[レポート] 高温ガス炉−展望と実用化に向けて (2)
東京工業大学教授 関本 博
先週号に続き、原産「原子炉熱利用に関する将来展開検討会」 (主査・筆者) が今年3月に首題の報告書にまとめた検討結果の概要を紹介する。
2.高温ガス炉導入効果の評価
(1) 21世紀のエネルギー需給想定
1990年から2100年までの超長期のエネルギー需給について、国際応用システム分析研究所 (IIASA) が98年の世界エネルギー会議で提出したデータを整理し、エネルギー需給を評価した。最も現実的な需給想定の下では、1次エネルギー需要は、開発途上国で顕著に増加し、その中で原子力発電のシェアが目立つ結果を得た。一方、資源賦存量と累積エネルギー生産を見ると、石油は2070年頃に、天然ガスは2100年頃に追加資源も消費され尽くす。石炭だけが2100年まで十分利用可能になっている。これらの数値から「2050年以降、資源問題が発生する」と考えられる。
(2) 高温ガス炉導入効果の評価
長期エネルギーシステム最適化分析 (MARKAL) モデル並びに簡易モデルを用い、1990〜2070年頃を対象として評価した。その結果、 CO2 に対する課徴金と熱利用を含む高温ガス炉の導入効果により、軽油の輸入量が2050年で約半減する等石油の消費が激減すること、 CO2 排出量は、300MW/年の割合で2030年から導入した場合でも、2070年には6〜7000万トン CO2 /年削減され (1990年レベルで約6%削減されたことになる) 、有意な効果が確認できた。
3.高温ガス炉実用化への課題と方策
(1) 技術開発
(1-1) 発電システムに関する、ガスタービン、再生熱交換器、核分裂生成物のターボ機械への沈着等の課題については、実証試験、1号機の建設、試作等を通じて解決を図る。原子炉技術に関する燃料高燃焼度等の課題については、HTTR 計画の中での研究開発等により解決を図る。
(1-2) プロセス熱利用炉に関する原子炉との接合技術の開発、経済性向上等の課題については、現計画では解決まで20年程度の期間が必要であり、HTTR 熱利用研究開発等の中で、技術の高度化、高性能化を含み解決を図る。
(1-3) 高温ガス炉の安全基準及び燃料サイクル (中間貯蔵後の再処理又は地層処分) に関する技術的、政治的課題については、HTTR での実証試験、新しい論理の構築により解決を図る。
(2) 経済性
高い固有の安全性等高温ガス炉の特長を最大限生かし、機器の非原子力級化、単純化を図り、モジュール化による多量発注、量産効果、需要地近接による送電コスト大幅低減効果と併せ、経済性を向上させる。また、小型化に伴う初期投資低減等のコストダウン効果を生み出していく。
(3) 規制体系等
新しい概念に基づく原子炉であるため、現在の軽水炉べースの規準や規制体系を見直し、本原子炉に相応しい規制のありかたを検討する。
(4) 国際協力と日本の役割
高温ガス炉のような新型炉の開発に際しては、一国のみでの開発は非効率的である。このため、技術開発に関する国際協力以外、国際安全基準の整備、国際的な PR・認知活動が必要であり、適切な役割分担に基づく国際協力を推進する。具体的には、HTTR を高温ガス炉開発の国際的拠点として活用し、その技術データの提供、運転・試験への海外技術者の受入れを行う。また、高温ガス炉の必要性、適合性の教宣、海外の開発プロジェクトとの協力、IAEA 国際安全基準作成作業への参加等を積極的に進める。
4.高温ガス炉導入シナリオと実用化に向けた施策
(1) 高温ガス炉導入シナリオの策定
実用に向けた高温ガス炉導入シナリオを策定する場合、実用化時期の相違から比較的早期実用化が可能な発電炉と、比較的長期に亘る開発が必要な水素製造等の熱利用炉に分けて考えられる。
(1-1) 発電炉
国は、HTTR 計画を、実用化に向けた高温ガス炉技術基盤の確立、高度化と位置付け、これまでの研究的な位置付けを保ちつつ、実用化のための技術開発に重点を移す。更に、実用化を2010年代に想定し、技術的フィージビリティ・スタディ (FS) を含む総合評価を実施する。その際、海外からの情報をタイムリーに活用するために南アの PBMR 計画、米国−ロシアの GT-MHR 計画等との協力を進めるのが有効である。その結果、合意が得られれば、我が国における高温ガス炉の位置付けを明確にし、体制を整えて実用化に向けた開発準備を進める。
