[原子力産業新聞] 2000年12月21日 第2068号 <6面> |
[FNCA] アジア地域の原子力協力・課題と展望既報の通り、アジア地域の原子力協力を閣僚クラスが一堂に会して話し合うアジア原子力協力フォーラムの第1回会合が、タイのバンコクで開催された。原子力の平和利用に大きく貢献してきたアジア地域原子力協力国際会議 (ICNCA) を引きついだ同フォーラムではアジア地域等における今後の原子力協力のあり方をめぐって、参加国相互に熱のこもった議論が行われた。今号では、同フォーラムでの議論をベースに、参加各国の議論から浮き彫りとなった、原子力協力に対する期待や今後の課題について紹介する。 オーストラリア
2005年に新研究炉を運転開始予定。この炉から得られる冷中性子で、プラスチックや塗料、食品等の加工分野で新たな研究の道が開けることを期待する。 その他、米豪共同開発のチタナイト・セラミックス固化方式が余剰プルトニウムの処分用に米国エネルギー省で採用され、米国に関連会社が設立された。 また、現在、病院や研究機関などから出る低レベル放射性廃棄物を国内の約50の施設で貯蔵している。その適切な処分のために、低レベル放射性廃棄物等の処分場建設プロジェクトを立ち上げており、候補地等の詳細を間もなく発表の予定である。 IAEA の保障措置追加議定書の初の批准国であるオーストラリアは、IAEA の保障措置活動を積極的に支持し、また、新たな FNCA も引き続き支持して行く。 中 国
中国の原子力開発は、科学、技術、産業の一体体制を築き、特に80年代で、原子力技術の軍需から民需への転換により大きな発展を遂げた。発電分野に関しては、現在、2つの発電所 (3基) が稼動中で、4つの発電所 (8基) が建設中であり、先進的な加圧水型炉等の研究開発も行っている。また、放射線利用でも大きな成果をあげてきており、この分野はハイテク産業へと成長している。 中国は、原子力安全に大きな重点を置いており、資金的にも人材的にも最大限の貢献を行ってきた。 新たな枠組みである FNCA が、今後、アジアにおける原子力技術の国際協力と情報交換において、大きな役割を果たして行くことを期待する。 インドネシア
インドネシアでは、原子力技術は農業、医学、環境など様々な分野で活用されている。原子力発電は、将来の電源オプションのひとつと考えられているが、1997年の経済危機から立ち直りつつあるものの、いまだ原子力開発に対する国家予算は厳しく、プロジェクトの重点化を図っている。 来世紀には全世界が直面するであろう地球温暖化問題に対する有効な手段として、原子力発電の開発が進められるべきだが、それには先進国が率先して推進すべきである。化石燃料は最後の手段として発展途上国のために残しておくべきである。 将来、FNCA は「原子力発電」と、「持続可能な開発」という2つのテーマを協力活動のなかに加えるべきである。 日 本
日本は、平和利用と安全を前提に、エネルギーの安定供給と国民生活向上のために、原子力の利用を進めてきた。その結果、発電のみならず放射線利用も大きな成果をあげてきた。また、原子力の平和利用に関する長期計画を策定中であり、今後も原子力の平和利用を積極的に進めて行くつもりである。 原子力利用の大前提として原子力安全には最優先で取組んできたが、昨年の JCO 事故により原子力に対する国民の信頼を失なった。我々はこれを教訓とし、安全規制の強化や防災体制のさらなる整備を行った。 21世紀はアジアの時代と言われるが、長きにわたり原子力の平和利用を積み重ねてきた日本は、これまでの経験をアジアの原子力利用に役立てて行きたい。この FNCA が、アジアの原子力協力において重要な役割を果たして行けるように、各国の積極的な参加を希望する。 わが国も積極的に取組んで行きたい。参加国の経験と技術の交流が重要である。 韓 国
