[原子力産業新聞] 2000年5月18日 第2038号 <4面> |
[レポート] 欧米諸国 電力市場自由化の現状海外電力調査会
|
|
注: | カリフォルニア州は2000年2月末現在(カリフォルニア州公衆事業委員会)。 マサチューセッツ州は2000年2月末現在(マサチューセッツ州エネルギー資源局) ペンシルベニア州は2000年3月末現在のPECO社実績(ペンシルベニア州消費者保護局) |
英国イングランド・ウェールズでは国有電気事業者の分割民営化によって1990年に自由化がスタート。90年、94年、98年と3段階に分けて自由化範囲が拡大され、最終的に99年5月、全面自由化に移行した。発電、送電、配電部門を水平分離、送配電部門をコモンキャリア化するとともにプールと呼ばれる卸電力市場を創設した。プール取引を運営管理しているのは国有中央発電局(CEGB)から分離独立、送電系統を所有・運用するナショナル・グリッド社。電気事業全般を規制するのは民営化時に設置された電気事業局(現在はガス規制局と統合してガス電力市場局)。送電線料金、配電線料金および小売料金の一部に上限価格規制が適用されている。
CEGBの発電部門が3分割されたナショナル・パワー、パワージェンの火力発電2社と原子力発電1社、さらに新規参入した30社を超えるIPPが発電市場を形成、毎日の競争入札により発電される電力のすべてがプールで取引される。最近はガス火力が急増、総発国電力量の4割近くを賄っている。民営化された12配電会社および新規小売供給事業者はこのプールで電力を調達し小売供給を競っている。
当該30分帯に提示される最も高い価格に需給バランスを反映した価格要素を加味してプール購入価格を決定。それに系統信頼度維持に要する費用を加えたものがプール販売価格となる。発電会社と配電会社、小売供給事業者はプール価格を指標とする差額支払い契約を結びこのプール価格の変動リスクをヘッジしている。
1999年現在、1,000kW超需要家で7割強、100kW超で5割、住宅需要家で13%が供給事業者を変更。電気料金は大口需要家および住宅需要家ともに実質的に値下がりしている。電気料金低下は競争導入による効率向上も一因であるが、電力民営化当初残っていた国内炭・原子力保護政策が徐々に縮小されてきていること、また送配電線使用料金が大幅に引き下げられた点が大きい。
1995年に配電会社の株式取得が自由化されたこともあって12配電会社の大半が米国電力会社あるいは英国公益企業によって買収された。その結果、発電と配電小売供給が結びついた垂直統合形態の会社が形成されたり、複合公益企業が登場。今後はさらに配電会社同士あるいは配電会社の小売供給部門同士の合併も予想されている。
1990年の自由化から10年を経過した英国のプール制度であるが、2大発電会社によるプール価格決定への影響力行使、発電部門におけるコスト削減がプール価格に反映されにくい点、需要家側からの競箏入札がない片側市場であることなどの問題点が指摘され、現在全面見直しが行われている。
予定では2000年10月末に現行の強制プール制を廃止、代わって先渡/売物市場、スポット(現物)取引形態をとる短期契約市場、系統の安定的運用を目的とした需給調整市場、電力需給の計画値と実績値の偏差分を清算するインバランス決済からなる新たな御電力市場に移行することになっている。
ドイツでは1998年4月末、新たなエネルギー法の発効を受け、従来の電気事業体制のまま全面自由化をスタートした。ドイツ電気事業を構成するのは大半が公私混合営の8大電力会社、地域エネルギー供給会社、地方自治体営主体の小規模配電会社等約1,000社の電気事業者。8大電力会社はドイツ総発電設備の約70%と220キロボルト以上の超高圧送電線を所有・運用し、相互に資本を保有しあうカルテル型の事業体制をとっている。
垂直統合形態の電気事業者は自由化に際し、送電事業と他部門との会計および経営分離が義務付けられたが、系統運用について中立・独立的な系統運用組織は設立されていない。一部電力会社には純粋持株会社を設立、その傘下に送電部門を別会社化している。旧東ドイツ地域については、褐炭産業の保護と雇用確保を目的として2003年まで第3社による系統アクセスが制限されている。
これまで事業多角化経営を進めてきた電力各社は電気事業を核にエネルギー供給事業に重点を置く経営に方向転換、経営資源の集中化を図るとともに、不採算関連企業の売却、人員整理など競争力確保のための合理化に取り組んでいる。
自由化当初、当事者間の相対契約によリ決定される送電料金が競争を抑制する方向に働いたこと、また電力会社間で競争対象を大口産業需要家に限定するとの暗黙の了解があったことから、需要家による供給事業者変更の動きはそれほど活発ではなかった。しかし、1999年8月、RWEエネルギー社が全国の住宅需要家に対し他事業者より約20%安い料金を提示したことから、住宅需要家も含めた本格的な需要家獲得競争に突入した。
料金値下げ競争は競争力確保のために大手電力会社の合併買収競争に発展。1999年の9月から10月にかけてドイツ2位のプロイセン電力と3位のバイエルン電力、1位RWEと6位VEWの合併計画が次々発表され、2000年中にも2大グルーブが出現する見込み。
自由化後、電気料金は産業用で平均20%、住宅用で10〜20%値下がりした。これはここ10数年大規模な設備投資がなく電力会社がかなりの内部留保を抱えていたことや低コストの燃料調達が可能となったことなどが大きな要因であり、自由化との直接的な因果関係は薄いと指摘する向きもある。いずれにしろ確認できたのは、一旦競争の火蓋が切られるや電力会社同士の需要家獲得競争が一気に本格化したという事実であった。
フランスでは欧州連合(EU)電力自由化指令の国内法化期限から約1年遅れて2000年2月1日、電力自由化法が成立した。フランス電力公社(EDF)は発送配電一貫体制を保持するものの、送電系統については中立性を保つために他部門から独立したかたちで運用されることになった。
供給事業者を選択できる需要家の要件は未定であるが、大筋EU電力指令が定める市場開放率に沿ったかたちで2003年まで当面年間消費電力量2,000万kWh前後の需要家に落ち着きそう(開放率30%)。EDFの今後の競争相手としては国内IPPあるいは国外からの電気事業者が予想される。電力自由化法成立直後に4、5軒の大口需要家(年間消費量5〜6億kWh相当)がEDF以外の供給事業者に変更したという報告もある。
原子力開発が一服したEDFは減価償却費など豊富な内部資金を活かして1990年代初めから世界各国の電力市場に進出。最近はEU市場の自由化にともなう国内シェア喪失分を国外市場で取り戻すべく、英国、ドイツにも進出している。国内的には制限的自由化を指向しながら他国の全面自由化市場へ積極参入するEDFの姿勢に公正競争上の観点から批判を向ける国もある。