[日本原子力学会] 標準委員会発足と今後への期待 (2)
日本原子力学会 標準委員会幹事 成合 英樹 (筑波大学教授)
(前号より続く)
4、原子力学会標準委貴会の発足と活動
(1) 標準委員会の発足
学会理事会への標準委員会設置の提案は、前章 (先週号掲載) に記したような委員会運営上の要件や作成・制定する標準のあるべき姿を具体的に示すため、規程案や活動の基本方針案を説明しつつ行った。本来、標準作成は長年の経験を有する専門家集団により自発的に行われるものであるが、本学会として初めてのことであり、また学会員の理解を得ながら行う必要があるため、特に業種別委員構成のあり方や委員候補については理事会の意見を聴き了解を得て決定した。委員構成は6業種に分けられ、学識経験者5名以内、学術研究機関5名以内、製造業5名以内、エンジニアリング会社など5名以内、ユーザー5名以内、非営利団体・官庁・保険会社など5名以内で、発足当初は委員定員30名以内の内27名で1999年11月1日の第1回会合によりスタートした。
(2) 標準委員会の組織と運営
標準作成にあたり、標準委員会は標準を決定・制定する組織であり、標準原案は専門部会で作成される。専門部会は必要に応じ分科会を組織して標準案を作成するが、分科会は具体的な作業を進める上で作業会を組織できる。具体的な標準作成の提案は専門部会で行われるので、提案者は専門部会へ提案することになる。ただし、対象とする提案を扱う専門部会がない場合、標準委員会において専門部会の設置を行うことになる。
このように、専門的観点からの標準原案の審議・作成は専門部会の責任として行われるので、標準委員会は標準原案の作成プロセスが規程類に則り適正に行われたものか、この標準が社会的ニーズにもあったものか等、広い観点から審議して決定し、最終的に公衆審査が行われた後、標準として制定される。
標準委員会の設置と組織の基本的事項は標準委員会規程により定められているが、具体的な運営に関する事項は、運営内規で規定されている。これには前に記した業種別の委員構成や委員の選任・退任・解任等に関する規定、役員 (委員長、副委員長、幹事) の選任、審議および決議の方法、公衆審査、記録の保存等か定められている。特に重要なのは挙手または投票で行われる決議の方法であり、標準の制定や内規の制定改廃など重要事項は投票で行われる。投票は賛成または意見付き反対により記名投票で行われ、第1回の投票で1票でも意見付き反対があれば賛成が投票総数の3分の2以上であっても当該議案を可決せず、反対意見を委員全員および提案者に送付する。提案者の説明などで反対意見が取り消されなければ、第2回の投票が行われ、投票総数の3分の2以上の賛成で議案は可決される。
標準委員会の委員長は委員全員の無記名投票により選出される。そして、副委員長は委員長の指名、幹事は委員長と副委員長が協議して指名される。標準委員会ではこの方式に従い、第1回の委員会で近藤駿介委員長、友野勝也副委員長、成合英樹幹事を決定した。専門部会においても、部会長、副部会長、幹事は、標準委員会と同様の方法で選任される。
標準委員会の運営では、委員会の審議を円滑に行うため人事など重要事項の整理のために幹事会を置き、特定の議題に関する論点整理のためにタスクグループを設置することができる。標準委員会では第1回委員会において、運営内規や活動基本方針を検討するためのタスクグループ (TG01) が置かれ、その後、発電炉に関する専門部会を検討するためのタスクグループ (TG02)、原子燃料サイクルに関する専門部会を検討するためのタスクグループ (TG03)、研究炉や基礎分野に関する専門部会を検討するためのタスクグループ (TG04) が置かれた。これらタスクグループには、委員以外に原子力標準調査専門委員会のメンバーも何人かが事情をよく分かっているということで参加した。タスクグループからの報告を基に審議が行われ、2000年2月の第3回委員会において発電炉専門部会と原子燃料サイクル専門部会の設置が、また7月の第5回委員会において研究炉専門部会の設置が決定された。また、タスクグループ TG01 の検討を基に審議が行われ、運営内規、活動基本方針、専門部会運営通則及び標準作成の手引きが決定されている。なお、専門部会の設立準備をすすめてきた TG02、TG03、TG04 は、各専門部会の設立をもってその役目を終え解散している。
TG01 ではその後、専門部会運営通則、標準作成の手引き等の検討を行って委員会の審議用資料としているが、今後の課題に、標準委員会としての倫理規定がある。
委員会の運営、標準の制定、出版維持管理などにかかわる経費は、基本的には標準の販売や講習会などの収入によってまかなわれる。しかし当面は標準の制定がないため、関連団体からの寄付や補助金によりまかなうこととしている。また、膨大な事務処理であるが、当初は原子力標準調査専門委員会のメンバーのボランティア活動により行われていた。学会事務局には余力がないため、現在、企業から2名の職員を派遣してもらって対応している。
