[原子力産業新聞] 2000年5月25日 第2039号 <1面> |
[長期計画] 第1分科会、報告書案まとめ原子力の意義再確認「国民・社会と原子力」をテーマに審議を行ってきた原子力委員会・長期計画策定会議の第1分科会(座長・太田宏次氏、高原須美子氏)は12日、「原子力は安全確保、平和利用の堅持、国民や立地地域との調和を前提として、着実にその研究、開発、利用を進めていくべき」などとする報告書案を取りまとめた。同分科会では人類文明の中で原子力がどの様な役割を果たし、可能性を持っているのか、我が国にとって原子力を推進する意義・役割があるのか、今後の原子力政策を決定するにあたって国・国民が行うべきことは何かなど、原子力開発の根本的課題について議論し、報告書案では立地地域との共生のあり方など具体的対応についても記述している。 報告書案の冒頭、「文明と原子力」では、今後も人類文明の発展の基盤となることが期待される一方、その発展が様々な問題をもたらしている科学技術について、人間・社会との関係はいかにあるべきといった視点が一層必要になると課題を示している。また途上国での人口増加や経済発展に伴うエネ・食料逼迫などに対して、全人類的視野で取り組む努力を求めている。その上で原子力を、現代文明を支える一つの要素で、また21世紀以降の文明の発展をも担う可能性あるものとして期待し、放射性廃棄物や核拡散など原子力の「影」の管理を前躍に、「光」の部分としての可能性を最大限引き出す努力がわが世代の責務とし、わが国としても諸外国の動向等見極めつつ、原子力の意義・役割を確認していくことが必要としている。また、原子力はわが国のエネセキリィティ確保や地球環境保全面で既に大きな役割を果たしており、核燃料サイクルや高速増殖炉開発により、長期的に一層その効果が期待できるほか、核融合や加速器などの技術の広範な分野での重要性も高まり、多様な放射線利用や国際協力の可能性も開けていることを訴えている。 続く報告書中核部分は「国民・社会と原子力の調和」と題し、まず原子力の社会への定着が進む一方で、JCO事故などにより国民の信頼を失いつつある状況を懸念し、今後の大前提として安全確保を再認識し国民の不安・不信感をなくす対策、政策決定、地域共生のあり方を示すこと、その際に情報化の進展、国と地方の関係の変化なども考慮することをうたっている。 「安全確保のあり方」については、JCO事故を教訓に@あらゆる状況に備えた適切な安全確保の取組の実施A国による適切な規制B被害を最小限に抑えるための危機管理体制の整備−を基本に、安全文化の醸成、安全規制に向けた具体的措置、加えて防災対策を行うよう述べている。 「国民の信頼・安心感の確保」については、まず不信感を生じさせる要因を掘り下げた上で、国・事業者が@意識改革A組織の透明性向上B情報提供体制の整備C政策への信頼確保−について方策を講じること、また不安感の要因として@事故トラブル等の発生A評価指標等の不足Bマスメディアによるセンセーショナルな報道−を掲げ、国民が安心感を得るよう、安全実績の積み重ねに加え@安心感の持てる安全確保体制の確立A国民が考え判断できる環境の整備Bリスクコミュニケーションの活性化Bマスメディアヘの必要な素材の提供など−をそれぞれ指摘。 「政策決定のあり方」については、合意が形成されるためのプロセスが重要との考えに基づき、多様な議論が存在する原子力で政策責任者は合意形成の努力を惜しむべきでなく、その目的や手段について説明責任を果たす必要があると訴え、透明性確保、国民参加の方法を具体的に掘り下げている。 「国、地方自治体、事業者等の関係のあり方」については、まず立地問題に関して、国レベルのエネ政策上の要請と、地元の意見をいかに両立させ調和を図っていくかが今後の検討課題と位置づけ、国民が直接意見を表明する機会を設けることを重要とする一方で、住民投票制度については十分な議論が必要との慎重な見方。また、立地長期化等の状況の中、地元の理解と協力を得るためには、事業者と地域社会が相互に発展していく「共生」を目指し、消費者としての国民の理解の上にたった立地等について関係者が役割を遂げていくことが重要だとしている。さらに、立地地域の主体的な発展に向け国、自治体、事業者が協力して取り組むことを主張している。
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