[原子力産業新聞] 2001年3月15日 第2079号 <4面>

[原研] 質量分割の謎を解明

長寿命核種処理・処分にも活用

日本原子力研究所と米国ロスアラモス国立研究所の研究グループはこのほど、5次元空間の計算手法により核分裂の質量分割が対称分裂経路と非対称分裂経路の共存により決定されていることを示し、実験データを系統的に説明することに初めて成功した。

核分裂は、重い原子核 (親核) が2つの分裂片 (娘核) に分かれる現象だが、同じ重さの娘核が生じる対称核分裂と、娘核の一方が重く残りが軽い非対称核分裂がある。娘核の質量分布が対称になるか非対称になるかは親核によって変化するが、十数年前に重いアクチノイド核での実験結果などから、この変化が複雑で謎に満ちていることが明らかになった。

これまで、娘核の質量分布の理論的計算も数多く試みられたが、実験データを系統的に再現することは誰も成功していなかった。核分裂過程でみられるあらゆる原子核の形の変化を表すためには最低でも5種類の形のパラメータが必要とされ、この5次元空間 (5パラメータ空間) での計算は膨大な計算能力を必要とすることや、計算データをもとにこの5次元空間の幾何学的構造を定量的に解析する手法が未発達だったためだ。

日米研究グループは今回、並列計算機を用いた数値計算により5次元空間で原子力核の約260万点のメッシュ点での位置エネルギーを計算し、この空間での鞍部点を求める新たな算法を開発して系統的な解析を初めて行った。

その結果、(1) ほとんどの原子核について対称分裂を起こす経路と非対称分裂を起こす経路とが位置エネルギー面上に同時に独立に存在すること (2) この2つの経路上の鞍部点からそれに引き続く谷筋の経路をたどる計算をすることにより、実験的に得られる質量分割の山の位置を正確に予測できること−を示した。

今回の研究成果は、長寿命核種の核変換による処理・処分技術に関する基礎研究の過程で得られたもの。核分裂の質量分割の謎解明で、今後は核変換による処理・処分技術に向けた基礎情報としての活用が期待されるという。


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