[原子力産業新聞] 2000年7月20日 第2047号 <4面> |
[レポート] 米国の食品照射の最新動向農林水産省 食品総合研究所
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[スパイスの照射]
86年には、30kGy(キログレイ)を上限として香辛料の照射が許可され、実用照射が開始された。その処理量は91年より後に安定的に増加し始め、97年には約3万4,000トン、98年には3万8,600トンのスパイス類が照射されたと推定される(American Spice Trade Association)。ICGFI によると、98年に米国全体で照射された食品の総量は、約5万トンと推定されるため、そのほとんどの部分をスパイス、ハーブ類が占めていたことになる。
[肉類の実用照射]
90年代に入って、サルモネラ汚染の多発する鶏肉の衛生化を目的として、3kGy を上限とする家禽肉類の照射が許可された。肉類を原因とする食中毒の問題は更に深刻化し、特に97年にハンバーガーの牛挽肉に由来する病原性大腸菌O157:H7 汚染で、大規模な食中毒事故が発生すると、FDA は12月3日に、牛肉、豚肉、ラム肉などの赤身肉の照射の許可を行った。その後、2年を経過して、USDA/FSIS の赤身肉の照射に関する最終的な規制案が成立し(99年12月23日:FR64-1246)、2000年2月22日より牛肉の照射が実際上可能となった。この規制には、最高線量(冷蔵肉4.5kGy、冷凍肉7.0kGy)、表示に radura シンボルを用いること、照射を HACOP のシステムの一部として組み入れることなどが盛り込まれている。
USDA の最終案の赤身肉照射許可の提案された99年春から、加速器会社のタイタンは、アイオワ州 Sioux 市に電子線照射施設の建設を開始し、最終許可がおりる2000年春より肉類のテスト販売を始めるという計画を発表した。また、99年9月には、アメリカで No1 の鶏肉のシェアを誇るタイソンフーズが、タイタン社と提携して自社製品に電子線照射を取り入れる方針を発表したほか、IBP(Iowa Beef Packer)、Cargill Food といった、アメリカで1位、2位をしめる牛挽肉生産メーカーを含む数社も、最終規則案の成立以前に照射を導入する方針を明らかにした。同規則の施行後の2000年3月末には、ウォル・マート社など大手スーパーマーケット数社が、店頭での照射牛肉のテスト販売を開始すると発表した。また、Colorado Boxed Beef 社は、フロリダの food Technology Service 社のガンマ線照射施設で照射した、小売り用の冷凍のハンバーガー用パテの製造を3月末より開始し、最初の照射牛肉製品が現れた。さらに、ミネソタ州の Hulsken Meat 社は、上述のタイタン社の電子線加速装置を用いた、ハンバーガーパテの照射を5月中旬より始め、ミネアポリス近郊の84のスーパーマーケットの店頭での販売を開始した。同商品を扱う小売店の数は、1週間後には150に増え、更に5つの州の250店舗に拡大する見通しと報じられた。
[食品の衛生化を目的とした、新たな照射の許可申請]
FDA には、現在許可されている食品の品目に加え、下表のような食品に対して、新たに照射の許可を求める申請が提出されている。
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この表の最後に挙げた、食肉、食品加工などの業界団体の連合である Food Irradiation Coalition の提出している、調理済み食品に対する照射の許可申請が認められれば、米国における衛生化目的の照射の範囲は大幅に広げられると注目を集めている。新規の食品に対する照射の許可は、業界などからの申請によるが、申請に必要な要件は、FDA のホームページを通じて公表されている。また、新たな許可申請が提出されれば、その事実は直ちに官報 (Federal Register) で公表され、その情報はインターネットを通して誰もが入手可能である。
▽法規制の動き
