[原子力産業新聞] 2000年9月28日 第2056号 <2面> |
[特集] JCO事故から1年−「降った雨で地を固めよう」JCO の臨界事故から早くも1年が経つ。 放射線による2名の作業者の死亡、周辺住民の被ばくと避難、風評による農業等地域産業への影響などわが国の原子力平和利用始まって以来の重大な事故であり、原子力の安全に大きな不信をもたらし、今に至るもこれが払拭されたとは書い難い状況にある。 原子力の安全は「深層防護思想」から始まった。これは基本的には「事故を起こさない」ことと「事故は起こりうる」ことと相矛盾したことを包括・止揚して築き上げられた高度な安全体系である。「事故を起こさない」という言葉のなかにすでに「事故は起こりうる」概念を内包している。したがって周辺社会を含む原子力安全には、事故防止対策とともに影響を緩和する防災対策とを同時にかつ相応の重みを持って行うべきものであった。原子力発電所に比べて核燃料加工施設ではこの点にいささかの抜けがあったといわざるを得ない。 79年の米国スリーマイル島事故は、「技術」が発信する情報を「人間」が適切に受け止められずまた「人間」が「技術」に的確に介入できなかったことから「技術と人間の関わリ合い」の問題が改めて注目され「マンマシン」問題、「ヒューマンインターフェース」問題として多くの教訓を得た。また周辺地域社会への情報伝達や避難指示が適切を欠き、初めての原子力事故での避難事例になったことから「技術と社会との関わり合い」の問題も浮上した。86年の旧ソ連チュルノブイル事故では、旧ソ連体制下での特異な原子力開発ということもあって「原子力安全文化」の重要性が注目された。「人間」がどのような心を持って「技術」に対するべきか、いわば「技術」と「人間の心」との関わり合い方について教訓を得たといってよい。また「人間」の関与に仕方によっては設計基本事故を超える事故にも至ることが明らかになったことも重要な教訓であった。 原子力発電分野ではこのように過去の不幸な事故から多くの貴重な教訓を得て「深層防護思想」を高度化してきた。にもかかわらず核燃料加工分野とはいえ同じ原子力分野でこれらの教訓が水平展開され共有されなかったことは極めて遺憾であった。 原子力産業会議では事故直後に緊急常任委員会を開催して「民間原子力関係着の自己改革に向けて」をまとめ5項目の対応策を提言した。 安全を最大の価値とする経営方針の徹底、企業内への安全文化の浸透、監査などチェック機能の充実、に加え原子力に携わる技術者の職業倫理と原子力関連企業における経営倫理の一層の向上と民間原子力関係者間の更なる相互交流・経験や教訓の共有についてである。電気事業者はこれを受けた形ですみやかに「ニュークリアセーフティネットワーク ( NS ネット)」を発足させて発注者・受注者を包括した安全文化の共有等に向けて「日本版 WANO 」とも言うべき活動を開始し、また核燃料加工メーカーは海外メーカーをも含めて「世界核燃料安全ネットワーク (INSAF) 」を結成して安全に関する情報の相互交換などにのりだして活発に活動していることは周知のとおりである。 今世紀半ばにスタートした原子力平和利用は半世紀を経た今日、言うならばウラン235 の活用を主とした第1段階 (軽水炉時代) の一応の成熟期に達した。しかし地球はウラン資源に大きな潜在価値を付与してくれている。そのひとつが第2段階としてのウラン238 の利用であり、プルサーマル、高速炉での利用へと発展しうるもので言うならばウラン資源のより高度な利用である。21世紀の地球の人口や世界各地の経済発展と、それらと分かちがたく結びつく地球規模の環境問題の行方を思うとき、天然資源採掘の極小化・資源利用後の廃棄物の抑制を主目的とする循環型社会の構築においてこのような可能性をもつ原子力は、地球と生物の共存のセキュリティのためのひとつの、かつ重要な選択肢であることは論を待たない。 一方、電力市場自由化が進む中で電気も一般の商品と同じようになり (コモディティー化) 長期の供給セキュリティも市場に委ねればよいという論がある。しかし長期のセキュリティとは、要するに後世代に発生するかもしれないリスクを現世代が先取りして対応しておくこと、といえる。例えば資源枯渇のリスクに対しては「資源セキュリティ」、環境悪化のリスクに対しては「環境セキュリティ」、技術や人材の空洞化のリスクに対しては「技術セキュリティ」・「ヒューマンセキュリティ」(適切な言葉かどうかわからないが) 確保が必要であり、責任ある担い手による原子力の戦略的・計画的な絶えざる開発・利用は世代を超えてこれらセキュリティの確保への大きな柱のひとつになろう。そこにおいて大前提は原子力当事者の「安全文化」の土壌でおり、その底には技術者・技能者の高い職業倫理と事業における経営倫理が厳然として存在することを、ジェーシーオー事故のみならず最近の技術系企業の不祥事に鑑みて改めて肝に銘じたい。 [宅間正夫] (4、5 面に関連記事)
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