[原子力産業新聞] 2000年12月14日 第2067号 <5面>

[NEI-insight] TMI原発周辺で調査「事故後の被曝影響ない」

スリーマイルアイランド (TMI) 原子力発電所の近くの住民について行われた追跡調査の中でもこれまでで最も大規模な調査によると、1979年に起こった事故を原因とするガンによる死亡件数では明らかな増加は見られなかったことが判明した。

ピッツバーグ大学公衆衛生大学院の研究者らは、13年間にわたってペンシルベニア州にある同発電所の半径5マイル内に住んでいる32,135名についてのデータを集め分析した。

この調査は、2号機で事故が起こった1979年から92年にかけて行われ、教育程度や職業、喫煙の有無、住居、医療記録、過去の放射線被曝、そして事故が起こった10日以内に同発電所の周辺地域に行ったことがあるかなどについて検討した。研究者らは、そうした10日以内に各人が受けた最大被曝量と予想線量を判定した。研究者らによって調べられた死亡原因の中には、すべての心臓疾患や悪性腫瘍のほか、放射線によってきわめて起こりやすい特殊なガンが含まれていた。

今回の調査の主任研究員を務めた疫学科のエベリン・タルボット准教授は、「今回の調査は、原子力発電所の事故によってスリーマイルアイランドの住民のガンによる死亡率が増加するのではないかという疑問に終止符を打つ上で役立つ」と指摘した。

公衆衛生大学院によると、研究者らによって明らかにされたことは、TMI の住民の死亡率は発電所周辺の3つの郡の住民と比較すると、どの原因によるものでもかなり高いということであった。死亡原因としては心臓疾患が最も高かった。タルボット准教授は、「喫煙や教育程度が心臓疾患の発生率に及ぼす影響が良く知られている」とした上で、「自然放射線に関する要因とともに、こうしたリスク要因の調整をうまく行ったところ、死亡率の上昇は顕著でないことが分かった」と説明している。

事故時に放出された少量の放射線が、事故後の13年間にわたって住民の死亡率に無視できないほどの影響を与えたことを示す明らかな証拠はみつからなかったが、調査を継続する正当な理由があるかもしれないと研究者らは語っている。

タルボット氏はさらに「多くのガンは潜伏期間が20年以上もあるため、TMI 周辺の住民の追跡調査を今後とも続けることによって、各種のガンの罹病率はもちろん、そうしたガンによる死亡率をさらに広範に明らかにすることができるであろう」と指摘している。実際に、大学の研究チームは現在、1999年までに集めた同じ住民についてのデータの解析を行っている。

今回の調査は、1981年以降に実施された12件の疫学調査の中でも最新のものであるが、いずれの調査でも TMI 発電所周辺の住民にはっきりと認められる健康影響はなかったとの結論がだされている。

根拠のはっきりしない調査

原子力産業界関係者は先月5か所の原子力発電所周辺の幼児死亡率が発電所の閉鎖後に低下したとの主張に異論をとなえた。原子力産業界関係者が批判したのは、前国立ガン研究所の放射線疫学部長のジョン・ボイス氏の主張。

ボイス氏は、65か所の原子力発電所周辺の郡で90万人の死者について調査した、同研究所が実施した1991年の調査を引用して指摘した。この調査は、原子力発電所周辺のガンの死亡率を調べたものとしては最大かつ広範なものだが、各種のガンによる死亡リスクが増加したという確証は得られていない。

ボイス氏の主張に対し、Environmental Epidemiology and Toxicology 誌に掲載した論文で異議をとなえたジョセフ・マンガノ氏は、放射線被曝は幼児の健康に影響を及ぼす多くの潜在的な要因のうちの1つに過ぎないとの見解を示した。


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