[高レベル廃棄物] 地層処分−その技術と信頼 (1)
さる10月18日、「原子力発電環境整備機構」が発足し、いよいよ長年の懸案だった高レベル放射性廃棄物処分の実現に向けた事業がスタートした。計画では2030年代から40年代半ばまでに実際に地層処分を開始することになっている。ところでこの地層処分については、「日本列島は火山国で、いつどこで火山噴火や大地震が起こるか分からない。これから何万年にもわたって自然災害が起こらないという予測は不可能だ」として処分は不可能だという声も根強い。では、いったい火山や大地震による影響を受けない場所が日本にあるのか、あるいは地下深くに置かれたガラス固化体から放射性核種が溶け出して人間環境に悪い害を及ぼすことはないのか。これらに科学的に答えていくことは国内で地層処分を行なうためには避けて通れない大きな課題である。この課題に答えるべく長年研究開発に取り組んできた核燃料サイクル開発機構は昨年11月、これまでの研究開発の集大成ともいうべき報告書をまとめた。報告書はこれから地層処分を行なう上で「技術的な拠り所」となるもので、別称「2000年レポート」と呼ばれている。「処分に適した地層はあるのか」「処分を行なえる技術はあるのか」「処分は安全に行なえるのか」−。本紙では、「2000年レポート」では何を研究し、何が分かったのか。そのポイントとなる報告を中心に4回シリーズで紹介する。(本稿はサイクル機構の協力を得て概要紹介したものです)
はじめに
高レベル放射性廃棄物は原子力を利用してエネルギーを得ることにより必然的に発生する。わが国では、原子力発電に使用した使用済燃料を再処理し、再ひ燃料として利用できるウランやプルトニウムを回収したあとに残る廃液を安定な形態に固化した「ガラス固化体」を処分することとしている。
高レベル放射性廃棄物は、放射能が高く、放射能による潜在的な危険性が数万年という長期間にわたる特徴をもっている。このため、その処分の対策にあたっては長期間にわたって安全性を確保することが必要である。現在、もっとも現実的で可能性の高い処分対策として考えられているのが、地下深部の地層中に処分する「地層処分」によって高レベル放射性廃棄物を人間の生活環境から安全に隔離する方法であり、わが国を含めて各国で検討が進められている。
地層処分の研究開発の目標
地層処分を安全に行うためには、まず、地層処分にとって適切な地層がわが国に存在することを明らかにし、適切な場所を選定する必要がある。そのうえで、選定した場所に人エバリアや処分施設を合理的に作り、十分信頼できる手法によって評価を行うことで、地層処分の安全性を確認することができる。
こうした観点から、地層処分の研究開発にあたっては、わが国における地層処分の技術的な信頼性を示すために、(1) わが国において安定な地質環境が存在すること (2) 現在あるいはその延長線上にある工学技術によって人エバリアの設計・施工や処分場の建設が可能であること (3) 地層処分によって長期的な安全性が確保されること−を示すことを目標とした。
「地質環境」の特性と役割
地層処分の長期的な安全性を確保するためには、処分場周辺の「地質環境」の長期安定性が重要である。岩盤やそこに含まれる地下水などから構成される地質環境には、(1) 人間の生活環境と廃棄物を物理的に隔離する (2) 人エバリアが十分な性能を発揮するため、地下水や岩盤の性質が安定した環境を維持する (3) 廃棄物に含まれる放射性核種が地質環境中に移行した場合に核種の移行を遅延、分散、希釈などによって妨げる−などの役割が期待される。
地質環境がこのような役割を果たすためには、まず「地層処分の場として確保した空間が、数干から数万年という長期にわたって十分に安定であること」(地質環境の長期安定性)、次いで「埋設した廃棄物を取り囲む人エバリアにとって、地下深部における岩盤の応力状態や透水性、および地下水の水質などの物理的・化学的性質 (地質環境特性) が適切であること」が求められる。
処分選定のポイント
地層処分が長期にわたって安全に行われるためには、地質環境が期待される環境条件や機能を長期にわたって維持することが必要である。そのためには、地質環境に変化を及ぼす可能性のある地震、断層活動や火山活動、隆起・侵食などの「天然現象」によって、処分場全体および周囲の岩盤の性能が著しく損なわれないように、あるいは断層や火山活動などの直撃がないような十分に安定な場所を選び、それぞれの現象において想定される岩盤の変形や水質の変化を見込んで、処分場の深度や人エバリアの材料の厚さを設定するなどの適切な工学的な対策を施すことが重要である。
地震・火山活動が比較的活発な日本
わが国は・安定大陸にある欧米諸国に比べて、地震・断層活動、火山活動や隆起・沈降・侵食などが比較的活発に起こる地域に属している。そこでこれらの天然現象について、地質の年代測定や地形の変化などの調査を行うことにより、その活動の履歴と、過去から現在までの活動の位置や影響範囲を調べた。
将来10万年の活動を予測的に評価
「地質環境の長期安定性」を検討するにあたっては、地質や地形などに残された断層や火山活動などの天然現象の活動の痕跡が、最近数十万年程度については比較的良好に保存されており、年代についての情報も豊富であることから、天然現象の過去数十万年程度の記録を踏まえ、将来10万年程度の活動について予測的な評価を行うこととした。
[断層、火山活動の調査]
その結果から、主な断層や火山の活動地域は過去数十万年程度にわたって限定されていることがわかった。わが国における活断層の分布は活断層マップとして概ね把握されており、火山活動については火山が噴火した際の噴出物の分布から活動地域が明らかとなっている。
また、断層活動によって岩盤が破砕されるなどの影響は、断層についての調査結果から、最大でも500m程度までであることがわかった。火山活動による地温の上昇や地下水の水質変化などの影響は、火山地域での調査結果や全国の地価の温度 (地温) の変化を示した「地温勾配図」などから、火山の噴出中心より数kmから20km程度までであることがわかった。これらのことは、断層や火山の活動の影響を避けて処分施設を作ることができることを示している。
[隆起・沈降・侵食の調査]
隆起・沈降・侵食についての調査・研究結果からは、過去数十万年程度にわたるこれらの現象の進行速度は、それぞれの地域でほぼ一定で、一部の山岳地域や半島先端部などを除く多くの地域で、10万年間に数十mから100mであることがわかった。こうした過去の変動量は、隆起・沈降については段丘面 (河川や海水の流れによって階段状に形成された地形) の高度変化などから、侵食についてはダムの堆砂量から段丘などの地形面を刻む谷の容積から推定された。
このことは、隆起・沈降・侵食については、そうした変動の激しい地域を避けたうえで、想定される変動量を考慮した十分な深度を設定するという処分施設の設計で対応可能であることを示している。
[気候変動の影響調査]
気候およびその変化にともなう海水面の変動 (気候・海水準変動) については、過去数十万年にわたって氷期と間氷期の周期が約10万年で繰り返されており、それにともなう気温の変化は10℃程度で、海面の変化は百数十mであることがわかった。気候・海水準変動は、海岸段丘の高度の変化や海底堆積物中に含まれる酸素の同位体比の変動などから解析されている。およそ2万年前には、海面が現在よりも120m程度低く、およそ6千年前には現在と同様あるいは5m程度高かったとされている。
このことは、その変動の速度や幅が推定できるため、それらの影響を考慮した処分施設の設計ができることを示している。
超長期的に見通し処分可能な所が存在
以上のことから、将来10万年程度にわたって断層や火山活動などの天然現象の直接的な影響を受けず、地質環境の長期安定性を確保できる場がわが国にも広く存在しているということである。
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