[原子力産業新聞] 2000年10月19日 第2059号 <6面>

[NEI-insight] 競争力の強化を目指す

コスト削減への取組み

発電コストの点でみれば、現在、原子力発電は石炭火力に迫りつつあり、天然ガス火力や石油火力といった他の化石燃料電源をはるかに凌駕している。

現時点で利用可能な最新のデータがある1998年についていえば、原子力発電の平均発電コストは2.13セント/kW 時で、石炭火力が平均2.07セント/kW 時。一方、天然ガス火力と石油火力はそれぞれ3.30セント/kW 時、3.24セント/kW 時となっている。さらに現在、原子力発電所は、(将来の電源オプションの選択にあたり) 天然ガス火力発電所や石炭火力発電所の新設に対して、強烈な一撃を与えることができるのだ。最近、20年間の運転期間延長のため、カルバートクリフス原子力発電所の運転認可更新をしたコンステレーション・エナジー社は、運転認可更新にあたり (他電源の新規建設など) 代替オプションも検討した。その結果、同社は、カルバートクリフス発電所の運転認可を更新することで、1kW あたりわずか11ドルの設備投資で20年間にわたり170万kW の電源を手に入れることができるとの結論に達した。なお、米エネルギー省のエネルギー情報局によれば、出力40万kW の複合サイクル・ガス火力発電所の新規建設コストは1kW あたり約580ドルであり、同じく出力40万kW の石炭火力発電所の建設コストは約1,100ドルである。

しかし、新規原子力発電所の発電コストについては、どのようにすれば他の化石燃料電源−特に天然ガス火力−と競争力を持てるようになるのだろうか?

米国で設計認承を獲得している三つの新型炉設計−ゼネラル・エレクトリック社の改良型沸騰水型炉、ウエスチングハウス (WH) 社の AP600 および (ABBコンパッション・エンジニアリング社の) システム80+ は、安全性を高め、設計を単純化することを目的に開発された。最新の技術を集約することで、これらの新型炉はより簡単に運転でき、建設期間も短縮できるとみられている。AP600 の受動型設計は、対流や重力といった自然の力に依存しており、新型の自動安全特性が組み込まれている。バルブやパイプ、ポンプおよび制御ケーブルの数を減らすことで、同炉の建設期間と建設コストは削減されるとみられるが、(他電源と競争するのに) 十分なコスト削減が可能かどうかは未知数である。

「他電源なみの発電コストでは不十分だ」とウエスチングハウス社のジョージ・デイビス・政府プログラム部長は語る。将来の競争下にある電力市場では、競合電源の発電コストにより電気料金が決まるのだ。「我々は新規原発の資本費削減に取り組む必要がある」と彼は述べている。

この課題に取り組むべく、三つの企業、二つの国立研究機関および三つの大学で構成される研究チームは、3テーマの研究開発計画をスタートさせた。このチームの構成機関は、WH 社、デューク・エンジニアリング&サービシーズ社、イーガン&アソシエーツ社、サンディア国立研究所、アイダホ国立工学・環境研究所、マサチューセッッ工科大学、ノースカロライナ州立大学およびペンシルバニア州立大学である。同チームは、米エネルギー省の「原子力発電研究イニシアチブ」による支援を受けて、次のテーマについて研究している。

▽新型炉設計をより単純化するためのリスク・インフォームドの安全原則の適用

▽原子力発電所の機器を効率化するためのコンピュータ・ソフトの開発

▽他産業から適用可能な先端的プロセス・技術−特にコンピュータ技術

これらの調査デューク・エンジニアリング&サービシーズ社のマイク・オコネル氏は、他産業における改替策に関する調査を行っている。同チームは、プロジェクトに対する支出規模と所要期間が原子力発電所と酷似していることから、キャタピラー社のような資本集約産業を選択したと彼は述べている。「キャタピラー社は、新商品の市場投入に要する期間を78か月から39か月に短縮し、現在では24か月をめざしている。こうしたノウハウは新規原発の工期を短縮し、建設コストを低減するのに役立つ」と彼は述べた。

同チームは、これら三つの研究開発プロジェクトが完了する2001年時点で、三つの「バーチャル・モデル」が構築されることを期待している−一つは原発の物理的な設計に関するもの、一つは建設スケジュールに関する物、そしてもう一つは発電所を完成させるのに必要な活動のサイクルに関するものである。「(このモデルにより) バーチャル発電所とバーチャル建設スケジュールを得ることができ、我々が特定した戦略を『代入』することができる。その結累をみれば、現実に目標が達成できるかどうかが分かる」とオコネル氏は語っている。

この目標とは、規制緩和された電力市場において (新規建設された原子力発電所が) 経済性を有するということだとウエスチングハウス社のデイビス氏は述べた。

「これら三つのモデルをリスク重視の規制手続きおよび機器の効率化と縛み合わせることで、原子力産業界は将来も原子力発電の役割を拡大することができるように原子力発電所の単純化設計を行うことが可能となるのだ」と彼は語っている。


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