[原子力産業新聞] 2000年10月26日 第2060号 <3面> |
[OECD/NEA] 自由化市場の影響を分析原子力、十分競合可能経済協力開発機構/原子力機関 (0ECD/NEA) は先月下句、電力市場の自由化が既存の原子力発電所および潜在的な新規の発電所に与える影響について分析した報告書を公表し、「見通しは概ね明るい」との結論を明らかにした。 「競争電力市場における原子力」と題したこの報告書は、規制緩和されていく市場で原子力産業界が効果的に対処していくための方策や勧告をまとめたものではなく、原子力を利用する各国の政策立案担当者や原子力事業者が特有の事情の下で競争市場の潜在的な影響を特定し、将来戦略を策定する上での一助となることを狙っている。まず始めに電力市場自由化の現状を概観し、電力供給の民営化に関係する側面を簡潔にまとめているほか、原子力発電が係わる一般的、または特定の問題についての分析を加えたものになっている。同報告書の主なポイントは以下の通り。 既存原子力発電所への影響競争が発電所の人員削減など所内の効率化や設備利用率、稼働率の改善につながるとすれぱ、電力市場の自由化が既存発電所に与える影響も概ね好ましいものになると予想される。その根拠はすでにいくつかの OECD 加盟国の中で見受けられており、近年の発電コストや性能の向上傾向から見ても、既存炉の数多くが自由化市場でも十分競合していけると考えられる。 既存炉の競争市場での経費を決定付けるのは修理および改造費などを含めた運転&保守費 (O&M) など最低限の操業コスト。投資コストも事業者やその株主にとって重要だが、それらはすでに支払い済みであり、原子炉の操業継続という経済的な判断を下す上での隠れたコストとなっている。 市場での競争はまた、新規に発電所を建設するより経費が掛からないという理由で既存炉の運転寿命を延長する機会を増やすことになる。実際、多くの国で原子力設備の改造が一般化しつつあり、低い投資コストで利用率の増大が見込めることになる。 債務および責任保険への影響競争市場下ではすべての債務の明確な特定と数量化が必要となるが、現時点では債務や責任保険計画の変更は難しい。廃止措置および廃棄物管理に係わる財政的なリスクは一番の不安材料で、これらのための基金に不足が生じることになれば、電気料金に上乗せするか事業者自身が負担する、もしくは公的資金で補うことになるかもしれない。政府はこれらの分野を民営化するなどして、介入の度合いを狭めることが考えられる。 市場/産業構造への影響経済的なスケール・メリットやベース・ロード電力供給における競争力を増強するため、今後もさらに原子力発電会社間の合併・統合が進むと予想される。核燃料サイクル分野でもバックエンドやフロントエンドに限らず縦横の両系列で統合が加速するとともに、バックエンドでは事業の民営化が進展する。放射性廃棄物処分では、高いコストや立地難という問題を解決するため、国際的な共同計画で進めていくことに関心が集まっていくだろう。 電力会社はコスト削減のため研究開発投資を減らす傾向にあり、性能向上を目指した応用研究に焦点を絞りつつある。競争はコスト削減や発電所の効率および信頼性改善のためにあらゆる部門で技術革新に拍車をかけることになる。 新規発電所への影響/将来の原子力発電に影響を及ぼすその他のファクター新規の発電所に投資するかどうかは資本費と建設コストおよびその発電所によって期待される利益で概ね決まる。近年の競争環境下では新規原子力発電所の建設はガス火力と比べて経済的ではないとの見方があり、あまり有望視されていないが、実情は国ごとに様々に異なっている。原子力の安全規制はその発電コストに大きく跳ね返るので競争力にも影響する。これまでのところ競争市場における安全規制は限られたものになっているが、原子炉の安全で経済的な操業を将来も確保していくには電力会社と規制機関が共同責任で対処していかねばなるまい。 世論と政治的な戦略も新規原子力発電所の建設決定に大きく作用する。これらに共通する懸念は原子力の安全性と廃止措置および放射性廃棄物問題だが、一般市民の合意が得られないまま進めて行けば、将来の原子力の可能性を危険にさらすことにもなりかねない。 環境保全との関わりは多くの国の長期的なエネルギー・ミックスに影響を及ぼす。原子力は継続的な経済開発に寄与できる数少ない確証された発電技術として将来のエネルギー・ミックスの中で重要な役割を担っている。 電源によって付随するコストは燃料の輸入費や排ガスへの対処費だったりと様々だが、原子力の揚合、放射性廃棄物管理および廃止措置の費用はほとんどすでに発電コスト中に含まれている。長期的に見た原子力の競争力は、現在電力価絡に含まれていない他の電源の付随コストを考慮することによってさらに強化されるだろう。 |