[原子力産業新聞] 2000年12月7日 第2066号 <4面>

[高レベル廃棄物] 地層処分−その技術と信頼 (3)

長い間の懸案だった高レベル放射性廃棄物処理処分に向けて、その「技術的な拠り所」となる核燃料サイクル開発機構の[わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性-地層処分研究開発第2次取りまとめ」(通称「2000年レポート)が昨年11月に公表された。本紙では4回シリーズで報告書の概要を紹介しているが、第1回 (11月9日付号) では、火山・地震国であるわが国でも、100万年以上前から火山の活動地域は限定されており、また主な地震・断層活動も数10万年間、既存の活断層帯で操り返し起こっていることなどが、これまでの研究調査で明らかになり、「将来10万年程度にわたって地質環境の長期安定性を確保できる場が広く存在する」との見解が示されたこと。第2回 (同16日付号) は、処分場となる地下深部の岩盤や地下水の特性や挙動が長期にわたって人工バリアの性能を維持し得ることを紹介した。今回は現状の工学技術を用いて人工バリアと処分施般を建設することができるかどうかについての研究報告を紹介する。


処分施設建設は可能

地層処分工学技術

わが国において高レベル放射性廃棄物の地層処分を適切に行う上で、処分場が設置される場である地質環境を幅広く考慮し、現在用いられている技術に基づいて、高レベル放射性廃棄物を取り囲む人工バリアや処分施設の設計に必要な条件を明らかにすることは重要である。

人工バリアの設計

人工バリアは、高レベル放射性廃棄物を取り込んでいるガラス固化体、そのガラス固化体を封入する金属製の容器 (オーバーパック)、さらにオーバーパックと岩盤との間に充てんする緩衝材から構成される。

人工バリアの設計・施工や、処分施設の建設などの工学技術については、サイクル機構の東海事業所 (茨城県東海村) にある地層処分基盤研究施設や岩手県釜石鉱山の坑道等、あるいは海外の地下研究施設などにおいて調査や試験研究を行ってきた。これまでに、処分場や人工バリアの設計に必要な条件の見直し、コンピュータを用いた解析評価手法の開発と設計のためのデータベースの整備を進めてきた。

以前より厚さが30%減に

図1のように、人工バリアの仕様のうち、オーバーパックについては材料に対する腐食と耐圧性、放射線遮へい性を考慮し、少なくとも放射能や発熱が比較的高い1000年間にわたり地下水がガラス固化体に接することを防げるよう、必要な厚さは190mmとなった。処分孔と廃棄体の間に充てんする緩衝材の材料については、粘土の一種であるベントナイトにケイ砂を混合させることにより、必要な性能を維持しながらより経済的なものにできることがわかった。ベントナイトは土木工事の止水材料にも利用されており、人工バリアの材料としては、水分を含むことで膨潤し、緩衝材と岩盤やオーバーパックとの隙間を埋め、地下水の浸入を防ぐ働きをする。

以上のように、調査等の成果に基づいて試算した人工バリアの仕様例は、以前1992年に取りまとめた報告書「第一次取りまとめ」の結果に比べ、厚さ約30%低減したものとなった。

また、人工バリアを構成するオーバーパックの試作や緩衝材の施工試験などを通じて、人工バリアの製作・施工が現在の技術で可能であることを確認した。

処分施設の設計

処分施設は地上施設と地下施設から構成される。地上施設には、ガラス固化体の受け入れ、検査およびオーバーパックヘの封入を行うとともに、地下施設へ搬送するための設備が設けられる。

地下施設は (1) 地上と地下を結ぶアクセス坑道 (2) オーバーパックに封入したガラス固化体 (廃棄体) を定置する処分坑道 (3) 処分坑道を取り囲む連絡坑道−などから構成される。

地下施設には、数十年におよぶ建設・操業・閉鎖の各段階を通じて安全な物流経路を確保するために、空洞の力学的な安定性が求められる。処分施設の仕様やレイアウトを検討する上で必要な処分坑道間の距離や廃棄体の定置間隔は、地下深部における岩盤の強度などのデータに基づく空洞の力学的な安定性および、廃棄体からの発熱による人工バリアと周囲の岩盤への影響を考慮して検討した。

その結果、建設・操業・閉鎖の各作業を独立かつ並行して実施可能な処分場のレイアウト例 (図2、3、4参照) を示した。処分深度は、地質環境特性、現状の建設技術や調査技術の適用範囲などに基づいて、硬岩系岩盤では1000メートル、軟岩系岩盤では500メートルと想定した。埋設するガラス固化体は、2020年頃までに再処理によって発生すると見込まれる総量の約4万本とした。

閉鎖まで既存技術で可能

掘削技術や施工手順などの検討結果から、処分場の建設、ガラス固化体の搬入・定置 (操業) 、坑道の埋め戻し (閉鎖) という一連の作業が現状あるいはその延長線上にある技術で可能であることを確認した。

また、処分場を閉鎖するにあたっての判断に必要な情報を検討するために、処分場の調査・建設・操業および閉鎖の各段階における管理項目や計測技術を整理した。

以上のことから、現状あるいはその延長上にある工学技術によって人工バリアと処分施設を合理的に設計、製作・施工することができ、わが国の幅広い地質環境に柔軟に対応できることを示した。


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