[原子力産業新聞] 2000年6月8日 第2041号 <5面>

[書評] 『原発ごみ』はどこへ

 「高レベル放射性廃棄物」とは何か?−この言葉を「知っている」「多少は知っている」のは国民の約半数だそうだ。高レベル事業推進準備会のアンケート調査の結果だが、さらに「地層処分は安全と考えるか」の問いでは「安全という印象だ」が僅か6.2%だという。高レベル処分に関して国民の認識や理解を優る道は未だ遥か遠い。

 こういう状況にあって、高レベル廃棄物問題を真正面から取り上げ、多方面からの検討を行い、国民にこの問題について理解してもらい一緒に考えて行こうとしたのが本書である。著者は地層処分の専門家一人と3人のマスコミ関係者。お互い「口角あわを飛ばして意見をぶつけ合う」論議を経ながら担当を決め執筆したという。

 構成は第1章で放射性廃棄物問題はなぜ国民全体の問題か、なぜ今考えるのか、などについて問題提起し、第2章で「高レベル放射性廃棄物とは」をテーマに核燃料の特性から再処理の是非と問題点、放射線の人体影響などに触れ、第3章で「後始末の条件」として、安全とは何か、地層処分とは、その信頼性、概念と構成などについて解説。「地下は地震があっても安全か」「なぜ地下数百メートルなのか」などの疑問にも科学的見地から分かりやすく説明をしている。第5章は「私の意見」では、4名の執筆者がそれぞれの考えを JCO 事故をも踏まえて記述している。

 本のタイトル「『原発ごみ』はどこへ」は、関係者にとって刺激的な表題だが、大勢の国民が自らの問題としてこの本書を手にとって貰いたいとの思いから、あえて「地層処分」とか「高レベル放射性廃棄物処分」などの言葉は使わなかったという。「便利なところだけをつまみ食いして、やっかいなものは他人任せで知らん顔。そんなご都合主義が許されない」との思いで書かれた本書は、廃棄物問題を社会的、技術的に広い範囲で取り上げ極めて分かりやすい内容になっている。一般の人に是非一読して欲しい一冊。 (み)

 四六判、224頁、定価千円(税別)。電力新報社刊(電話03-5565-4091)。


Copyright (C) 記事の無断転用を禁じます。
Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM,INC. All rights Reserved.