[原子力産業新聞] 2000年6月29日 第2044号 <1面> |
[長期計画] 策定会議、報告書骨子案を提示「成果を将来の世代へ」原子力委員会の長期計画策定会議(座長・那須翔東京電力相談役)は26日、第12回会合を東京都内で開催し、座長代理の森嶌昭夫地球環境戦略研究機関理事長から、文章を書き込んだ「原子力研究開発利用長期計画骨子(案)」が初めて示され、議論した。骨子案は原子力の基本的方向性を示し、国民に対するメッセージとした第1部「原子力の現状と課題」と、六つの分科会報告書の概要をまとめた「原子力研究開発利用の将来展開」の2部で構成。21世紀に向けた原子力について、人類の更なる英知を持って取り組むことによって、「原子力の多様な可能性を最大限引き出す努力を行い、その成果を着実に将来の世代に引き継いでいくことが、我々原子力利用の創成期に立ち会った20世紀の世代の責務だ」と強調している。次回7月24日の会合で長計報告書素案が示される。 骨子案の第1部は4章構成。第1章「20世紀の科学技術」で科学技術の発展が人類の社会や生活に大きな変化をうながし、物質的豊かさをもたらせたが、環境破壊など様々な問題も生じ、これらへの全人類的取組みが求められていると論じた。第2章「原子力技術の発達」では原子力利用の歴史を概説。発電利用・放射線利用など原子力は「20世紀の人類に貢献してきた」とする一方、核拡散、安全性、放射性廃棄物処分の問題が生じてきており、それらが解決できるのか、「今日社会から改めて問われている」と問題提起している。 第3章「我が国の原子力研究開発利用」では、まず日本のエネルギー供給を考えると@他の欧米諸国と異なり多国間のエネルギー融通が困難であるという地政学的特徴を考慮する必要があり、安定的に経済性の高いエネルギーの確保が重要で、輸入先の多様化や備蓄体制の整備、石油代替エネルギーへの取組みが重要なことA温室効果ガス削減問題への対応のため、原子力や再生可能エネルギーの研究開発を長期的観点から継続的に行うことが重要−と指摘。 こうした課題に対して、省エネや再生可能エネルギーの積極的な導入を図る必要があるが、いずれも数々の制約があり、後者は「当面は水力を除いて、補助的水準を超える役割を期待するのは難しいのが実状だ」との認識を示している。 一方、原子力については特性と課題として@長期供給安定性に優れるA温室効果ガスなどの排出による環境負荷が少ないB放射性廃棄物の処分問題は最優先問題の一つであり、国民の理解と協力を得て地層処分を着実に進めることが必要C安全確保には最優先で取り組むことが最も重要D核不拡散への配慮−などを掲げている。さらに、こうした点を考慮すると、「エネルギー自給率の向上とエネルギーの安定供給に貢献してきた原子力発電を引き続き基幹電源に位置づけ、最大限に活用していくことが合理的だ」と述べている。また核燃料サイクル技術については、「供給安定性に優れているという原子力発電の特性を技術的に向上させるとともに、原子力が長期にわたって安定的なエネルギー供給を行うことを可能とする技術だ」と論じ、高速増殖炉サイクル技術など「我 が国独自の長期的戦略的判断の下に、その研究開発に取り組むことが必要だ」と結論づけている。 第4章「これからの原子力政策を進めるにあたって」では、国民・社会や国際社会との関係を考えながら進めていくべきだと述べ、「安全確保と防災、国民の信頼の確保、立地地域との共生、平和利用の堅持、国際的理解の確保を大前提として、これからの原子力政策を進めていく」との基本的方向性を明示した。 この中で「国民・社会と原子力」の項目では、@原子力事業は安全確保を大前提として、安全実績を積み重ねることが不可欠A透明性の一層の向上B正確な情報の提供や国民各界各層との対語の促進C原子力と地域との共生という考え方に立った対応−が重要だと指摘している。 その他、国内での対応策として防災計画の整備、安全教育の徹底、政策決定過程に対する国民参加の促進などを掲げている。一方、国際的対応としては我が国が非核兵器国としての立場を堅持していることを、より強力に発信していくこと、余剰プルトニウムは持たないという原則を踏まえて透明性を一層向上させる具体的な施策を検討し、実施していくことが重要だと述べている。 こうした骨子案について、委員からは「研究開発の進め方についてはマーケットを重視して競争的環境でやるのが重要」「大学での研究・教育のあり方、予算配分も見直し、人材育成にも努めていくことが大切」「報道の役割も重要で、こうした点についても盛り込むべき」「高速炉実用化戦略調査研究の期間について年次を明記すべきだ」などの意見が出された。
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