[原子力産業新聞] 2001年1月25日 第2072号 <3面>

[スイス] 脱原子力政策の費用試算

再生可能エネ代替ケースで621億フラン

スイス原子力協会が伝えたところによると、スイスで稼働中の原子力発電所4基を再生可能エネルギー、あるいは電力効率の実質的な改善で代替した場合、最高で621億スイスフラン (4兆5,333億円) のコストがかかるとの試算結果が16日に公表された。

この経済調査はドイツのブレマー・エネルギー協会がスイスの電力会社から委託されて実施。以前行われた「スイスにおける脱原子力政策とガス火力による代替で生じる諸費用」の調査に続くもので、 (1) 太陽光と風力、または電力効率改善策の最大限の導入で原子力を代替する可能性 (2) 脱原子力政策の経済面、環境面での是非 (3) 前回調査における結果との差異 --- を調べることが目的となっている。

調査の背景には98年3月に反原子力団体が発議した2つの反原子力政策 ---「新たな原子炉の建設を10年間禁じた原子力モラトリアムの2000年以降の延長」(MP) および「原子力発電所の段階的廃止」(PWA) があり、これらは今後数年以内に国民投票に掛けられる見通しだ。

こうした調査においては計算方法や前提条件が結果を大きく左右するとの考えから、今回は代替エネルギーの発電コストが技術開発によって軽減される度合いを過小評価しないよう配慮。その一方、脱原子力政策に伴う支出が確実に少なく見積もられる要因となるガス価格の大変動など、複数の前提条件を付加したとしている。

2回の調書で共通するのは脱原子力政策による代価を次の3種類に特定したこと。すなわち、 (1) 資産破壊=安全に操業継続が可能な資本集約型の施設を早期に閉鎖してしまうという事実に基づき、炉寿命一杯まで稼働した場合の総発電量を代替電源で発電した時にかかるコストを計算 (2) ガス価格の変動リスク=原子力をガス火力で代替すると仮定すると将来のガス価格変動によりリスクが生じる。ガス価格は近年、政治情勢その他のファクターで簡単かつ急速に変動する石油価格とリンクしているため、ガス価格が長期間一定、もしくは上昇し続けるという2種類のシナリオでリスクの度合いを評価する (3) 温室効果ガス排出の抑制=原子力を化石燃料で代替することは CO2 や NOx など温室効果ガスの排出増加に繋がる。排出量の抑制を目的とする政治的な動きは発電部門全体の排出量増加がその他の部門、すなわち特別支出により補われることを意味する。

ガス火力による代替に絞った前回調査では再生可能エネルギー開発の可能性や電力効率の改善が考慮されていなかったとの批判を受けたことから、今回は既存原子炉の経済的、技術的な炉寿命を50〜60年に設定した基本シナリオに加え、2種類の代替シナリオが考案された。すなわち、 (1) 既存の原子炉4基に匹敵する300万kW 程度の太陽光発電施設を建設するほか、風力発電所も百万kW ほど新設。さらに再生可能エネルギー1MW ごとに電熱併給の化石燃料発電容量を1MW ずつ追加で設置する (2) 原子炉4基分の出力はすべて大胆な電力効率改善策によってリプレースする --- というもの。

これらのシナリオに水力発電の扱いを含めて10数項目の前提条件を付けて試算した結果、最低ケースはガス火力による代替を設定した MP 政策で286億フラン (2兆878億円)、最高額は再生可能エネルギーで代替した PWA 政策の場合で621億フランもの費用がかかることが判明したとしている。


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