[原子力産業新聞] 2000年8月31日 第2052号 <2面> |
[安全委] 「安全目標」で部会設置へ効果的な安全設計・管理狙う松浦祥次郎原子力安全委員会委員長は24日、都内で開かれた原子力安全研究協会主催の原子力安全研究総合発表会で講演し、今秋にも同委員会に「安全目標」に関する専門部会を設置する方向で準備していることを明らかにした。原子力関連施設の安全確保に際して、定量的な安全目標を定め、効果的かつ効率的な安全設計、安全管理を行うのがねらい。 今年1月に安全委が決定した当面の基本方針には「安全目標のあるべき方向性を示し速やかに適切な専門部会を設置して検討する」旨が示されており、これまでに専門部会の設置、本格的な検討にむけた準備作業や、各国の安全目標の現状などに関する委託調査の報告を受けて、部会設置にむけた議論を重ねてきている。 その安全目標に関する海外調査によると、英国、米国など OECD・NEA 加盟国のなかに確率論的な安全基準を用いた安全評価を実施している例があり、原子炉施設を中心にして、例えば炉心健全性の喪失に関する指標として10のマイナス4乗から5乗/炉・年 (1万年から10万年にそうした事象が発生するという確率) といったターゲットを定めている例がある。また英国などで公衆のリスクに関する指標を採用している例もあるという。 日本でも確率論的な総合評価 (PSA) を導入した安全レビューを各原子力発電所に適用している段階にあり、原子力発電所に関する基本的な手法とデータベースは既に存在している状況。 また改定される原子力長期計画案では、原子力への国民合意を促進するうえで相互的なコミュニケーションのなかでリスク認識を高めていくリスク・コミュニケーションの必要性が示されており、リスク認識の社会的なコンセンサスをベースに安全目標を設定するうえにも有用な手法とみられている。 設置される専門部会では、こうした技術、社会の両面から検討を進めていくことになる見込み。 松浦委員長は、この日の講演のなかで、こうした状況を踏まえて、安全目標の議論を本格的に行うことにより、原子力分野のみならず、21世紀の社会で新たな安全システムを展望し、リスク概念の浸透・定着にむけた社会全体としての議論の活性化に貢献できるとの期待を示した。 総合発表会では、初日の24日に原子力施設の定量的な安全目標についての講演とパネル討論が行われ、2日目の25日には、JCO 事故を踏まえた原子力防災の将来展望についての講演とパネル討論が行われた。 このうち松浦委員長に続いて講演した東京大学大学院の神田順教授は「耐震設計における安全目標の考え方」について、耐震設計上のリスクを定量的に示す信頼性指標の考え方を紹介した。また「安全目標とリスク・コミュニケーション」について講演した慶応大学の吉川肇子教授は、リスク・コミュニケーションの手法と考え方を紹介し、必ずしも情報の正確性が国民の信頼感と相関しない−などの心理学的な側面についての知見を述べた。
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