[原子力産業新聞] 2000年10月26日 第2060号 <4面>

[解説] COP6を控えて

11月13目から24日まで、オランダのハーグで「気候変動枠組み条約第6回締約国会議 (COP6) 」が開催される。COP6 は COP3 で採択された京都議定書の発効に向けた極めて重要な会議と位置づけられる。今号では、COP6 会議の論点や、それをめぐる官民の取組みについて紹介する。


COP6 は、1997年の京都会議 (COP3) で定められた議定書の発効を目指し、「京都メカニズム」実施のルール作りや、遵守制度などの議定書の重要案件を決定するとともに、議定書を批准可能なものとすることが最大の目的である。さらに、開発途上国に関連する条約上の重要事項についても決定することになっている。大気中の温室効果ガス濃度を安定化させるという科学的方策をめぐる極めて重要な政治的交渉の場である。

今回の会議では、以下の主要な4点をめぐり激しい議論が繰り広げられるとになる。

(1) 京都メカニズム− COP3 で採択された考え方で、温室効果ガス削減クレジットを他の締約国から得ることが可能な3つのメカニズムを総称する。COP6 においてはこれらの実施ルールの策定が主要論点となる。

▽排出権取引−先進国に割り当て量の一部を売買できる制度

▽「クリーン開発メカニズム (CDM)」−ある先進国が途上国で温室効果ガス削減事業を実施し、それにより生じた削減分の一部を、事業を行った先進国の排出割当量に加えることができる制度 (その対象に原子力を含めるかどうかがひとつの焦点となる)

▽共同実施−ある先進国Aが別の先進国B内で共同で温室効果ガス削減事業を行い、それにより生じた削減分をBの排出割当量からAの割当量に移転することができる制度

(2) 遵守制度−締約国が議定書の義務を遵守しなかった場合の扱い。数量目標を達成できなかった国への措置など

(3) 吸収源 (シンク)

京都議定書で温室効果ガス削減の数量目的の対象となっている土地利用や森林等による CO2 吸収源の問題。定義、方法、規則等が議論の対象となる。

(4) 途上国問題

▽途上国への技術移転など

▽温暖化対策による原油売上の減少を補う補償金制度設置および一部先進国の石炭補助金の撤廃等 (いずれも産油国の要求)

▽地球温暖化の被害が深刻な小島嶼国・最貧国への温暖化適応措置等


難しい立場の日本−粘り強い交渉を期待

日本原子力産業会議は先月29日、関係省庁 (外務省、通産省、現境庁、科学技術庁)、電気事業連合会、経団連、電力会社、研究機関など関係機関の参加を得て、わが国の COP6 対応をめぐり意見交換を行った。

その席上政府側から、9月中旬にリヨンで開かれた気候変動枠組み条約第13回補助機関会合 (公式準備会合) での議論について紹介がなされた。それによると、準備会合ではほとんどの議題に関して交渉テキストが準備され論点が明確化したとともに、技術的論点について整理が進んだ点で交渉手続きに進展が見られたという。

その一方、京都メカニズムの使用に制限を設置するか、「シンク」の範囲や算定方法をどう定めるか、途上国への支援をどうするかなど、締約国間、特に日米露を中心とする非 EU (アンブレラ) グループ、EU、途上国グループとの間で意見が異なる議題は依然多いとして、「COP6 の閣僚レベルでの政治的議論の決着を念頭に、その前に開催される種々の事務レベル会合をとおして各議題の交渉を本格化させる必要がある」との認識も示された。

こうした事前の交渉の場において、わが国ほど政府部内の関係省庁が意見をすり合わせたうえで、京都議定書の数値目標達成に向けた取組みへの努力をみせている国はないという。

また、焦点のひとつである CDM の「ポジティブリスト」に何を効果的技術として認めるかの問題に対しても、積極的に「原子力を含めるべき」と主張しているのは唯一日本だけであろう。しばしば報道されるように、サウジアラビアなど産油国は原子力を CDM 技術に認めることに強い反対を示しており、島嶼国でさえも風評被害といった観光資源への影響を理由に原子力に対して厳しい意見を表明しているのが現状。こうした島嶼国の政府の態度には環境団体の行動が大きく影響していることも事実のようだ。

原産会議も、京都会議以降国内外関係者と協力して、COP の場で温暖化防止対策の有効な技術のひとつとして原子力発電が正当に評価されるよう積極的な働きかけを行ってきたが、山場となる COP6 を1か月半後に控えた9月末の会合では、交渉に臨む政府関係者に対しあらためて、粘り強い交渉と積極的な発言を要望した。


会期中、民間団体も活発な活動を展開

COP6 の機会をとらえ、会場周辺では様々な団体がそれぞれの立場から温暖化問題への主張を行う。わが国からも関係機関が活動を展開する予定にしている。ここでは、その活動計画を紹介する。