FNCA の前身であるアジア地域原子力協力国際会議 (ICNCA) は原子力の平和利用に大きく貢献してきた。 引き続き新しい FNCA にも大きな期待を寄せている。また FNCA 参加国を含む世界の原子力界は、今後、原子力の利用について、安全性と経済性を満たす明確なヴィジョンを持つ必要がある。韓国は天然資源に乏しいため原子力開発に力をいれてきた。現在総発電容量の43%を賄うまでになった発電分野だけでなく放射線利用にも力を入れ、特に医学の分野で大きな成果をあげている。 原子力安全は、国際的な取組みが要求されるものであり、現在、さまざまな議論が行われているが、近い将来、国際社会が、地球規模での原子力安全確保体制の確立に向けて合意に達することを期待するとともに、過去蓄積してきた原子力技術開発に関わる多くの有益な経験や専門技術を FNCA 参加国と分かち合いたいと考える。 2002年の第3回 FNCA のソウルでの開催を表明する。 マレーシア
JCO 事故やタイの Co-60 事故を教訓に、原子力利用においてはセイフティーカルチャーの醸成と安全意識の向上が必要である。 マレーシアの放射線利用は法律により規制・監督されているが、国際基準の変化などにより見直しの必要が出てきている。また、放射線は農業、医学、産業の分野で利用されており、今後更なる利用の増大が見込まれる。 しかし、放射性廃棄物管理等、放射線利用に伴う問題も出てきている。現在、放射性廃棄物は一時貯蔵か中間貯蔵されているが、原子力庁および政府は、適切な処理・処分を実施するために、放射性廃棄物の減容研究や最終処分場の建設計画などを進めている。 また、放射線防護には人材養成が不可欠で、IAEA などによる国際的な安全訓練活動に積極的に参加したり、大学などで人材養成や安全訓練に努めている。 タ イ
タイは、1962年の「原子力平和利用法」制定以来、放射線を利用し、農業、医学、産業などの分野で、原子力利用の成果をあげている。近年、新たな原子力研究センター建設のプロジェクトをオンガラックという所で進めている。このプロジェクトが完成すると、タイの原子力技術の研究開発拠点となるばかりでなく、同分野の国際貢献にも寄与することが期待されている。 最近の地球温暖化問題などを踏まえ、原子力発電の重要性はますます増しているが、原子力発電を推進するには各国国民の理解が不可欠であり、世界的な広報プログラムが必要であると考える。この問題に関しては国際協力で取り組むべきと考えている。 今後の FNCA のあり方は、農業および医学への原子力技術の活用を強化するとともに、人材養成に力を入れるべきであり、放射性廃棄物の安全管理については、各国の現行インフラの見直し、改定を行うことで強化されるべきと考えている。 フィリピン
現在フィリピンは政治・経済が混乱しているが、将来見込まれる経済成長に伴い、エネルギー需要の増加も予想されるため、国民の理解を得ることを大前提として将来のエネルギー源として原子力発電を導入する可能性がある。 フィリピンは、科学技術を福祉向上のための手段と位置づけ、過去40年にわたり、農業、医療、産業等の分野において、原子力技術を開発し、国民の福祉向上に役立ててきた。 また、フィリピン原子力研究所は、新たな「原子力研究センター・マスタープラン・2001−2010」を作成し、20MW の研究炉設置を含む将来の研究や他の研究機関とのネットワーク作りに備え、将来の原子力発電導入のための人材養成も視野に入れている。 原子力技術の利用は、アジアの持続可能な成長のための有力なツールであり、それを支える FNCA の活動を全面的に支援していく。 ベトナム
1976年以降、本格的に原子力技術利用を進め、原子力技術は、社会・経済開発に大きな貢献をしてきた。ベトナムは農業国であり、特に農業分野での利用が極めて重要と認識している。もちろん、他の医学分野などでの役割も非常に大きく、今後も原子力技術利用を促進する方針である。 現在、原子力発電導入に向けての調査研究を実施中で、共産党と政府はその計画に対する評価を行っている。原子力発電導入には人材養成が最も重要と考えている。 原子力利用の促進には情報交換や共同研究等の国際協力が不可欠で、FNCA への関心は高いが、この活動については、教育訓練プログラムの実施等の多様化が必要だと考える。 また、将来的にも原子力の平和利用政策を堅持する考えであり、ベトナムとアジア諸国の協力関係を強固にするために、2004年の FNCA 開催国となることを表明する。
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