[原子力産業新聞] 2000年10月26日 第2060号 <6面>

[解説] 深地層の環境を解明する −サイクル機構、研究計画から

既報の通り、核燃料サイクル開発機構が北海道幌延町に申し入れを行っていた深地層研究所計画について、堀知事が受け入れを表明し、廃棄物処分技術の開発に欠かせない地下研究施設の立地が具体的な段階を迎えるにいたっている。今号では、サイクル機構の研究計画から、同研究施設が廃棄物処分技術研究に果たす役割を概観するとともに、同研究施設の構想を紹介する。

処分技術向上めざしカギにぎる地下研究施設

原子力発電所で使用した、いわゆる使用済み燃料をリサイクルするため、わが国では再処理を行うことが基本方針となっており、その際に生じる高レベル放射性廃棄物は、深い安定的な地下に施設を作って処分することが、同様にわが国の基本万針となっている。現在改定中の原子力開発利用長期計画案にもその方針が示されており、「今後とも深地層の研究施設、地層処分放射化学研究施設等を活用し、地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて研究開発を着実に推進することが必要」とされている。また「深地層の研究施設は、学術的研究の場であるとともに、国民の地層処分に関する研究開発の理解を深める場としての意義を有し、その計画は、処分施設の計画と明確に区分して進めることか必要である」と位置づけられている。

深地層研究の目的は、地層処分の技術的な信頼性や技術的拠り所を実際の深地層での試験研究を通じて確認することにある。

深地層研究で得られる成果は、岐阜県の東濃地科学センターでの地層科学研究の成果とともに、茨城県の東海事業所で実施している地層処分研究などの成果と合わせて、2000年以降に実施主体が行う処分地選定のための予備的調査やサイト特性調査、処分技術の実証、及びこれと並行して国が進める安全基準や指針の策定に反映される。

深地層研究所計画は、このような処分予定地の選定から安全審査に至るまでの処分事業の進展に対して、技術的な実証という観点からの役割を負っている。当面の目標は、処分候補地での予備的調査及び処分予定地でのサイト特性調査の開始に置かれ、それぞれに資するよう深地層研究を段階的に進められることになる。また、長期計画案では「処分に対する人々の信頼を得ていくためには、事業のすべての段階を通じて情報公開を徹底し事業の透明性の確保に努めることが重要である」とされており、この観点から深地層研究所の施設を、研究者に限らず一般の人々が実際に深地層の環境を体験し、また、研究者との直接的な対話を通じて深地層への理解を深める場としての機能を持たせる計画にしている。


廃棄物処分技術、2020年目途に実用レベルに仕上げ

深地層研究所の施設には放射性廃棄物を持ち込まず、深地層研究所計画では放射性同位体を用いたトレーサー試験は行わない。

OECD/NEA が1991年にまとめた国際的なリポートで「地層処分システムが及ぼす長期間にわたる人間環境への影響については、適切なモデルとデータの組合せによる現在の安全評価手法を用いて評価できる」という集約意見が得られ、ガラス固化体を用いた直接的な試験を行わなくても、モデルとデータに基づく解析方法の合理性が指摘されていることが、その根拠になっている。また、トレーサー試験については、分析技術の向上により、地下水や岩石中の極微量の元素濃度分析ができるようになってきており、放射性同位体を用いなくても試験が可能という。

深地層研究所は、地下の施設と、地上の施設からなる。地下の施設は、軟岩における坑道の掘削、支保等の土木工学的観点から、500メートル以深を目途に展開する試験坑道を主とし、これと地表を結ぶ連絡 (アクセス) 坑道、通気立坑等の建設を進めることを考えている。

地上の研究施設としては、地下深部の雰囲気を維持したままでの試験が可能な室内試験設備を含む研究施設、機器整備施設、岩芯 (岩石サンプル) 倉庫、坑口建屋及び研究管理棟や展示館等の付帯施設の建設を進める考え。

地質環境条件の調査技術の基盤ともなるのが地層科学研究。深地層研究所で実施される研究の柱の一つだ。幌延町の場合、研究の対象となる地層が比較的軟らかい砂岩や泥岩等の堆積岩であること、地下水に関しては、深部には塩水が、浅部〜表層には淡水が存在すること、そして、淡水と海水との境界部に近いことなどの特徴がある。深部地質環境特性に関する研究として、このような特徴を持った地層の力学的な特性や熱の影響をみる熱的特性、塩水と淡水の塩淡境界に着目した地下水の流動・水質及び物質移動、さらに坑道掘削による影響を明らかにしていくことが主要な研究課題になるという。

また、地表から地下深部の地震動挙動、及び地震に起因する地下水の流動や水質の変化に関する研究を行うことにしている。

さらに調査技術開発と関連機器の開発として、これらの研究に必要となる軟岩及び塩水に適した物理探査手法やボーリング掘削技術、地下水調査技術などの調査技術・機器等を開発、整備する。

今後、サイクル機構では、岐阜県の東濃地科学センターにおける地層科学研究や茨城県の東海事業所で実施している地層処分研究開発あるいは国際共同研究等の成果を結集し、2000年以降の処分事業の展開に向けて必要となる処分地の選定、処分技術の実証、安全基準の策定にあたっての技術基盤を固める考えだ。さらに2020年頃までには、処分技術の実証のべースとなる技術を提供していく方針だ。


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