[原子力産業新聞] 2001年2月1日 第2073号 <2面>

[東京電力] プルサーマル導入をめぐって、地元刈羽村議会で議論

条例の是非を焦点に

東京電力は福島第一原子力発電所3号機とともに柏崎刈羽原子力発電所3号機でウラン・プルトニウム混合酸化物 (MOX) 燃料を使用するプルサーマルを計画している。柏崎刈羽3号機に装荷される予定の MOX 燃料体を運ぶ輸送船はすでに、先月19日 (現地時間) にフランスを出港し、3月後半にも日本に到着しようとするところだ。

こうした中、地元の刈羽村では昨年末以来、村議会を舞台にプルサーマル計画の実施にからむ住民投票の是非をめぐり動揺が続いている。

事の発端は昨年12月26日、村議会が定例会で、計画反対派の議員を含む4名から出されたプルサーマル計画の賛否を問う住民投票条例案を9対8の僅差で可決したことにある。

三県知事提言を踏まえ国がプルサーマルの必要性を確認した後、東電は1997年3月に柏崎刈羽3号機での計画を表明。以降、地元で計画の意義や安全性に関する説明会が数回開催された。これを踏まえ、99年2月に東電が新潟県、柏崎市、刈羽村に対して安全協定に基づく事前了解願いを提出。県と刈羽村が同年3月31日に、柏崎市も4月1日には事前了解を行うなど、定められた手続きに沿って計画は推移していた。

順調に見えたプルサーマルも、99年に高浜発電所向け MOX 燃料体データに一部不正が発覚した問題や東海村で起きた臨界事故の影響を受け、実施が見送られてきた。こうした環境の中で審議、策定された原子力長期計画では、軽水炉での MOX 利用の着実な推進が必要とあらためて認識されている。MOX 燃料の品質管理面での強化も行われている。

これらを背景として、昨年11月に当選した品田宏夫村長は、前村長の時に計画が事前了解されていることに対し、「社会的責任を負う行為。約束や信義を守ることは大切だ」として、条例案を議会に差戻し、再審議を求めた。1月5日の臨時会で議長を含めた採決の結果、9対9の同数だったため、可決には出席議員の3分の2以上の賛成を必要とする地方自治法の規定により、住民投票条例案はこの時点で廃案となった。

ところが、前回の住民投票条例案に賛成した議員らの間からは、住民からの直接請求に基づく住民投票の実現を求める声があがってきた。こうした声を具体化する動きとして、1月13日には議員や村民により住民投票のための署名活動を行う会が結成された。条例制定のための請求代表者を選任し、幹事や署名を集める「受任者」を選ぶなど、活動の大筋について決めた。当初、署名活動は今月4日から1か月間行うとしていたが、予定を前倒しして先月27日から開始している。

署名は、村の有権者 (昨年12月2日時点で 4,172名) の50分の1 (84名) 以上が集まれば、直接請求としては成立するが、会では有権者数の半数を超える署名を目標としているという。最終的な署名数がどの程度になるかは現時点では不明だ。

住民投票を求める側が考えた条例案では、プルサーマル計画への「賛成」「反対」に加えて「保留すべき」という選択肢も設けられている。投票の期日は、条例施行日から30日を経過した日から最も近い日曜日とされている。

一方、こうした流れに対し疑問や抵抗を感じ、過去の村議会での決定を尊重すべきとする住民がいることも当然だ。安全確保を前提としたプルサーマル計画の必要性を理解し推進の態度を示す議員や住民らは、条例の制定に反対を表明し、独自の運動を展開している。

厳しい状況の中、東電側では事前了解以降の村民に対する理解促進活動がいきわたっていなかったとの反省もこめて、今後もプルサーマルヘの理解を求める活動を誠実かつ地道に続けていくしかないとしている。1月下旬には、村の全戸を訪問し計画を説明した資料を配布するとともに、25日には村議会でもあらためて計画の重要性について説明するなどした。


「住民投票」とは、確かに地域住民が地元行政に対して直接的に自らの意思を問う方法論のひとつである。しかし、地域固有の課題と、国としての政策の基本に関わる課題とを同じレベルでどこまで議論できるのか。議会制民主主義を基本とする我が国の政治システムの中では自ずと限界があることも事実だ。品田村長もこうした角度から、プルサーマルというエネルギー問題をめぐる今回の住民投票の意味に問いを投げかけているのであろう。

国のエネルギー政策を背景として正当な手続きに基づき進められてきた計画に対して、地域それぞれの事情を反映するために新たな方法論を持ち込んでいくことについては、慎重であるべきではなかろうか。もちろん、地域住民の理解を得るよう、関係する電気事業者、また国が十分にその疑問に答えていくことが、こうした計画を進めるうえで重要だ。

電気事業者は民間企業とはいえ、国全体としての原子力・エネルギー政策の運営を担っている。それか、個別個々の計画に対して住民投票を掲げて見直しを迫る流れに巻き込まれ、全体的な運営が困難になる事態は憂慮すべきことだ。原子力発電所や燃料サイクル施設は個々の立地点にとり大きな存在だが、それと同様にこうした貴重な施設を組み入れた体系が、国全体のエネルギーセキュリティを確保するうえで極めて重要な意味を持つものと理解する住民は少なくないだろう。

核燃料リサイクルによるプルトニウム資源の有効利用は我が国の電気事業者が実現すべき基本的課題だ。柏崎刈羽3号機を始めとするプルサーマル計画が第一歩を踏み出せるかどうかは重い意味を持つと心に刻まなければならない。


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