米国では、国外からの農産物の輸入に限らず、一部の地域間の農産物輸送に際しても、検疫処理が必要な場合がある。中でも、ハワイ産の熱帯果実を食害するミバエ類の消毒処理には、従来、有効な方法がなく、米国本土への輸出が制限されていたため、80年代より、照射処理に関心が持たれていた。また、90年代に入って、検疫処理に広く使われてきた、臭化メチルの使用を制限する動きが出てくると、その代替技術としての放射線照射への期待も一気に高まった。殺虫 (不妊化) の目的で、すべての農産物に対して1kGy までの照射を行うことは、86年に FDA によって許可されている。これとは別に、外来害虫の侵入を防止して国内 (地域内) の農作物を保護する APHIS の立場では、自国の検疫政策に適合した信頼性のレベル (probit9) において、検疫対象害虫を排除できるように、放射線照射の基準を定める必要が生じる。簡単にいえば、APHIS は検疫処理に必要な最低線量を定め、FDA は人間の健康を守るための最大線量を定めることになる。
北米地域での検疫処理政策、環境保護政策の変遷と、APHIS の照射に関する検疫処理の規制の整備の動きは以下の通り。
1989 NAPPO (North America Plant Protection Organization) の放射線処理の検疫処理への有効性を表明
1989 ハワイのパパイアに照射を許可
1993 EPA は検疫以外の目的の臭化メチルの使用と生産を廃止する最終案を提案
1994 NAPPO 会議 (検疫処理に照射を導入する際の問題整理)
1996 APHIS の検疫政策 (照射の導入) の発表
1997 ハワイの熱帯果実照射の規制変更 (最低線量の 250 Gy とライチ、カランボーラヘの適用拡大) (FR62-132)
1998 ハワイの輸出許可果実の拡大 (FR63-11)
1999 EPA は臭化メチルの最終的な全廃期限を2005年1月1日に決定 (FR64-104)
2000 輸入果実野菜の検疫に照射を導入する法案を提案 (FR65-103 5月26日)
放射線照射の植物検疫処理への有効牲は、89年北アメリカ地域の植物検疫当局である NAPPO によって初めて認められた。同年、APHIS はハワイ産のパパイアをアメリカ本土に輸送するために、照射を植物検疫処理として適用する法規制を発効した。93年に EPA (アメリカ環境保護庁) は、検疫以外の目的の臭化メチルの使用と生産を廃止する最終案を提案し、臭化メチル薫蒸の代替措置として放射線処理が有望であるという考えが一気に強くなった。それを受けて96年に APHIS は、照射を植物検疫処理として導入する基本政策を発表した。97年には先のハワイのパパイアに関する規制を変更し、最低線量を250 Gy に引き上げる他、照射ライチ、カランボーラのハワイからの輸送も認められた。98年7月には、さらに照射する果実の範囲が広げられた。99年6月に EPA は、臭化メチルの使用削減についての最終案を決定し、臭化メチルの全廃は2005年1月1日を期限とすることが定められた。更に AHPIS は2000年5月26日、輸入果実の検疫に照射を適用するための規格基準を提案した。これには、11種のミバエと Mango Seed Weevil のあわせて12種類の検疫害虫に対する最低線量と検疫処理を行う照射施設の基準、線量測定や記録の方法などの規定が定められており、現在、この提案についてパブリックコメントが求められている。
[ハワイにおける熱帯果実の照射]
ハワイでは95年以来、特別の許可を得て、ハワイ産果実をシカゴ近郊にある ISOMEDIX 社のコバルト照射施設に移送して照射し、近隣のスーパーマーケットなどでテスト販売を行ってきた。2000年まで5年間に輸出された総量は、パパイアなど8種類で78万8,322ポンドに上り、これらは米国本土の消費者に良好な反応を持って受け入れられた。これらの成功を受けて、照射設備を持たないハワイの中に商業規模の照射設備を建設する計画が持ち上がり、98年11月には、建設の是非を決定する住民投票が行われた。その結果、1%の得票差で賛成派が反対派を抑えて建設が決定された。
現在は、前述のタイタンが、EB/X 線加速器をハワイ島ヒロ市に建設中で、2000年7月から稼働される予定と伝えられている。この施設の運転が開始されれば、照射されたハワイ産の果物 (主にパパイア) が合衆国本土で大規模に流通する見通しである。