発表した。 同氏はJOC事故を一事業者における違法行為として片づけることはできるものではないとし、これまでの原子力防災対策は十分ではなかったとの反省に立って、原子炉等規制法の改正と原子力災害対策特別措置法の制定、原子力安全委員会の機能強化策などへの取り組みの経緯を説明した。またJCO事故等によって原子力に対する国民の不信感が強まってきていると述べ、安全性の確保のみならず、行政システム・政策をはじめ、国際的な核不拡散体制の維持・強化等に積極的に取り組んでいく考えを示した。 また東京電力の南直哉社長は、JCO事故について経営管理上の問題が大きくあり、その背景には潜在的には危険なものを扱っているという基本認識の欠如ないしほころびと、社会から遊離した企業内論理に陥っていたことがあるとの見方を示し、こうした状況を認識していなかったことは原子力産業界として反省すべき問題だと指摘した。こうした反省に立って電気事業として、国や自治体との連携を念頭に防災体制を整備し、NSネットでの安全確保策、安全文化の普及、意見交換・情報発信等に取り組んでいる状況を報告。さらに大量のエネルギーを環境への影饗を押さえつつ生み出す原子力は、日本に欠くことの出来ない選択肢だと述べ、自然エネルギーにも力を入れつつ、今後とも推進していく考えを述べた。 三菱マテリアルの秋元勇巳社長(経済団体連合会資源・エネルギー対策委員長)は、原子力は多重防護で安全が確保されているが、JCO事故ではこれが一つ一つ剥がされていったとし、「巨大産業に携わる者として弁解の余地はない」と述べた。そして「どこにも安全のエアポケットを作ってはならない」と強調。NSネットや世界の燃料加工メーカーによる安全ネットワーク等で積概的に安全対策に取り組むとともに、分かりやすい放射線教育や情報公開の必要性を指摘した。 パネル討論地元民ら参加 不評対策に苦労も午後からは森島大会準備委員長の議長の下、東海村や青森県六ヶ所村の原子力施設立地地域の代表者と原子力関係者ら10名によるパネル討論「JCO事故をどう受け止めたか−東海村の再出発に向けて」が行われた。まず地域の代表者のコメントが発表された後、地元民から寄せられた意見や質問に原子力関係者が答える形で討論は進行した。 井坂文明氏 照沼勝浩氏 小泉靖博氏 3名の報告の後、地元民から寄せられた質問・意見の紹介と関係者による回答に移った。最初は、女学生から事故による人体への放射線影響への懸念が寄せられ、これに対して久保寺昭子氏は事故による健康影響を心配する必要はないと述べるとともに、「人々のこわいという意識には放射線は目に見えず、知らない間に体を通り抜け、悪いことをする。それが子孫に影響する。そういうことが根底にある」と語り、放射線従事者等は放射線が一般より若干多い所で仕事していること、そこでは健康に影響はないことを挙げ、「では、何故こわいと考えるのか」について、一つは「量のことを考えていないからだ」と指摘。JCO事故の作業員のように大量被曝と少量の被曝を「同じと考えている」として、広島、長崎の被爆データから白血球は200ミリシーベルト以下であれば継続した影響はないなどと説明した。 またG.クラーク氏は安全確保の重要牲について触れ、リスクは原子力ばかりでなく、炭鉱事故、タンカーの流油事故など一度に多くの人命が失われる事故も多いという事例を紹介し、リスクと便益のバランスをとることが重要だと強調した。 さらに会場からの質問で事故の情報がすぐに出なかったことやペットを連れて避難できなかったことの理由を問う質問がでたが、これに対しては東海村の萩野谷博助役が、当時の状況を説明するとともに、ペットについては緊急時にはまず人命の救助が最優先されるので、御了解願いたいと述べた。また会場からは全村民に健康手帳の発行をして欲しいとの要望が出された。 住田健二氏は安全確保のためにはどのような技術が使われたのかという知識も必要であり、技術の継承の重要性を強調した。都甲泰正氏はサイクル機構で実施した安全総点険について説明し、「一番大切なことは事業者自身が安全確保を行うという自主的な保安努力だ」と指摘した。 また会場から原子力システムの安全性についての質問が出され、これについて近藤駿介氏は原子力は多重防護によって安全性が確保されているが、最近では人間の問題が表面化しており、これが多重防護を壊していると警鐘。組織の上層部が安全を第一とする考えを進めていくことが重要だと述べた。齊藤伸三氏は JCO 事故当時、ウラン溶液の注入作業をしていた2名が臨界ということを知っていたら断っていただろうと述べ、教育、情報公開の必要性を指摘するとともに、風評被害の解決には放射線の知識の広がりが必要だとした。 その他、会場から「住民の立場に合った分かりやすい情報を。住民は誤った情報で脅かされている」などの意見が出された。 パネル討論のメンバー議長・森島昭夫▽井坂文明・東海村商工会青年部副部長▽久保寺昭子・東京理科大教授▽G.クラーク・ウラン協会事務局長▽小泉靖博・六ヶ所村環鏡保全課長▽近藤俊介・東大教授▽齊藤伸三・原研副理事長▽住田健二・阪大名誉教授▽照沼勝浩・照沼勝一商店(農業関係者)▽都甲泰正・サイクル機構理事長
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