[原子力産業新聞] 2000年10月19日 第2059号 <6面>

[NEI-insight] 原子力維持の意義指摘

クリーン&高い信頼性

「信頼性の高い電力供給と温室効果ガス排出量削減のために、世界各国の政策決定者が原子力発電の果たす役割について検討する必要性が高まっている」と、今年になって取りまとめられた三つの報告書は旨摘している。

原子力の再考

「人類は、地球規模での気候変動問題という大きな問題に直面している」とオランダの物理学書であるボブ・バンダーツバーン氏は述べている。この問題に取り組むため、「われわれは原子力を含めた新たなエネルギー源について考えなくてはならない」とスタンフォード大学の国際安全保障・協力センターの客員科学特別研究員 (フェロー) として招かれた同氏は述べている。

同じく科学特別研究員であるウィリアム・セイラー氏も、「原子力発電は気候変動を抑制する上で大きな役割を果たしている」と5月19日付けの「サイエンス誌」で指摘している。2人は2050年まで炭酸ガス排出量が現状レベルから上昇しないシナリオを選択。彼らは、世界全体のエネルギーの3分の1を化石燃料でまかない、同じく3分の1を再生可能エネルギー、残る3分の1を原子力でまかなうというシナリオを描いている。

「これを実現するには、原子力発電は欠かせない。公衆もこれを支持するだろう」と著者は述べている。しかし、当然のことながら安全性や経済性および核不拡散などの問題に取り組まなくてはならない。

「原子力も含めて『万能藥』は存在しない」とバンダーツバーン氏は語る。しかし、彼は地球温暖化問題の解決策の一つとして原子力が再考されるに違いないと確信している。

2020年へのエネルギー・オプション

世界エネルギー会議は、「現在から2020年にかけて、エネルギー利用とエネルギー確保における目標を達成する上で原子力発電は大きな役割を演じる」と予測している。

今年初めに発表された「2000年声明」の中で、世界エネルギー会議は各国に対して、原子力発電オプションも含めたあらゆるエネルギー・オプションを維持していくよう求めた。「原子力発電はほとんどの加盟メンバーにとって、根本的に重要な要素である」と同会議は述べている。原子力発電は、「大量かつ偏在の少ない資源」で、温室効果ガスを排出せず、さらに「経済性も優れているか、悪くても『多少、高コスト』に過ぎない」といったエネルギーは原子力しかない。「事実、気候変動問題が深刻化すれば、ベースロード電源として石炭火力を代替できる唯一の電源なのである」と同会議は述べている。

化石燃料と水力発電だけでは、成長を続ける世界の電力需要に対処していくことはできない、と同会議は指摘する。「したがって、将来、原子力発電を拡大する必要が生じた時のため、原子力発電のエネルギー供給における役割を一定規模に維持する必要がある。これと並行して、固有安全性を持ち、低コストの原子力技術の開発も促進する必要がある」

内在するジレンマ

原子力に対する依存度の高まりは、「扱いにくい」二律背反を含んでいる、と英国の環境・エネルギー・コンサルティング会社は指摘している。「原子力発電は炭酸ガス排出量を著しく削減できるが、同時に廃棄物発生に伴うコストが増大する」

それにも関わらず、欧州連合 (EU) と原子力発電所を運転する8か国の EU 加盟国は、総発電設備容量全体に占める原子力発電のシェアを23%に保つことなしに炭酸ガス排出を抑制することがかなり困難であることが判明するだろう、と ERM エナジー社は述べている。EU の欧州委員会による委託調査の中で、ERM エナジー社は、炭酸ガス排出と EU および EU 加盟国における二つの原子力発電開発シナリオに基づく廃棄物発生を比較するため、いわゆる「二律背反シナリオ」を用いた。それによると、「現状維持シナリオ」では炭酸ガス排出量は、2010年には1990年レベルから4%増加し、2025年には22%増に達する。また、原子力発電所の早期閉鎖を想定した「低原子力発電シナリオ」では、炭酸ガス排出口は2010年には1990年レベルから21%増加し、2025年には40%増に達する。一方、原子力発電所の増設を想定した「高原子力発電シナリオ」では、炭酸ガス排出量は2010年時点でも1990年レベルとほぼ同じで、2025年には1990年レベルから4%減となる。

「EUでは、炭酸ガス排出量全体の30%を発電部門が占めており、京都議定書で炭酸ガス排出量の抑制が合意されていることを考えれば、今こそ、将来の原子力発電の役割が再評価されなくてはならない」と ERM エナジー社のピーター・ウォーダー上級コンサルタントは語った。


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