委員会活動には公開性が要求されているが、学会ホームページの下に標準委員会のサイトを開設し、委員会の組織、規程類、委員会の日程や議事録など最新の情報を公開している。 (http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/aesj/sc//)
(3) 標準委員会の活動
一昨年 (99年) 11月の第1回委員会以来、標準委員会は活発に組織作りを行ってきた。委員会の主要な任務はこのように、(1) 標準作成における基本方針の決定と標準制定に関する事項 (2) 原案作成組織の設置に関する事項 --- であるが、それ以外に対外に関する任務として、(3) 国内外の標準制定に関係する組織の政策や動向の調査 (4) 標準に関する国内外組織との調整 (5) 標準制定に関して関連官庁などに学会の立場の説明 (6) 一般への説明 --- 等があり、規程や運営内規、活動基本方針にあげられている。今後は、これらの事項を具体化するための活動が期待されている。
(4) 標準の作成
標準原案の作成は専門部会で行われる。3つの専門部会の設置を検討したタスクグループでは、学会として制定する標準の候補案を標準委員会委員などに募り、「必要性」など多面的な検討を行った。それを基に、設置された各専門部会では、「早急」に必要と判定された案件について、分科会を設置し、標準原案作成の活動に着手した。各専門部会において現時点で設置された分科会と制定済み、検討中の案件は表1の通りである。
表1に記した案件中、括弧でくくったものは計画中の標準案件である。これらの案件は早急に作成すべきものと判定されたものであるが、今後、各分野で標準の体系化を検討し、必要な案件を抽出していくことが各専門部会に課せられた課題であろう。
表1 標準委員会において検討中の標準原案2001年1月現在
標準原案 | 検討状況 | 担当分科会 |
発電炉専門部会 |
1 | 原子炉の停止時の確立論的安全評価の実施手順 | 分科会にて原案作成中 | 確立論的安全評価分科会 |
2 | 燃料の過渡沸騰遷移に関する基準 | 分科会にて原案作成中 | 炉心・燃料分科会 |
3 | (沸騰水型軽水炉の安定性評価基準) | 来年度より検討開始予定 | 炉心・燃料分科会 |
4 | 安全解析のための風洞実験手法の標準化 | 第1回開催準備中 | 安全解析のための風洞実験分科会 (仮称) |
原子燃料サイクル専門部会 |
1 | 臨界安全基本事項 | 分科会にて原案作成中 | 臨界安全仮分科会 |
2 | 放射性廃棄物埋設処分における安全評価パラメータ (分配係数) に関する測定方法の標準化 | 分科会にて原案作成中 | 放射性廃棄物管理分科会 |
3 | 使用済燃料等の輸送容器保守方法の標準化 「使用済燃料・混合酸化物新燃料・高レベル放射性廃棄物輸送容器定期点検基準:2000 (aesj-sc-f001:2000)」 | 制定 (2000年12月12日) 出版準備中 | 輸送容器分科会 |
4 | (輸送容器の安全解析手法の標準化) | 来年度より検討開始予定 | 輸送容器分科会 |
5 | リサイクル燃料貯蔵施設 (輸送貯蔵兼用金属キャスク方式) の標準化 | 分科会にて原案作成中 | リサイクル燃料貯蔵分科会 |
6 | (リサイクル燃料貯蔵施設 (コンクリートモジュール方式) の標準化) | 来年度より検討開始予定 | リサイクル燃料貯蔵分科会 |
研究炉専門部会 |
1 | 研究炉施設の廃止措置に関する標準 | 分科会にて原案作成中 | 研究炉廃止措置分科会 |
2 | 放射線遮蔽設計の標準化 | 分科会にて原案作成中 | 放射線遮蔽分科会 |
5.まとめ
本学会で標準作成をという声があがってから標準委員会の発足まで3年の時間を要した。国の規制が基本にある原子力の分野で、学会で作成するとはいえ民間基準が本当に有効であるのか、という疑問に答えるべく慎重に調査活動を行った結果である。しかし、相次ぐ原子力関連の事故やトラブルを経験し、多くの技術者・研究者が技術の高度化と継承の場として学会活動の必要性を認識した結果標準委員会の発足はスムーズに行われた。さらに、発足後の委員や関係者は驚くべき熱心さで活動を行い、1年間で標準案件の着手は9件となっており、早くも昨年12月12日の第7回標準委員会にて第1号標準を制定した。
しかし、原子力の分野は多岐にわたり、これまで3つの専門分野で、「状況」(状況に配慮した後、必要な場合早急に着手する)、「順次」(順次手がけていく) と評価された項目への取り組みの時期、さらには、新たな検討項目の提起など、標準に関する要求も少なくない。多くの専門家が、議論を尽くし、原子力に関する技術の総括を行うこの活動が、今後の原子力界に及ぼす影響は計り知れないものがあるが、当面は着実に定着するよう粘り強い活動が必要である。委員会は公開で行われ、発言希望者は事前申請により委員会に参加し意見を述べることができる。関係各位からの忌憚のないご意見をお願いしたい。
(終わり)
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