[レポート] 高温ガス炉開発の最新動向
高温ガス炉については現在、日本と中国で「試験研究炉の建設とそれによる研究計画」が、また南アフリカと米国・ロシアで小型モジュール炉(電気出力10〜30万kW級)による「実用化計画」が並行して進められており、さらに最近、欧米等がこれらの実用化開発に協力・参加し、世界の今後の原子力開発の方向性に大きく影響を与えかねない状況が生まれている。我が国もその対応が国際的に注目されている。本紙ではエネルギー総合工学研究所(理事長・秋山守東大名誉教授)の「高温ガス炉プラント研究会」(会長・安成弘東大名誉教授)の代表幹事である日本原子力発電の土江保男研究開発本部部長(新型炉)に、関連の国際会議出席等を通じて得た情報をもとに、世界の高温ガス炉の開発状況について紹介願った。
小型モジュール化へ技術展開
【1.新生高温ガス炉の登場】
高温ガス炉は1960〜80年代に、欧州や米国での実験炉開発を経て、蒸気タービン方式の原型炉が建設され、一時はそれを大型化した発電プラントの導入計画が相次いだが、原型炉建設後のトラブルの多発やチェルノブイリ事故の影響等により急速に下火になっていた。
しかし今回は、左記の内容を含んでおり、以前とは違う言わば「新生」の高温ガス炉であり、注目される。即ち、@ガスタービン方式の採用A同炉固有の安全性の確実化(炉心溶融が生じないよう出力密度を抑制)Bその安全性を根拠に徹底的な合理化を実施(燃料以外の機器を非原子力級化、かつ単純化、量産化等により経済性も低下しない小型炉システムを追求)C今日的目標も付加(高発電効率、幅広い熱利用性、Puの高い燃焼性を生かした核兵器解体Pu焼却処理への適用等)。
【2.試験研究炉の建設とそれによる研究計画】
(1) 原研HTTR(高温工学試験研究炉)計画 一昨年秋に初臨界を達成、現在は出力上野試験中。最近、安全性実証、水素製造技術開発と並んで、我が国の要件に合致する高温ガス炉発電プラントの概念や要素技術研究も行っている。
(2) 中国清華大HTR-10(高温ガス試験炉)計画 国家重要項目の一つ。蒸気タービンサイクル(第1フェーズ)、ガスタービンサイクル、並びに蒸気・ガス複合サイクル(第2フェーズ)と段階的に進行中で、現在は第1フェーズ建設の終盤にある。本年末頃に初臨界を予定。
【3.実用化計画】(表1参照)
(1) 南アPBMR(ペブルベッドモジュール炉)計画 93年頃より国営電力ESKOMのスタッフや原子力委AECの核兵器ミサイル技術者他を集め、調査を開始。95年以降独国技術ベースの小型モジュール高温ガス炉の概念設計を進め、欧米等のコンサルタント協力も得つつ、一昨年から原子力安全委CNSによる予備的安全審査、並びに第1モジュールプラント(原型炉、実証炉、実用第1号炉兼用)の主要機器詳細設計につき国際入札を実施中。 また並行して南ア政府が昨年、同計画の国際的な理解と協力を得るためにIAEAに技術、安全、経済、核不拡散性等につさ中立的評価を要請し、IAEAスタッフ、欧、米、日他の専門家によるレビューが行われた。 また先月、同政府が計画推進を承認したので、来年にかけて、CNSが概念設計につき合格宣言を、ESKOMが機器発注を順次行う見込みであり、2005年頃に運開を予定。 一方、最近では、欧・米、中、露の有力機関が、自ら保有している同炉技術インフラの活用や将来の市場展開可能牲への布石等の立場から、コンサルタント協力のみでなく、機器詳細設計への応札、計画への技術・資本参加等にも重大な関心を示している。 わが国は、原電、一部電力、原研、メーカー数社で構成する「日本グループ」が一昨年夏以来、ESKOMと覚書きを締結して情報交換を続けているが、HTTR建設等ガス炉のインフラを持ちながらも、高温ガス炉の実用化について原子力長期計画等で検討中でもあり、上記の情報交換を上回る協力関係は、まだ報じられていない。
表1 高温ガス炉に関する各国の最近の動向
