[レポート] 第1回アジア原子力協力フォーラムに出席して
原子力委員 遠藤哲也
既報の通り、アジア原子力協力フォーラムの第1回会合が先月10日から15日までタイのバンコクで成功裡に開催された。今号で、同フォーラムに出席した遠藤哲也原子力委員にその会議の様子をふりかえってもらった。
はじめに
1989年に故村田浩氏 (当時原産会議副会長) のイニシアティブで始まった「アジア地域原子力協力国際会議」は、アジア地域の原子力関係者が一堂に会して共通の関心事項を議論する場を設けるという役割を果たしてきた。アジアでの原子力利用が次第に進むにつれてこの協力会議は発展的な改組を遂げることになり、「アジア原子力協力フォーラム (略称 FNCA) 」という新しい名の下に、各国毎にコーディネーターを設けるなど活動を組織化し、各国のニーズに一層合うように工夫し、目に見える成果を生み出すよう、また1年毎に日本以外の国で本会議を開催するなど、"新しい皮袋" には "新しい酒" を入れる試みがなされることとなった。
その第1回が11月10日から15日の日程で開催された今度のバンコク会議であり、共催者のタイ科学技術環境省、特に事務局として諸事万端のお世話をしてくれたタイ原子力庁に対して心から謝意を表したい。第1回のフォーラムは成功裡に終わったと思うが、その大半はタイ側の努力のおかげである。
新長計 (案) の説明
11月13日閣僚級会合に先立って10日に開催された上級行政官級会合の冒頭に特別セッションが設けられ、私よりわが原子力委員会が策定中 (当時) の新長計 (案) についてアジア諸国の関心に沿うような形で40分余りブリーフィングを行った。引き続いて質疑応答に移ったが、わが国の原子力政策に対するアジア各国の大きな関心を反映してか、約30間非常に活発な意見なり質問が呈された。
各国の質問およびコメントは、それぞれの国の関心のありかの一端を呈しているようにも思われるので参考までに例示しておく。
高レベル廃棄物の処分は原子力以外の世界の人々の関心も高いが、その検討状況、国の関与の仕方等 (インドネシア)
日本の安全性への新たなコミットメントに力づけられた。この日本のコミットメントをアジア地域の人材育成にも活かすことを期待。 (フィリピン)
追加議定書を率先して締結するなど核不拡散に対する日本のコミットメントに勇気づけられた。多くの国が追加議定書を早急に批准することを期待。長計の策定に、原子力分野以外の人々が参画したことを評価。原子力の安全については、技術的側面ばかりでなく、広い範囲からのリスク評価が大切だが、このようなリスク評価を行ったか。 (オーストラリア)
日本では放射線利用の経済効果が発電分野を上回るとの評価があると聞いている。アジアフォーラムにおいても非発電分野の協力を強化し、その分野での安全対策も強化していきたい。 (タイ)
高い安全文化を持った日本でこのような臨界事故が生じたのはショックであった。一体何が欠けていたのか。一般の不信をどのようにして克服しようとしているのか。 (マレーシア)
日本の原子力の平和利用政策、特に Pu の透明性についても、もう少し説明が欲しい。Pu の透明性確保の中心に再処理であるが、核拡散抵抗性のある再処理技術の開発を進めてほしい。日本以外の国では Pu 利用の透明性確保をどう考えているのか。 (中国)
閣僚級会合
閣僚級会合は11月13日バンコク市内のスコタイホテルで、オーストラリア、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、ベトナム、タイおよび日本の9か国が参加して開催され、タイのアーティット科学技術環境大臣とわが大島原子力委員長 (科学技術庁長官) が共同議長をつとめた。
開会式に続く13日の午前中は主として従来通りの各国のカントリー・ステートメントにあてられ、日、中、韓、それに原子力発電導入に意欲を燃やすベトナム以外の FNCA 諸国は放射線利用が中心であるが、研究炉についてはオーストラリア、タイおよびフィリピンが新しい炉の建設計画を披露した。
円卓会議−初めての試み
これまでの閣僚級会合は、私の知る限り各代表の一方的な説明、それも自国の原子力利用の現状、計画について述べることが主であったが、私は新しい機構に衣替えする機会に参加アジア諸国の共通の関心事項について自由な意見の交換を行い、できれば協力の方法を模索したいと考えた。そこで一つの方法として円卓会議方式を提案し、去る8月にタイを訪問した際にアーティット科学技術環境大臣の賛同を得て第1回円卓会議のテーマとして「原子力利用の推進」「原子力安全」および「原子力協力の進め方」の3つを合意した。今回の円卓会議は以上のような経緯を背景にしての初めての試みであり、果してうまくいくか否か心配であった。だが、案ずるより生むが易しで、大島原子力委員長に積極的に発言の口火を切って頂いたことも、活発な議論が展開されて時間が足らない位であった。この試みは成功であったと言えよう。しかし、今後円卓会議を続けていく場合に、議題の絞り込みなど丁々発止と議論が一層かみ合うよう一工夫、二工夫が必要である。
以下に各セッション毎の議論を私なりにまとめておく。
(1) 「原子力利用の推進」 (モデレーター遠藤)
大島原子力委員長より、わが国は一連の事故を乗り越えて原子力推進の政策を維持していること、原子力利用推進において人材養成が重要であること、国民の理解が重要であり、その為に情報の透明性が必要なこと、また、原子力損害賠償制度の整備が重要であることにつき言及した。
また、各国からは、以下のような発言があった。
放射性廃棄物処理・処分のシナリオが必要。(インドネシア・豪州)
原子力の推進では核不拡散問題の考慮が重要。 (豪州)
