[原子力産業新聞] 2000年11月16日 第2063号 <4面>

[高レベル廃棄物] 地層処分−その技術と信頼 (2)

「地質環境」に求められること

地質環境には、高レベル放射性廃棄物を封じ込めたガラス固化体および周囲を取り囲む金属製の容器や粘土から構成される「人工バリア」が、腐食や地下水による溶解などによって廃棄物を閉じ込める機能を失わないような状態を保つとともに、地質環境そのものがバリアの機能を果たすことか求められる。

わが国において地層処分が実施できることを示すためには、処分場を設備する場である地質環境、すなわち地下深部の岩盤や地下水に関する情報が必要である。

わが国の地質環境の一般的な性質を明らかにするために、わが国の地質や土木分野の報告書などの文献データや、サイクル機構が岐阜県東濃地域および岩手県釜石鉱山 (98年終了) で行った調査・試験によって取得したデータの整理・解析を行った。

地下深部の地下水は動きが緩慢

岩盤中に含まれる地下水の動きは、主に (1)「動水勾配」と呼ばれる二地点間の水位 (水圧) の変化量 (例えば、同じ水系にある1メートル離れた二地点間の水位の差が10cmの場合、動水勾配は 10/100=0.1) と、(2) 岩盤の透水性 (水の通しやすさ) −に支配される。動水勾配は地形の起伏に影響を受け、地形が急峻な山地などでは大きな値となるが、地下深部では局所的な地形の影響が小さくなるため、地表付近に比べて動水勾配は小さくなる。

全国各地の井戸データから地表付近の動水勾配 (地下水面の勾配) の平均値を求めたところ、低地では0.008、山地では0.061という値が得られた。東濃地域での地下深部に掘削したボーリング孔を利用した調査・試験の結果から、動水勾配は「地下深部では地表付近に比べて約2分の1程度」となる実測結果が得られている。

また、透水性については、土木分野などの既存の調査データと、東濃地域および釜石鉱山での実測データとの比較・検討を行った。

その結果、岩盤の透水性は岩石の種類や場所によって異なるが、水を通しやすいと考えられる割れ目が集中した部分を除くと、地下深部の岩盤の平均的な透水性 (透水係数) の値は、おおむね1×10の−10乗〜1×10の−7乗m/秒にあることがわかった。例えば、透水係数が1×10の−10乗m/秒の岩盤中の動水勾配が0.01の場合、この岩盤中の地下水は1秒間に1×10の−12乗m、すなわち1年間に0.03mm移動することになる。

以上のように、既存の調査データや、地下に掘削したボーリング孔を利用した調査・試験結果などから、「地下深部の岩盤は水を通しにくく、地下水の動きは地表付近に比べて地下深部ほどゆっくりしたものである」ことがわかった。

地下深部は、ほぼ "還元状態"

地下水の水質は、その起源 (降水、海水など) と、接触する岩石との化学反応によって形成される。

東濃地域や釜石鉱山において地下深部の地下水を採取して調べた結果や、沿岸地域での研究事例から、地下深部では、土壌や岩石中に存在する鉱物との反応や微生物による有機物の分解などの影響により、酸素の少ない「還元状態」にあることがわかった。

地下深部が還元状態にあるということは、人エバリアの材料である金属の腐食やガラスの溶解を抑える上で好ましい条件となる。

深部では圧力の偏りが小さい

岩盤の熱や、圧力などの力学に関する特性の情報は、地下空洞の安定性や熱的な影響を考慮した坑道の配置など、人工バリアの設計・施工上重要である。

地下の温度 (地温) については、その深度方向の上昇量である「地温勾配」が日本全国にわたる分布図として作成されている。この図によると、火山地域を除く大部分の地域で「深度100メートル当たりの温度上昇量が5度C以下である」ことがわかった。

地下深部での圧力のかかり方 (初期応力) については、文献データと、東濃地域、釜石鉱山での実測データとの比較・検討の結果、比較的浅いところでは水平方向と鉛直方向の力にばらつきがあるものの、地下深部では方向による圧力の偏りが小さくなることがわかった。

地温が高くなく、地下の圧力に偏りがないことは、地下空洞の安定性や熱の影響を避ける観点から、好ましい条件となる。

地下水は割れ目や粒子の間を通る

岩盤中における金属元素などの物質の移動には地下水が関与している。地下水による物質の移動特性を知る上で、地下水の通り道である岩盤中の空隙の構造などが重要である。

東濃地域のウラン鉱床から採取した岩石を使った調査・試験などによって、花こう岩 (みかげ石) に代表される結晶質岩では、地下水は岩盤中の割れ目の中を通って、また砂岩や泥岩に代表される堆積岩では、地下水は主に岩石を構成する鉱物の粒子の間などを通って移動することが確かめられた。

金属元素などの物質が移動する経路に存在する鉱物のうち、粘土鉱物あるいは雲母や黄鉄鉱などの鉄含有鉱物は、その他の石英や長石類などの鉱物と比較して金属元素などの物質を吸着して保持する能力が高いことが明らかになった。

深部の地質は十分なバリア機能も

以上のように、地下深部は地下水の動きは遅く、金属などが酸化しにくい還元環境にあり、また、岩盤内につくった坑道などに加わる圧力に偏りが小さいこと、地層が物質を吸着する能力があることなどから、地層処分において、深部の地質環境は人工バリアの性能を安定に保つとともに、地層そのものに物質を保持するバリアとしての能力があることがわかった。

(次回は12月7日付号に掲載予定)

Copyright (C) 2000 JAPAN ATOMIC INDUSTRIAL FORUM, INC. All rights Reserved.
Copyright (C) 記事の無断転用を禁じます。