国 | 背景 | 動向(機関、内容) |
英国 | ・ガス炉インフラ ・エネルギー戦略 | ・AEA-Tech、NNC:PBMRに技術協力中(黒鉛等システム材料性能評価、シミュレーション評価) ・BNFL/WH:PBMRに重大関心 |
独国 | ・ガス炉インフラ | ・HTTR GmbH:南アにPBMR技術情報提供 ・Juelich:炉安全、サイクル関連研究実施中、PBMRに技術協力中(炉安全、サイクル評価) ・ABB:PBMRに技術協力中(ガスタービン他) ・TUV:PBMRに技術協力中(システム分類) |
仏国 | ・ガス炉インフラ ・エネルギー戦略 | ・Framatom、CEA:GT-MHRに参加中、PBMRにも技術協力中(炉新評価) ・Alsthom:PBMRに技術協力中(炉心評価) |
蘭国 | ・核熱による コジェネ指向 | ・NRG-Petten:ACACIA(小型コジェネプラント)計画推進中、PBMRにも技術協力中(炉心評価) |
欧州Grp | ・チェルノブイリ事故 以降、安全炉指向 | ・欧州Grp(Framatom、NRG-Petten、Juelich、NNC他):EU内での高温ガス炉計画立上げを検討中 |
露国 | ・ガス炉インフラ | ・MINATOM、OKBM、Kurchatov:GT-MHR計画推進中、PBMRにも技術協力中(燃料取扱系、ガスタービン) |
南ア | ・分散型電力需要 ・安全炉指向 | ・ESCOM:PBMR計画推進中 ・政府:PBMR計画の推進を承認(Apr.12,'00) |
中国 | ・国家計画により 多目的炉(発電、 熱利用)開発 | ・清華大:HTR-10計画推進中、PBMR計画にも技術協力中(燃料取扱系) ・中国Grp(電力公司他):PBMRに関心 |
インドネシア | ・電力需要、天然資源 有効活用策 | ・BATAN:小型モジュール高温ガス炉検討中 |
米国 | ・ガス炉インフラ ・エネルギー戦略 | ・DOE:GT-MHRに資金拠出中 ・GA:GT-MHR計画推進中、PBMRにも技術協力中 ・MIT-INEEL:アイダホに試験炉設置構想あり(予算要求中) ・EPRI:PBMRに関心、高温ガス炉国際WSを開催 ・ANS:高温ガス炉国際WSを開催 |
日本 | ・原子力インフラ ・ガス炉インフラ | ・原研:HTTR計画推進中 ・富士電:GT-MHR計画推進中、PBMRにも技術協力中 ・日本Grp(原電、一部電力、原研、メーカー数社):PBMR計画推進中の南アと情報交換中 ・国:長計改定作業で中小型炉を議論中(高温ガス炉含む) ・エネ総研(高温ガス炉プラント研究会)、原産(熱利用懇、南ア・中国調査団)、学会、通商産業省他:調査、評価開始中 |
国際機関 | ・原子力開発振興 ・情報交換の場の提供 | ・IAEA:ガス炉技術会議等を定期開催、途上国の関連活動を支援中 ・OECD/NEA:IAEAに連動した活動を展開 |
- <参考>
- @IAEA高温ガス炉技術会議(99年8〜9月、英国リズレー)
- Aガスタービン高温ガス炉国際ワークショップ(99年12月、米国パロアルト)、他
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(2) 米露GT-MHR(ガスタービンモジュール型He冷却高温ガス炉)計画 核兵器解体Pu焼却と発電(将来は更に熱利用も)を目的に、GA(米)とロシア原子力省が93年以降、その後のフラマトム社(仏)と富士電機(日)の参加も得て、設計を推進中。 最近、米国エネルギー省DOEが核不拡散の立場から99〜2000年度につき資金拠出を認めたが、米・露は今後の開発資金につき欧・日を含む四極政府による分担支援を要請している。科技庁とDOE間で日本による一部拠出合意が報じられている。 なお昨年6月には、DOEとロシア原子力省の要請により、欧・米・日他の専門家による技術と安全のレビューが行われ、「開発阻害要因は特にない」と評価されている。
