[原子力産業新聞] 2000年8月31日 第2052号 <4・5面>

新原子力長期計画の概要 (3)

原子力の研究、開発及び利用の将来展望から


原子力科学技術の多様な展開

1.基本的考え方

(略)

2.多様な先端的研究閉発の推進

加速器

物質の起源の探索、生命機能の解明、新材料の創製等に有効な手段となる大強度陽子加速器計画については、原子力委員会、学術審議会共催で行う評価を踏まえ適切に推進する。また、RI ビーム加速器施設については、着実に建設を進める。一般に、大型加速器計画は常に国際的競争状態におかれており、技術主導の性質をもつことから、提案・評価後、遅滞なく評価結果を反映させることが重要である。

核融合

未来のエネルギー選択肢の幅を広げ、その実現可能性を高める観点から、核融合の研究開発を推進する。今後達成、解明すべき主な課題は、核融合燃焼状能の実現、核融合炉工学技術の総合試験等があり、国際熱核融合実験炉 (ITER) 計画はこの観点から重要である。なお、その推進に当たっては ITER 計画懇談会の評価の結果を踏まえることが必要である。

(略)

革新的原子炉

21世紀を展望すると、次世代軽水炉とともに、高い経済性と安全性をもち熱利用等の多様なエネルギー供給や原子炉利用の普及に適した革新的な原子炉が期待される。このため、炉の規模や方式にとらわれず多様なアイデアの活用に留意しつつ、国、産業界及び大学が協力して革新的な原子炉の研究開発についての検討を行うことが必要である。

基礎・基盤研究

(略)

3.研究開発の進め方

3-1 研究環境の整備

(略)


国民生活に貢献する放射線利用

1.基本的考え方

(略)

2.国民生活への貢献

今後、少子化高齢化が進む我が国において、放射線利用による効率的で負担の少ない医療の重要性が高まると予想される。また、世界的な人口増加に対応して、食料増産や食品保存のため放射線利用の必要性が高まると考えられる。さらに、社会のニーズにこたえる新素材や新しい製造プロセスの開発、利用等、産業の様々な場面で放射線利用の拡大が期待される。

医療分野では、粒子線を含む放射線を用いた診断、治療の高度化を進めるとともに、診断、治療における健常組織への被ばく線量の低減化、新しい医療用線源や放射性薬剤の開発による診療適用範囲の拡充等の研究開発を産学官が協力して進めることが重要である。

食品分野においては、食品照射は、衛生的な食品を安定に供給し、腐敗による食料の損失を防ぐ殺菌技術の有力な選択肢の一つである。衛生的な食生活を求める社会のニーズに沿って食品照射の実用化を図るに際しては、国は、消費者による自由な選択を尊重し、食品照射と他の手法とを比較し、必要性や安全性についての分かりやすい情報提供を行うことが必要である。また、照射食品の健全性や検知技術の研究等を引き続き推進することが必要である。

農業、工業、環境保全への利用においては、食料の安定供給や環境保全に役立つ植物の放射線育種、先端的な新素材及び資源確保に役立つ新材料の創製、排煙・排水中の有害物質を除去する環境保全技術の開発等を進めることが重要である。

(略)

3.放射線の生体影響と放射線防護

低線量放射線の人体影響については、疫学研究、動物実験、細胞・遺伝子レベルの研究、解析等、様々な研究手法を用いて、より広い視野の下で関連機関の連携を図りつつ、基礎的な研究を総合的に推進することが必要である。また、高線量被ばくについては治療を中心に研究を推進する必要がある。

さらに、これらの研究の成果を、放射線の健康リスクの評価、合理的な防護基準の設定などに取り入れていくことが期待される。

(略)

4.放射線利用環境の整備

(略)


原子力の研究、開発及び利用の推進基盤

1.人材確保

原子力の研究と着実な開発を支えていく優秀な人材の育成・確保は重要な課題である。しかしながら、我が国の原子力産業は、成熟期に入りつつあり、研究者、技術者及び技能者の人員数並びに原子力関連の研究関係支出高は近年減少しており、設計や物作りに関する分野において、今後、技術力・人材を従来通りの規模で維持することは困難になりつつある。

このため、人材養成の中核的機関である大学は、国際的視点も含めながら、研究開発機関、民間事業者等の関係諸機関と連携しつつ、多様かつ有能な人材の養成に取り組むことが必要である。

原子力産業の技術力や人材の維持・継承、発展は、物作りを継続していくことによって効果的に達成される。このため、原子力産業界においては、技術力及び製造力の維持・継承、発展を図るため、常に最新の技術を取り込むなどの努力を継続すると同時に、企業内での教育訓練等を充実させ、それまでに蓄積された技術を企業内において発展させ、将来世代へ着実に継承する努力を行うことが期待される。

(略)

2.原子力供給産業の競争力の向上と国際展開

我が国では、新規発電所建設の停滞に伴い電気事業者の設備投資が急激に減少していることなどにより、原子力供給事業の原子力関係売上高は近年減少傾向となっている。一方、海外からの国内電気事業者への納入実績は経済のグローバル化に伴う国際調達の活発化等により増加している。我が国の原子力供給産業は、このような市場構造の変化への対応、経営の効率化を一層進めるとともに総合的な戦略の立案が迫られている。我が国の原子力供給産業においては、国内活動のみならず、国際入札や製造拠点の国際化、さらには国境を越えた企業経営等も視野に入れた国際展開、事業の再構築、業界の再編成等を見据えて、企業の技術力や経営資源を十分に活用しつつ経営体質の強化を図り、経営の効率化や国際的なコスト競争力と技術力を維持していくことが期待される。

近年のアジアを中心とする国際社会における原子力の環境変化を踏まえ、我が国の原子力供給産業が、アジア諸国からの引き合いに応じて、機器供給を中心とした国際展開を積極的に図ることが期待される。将来、我が国の高い安全性を持つ軽水炉技術を輸出するに当たっては、世界のエネルギーの安定供給や環境問題の解決に寄与する視点に立って、単に軽水炉プラント機器の供給だけではなく、我が国で培われた安全思想とセットで国際展開することで、国際社会への責任ある貢献を果たすよう配慮することが重要である。

(略)

国は、こうした民間活動の国際展開の進展に合わせ、2国間協力協定等による資機材移転のための枠組み作り、相手国における法整備の支援、技術協力等の環境整備を行っていくことが必要である。


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