[原子力産業新聞] 2001年1月18日 第2071号 <6面>

[本の紹介] 浜岡原子力発電所「浅根に建つ」

-電源立地に人生をかけた先人たちの記録- 鈴木俊夫編著

本書は、静岡県浜岡町に1967年9月に中部電力から申し入れのあった浜岡原子力発電所の建設をめぐる地元の先人たちの英断とその労苦をまとめたもので、著者の鈴木俊夫氏自身もその1人であったと思われる。

110頁余りの本だが、注目すべきは、当時から発電所受け入れについて地元住民の理解を得る努力は当然ながら、それがわが国のエネルギーにとって大切な選択であるという広い視野を持った住民により英断されたことが記されている点である。自己の権利や主張、利害、好き嫌いばかりが先行する現代社会とは、はなはだ遠い世界のような気がする。

用地買収交渉、眠らずに行った9世帯の住居移転交渉、漁業者が国のエネルギー政策に理解を示すまでの3年7か月に及ぶ難航した交渉、発電所と地元の安全協定、そして地域振興など、当時の関係者の実名、補償額、経緯などが淡々と書かれている。地元での交渉を経験した関係者であれば、行間に隠されている膨大な物語が沸々と想像できると思われる。

浜岡1号機のときから浜岡町役場において尽力された鈴木氏は、この本により「社会公共のために人生をかけた先人たちの貴重な考えを後世に残しておきたい」とし、電源立地地域について、「昔、城下町や門前町が栄えてきた。今、原子力発電所のあるところは、活力に満ちた、人々が心豊かで安心して暮らせる地域でなくてはならない」と結んでいる。

本書は、昨年発行された自費出版の本であり、原産ライブラリーに1冊寄贈いただいた。読者のご参考になれば幸いである。


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