原子力発電導入に当たっての融資制度の整備が必要。 (フィリピン)
地域の発展のためには、FNCA 諸国への原子力発電を導入していくことが必要。これまでの経験の共有化を図っていきたい。 (韓国)
国内エネルギーは原子力なしでも賄えており、非発電分野での推進を図っていきたい。 (マレーシア)
発電分野であれ、非発電分野であれ、安全がすべての原子力利用の前提であること。(すべての国)
なお、大島原子力委員長の原子力賠償問題に関する発言については、その後私がフォローアップし、とりあえず、来春3月のコーディネーター会合で発電および非発電を含む原子力利用全体を対象とした実情把握のための意見交換が行われることとなり、又それに先立ってマレーシア、フィリピン、タイ、韓国等からそれぞれの国の状況について情報交換が行われることとなった。
(2)「原子力安全」(モデレーター ガーネット・豪 ANSTO 専務理事)
大島原子力委員長より JCO 事故への対応とその後の対策を紹介したほか、ホームページなどを活用した各国からの積極的な安全情報の発信を提起、さらに緊急の課題として、使用済み線源の管理についての協力活動を開始することを提案した。また国境を超えた予期しない放射性物質の移動防止対策検討の必要性も訴えた。さらに、安全分野においても人材養成が重要であることに言及、わが国の制度を紹介し、今後も協力活動を行っていく旨、発言した。
また、各国からは、以下のような発言があった。
原子力安全の推進は、発電、非発電に係わらず、国の指導の下に行われるべき。また原子力発電所や施設の安全関係の品質保証が重要。安全文化の管理職や現場への浸透が必要。(中国)
安全文化の醸成は必要。しかし、アジア諸国は文化的に多様であり、国内での経験も一般に少ない。安全規制や標準の整備が重要。(フィリビン)
昨今の各国での原子力事故事例から、ヒューマンエラー、さらにモラルハザードが原因の一部となっており、安全文化を根付かせることはきわめて重要。日本からの使用済み線源に関する協力提案は、きわめて時宜を得た良い提案であり、支持したい。(韓国)
安全性の確立には、人材の養成が重要であり、全作業員の訓練が重要。原子力施設の安全運転では、各国でも運転管理モデルなどがあると思われるので、その経験を相互に活用するために、原子力施設の安全運転のモデル化を促進する必要があろう。(マレーシア)
(3)「原子力協力の進め方」 (モデレーター ポンピモン・タイ農業協力首上級研究科学官)
大島委員長より、日本はアジアとの原子力協力を重要視していること、目に見える成果を生む活動が重要であり、核医学用アイソトープ製造技術、また使用済み線源の管理など具体的な提案を行ったこと、今後、各国のより主体的な参画を求める観点から、従来の人的貢献のみではなく、可能な範囲での資金的協力を求める発言を行った。
また、各国からは、以下のような発言があった。
協力活動に利用できる施設をお互いに提供することを提案。韓国では各種訓練施設を建設中であり提供できる。(研究炉、がん研究所病院等) (韓国)
協力活動でも効率化が重要であり、優先順位付けが重要。IAEA の協力活動との重複も避ける必要がある。(中国)
協力活動の成果を原子力の世界にとどめてはならず、技術のエンド・ユーザーに関連する省庁や民間機関などとの連携を各国で確立することが重要。(フィリピン・マレーシア)
今後、各国から資金協力も期待したいという日本の提案を支持。日本からのプロジェクト提案とも関連し、既存のプロジェクトのレビューが必要。(豪州)
さらにオブザーバーである IAEA にコメントを求め、下記のような発言を得た。
IAEA としても、FNCA との経験の共有を図りたい。
指摘されたようにエンドユーザーとの連携はきわめて重要であり、これがプロジェクトの成否を分ける。しかし、技術主導から需要主導 (ニーズや対応上の課題を踏まえ、プライオリティ付けをするプロジェクトの運営方式) への切り替えは容易でない。
日豪だけが財政サポートしているが、各国でもエンドユーザーとなる省庁からの予算、民間との連携による資金調達が考えられる。
非発電利用の経済効果は大きい。IAEA/RCA と FNCA が協調し合うことが重要。具体的な内容の重視を技術的にどう避けていくかという工夫が必要。
次回会合
2001年の次回会合は日本で開催されるが、2002年には韓国で行われることが決定された。日本以外の開催国として韓国に次いでベトナムが手を挙げ、オーストラリア、中国なども非公式に意向を示していて、人気上々なのは嬉しいことである。
おわりに−会議を振り返って
今回の会議はいささか自画自賛めくが成功であったと思うし、少なくとも私が承知する限り最も充実した会議であったと思う。だが、同時に将来に向けて多くの課題を残した会議であり、以下に思いつくままに気付いた点を述べてみたい。
(1) アジア地域でこれだけ多くの閣僚レベルが集まって原子力問題について集中的に議論するということは、それだけでも大切なことであり、今後、実のある成果を挙げていかなければならない。
(2) 今後とも日本がリーダーシップをとるとしても、パートナーシップにより、一緒に協力していくとの姿勢を名実とも打ち立てるべきである。
(3) 二国間協力や RCA のような国際機関を通じる協力とお互いの利点を生かすよう相互乗入れに心すべきである。
(4) 原子力利用のうち発電分野については目下、中国、韓国、ベトナムと日本しか関心がないが、これらの国の間で共通の関心事項を話し合うことも考えてみたい。また、わが国の関心事項につきアジア協力の場を通じてこれを取り上げ解決を求めることも積極的に考えるべきである。
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