(1-2) 熱利用炉
実用化のためには更なる技術開発が必要で、高温熱利用システム1号機建設は、2030年頃、本格実用化は2050年頃になると考える。熱利用炉導入の当面のシナリオは次の通りである。
- 水素製造に関する HTTR 熱利用研究開発を計画通り、2010年頃まで着実に進める。
- 原子炉技術開発は、発電炉の技術開発の中で進める。
- 2010〜2020年頃までに実用化のための技術評価、計画立案、必要なR&Dを実施する。
なお、(1)、(2) に並行して、アジア等開発途上国を対象とした、実用炉建設の具体的な方策を検討することが重要である。具体的な施策は、次節 (2-2) に示すが、実現のためには、国が中心となって海外立地のための条件整備 (資金調達、法整備、国際協力等) に当たる必要がある。本計画の実現によって、環境負荷の低減や、開発途上国支援、我が国の産業界の技術水準維持、発展及び産業界の活性化が期待出来る。本件は、環境問題を含めた海外支援等、政府レベルの政策に関連するので、国が積極的に本検討を進めるべきと考える。以上の結果をまとめた今後の高温ガス炉開発の予想展開を、図2に示す。
(2) 高温ガス炉実用化に向けた施策
(2-1) 国内立地の場合
国は、HTTR 計画を着実に進め、運転・試験データを取得し、実用化に向けた高温ガス炉技術基盤の確立、高度化を図る。並行して、2010年代実用化に向けて、次の観点からの総合評価ができるように、高温ガス炉システムの FS を実施する。
[安全性、経済性、燃料サイクル、需要地近接立地、エネルギー安定供給と多様化、地球環境、核不拡散、産業や経済の活性化、近隣諸国の需要]
その結果、合意が得られれば体制を整えて、実用化に向けた開発準備を進める。その際、国際協力等を通して得られた海外の実用化計画関連情報を積極的に活用する。
具体的には、HTTR 計画を着実に進め、高温ガス炉技術の蓄積・向上を図る。併せて発電炉については、国内の電力需要及び立地候補箇所の調査、立地条件、敷地条件の設定、出力規模、必要な高温ガス炉プラント数と年次建設計画、安全設計基準、指針類の整備等を行う。
実用化の見通しが得られた後の高温ガス炉の実用化計画は、国の政策の中で体制を整えた上で進める。
(2-2) 開発途上国等の海外立地の場合
熱利用を含め高温ガス炉のニーズは、開発途上国等の方が高いため、実用高温ガス炉の立地は海外で先に達成される可能性がある。我が国では実用高温ガス炉の経験が無いこと、濃縮ウラン (或いはプルトニウム) の手配、核防護、使用済燃料の管理、廃棄物の処理処分、事故時の補償等の理由で、国内立地に先駆けての海外立地は、一国あるいは産業界のみでは解決できない問題を含んでいる。そこで、IAEA を通じての国際共同体による建設、運営等が最適な方策といえる。また、高温ガス炉が開発途上国に受け入れられる確実な技術であることを示すことが重要である。そこで、現在、実用化の具体的な検討が進められている南アの PBMR 計画、米−露の GT-MHR 計画への協力、支援を行い、これらの成功に貢献するとともに、我が国独自の開発成果を反映し、その後我か国が中心となって、国際貢献の観点から開発途上国向けの高温ガス炉を開発、立地する進め方が、効率的な方法として考えられる。
5.今年度の検討
長計第4分科会の「革新的中小型炉」の検討の際に本報告書を提出し、関係者の参考に供したのに続き、本報告書で今後の課題とした次の件について検討・活動を始めた。
- 国内外の産業界への普及、促進活動
- FS、総合評価の準備作業結果のレビュー
- 短期及び長期開発戦略の検討
- 燃料サイクルの検討
特に、短期開発戦略の検討では、21世紀にエネルギー需要が急激に増加すると予想されるアジアに目を向けて、「アジア協力プロジェクト」の実現性について、また、長期開発戦略では、クリーンなエネルギーの水素需要が期待される自動車関係の進展度などの調査検討を行っている。
(終わり)
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