[教育] 次世代層向けカリキュラムを開発
原子力安全シス研の取り組みから
原子力安全システム研究所の社会システム研究所は、エネルギー・原子力に関する次世代層の教育プログラムを開発している。内外の教科書 (社会、理科など) の分析や、海外の教育事情を視察するなどの調査を実施。理科、社会、家庭科などの内容を統合した教科横断的なクロスカリキュラムを実際の授業実践を通じて開発してきた。今・来年度で新学習指導要領に対応した体系的な学習モデルの実証を学校単位での授業実践を通じて行い、生徒たちが主体的に取り組める学習プログラムを開発し、地域や企業とも連携した学習のあり方を提案していく方針だ。今号でその取り組みを紹介する。
主体的な学習に重点
エネルギー・環境問題は、人類の生存にかかわる問題として世界的にも認識が高まる中で、教育現場でも、従来の知識詰め込み式教育のあり方を見直して、こうした問題に対応した新たな学習方法が模索されている。現在の教育現場でもすでに、各教科の関連を図った学習を展開することは可能で、「ディベート」を取りいれたり、統合的時間の活用を図るなどが試みられている。中学校などでは、環境問題についての課題を総合的に学習するクロスカリキュラムによる学習も行われはじめている。欧州では「エネルギーと環境」問題を教育改革の柱として、早くから、総合的な学習が進められている。
「21世紀を展望した我が国の教育のあり方について」の第15期中央教育審議会 (中教審) 第一次答申 (1996年7月19日) の提案には教科、領域の仕切りにこだわらず「横断的・総合的な」学習に取り組む授業時間で、「国際理解教育、情報教育、環境教育」などが例示されている。
原子力安全システム研究所では、こうした総合学習への流れをとらえ、クロスカリキュラムによる学習モデルを開発してきた。そのねらいは初等・中等教育 (小学校から中学校) におけるエネルギー教育の重要性を踏まえて、そのあり方について実践的研究を通して的確な方策を示し、教育改革の方向性を具体的に示唆するとともに、それらを通じて21世紀に生きる地球市民を育成する人間教育に資すること。開発にあたっては佐島群巳・東京学芸大学名誉教授を研究代表として、東京およびその近郊の小中学校の教職員とのワークショップ研究を行ってきた。
開発の第一期では、1994年度から97年度には「試作段階」として、現行の学習指導要領に対応した学習モデルを試作した。理科、社会、家庭科などの内容を統合した教科横断的なクロスカリキュラム学習モデルを作成するのが目的で、児童・生徒の意識調査、国内外の教科書調査、海外調査をもとに教材開発を行った。
児童・生徒への意識調査については国内の小中学校48校 (57学級、1,765名) に対して、エネルギーや原子力などに関するイメージや知識、体験などについてのアンケート調査を実施した。その結果、学年が進んでも「資源・エネルギー・環境」に対するイメージが広がらないという傾向が明らかになった。また原子力発電は「放射能」「危ない」のイメージが固定化している一方で、「石油は地下にある」「中東諸国から輸入」などは7割の生徒が認識していた、「原子力発電」は「原子燃料」や「事故の危険性」などに偏り、発電割合などの基本的な知識が不足している−といった状況が明らかになった。
この他、国内外の教科書の分析では、小学校について、社会科目の教科書に「資源・エネルギー・環境」に関する総合的な認識を形成するような記述はない、理科に関しても「エネルギー」の記述が断片的などの状況がみられた。中学校についても、社会科で「エネルギー」に関する記述が少ない、理科でも内容が総花的であるなどの実状がわかった。高校の現代社会の教科書では新エネルギーや原子力の記述が少なく内容に偏りがみとめられ、専門用語が多く難解との傾向がわかった。一方、海外の事例を調べたところ、フランスでは調査、研究、実験など体険学習を重視している、英国、ドイツでは視覚的特徴を重視して理解を深めさせる工夫か見受けられた、スウェーデンでは専門的な内容を含め総合的な認識形成に有効な内容がみられたなどの良好な事例がみられたという。こうした事例調査を踏まえて、英国、ドイツ、フランスの現状を実際に視察して、授業構成と具体的な取り組みに関して参考事例を調査、英国では環境教育に積極的な取り組みを行っている状況を、またフランスでは企業との連携が密接などの状況を持ち帰った。
実践意欲ひきだす
こうした研究調査をもとに1998年度から99年度に「原型段階」として、2002年からの新学習指導要領に対応した学習モデルの開発を行った。総合的な学習の時間に、子供が主体的に取り組める学習モデルを開発。幼稚園から高校まで9つの学習モデルを開発した。例えば、小学校高学年用としては、エネルギー全般および日本の電力事情についての学習を行うカリキュラム「電気エネルギーにチャレンジ」を作成。実際に手回し発電器を作成する体験学習や今後の発電方法の話し合い、家庭内でのエネルギー節約行動の実施といったプログラムを実際の授業で実践した。実践学習の進捗段階に応じて、児童に各自の意見を集約するワークシートの作成をさせたり、教師が実際の授業を通じて児童の反応・態度、授業の雰囲気を観察するなどして、カリキュラムの評価を行った。その結果、体験活動を多く取り入れたことで、エネルギーをより実感でき、自身の生活に身近なエネルギーとして電気を再認識するといった効果が認められたという。
また中学むけのカリキュラムとして資源・エネルギー・環境について社会や理科的な視点を踏まえて学習する「現代社会の血液」を用恵、実践学習を行った。これはグループ単位で調査・討議して発表するスタイルをとり、環境調和型社会の模型やイラストの作成を行わせた。同様にワークシート、教師の観察を通じて評価したところ、生徒たちの描いた未来都市には「エネルギーの効率利用」「環境との調査」が基本認識として盛り込まれ、丁度実践学習の間に発生した JCO 事故に対しても活発な調査、冷静な分析活動がみられたという。
現在、実証段階としての第三期に入っており、これまでの研究成果をもとに、幼・小・中・高と一貫した観点から、よりブラッシュアップした総合的な学習のカリキュラムを開発し、特定の研究校による学校単位での授業実践を実施するなど実証的な検証を行っている。国内外ほかの事例収集、分析により「学校と教育課程の関連」「教育とカリキュラムとの関連」を明確にする。
環境教育の先進国である米国の視察を通じて、カリキュラムの実態、地域社会との連携、および学習の評価方法などについて調査し、その結果を学習モデルに反映させる考えだ。
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