電気事業連合会では、11月14日午後にワークショップを開き、電気事業者が実施中の国際協力による CO2 排出削減プロジェクトの事例を紹介する。発表予定者は、電事連、米国エジソン電気協会、ユーロエレクトリックなど。そのほか、COP6 会場内に電事連ブースを設置し、パンフレット類の配布、ポスター展示、対話などを行うことで、原子力発電の推進や地球温暖化対策としての電力技術の有効性について幅広い広報活動を展開する予定。 東京電力と関西電力は E7 のメンバーとして、11月22日に「E7オープンフォーラム」を実施する。これには開発途上国の電力会社役員のほか、世界銀行、国連開発計画 (UNDP) 、国連環境計画 (UNEP) といった主要国際機関の首脳を招いて意見交換の場を設ける。「気候変動における電力産業の協力」がテーマ。エネルギー分野での柔軟性措置の実行可能性を議論するほか、先進国の電力会社が実施する共同実施プロジェクトや CDM プロジェクトの実施状況を検討する。

日本原子力産業会議は、原子力関係団体6機関 (欧州原子力産業会議連合、欧州原子力学会、米原子力エネルギー協会、ウラン協会、カナダ原子力協会、韓国原子力産業会議) と共同で国際原子力フォーラム (INF) を構成し、毎年 COP 会議開催にあわせ原子力関係者の温暖化問題に対する見解を広く伝えるための活動を実施している。

INF は、9月の準備会合で、COP6 に向け一層積極的に取り組んでいく方針を固め、具体的に次のような活動の実施を決めた。

(1) 期間中レセプションを開催し、放射性廃棄物管理に関する講演と廃棄物処分についてスライド映像で紹介する

(2) 廃棄物固化体や原子炉のモデル展示

(3) 共同政策提言文を作成する

(4) 公開書簡を作成し、各国代表団に提出する

さらに、欧州原子力学会に所属する「ヤングジェネレーション・ネットワーク (YGN)」も、COP6 に合わせ独自の企画により原子力の利点についての啓発活動を実施。ワークショップを主催し廃棄物問題を議論するほか、オランダ国内にあるボルセラ原子力発電所と風力発電所へのツアーを実施するという。


関係者の見方

COP6 の行方をめぐってエネルギー関係シンクタンクの専門家は、「COP6 の場は、米国と EU のパワーゲーム的な要素がある。CDM やシンクに対しては双方の主張が対立している一方、罰則規定等をめぐっては互いの態度が似通りつつあり、日本の立場が彼らから離れるような傾向で、複雑な様相を呈している。シンクの問題でも日本の主張が難しくなりつつある。欧米主導の政治交渉の結果、日本に向けられるものは資金力と技術供与への要請だけではないだろうか」という見方もあるとし、原子力発電についても、日本と並び積極的に推進しているフランスは現在 EU 議長国であり、積極的に原子力を主張しにくい状況にあるのでは、と語っている。

いずれにせよ、COP6 はリオデジャネイロ環境会議から10年目の2002年までに、京都議定書が発効するかの道筋をつけられるかどうかが最大の注目点だという。

また、東京電力で広報と環境問題を担当している枡本晃章常務取締役は次のように語っている。

まず、原子力に賛成する人にも反対する人にも、現実に原子力発電が CO2 の排出に大きく寄与していることを知ってもらう必要がある。英国の BP アモコ統計によると、1999年のエネルギー消費実績で、世界に425基ある原子力発電所が生産しているエネルギーは、石油換算で6億5100トンである。サウジアラビアが99年に生産した石油は4億1200トンであり、世界の原子力発電所全体でサウジ産石油の約1.4倍強に相当する計算。それほど現在原子力はエネルギー生産に貢献している。加えて、その分石油・石炭を使用しないで済むので CO2 排出削減に寄与しているという事実を知ってもらいたい。

電力中央研究所が今年初めにまとめた各電源ごとのライフサイクル・アナリシスに基づく CO2 排出量は、原子力はキロワット時あたり28グラムの CO2 排出量となっている。風力29.5グラム、太陽光53グラム、ガス複合サイクルは518.8グラム、石炭火力は975.2グラム。原子力は再処理や廃棄物処理処分まで含めた数値。これを見ても、原材料から廃棄物に至る全ライフサイクルで評価して原子力は CO2 排出量が少ないということだ。

さらに、 CO2 は産業革命以来人類が出してきた最大規模の廃棄物である。廃棄物の問題点は、「たれ流し」だ。その点、放射性廃棄物はどこでどの程度排出してきたかを把握できている。200年間で人類が廃棄しつづけてきた CO2 の問題を数年間の COP での議論で片づけてしまうということには無理がある。しかし、世界各国がまず自国でできる対策はしっかりやっていくという姿勢は守るべき。また、原子力発電を含め、選択肢を多様に持つことが重要。

COP の議論はたいへん政治的・社会的なものであり、純粋に科学的な議論だけで結論が出せる問題ではない点に留意しなければならない。慎重な発言や行動も求められるとはいえ、環境問題への原子力の貢献を、原子力に携わっている人々が訴えなければ、ほかに誰が言うだろうか。

原子力産業関係団体が原子力の貢献を訴えていくことは、極めて重要なことだと考える。


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