【4.各国の動き】
(1) 欧州 シーメンス社とABBの合弁会社HTR-Gmbh(独)が昨春、南アに対し基本技術情報の提供契約を締結、またユーリッヒ研究所(独)が教育省予算により、炉内への空気侵入事故や使用済燃料の固化・地層処分等の安全性評価試験研究を実施中。 オランダがPetten研を中心に高温ガス炉による熱電併給(コジェネ)を検討し、また、英、仏、独、蘭の研究機関とメーカーが一昨年初めに、「革新的高温ガス炉INNOHTR」(現「高温ガス炉技術ネットワークHTRTN」)グループを構成し、欧州委ECに高温ガス炉プラントの立ち上げ等を進言すべく、プラント概念を検討中。
(2) 米国 前出のGT-MHR計画の共同推進の他に最近、電力、電力研究所EPRI、大学、学会等も小型モジュール高温ガス炉に関心を寄せ、次世代(第4世代)炉の有力候補の一つとして採り上げ、関係国際会議の招集、ガス炉分野への参入やPBMR計画への参加意向の表明、同型炉の米国での市場性(軽水炉等と競合性ありと評価)、国内許認可データ取得のためのアイダホでの試験炉建設の構想打ち上げ等を行っている。
(3) アジア・ロシア インドネシアは以前は「大型軽水炉」の導入を考えていたが、最近同国原子力機関BATANは、小型モジュール高温ガス炉の導入可能性の検討を開始。狙いは発電+熱利用(重油回収、天然ガス中の炭酸ガス除去、メタノール製造、海水淡水化、農業利用等)であり、初期投資が小さく、運転も楽なことが大きな魅了としている。 一方、中国や露のグループも、自国の開発計画の推進と平行して、PBMRに重大な関心を示し始めている。
(4) 日本 前出のエネ総研「高温ガス炉プラント研究会」(学識経験者、電力、メーカーで構成)が、主に産業界の立場から、高温ガス炉の開発動向調査、開発シナリオの検討を継続中。原産では「熱利用懇談会」(会長、生田元エネ経研理事長)が、それまで休止していた核熱利用の可能性調査を一昨年に再開。その下で「将来展開検討会」(主査は関本東工大教授、学識経験者、電力、原研、電中研、原子力メーカー、製鉄、自動車等で構成)を発足させ、地球規模やアジアにおける高温ガス炉発電と熱利用のニーズ、開発展開シナリオにつき検討し、その結果、「国主導による実用化フィージビリティ・スタディの実施」を提言中。なお原産は昨年、南アと中国に関連の調査団を派遣した。 また最近、国(長計改定作業地)、大学、学会等で、今後の原子力開発の方向性の一つとして「中・小型安全炉」、「モジュール炉」あるいは「需要地近接炉」等の切り口から各種の検討が進行中であり、当該高温ガス炉もその対象に含めている、
(5) 国際機関 IAEA、OECD/NEAが原子力の国際振興のため、情報交換の場を提供し、また各国での調査・評価等につき協力・支援中。
【まとめ】
最近の高温ガス炉実用化開発の動きは、左記のような多くの視点・観点から「小型・モジュール・安全炉」の概念をセットで提案するものであり、またそれへの国際的呼応でもあり、数年前にはほとんど予想すらされなかった新たな傾向へと急展開である。即ち、@エネルギーセキュリティ(U、Puに加えてThも燃料として利用でき資源が拡大できる)A利用効率の大幅向上B原子力需要の拡大C水・食料危機への対応D人手を介しない確実な安全性E運転、保守の容易性F経済性(コストダウン)G地球環境負荷の低減H解体Puの焼却処理と核不拡散I炉型や出力規模の多様化−など。 今後、これらの開発計画の遅延や更なる意外な展開等も有り得るので、冷静な見極めを要するが、我が国は原子カ先進国であり、ガス炉インフラ国でもあり、原子力開発の今後の新展開を考えていく立場から、自らの要件を整理した上で、南アや米・露の計画に協力・参加し、同時に独自の展開も考えていくことが重要と思われる。
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